細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『ふしぎな岬の物語』は砂糖を入れすぎたコーヒーの味。

2014年09月13日 | Weblog

9月9日(火)10-00 西銀座<東映本社7F試写室>

M-100『ふしぎな岬の物語』(2014) 東映東京撮影所、木下グループ、TBS、電通 JR東日本企画、幻冬舎

監督・成島 出 <企画>・主演・吉永小百合 <119分> 配給・東映 ★★★☆

現代のおとぎ話である。森沢明夫の原作「虹の岬の喫茶店」に惚れ込んだ吉永小百合が、ご自身で制作して、主演で完成させた心のファンタジーだ。

若くして夫を亡くしたヒロインの吉永小百合は、千葉県の房総半島の突端にある木造の古びた喫茶店を営んでいる。たまにコーヒーを飲みにやってくるのは数人の常連。

夫の弟にあたる阿部 寛は、ちょっとアタマのトロい男で、その喫茶店の近くにボロな小屋を作って住んでいるが、無職で無謀だが心は善良。何かと吉永の手助けをしている奇人だ。

ドラマに出てくる人物は、それぞれにコンプレックスを抱え、薄幸な人生の岐路にあって、名もなく貧しくて老いて行く家族を抱えているという、まさに今の日本の縮図だろう。

三十年間も未亡人の吉永に憧れて、コーヒーを飲みに通う笑福亭鶴瓶の、あのもどかしすぎる描写などは、このドラマの個性を奥手にしてしまっていて、見ていて気おくれしてしまう古株。

山田洋次監督ならば、「遥かなる山の呼び声」のようなレベルの、もっともっと心の強いガッツな映画に出来たかもしれない。しかし、ここではドラマも停滞気味。

でも監督は様々なスケッチを見せながら手際良く、それぞれに別れの季節を迎える。出戻りの竹内結子の老父の笹野高史が病死してからは、不祥事が続き、その喫茶店も出火消失してしまう。

ふと、昔見た、ジョセフ・L・マンキウィッツ監督の「幽霊と未亡人」を思い出していた。あの映画のジーン・ティアニーも岸壁の家で、船長の亡霊と幸福だった。

亡き夫が描いたという、岬から海に見える虹の絵が、その喫茶店のシンボルだったが、なぜかそれが持ち去られた瞬間からドラマが急変していくのだ。

しかし映画は、そのあとに消失した喫茶店の復興に向けて、住民たちの心からの慈善が彼女を慰めて力づけていく。そこが感動のテーマであり、これがモントリオール国際映画祭で評価されたのだろう。

<災害からの復興>は今の日本にテーマだが、その美しすぎるお膳立てが、どうも見え見えなのが困った。それでも試写室では怖いオバサマもハンカチを取り出している。

ま、作品を悪くいう気はないが、どうも絵本のような、童話的な展開はコーヒーに砂糖を入れすぎたようで苦笑してしまった。

 

■敬遠のフォアボール。

●10月11日より、全国の東映系でロードショー