●1月7日(木)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>
M-004『偉大なるマルグリット』" Marguerite " (2015) Fidelite / Mement Films / Canal+ France Televisions
監督・グザヴィエ・ジャノリ 主演・カトリーヌ・フロ <129分> 配給・キノ・フィルムズ
つい数年前に公開されたアカデミー主演男優受賞作『英国王のスピーチ』は、生来の<ドモリ>の性癖があったイギリス国王の苦悩を描いて話題になった。
この作品も、フランスではカリスマ性のあった人気歌姫マルグリットの実話で、多くのステージでオペラのアリアなどを唄ってたが、実は<音痴>であったのだ。
なぜまた、クラシック音楽の殿堂で唄うようなプリマドンナが、音程の狂ったような歌唱力で舞台に立てたのかが、この作品の見事なる説得力だろう。
1920年というから、ほぼ100年以上も昔の実話なのだが、フランス郊外の田園にあるデュモン男爵の豪華な邸宅では、恒例の慈善音楽パーティが催されていた。
本物のオペラ歌手などが見事な歌を披露したあとに、トリとして余興に登場したのが、この屋敷のオーナー夫人のマルグリットだが、さて、唄い出すとかなりのオンチなのだった。
招待客たちは、これは余興なのだし、多額の寄付金が集まるパーティなのだから、大いに湧いて、夫人のステージに拍手喝采。ま、酔客の余興としては雰囲気を和ませたのだ。
男爵は冒険家でもあって、日頃からの浮気の最中なので、このパーティはいつも遠慮して、オートバイに乗って遠方に出かけていたのは、妻の醜態を見たくなかったのだろう。
それを聞いた客の噂はとうとうパリの音楽家たちの耳にもとまる様になり、とうとうマルグリットのリサイタルまでが企画されて、前評判も上々な人気となった。
屋敷の執事で、いろいろと夫人の面倒を見ていた黒人は、いつも夫人のパートナーとして、ピアノの伴奏もしていたので、この<こと>の重大さに気が気ではない。
この執事を演じるデニス・ムプンガの存在が、実はこの映画の重要な視線になっていて、マルグリットのオンチは知りつつも、その歌手としての魅力をサポートしていたのだ。
つまり、このストーリーは実話だが、音楽性としては幼稚な歌唱を、マルグリットという女性の陽気な個性を引き出して、音楽そのものの情感の豊かさを活かそうとしていたのだろう。
だから、実話ながらテーマの持っているニセモノの魅力と、もともと音楽が譜面上の正確な再現力で評価されているという、現実のミュージックのあり方を、敢えて皮肉っているようだ。
カトリーヌ・フロは「女はみんな生きている」や「大統領の料理人」などで、いまやフランス映画最高の女優だが、彼女の<個性>の魅力が、このキワドいテーマを感動的に占めていて見事。
この微妙な音程の外し方に、拍手喝采、ブラボーだ。
■ライナーがファーストベースに当たって、ライトのファールラインを転々のスリーベース。 ★★★☆☆☆
●2月、シネスイッチ銀座などでロードショー