細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『毛皮のヴィーナス』でジワジワ滲み出る女傑の底力。

2014年10月20日 | Weblog

10月17日(金)10-00 渋谷<ショウゲート試写室>

M-116『毛皮のヴィーナス』" Venus in Fur " (2013) R.P. Productions / monolith films / Alan sarde

監督・ロマン・ポランスキー 主演・エマニエル・セニエ <96分> 提供・ショウゲート+ニューセレクト ★★★☆☆

80歳を過ぎても未だに健在な、とても気になる巨匠といえば、クリント・イーストウッドとこのポランスキー。しかも今回は初めて彼の愛妻エマニエルを主演にしての新作。

話は簡単だ。急な土砂降りのパリで、新しい芝居のオーディションに遅刻した女優と、もうスタッフも帰した一人の演出家が、ふたりきりでステージで対決するというシンプルな話だ。

一応、台本は暗記してきたアバズレな女優の気迫に、次の約束のある演出家のマチュー・アマルリックは、時間を気にしながらも、しょうがないので一応オーディションを受ける。

ちょっと、ヘンリー・フォンダの「女優志願」のような設定だが、こちらはパリの中でも場末の古びたテアトル・ルカミエ。そのお化け屋敷のようなステージに、たった二人きりの演技戦。

はじめは軽視して、早々に切り上げようとしたオーディションも、このフッカー丸出しの女傑の勢いで、ドラマは徐々に白熱してくる。この二人芝居の演出の妙は、さすがはポランスキー。

そして、この不運な状況に追い込まれた演出家を演じる哀れな姿は、いかにもポランスキー本人のようで、相変わらずマチューは巧い。

前作の「おとなのけんか」のように、些細な発端から始まる二人の相互関係は、しだいに正体不明の女優のペースになっていく、この絶妙のタイミングは、さすがはベテランの演出だ。

おそらく演劇の演出家の先生ならば、誰だって経験のある展開で、そかもこの状況とタイミングは、きっと5分で済むような話なのが、次第に崩れて行くという人間ドラマの意外性。

まさにあのリタ・ヘイワースが演じた「雨に濡れた欲情」のミス・サディ・トンプソンの登場と、オンナの本性の凄みに、ベテランの男の教養も威厳もドンドンと隅に追いやられてしまうという構図。

まさに一人芝居の恐妻エマニュエルの迫力の好演は、マレーネ・デイトリッヒのような粘りで圧倒。

われわれ男性としては、この不利な状況には、誰だって己の夫婦生活の構図を連想してしまって苦笑してしまうだろう。ある種、男女関係の構図を凝縮して見せている恐怖感もあるのだ。

 

■初球打の凡フライだが、多少フック気味だったのか、サードが落球の間に進塁。

●12月20日より、渋谷Bunkamuraル・シネマ他で、お正月ロードショー