細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『ボーダーライン』の白濁したディーキンスの視線に拍手!!

2016年01月30日 | Weblog

1月19日(火)13-00 飯田橋<角川映画試写室>

M-010『ボーダーライン』" Sicario " (2015) Lions Gate Entertainment, Black Ravel Entertainment. Thunder Road.

監督・ドゥニ・ヴィルヌーブ 主演・エミリー・ブラント <121分> 配給・KADOKAWA

<移民>と<難民>は基本的には別の理由があるのだろうが、アメリカとメキシコとの国境にも人種間トラブルが多くて、よく映画のテーマになる。

同じアメリカとの国境を引いているカナダ国境には、それほど映画になるトラブルはないのに、どうしてメキシコとの国境には昔から多いのか。

それは「アラモ」の時代の西部劇から描かれているテーマだが、大きくは文化的な貧富の格差と、麻薬の密輸入に起因した悪徳カルテルの存在が根強いのだろう。

最近では、アカデミー賞で大くの受賞をした2000年の「トラフィック」と、2007年の「ノー・カントリー」が、まず咄嗟に思い浮かぶが、オーソン・ウェルズの「黒い罠」もあった。

多くの傑作が多いのに、またしても似たテーマで映画化したのは、今回の作品の視点が、エミリー・ブラントが演じているFBIの女性捜査官の活動を先行しているポイントで、相変わらずに、その実態はオゾマシイ。

はじめはアリゾナにある不審な家屋の家宅捜査から、多くのメキシコ移民たちの遺体が、多量の麻薬とともに発見されたという事件で、銃撃と爆破でエミリーも負傷してしまう。

たしかに「ゼロ・ダーク・サーティ」でイラク戦争の視点を、女性戦闘員のポイントで描いた事で、多くの話題になったが、この作品もまた同様に、女性捜査官の戦闘現場僣入が大きい視点になる。

おそらくトム・クルーズとの「オール・ユー・ニード・イズ・キル」でのアクション対応の効果で、この女性捜査官の大役を振られたのだろうが、この作品でのエミリーは、かなり苦戦なのだ。

というのも、同じ特殊捜査官を演じているジョシュ・ブローリンが、かなりボルテージの高い存在感でタフに動き回るし、とてもエミリーの負けず根性だけでは、このアクションは仕切れない。

おまけに、麻薬カルテルの情報に精通しているという謎めいたコロンビア人の男、ベニチオ・デル・トロがまたしても「トラフィック」のときのように、異様な存在感を発揮するのだ。

とくに、冒頭にメキシコのファレスというカルテルの拠点に、空から一気に僣入するサスペンスでは、このイヤらしい中年の二人の曲者たちが、縦横に乱射するので、エミリーはカスミっぱなし。

見どころは、またしてもアカデミー撮影賞にノミネートされているロジャー・ディーキンスのカメラワークで、この異様に乾いた映像美は素晴らしく、この映画の魅力を完全に掌握。

しかも、ほとんどメロディのないような、ヨハンソンの音楽も異様で、この二人のバックアップで、映画は緊張のしっぱなしの迫力を貫くのだから、二人の職人芸には震えがくるのだ。

ファンとしても、ぜひ老練ロジャー・ディーキンスのカメラには、オスカーを受賞してほしいが、・・・・。

 

■強引なサードライナーが、グラブを弾いてファールラインを転々のスリーベース。 ★★★☆☆☆

●4月9日より、角川シネマ有楽町他でロードショー