細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『グッバイ・アンド・ハロー★父からの贈りもの』この無縁な父と息子の紡ぐメロディ。

2014年09月12日 | Weblog

9月8日(月)13-30 六本木<シネマートB-2試写室>

M-099『グッバイ・アンド・ハロー/父からの贈りもの』"Greetings From Tim Buckley" (2012) Tribeca film / focus world / smuggler films 

監督・ダニエル・アルグラント 主演・ベン・バッジリー <104分> 配給・ミッドシップ・ミラクルヴォイス ★★★☆

1966年にデビューしたティム・バックリーというフォーク・シンガーのことは、あまり知らなかった。だって、ボブ・ディランやアーロ・ガスリーの時代である。

とくにティムに関しては、こちらではマイナーな印象であって、当時熱狂のウェスト・コースト系の当方としては、ジャクソン・ブラウンやネッド・ドヒニーの歌に心酔しかけていた。

先日見た、ニューヨークの放浪歌手ルーウィン・デイビスですら、あの映画で初めて知ったのだから、実にご免なさい。という程度の無知な認識で見たのだから、ほとんど白紙。

それでもドラマに引き込まれるのは、これも不遇な父と息子の話だからで、まるで「おくりびと」の父と息子のように、生前はロクに話したという記憶もない関係がドラマの底辺だ。

1997年に、そのティム・バックリーの追悼コンサートが企画されて、同じくフォーク・シンガーになっていた放浪の歌手ジェフ・バックリーがゲストとして招かれた。

映画はその不思議な親子のギターだけを媒介にした父子の関係が、唄われる歌によって、ジワーっと伝わってくるという構成。だって、生前には会った記憶のない父親と息子。

そこは無関係とはいっても、同じ血の繋がりなのだから、作曲した歌の歌詞やメロディ・ラインで、その関係は熱いものがあって当然だろう。それを映画はティムの歌で綴っていくのだ。

それにしても、息子が生まれたのに放浪の旅に出たきりに連絡もなく、30歳の若さで突然に亡くなった父というのも無情だが、その息子の混迷の感情がこの映画の呼吸のようになっている。

よく、テネシー・ウィリアムズや、アーサー・ミラー、そしてジョン・スタインベックの小説や戯曲で見るような親子の確執。それが会った事のない異世代のドラマとして語られて行く、ああ無情。

ジェフを演じているベン・バッジリーがとても繊細でいい。朦朧とした父の幻想に戸惑いながらも、その父の作った曲を初めて唄う、そのたどたどしい歌声。これがとても泣けてくるのだ。

我々は、人気のあるアメリカン・シンガーしか知らないが、プリミティブなフォーク・ソングの世界には、多くの埋もれた才能があったのだ、という音楽史を、またも知らされた。

 

■渋いセカンド・ベースを越えるセンター前のヒット。

●10月18日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー