細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『チャップリンからの贈りもの』のホロ苦くも懐かしい可笑しさ。

2015年07月09日 | Weblog

6月30日(火)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-082『チャップリンからの贈りもの』" The Prince of Fame " (2014) Why not Productions / Wild bunch / Canal+ 

監督・グザヴィエ・ボーヴォア 主演・ブノア・ポールヴールド <115分> 配給・GAGA

信じられない話だが、これは実際に起こった一種の誘拐事件で、1978年3月3日の朝日新聞夕刊にも大きく報道されたスイスで起こった事件の映画化。

前の年のクリスマスに亡くなった喜劇俳優チャーリー・チャップリンの遺体は、スイスのレマン湖に近いヴェヴェイの墓地に埋葬されていたが、それが<誘拐>されたのだ。

呆れた事件だが、犯人の二人組グループは、遺族に高額な1億円の<身代金>を要求してきたのだ。普通は生きた人間を誘拐するので、その生死の安否がタイムリミットの争点となる。

ところが、この誘拐事件は有名人の棺の盗難というから、生死には無縁で前例もなく、いかにもチャップリンの「殺人狂時代」のように、呆れた発想であり、どこかユーモラスなのが面白い。

生活に苦しい前科者は、入院している妻の手術代のことで困り、その友人と悩み抜いた末に、近所の墓地に眠るチャップリンの棺桶を盗み出して、遺族に<身代金>を要求した。

しかし地元の警察は、事件の前例のない異常さに手こずって、なかなかアクションを取れないのだった。というのも、実行犯は英語を話せず、遺族への脅迫もチグハグなのだ。

事態の渋滞に焦れてしまったブノアは、たまたまヴェヴェイに訪れていたサーカス団の、ピエロ役のアシスタントにスカウトされて、まるで「地上最大のショウ」のジェームズ・スチュワートの立場となる。

つまりピエロの化粧のために、誘拐犯としては都合のいいカモフラージュとなり、そうこうしているうちに、ドジな模倣犯が逮捕されて、事件は大袈裟に報道されるようになったのだ。

ま、ストーリーはネタバレになるので書かないが、このサーカスのピエロ役で化粧をしているブノアの姿に、あの「ライムライト」の音楽が流れて、ファンにはジーーーンとくる後半。

さすがに音楽はミシェル・ルグランが担当しているので、いろいろなチャップリン映画のメロディを随所に流すので、あの時代のコメディを知っているオールドファンには嬉しくなる。

いかにもひとを食ったような事件は、あっけなく解決はするのだが、これは犯罪事件映画ではなくて、あくまでチャップリン映画のユーモアとペイソスの味わいを引き出そうという狙いなのだ。

あのマルチェロ・マストロヤンニとカトリーヌ・ドヌーブの間に生まれたキアラが、サーカスの団長として出演していて、いかにもこの映画的な作品の伝統を代表しているようで嬉しい。

 

■右中間の凡フライだが、レフトが前進しすぎて後逸のツーベース。 ★★★☆☆

●7月18日より、新宿ピカデリーなどでロードショー