細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『グレート・ビューティ/追憶のローマ』これもまた、現代のドルチェ・ヴィータ。

2014年09月04日 | Weblog

8月29日(金)13-25 渋谷<Bunkamuraル・シネマ>

M-096『グレート・ビューティ/追憶のローマ』"La Grande Bellazza (2013) Indigo Film Production / Medusa film / canal+ 伊

監督・パオロ・ソレンティーノ 主演・トニ・セルヴィッロ <141分> 配給・レスペ+トランスフォーマー ★★★★☆

試写を見るタイミングがなくて、それでも気になるので、劇場に行ってみて驚いた。平日の昼間なのに、中年女性客で満席。前から3列目しか空いていない。

普段ならプイと見るのをやめてしまうのだが、なにしろローマが好きで3回も訪れて、やっぱり魅了されてしまう身の程としては、どうしても見ておく必要があった。

というのも、主人公のトニが65歳なのに、たった一冊の出版で休業している独身ライター。しかもブルジョア気取りの遊び人、となると、やはり見てみたい。

ブルジョアという部分は別として、このオジンの心境というのは、おそらく共感できる部分が多い筈だ、とみた。しかもあの名作「甘い生活」のパクリ、のようなのだ。

フェリーニの名作から50年。たしかにローマは、いつものローマである。あの甘い午後の風とコラッツイオーネのオリーブの匂い。美しい画面を見ているだけで鳥肌が立つ。

ストーリーというのは大してなくて、オールド・プレイボーイが日夜徘徊するローマのブルジョワジーのスケッチ。ブルータスやカリギュラも、同じ様にレイジーな時に酔っていただろう。

毎日のように繰り広げられるパーティに顔を出しているトニは、小説のテーマを探すわけでもなく、グラッパを呑んでは美女を口説いて振られている。ま、あのヴェニスのカサノバと変わらない。

派手なロック・ビートに酔いしれる夜もあり、古い教会の牧師と静かに亡き友を語り、陽だまりのベンチでコロッセオを見下ろしながらシエスタとしゃれこむ日々。それが「絵」になる。

そんな具合に、この映画はとりとめなくレイジーな午後のローマを映しているが、もちろん観光映画でもないし「ローマの休日」のような恋物語でもない。

つまり大いなる歴史に飲み込まれた古都の時間を、あのティベレ河のゆるい流れのように、驚愕のドラマも派手なアクションもない。ただ悠々とした午後の時間が流れるだけの2時間22分なのだ。

でも、これも立派な映画である。庭に現れた大きなキリンや、夕陽のベランダに降りた、多くのフラミンゴのように、この不思議な映像は、初老のトニの脳裏に現れたボケの幻想なのかもしれない。

長いエンディング・ロールでは、あの沈殿したようなサンタンジェロ橋の下を、カメラはゆったり流れるので、飽きてしまったオバサマたちはブツクサと文句を言いながら席を立って行く。

 

■大きなアーチを描いて、センターバックスクリーンにボールは消えた。

●Bunkamuraル・シネマでロードショウ中