●5月29日(金)13-00 京橋<テアトル試写室>
M-065『あの日のように抱きしめて』" Phoenix " ( 2014 ) Jacek Gaczkowski Production 独
監督・クリスティアン・ベツオールト 主演・ニーナ・ホス <98分> 配給・アルバトロス・フィルム
原作はユベール・モンティエの「帰らざる肉体」といって、これもまたナチスの戦時暗黒時代の悲劇を切り取って見せる愛の異色メロドラマだ。
日本のタイトルが、いかにも甘く通俗的で、さすがに試写を見るのも恥ずかしかったが、原題は「不死鳥」だし、テーマソングは名曲「スピーク・ロウ」。
クルト・ワイルの作曲で、ジャズではスタンダード・ソングなので、ジャズファンとしては見ない訳にはいかない。というよりも、テーマはかなりのノワール風味なのだ。
捕虜収容所でゲシュタポの尋問で顔を暴打されたニーナは、親しい友人の勧めで、戦後に顔面手術をしたが、当然のように過去の美貌には戻らない。それでも苦労して夫を探す。
しかし夫は、終戦の直前にスパイ行為の果てに離婚届けを出していて、まるでメロドラマのように再会しても、元の妻と認知できないのだ。ニーナは当然、ショックを受けた。
まさにあの名作「かくも長き不在」や、ロナルド・コールマンの「心の旅路」を思い出す。しかし、ここでは再会しても認知しない理由が、二人の間にあるのだった。
見ている我々としては、顔の手術で表情は変わっても、これがかつての夫婦だったのだ。目は変わらない。という甘い恋情を察知するのだが、この映画は、それよりも深い戦争の悲劇を狙っている。
ふたりが愛したドイツの名曲「スピーク・ロウ」の有名なフレーズが最初から流れるので、あの曲を知っているファンには、テーマの辛い心の乱れは判るのだが、これはあくまで隠し味。
むしろ、原題の「フェニックス」の、<不死鳥>という意味が、顔を変えられても思う心の強さを意図したのか、そこはジョン・フランケンハイマーの傑作「セコンド」の主人公のように秘められたまま。
という次第で、いろいろと隠し味の多い作品で、深く察知しようとすれば、最後まで視線を避けている元カレの邪な心のように矛盾していて、「これも戦争の悲劇です」と理解するしかない。
くれぐれも、この甘すぎる邦題には惑わされない様に。映画の本質は、もっと奥深い。
■高く上がった右中間のフライだが、ライトが目測を誤って落球。 ★★★☆☆
●8月、渋谷Bunkamuraル・シネマなどでロードショー