●8月4日(火)13-00 渋谷<ユーロライブ試写室>
M-098『シーヴァス~王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語』" Sivas " (2014) Coloured Giraffes. トルコ、ドイツ合作
監督・カアン・ミュジデジ 主演・ドアン・イズジ <97分> 配給・ヘブン・キャン・ウェイト
トルコの東部高原地帯のアナトリア地方というのは、とくに西欧などの文化的な生活習慣もなく、その日常は遠い昔から変わっていないようだ。
学校の楽しみは学芸会のお芝居で、おとな達は闘犬の死闘に熱中しているという、われわれのような電化したエレクトロニクスやCT文化とは、まったく別の世界。
イランやイラクの映画は、かなり西欧の影響を受けているが、このトルコもイスタンブールなどの大都市と違って、山岳部は、ほとんどモンゴルやチベットのような質素な風情だ。
11才の少年ドアンは、小柄なせいで、学芸会の「白雪姫」でも、とても王子の柄でなくて、小人の役に配役されてクサってしまう。
大人達は、サーカスのように巡業してくる闘犬の試合に熱中していて、その日も激しい死闘の末に捨てられた負け犬は、荒野で死を待っているが、ドアンはその負け犬を介護する。
そこは<ルーザー>同士の友情というか、傷だらけで死に損なった捨てられた老犬と、夢の破れた少年ドアンとは、なぜか沈黙の友情を感じて行くプロセスが描かれる。
大昔の映画でグレゴリー・ペック主演の「子鹿物語」では、子鹿を可愛がる少年と、その野性と知性が成長するにつれて、食い違って来るという家族の悩みを描いていたが、これも同様だ。
老犬は少しずつ体調を回復していくが、少年との友情は、どうしても人間と犬の関係では通俗的な美しさはなく、一方的になっていく。その微妙な感情のズレを、このカアンという若い監督は静観するのだ。
という意味では、まさにディズニーが描いて来た、美しすぎる動物の野性と、少年の愛情は感動的な関係にはなっていかない、というクールな視線が、通俗なエンターテイメントを拒否していく。
気骨のある闘犬はリターン・マッチで、ライバルの宿敵犬を滅ぼすのだが、世話になった少年にも、ごく野性の視線を向けて荒野に帰って行くから、監督は安易な感動は示さない。
この不屈のカアン監督の辛い視線が、おそらくはヴェネッツィア国際映画祭の辛口な審査員の評価を受けて、14年の審査員特別賞を受賞し、主演のドアン少年も受賞している。
どこか、「バケモノの子」の少年と、生活を共にしていく闘う野獣との関係を連想してしまうが、この「シーヴァス」は、その連想も拒否するだろう。
■地を這うような強いゴロが左中間を破りツーベース ★★★☆☆
●10月、渋谷ユーロスペースでロードショー