●8月27日(木)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-108『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』" Finding Vivian Maier " (2013) Revine Pictures LLC. / Hanway Films
監督・脚本・ジョン・マルーフ+チャーリー・シスケル 写真・ヴィヴィアン・マイヤー <83分> 配給・アルバトロス・フィルム
「デボラ・ウィンガーを探して」という映画が10数年前にあったが、あれは仕事がなくなった女優を追っていたが、こちらは無名写真家の亡霊を追う。
この作品の発端は、監督のジョン・マルーフが、たまたまシカゴのフリーマーケットで見つけた、ガラクタのスーツケースに入っていた、未現像の35ミリフィルムの山だった。
面白半分に現像してみたら、それは70年代のニューヨークを中心に撮影されたストリート・スナップで、誰が何の目的で撮影したのか判らぬままにセレクトしてみた。
ところが、この無造作なスナップ写真の山は、どこかダイアン・アーバスやシーラ・メッツナーなどの流れをくむような興味のあるもので、いくつかのトランクから発見されたフィルムには輝くものがあった。
そこで発掘家の趣味で、ジョンは山ほどもあったネガをプリント整理して、友人のチャーリー・シスケルと共同で、この汚れたトランクの出先を探り、これが死亡したダイアンのものだったと知った。
ニューヨークのストリート・シーンを撮ったカメラマンというのは、わたしのような趣味的な人間も含めると、世界中にヤマほどいるだろう。
つい先日公開された「アドバンスト・スタイル」などは、まさにそのターゲットになるべき老嬢ニューヨーカーたちが写されていたが、ヴィヴィアンの写真も多くの通行人を写していたのだ。
いまなら監視カメラが随所にあるから、このような街の写真には驚かないが、彼女が撮っていた写真は、まさに目立たない人々であって、しかもそれを現像すらしていなかった、という謎。
だから、映画の魅力は、彼女の隠された才能ではなくて、どうして、このような膨大な写真を撮っていながら、現像し、発表しなかったのか・・・という、そのミステリーの方が面白い。
いろいろな周辺の関係者のインタヴューで見えて来るヴィヴィアンの肖像というのは、街の店頭の鏡に映っていた多くの自画像でも見えてくる様に、かなりエキセントリックなのだ。
とにかく対人関係が苦手で、定職にはつけずに、知人の紹介で近所の家族の使用人として、子育て、トイレ掃除、家事全般などを手伝って、かすかな駄賃でフィルムを買っていたのだろう。
しかしカメラは、ローライフレックスの二眼の高級品。どこかの質流れでも買ったのだろうか、このカメラだと対人で目線を合わせることもなく、被写体にはシャッターも気づかれない。
どうやら彼女は一種の精神障害者。つまり統合失調症で、自室にはゴミの山を作り、当然の天涯孤独で栄養失調、突然の失神で救急車で搬送され、誰にも看取られずに死亡したのだという。
多くの優れた作品そのものよりも、実に孤独で異常な人間観察をしていた稀有のフォログラファーとして、ヴィヴィアンという女性のミステリーとして興味深かった。
■左中間をゴロで抜けたツーベースヒット。 ★★★☆☆
●10月10日より、渋谷シアター・イメージ・フォーラムでロードショー