細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『天才スピヴェット』の奇抜な勇気の大陸横断。

2014年10月10日 | Weblog

10月3日(金)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-111『天才スピヴェット』"The Young and Prodigious T.S. Spivet " (2013) gaumont / epithete films / tapioca films

監督・ジャン=ピエール・ジュネ 主演・カイル・キャトレット <105分> 配給・GAGA<ギャガ> ★★★☆☆

独特の映像感覚で「デリカテッセン」や「アメリ」で印象の深いジュネ監督の「ミックマック」以来の新作は、またしても、とんでもない10歳天才少年の冒険だ。

もともと初めて3D映画を作る発想で制作した作品なので、やたらと意図的に3D効果を狙った映像が多いが、彼の本来の立体絵本のような仕掛けなので、相変わらずかわいくて愉快だ。

ハリウッドのオファーを頑に断って、いかにもフランス人らしいキッチュな発想を、全編カナダで撮影したという、この映画の天才少年の夢は、貧しい荒野の一軒屋からの発想が基本。

ライフル銃の暴発事故で弟が亡くなってからのスピヴェット少年の家族は、それぞれが自分の世界に入り込んだ屈折した状況だったが、その心情がシュールな映像となって展開する。

とりわけ、ヘレナ・ボナム・カーターが演じる母親は、昆虫学者でもあって、その西部の昆虫をコレクションしては不思議な学説を勝手にしゃべる。それが少年を刺激したのだ。

あきらかに、ここではヘレナの、多くのティム・バートン映画での特異なイメージが移植されていて愉快だ。この母にして、この天才少年が誕生するという構図は正解なのだ。

モンタナの荒野で、まだ前世紀のカウボーイの夢を追う父の名前で、勝手に出品した手作り<磁気車輪>が、なぜかワシントンのスミソニアン博物館に認められて、少年は夜逃げ同然で列車に飛び乗った。

映画はその旅で初めて目にする世界の素晴らしさを、いかにも純粋な少年の目で立体的に映像化して、もちろんジュネ監督の童話的な幻想世界が続々と展開するので、まさにワンダーワールドだ。

とくに少年が目にする絵本や地図や写真などが、すべていきなり立体的に表出するという映像マジックは、まさにピュアーな夢の発想であり、加えて懐古的なウェスターン絵本が味つけになる。

放送終了のテレビ映像を見ている犬。表情を代えるハロウィーンのカボチャ。柵の金網にアタマをぶつけるヤギなど、スピヴェットの周囲の連中はみんなクレイジーで愉快。

しかも、行き着いたスミソニアンの担当おばさんが、何とジュディ・デイビスというのもコーエン・ブラザースっぽい趣味なので笑わせる。「少年よ大志を抱け」ジュネ新式映像戯画であった。

 

■高く上がったセンターフライがスライスしすぎて野手がポロリ。

●11月上旬、シネスイッチ銀座などでロードショー