細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『フレンチアルプスで起きたこと』で問われる家長の勇気。

2015年06月11日 | Weblog

6月1日(月)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-066『フレンチアルプスで起きたこと』" Turist " <Force Majeure>( 2014 ) Plattform Produktion / Eurimages.スウェーデン

監督・リューベン・オストルンド 主演・ヨハネス・バー・クンケ <118分>  配給・マジックアワー

てっきり、フランス側アルプスの観光が愉しめるバカンスのJTB風トラヴェル映画かと思ってみたら、意外や意外、これは<男の尊厳>を問われるヒューマン・サスペンスドラマ。

といっても北欧映画独特のベルイマン風の厳粛な人間ドラマではなく、ごくごく普通の一家四人の休暇旅行中の些細な事件の映画なのだった。

わざわざ北欧の寒いスウェーデンから冬のフランスの雪山アルプスまで、休暇旅行に行くのもやっかいだろうが、ま、これも北欧のセミ・ブルジョアとしては日常茶飯事らしい。

ヨハネスの一家も二人の子連れで休暇旅行でアルプスの高級リゾートにスキー連休に来ていた。ゆったりとした長期滞在用のキッチン、リビングつきの斬新なホテルである。

事件というのは、バカンスの二日目のランチタイムに、ホテルのオープンテラスで食事中のこと、深い雪の整備のために計画的爆破による雪崩を起こしていたのが、なぜかテラスまで雪が襲ってきた。

スキー客たちは、それぞれに行動して、雪崩も結局はいつもの小規模なものだから、ホテルに被害の出るほどのことではなかったのだが、スキー客たちは事故を恐れて咄嗟にそれぞれ動揺したのだ。

すぐに雪崩はおさまり、ホテルやテラスには被害はなかったのだが、食事中の観光客たちはそれぞれ席に食事に戻り、ことはすぐに平常に戻ったのだ。ほどなくカフェは、もとの活気が戻った。

しかし、この映画の本質はそれからで、食事を終えて部屋に戻った妻は、その雪崩の瞬間に、夫のヨハネスが我れ先に脱出して、子供達のことや妻のことまでも無視したことを罵ったのだ。

ま、普通ならゴメンゴメンで済ます所だったろうが、妻はその瞬間に夫が自分本位で子供のことも配慮しなかったことに執拗に拘り、夫婦喧嘩は家長である夫への不信感の爆発になってしまった。

果ては夫は廊下に閉め出される始末で、われわれの感覚では、ま、空気が治まる迄、下のバーででもアタマを冷やすか、夫婦だけで話し合うという些細なトラブルなのだが、そこがこの映画の争点。

じゃー離婚か、ということではなくて、家長である男性は、こうした旅先のトラブルで決断すべきことの重大さに、トコトン拘り、語り、男性として夫の誠意ある謝罪を求めるのだった。

一見バカンス・ホームドラマのようでいて、実は家族とか、家長とか、主人の尊厳について、トコトン問題を語り合い、心からの謝罪を表明する。ということがこの映画の主張なのだった。

世の家長である人は、家族旅行のトラブルには咄嗟の尊厳を、お忘れなく。

困ったテーマだが、作品はカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で審査員賞を受賞、アカデミー外国語映画賞も受賞して、世界はこの映画のユニークながら本質を突いた勇気を賞賛した。

 

■左中間への強打だったが、返球がセカンドに戻ってタッチをめぐり判定で揉めて、ツーベース。 ★★★☆☆

●7月上旬、ヒューマントラストシネマ有楽町他でロードショー