細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『嗤う分身』の同質ダブルズには失笑させられたが・・・。

2014年10月12日 | Weblog

10月7日(火)13-00 六本木<シネマートB1試写室>

M-0112『嗤う分身』 "The Double " (2013) The British Film Institute / Channel Four + Alcove Double 英

監督・リチャード・アイオアディ 主演・ジェシー・アイゼンバーグ <93分> 提供・エスパース・サロウ ★★☆☆☆

ドストエフスキーの「分身(二重人格)」は、いろいろな映画のモチーフになっていて、ついこの4月にも、『複製された男』という傑作があった。

ジェイク・ギレンホールが演じ<たダブルズ>の心理表現は実に面白かった印象が、まだ残っているので、これは楽しみな新作で期待してしまった。

つまりカフカ的なテーマは、人間の深層心理にある<化身願望>がベースになっていて、誰の心にも潜む劣等感の脱却方法であって、とくに異常な心理ではない共感がある。。

だから、よくサイコロジカルな映画の表現方法としては、ごくイメージの転換として活用されていて、とくに珍しい方法でもない。が、それを<嗤う>、とした邦題には苦心が伺える。

この<嗤う>というのは<嘲笑>のようなもので、かなりシニカルな雰囲気があるので、ただの分身ではなくて、その第二番目の自己を理想化しているよりも、むしろ<逃避している自我>と見ているようだ。

むかしに、『ダニー・ケイの天国と地獄』という傑作があって、それは殺された一卵性双生児の兄の復讐に、そのそっくりな弟が現れるという喜劇で、実にダニー・ケイの二役が笑わせた。

しかし、この新作のジェシーは、己の劣等感や不祥事を、心のなかに潜む<変身願望>で修正していくという、ま、一種のリベンジものなのだが、意外にも演出のもたつきが目立って、面白くならない。

まるで近未来のような陰湿な会社で働くジェシーは、もう7年も働いているのに、いつも上司のイジメに悩まされている。憧れのミア・ワシコウスカのプライバシーを覗き見する、実に情けない男。

ところが、ある日、まったくジェシーと同じ顔と姿の男が配属されてきて、ドンドンと活躍を見せて社内でも認められて行く。そして落ち込むジェシーは、投身自殺した男を目撃してからウツの状態がヒドくなる。

まさにヒッチコックの描くサイコロジカルなテーマの展開となって、これは面白くなる、・・・と予感させるのだが、どうも、演出の手際がもたついていて、せっかくのジェシーのダブル変身が面白くならない。

考えようによっては、「スパイダーマン」や「バットマン」のような変身願望がベースになったテーマなのに、どうにもモドカしい展開で退屈。しかも作品のトーンが陰湿でユーモアなし、というのもマイナス要因。

これは、主人公の衣装や表情を同じにした狙いが、どうも二重人格の個性を明快に区別しにくくなっているという、映画的な表現の軽さなのか、どうも、こちらが<失笑>してしまった。

 

■右寄りに守備していたショートの横のゴロになった<ダブルプレー>

●11月8日より、渋谷シネマライズでロードショー