●2月2日(木)15-30 京橋<テアトル試写室>
M−016『午後8時の訪問者』" La Fille Inconnue (2016) Les Films du Fleuve / Archipel 35- Savage Film , France 2 Cinema ベルギー
監督、脚本、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 主演・アデル・エネル、オリヴィエ・ボノー <106分・ビスタサイズ>配給・ビターズ・エンド
異色な味の「少年と自転車」や「サンドラの週末」などの、ダルデンヌ兄弟の新作は、タイトルの気分から、もしや<フレンチ・ノワール>かと思ったのだが、それは手前の勝手な予測。
たしかに午後8時に、若い女医の診療所のベルが鳴ったのだが、ひとりで切り盛りしているクリニックなので、彼女は電話中で忙しくてそのベルに応答が出来なかった、という発端だ。
ところが、後日になってひとりの若い身元不明の女性殺害遺体が近所で見つかり、捜査線上には、アデルのクリニックのベルを、午後8時に、その女性が慌てて押している映像が見つかる。
しかし彼女にはその女性は知らない訪問者で、急患だったかも知れない・・という思いに、すでに大きな病院への栄転の決まっている彼女には気になる事件だった。
アシスタントの学生も、医学への思いが叶わぬ現状で、クリニックを辞めてしまい、問題が山積される現状での大病院には気がとがめる状況から、アデルは今のクリニックに留まることにした。
防犯カメラに移っていたその<午後8時の訪問者>を探すことにしたアデルの日々は、まるで新米探偵のようで心もとないのだが、とくにノワール色はなく、ドラマは淡々と続く。
殺されていた女性は国籍も居住地も不明なために、恐らくは不法滞在者だったのかも知れなく、大きな病院には相談できずに、小さなアデルのクリニックのベルを鳴らしたのかも知れない。
警察の取り調べを聞いたアデルは、不法入国者でも立派な人間であって、国籍はともかく、平等に医療は受けられるべきだと考える信念の清純さを、ダルデンヌ兄弟監督は静かに告げて行く。
というストーリーなので、殺人の遺体遺棄による刑事事件がバックになるストーリーなので、視線を替えればノワール色が濃厚なテーマなのだが、この作品は頑にそれをしない。
タイトルの気分で、チャールズ・ブロンソン主演のノワール作品「夜の訪問者」のようなサスペンスを予想して見たわたしも、とんだ<試写室の訪問者>。
この正義の天使のような女医の姿を、アデルはまるでドキュメント・フィルムのように自然に、まさにあたふたと演じていて、そのことで事件の身近な深刻さを訴えているようだ。
若いインターンの女医さんには、医者の鑑として、見て頂きたいものだが・・・。
■左中間へのいい当たりだが、意外に伸びずにセンターが好捕。 ★★★☆
●4月8日より、ヒューマントラストシネマ有楽町でロードショー