細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『3月のライオン・前編』囲碁の世界に挑む少年の苦難のはじまり・・。

2017年02月25日 | Weblog

2月15日(水)9-30 日比谷<東宝本社11F試写室>

M-020『3月のライオン<前編>』(2017) 東宝映画、アスミック・エース、ROBOT,朝日新聞、電通、KDDI、白泉社

監督・脚本・大友啓史 主演・神木隆之介、有村架純 <132分・ビスタサイズ> 配給・東宝、アスミック・エース

何と10年もの長い間もヒットを続けているという、羽海野チカの国民的な人気コミックを、これまた「るろうの剣心」でヒットした大友監督が長編ニ部作に映画化。

つい先般にも「ミュージアム」という傑作猟奇殺人鬼映画を公開したばかりの大友監督の、これは期待の長編新作であって、試写も日を分けているのを、前後篇を一気に見た。

両親を交通事故で失った17歳の少年は、完全に大都会東京で孤立していたが、江東区の隅田川を望むひと部屋の住まいで、孤独を将棋盤と向き合って生きて行く姿を描く。

という碁盤の少年勝負師の話なので、まったく将棋のルールも知らない当方としては、まさにこの勝負には無能で見る資格もないのだが、やはり盛岡一高の後輩監督の新作なので見逃せない。

だからして、これを勝負師のサクセス・ストーリーとして見て、それをゴチャゴチャ語る資格などないのだが、ま、不遇の少年がいっぱしの青年に成長していく人間作品として見た次第。

学校でも友人のいない神木少年は、不良化する暇もなく好きな囲碁の盤と向き合い、学校の先生と少しだけ話をするだけの生活だったが、不良達のイジメに負傷したところを親切な家族に救われた。

映画は、親切に介護してくれた前田吟の扮する下町の和菓子屋の家族と、その三姉妹たちとの交流を通じて、少しずつ囲碁を打つ事で人間らしい精神力を鍛えて行く日々を描いて行く。

わたしなどは、あまり馴染みのない囲碁の勝負師たちの世界なので、関係ないが、どうも前田吟の風格から、ついつい「男はつらいよ」のあの寅次郎の実家の賑わいやおせっかいをダブらせて見てしまう。

その質素な生活を背景にして、神木少年は次第に青年の佇まいを身につけて行くのは、和の世界を背景にした囲碁の勝負の世界が、沈黙と威厳に支えられて行くという盤石な背景があるからだろう。

育ての親だった豊川悦司を勝負で破り、学校生活と和菓子屋家族たちとの生活を通じて、孤独な勝負師は少しずついっぱしの人間に成長していく日々で多くのトラブルに遭遇して前編は終る。

タイトルの意味は、英国のことわざで、「3月の気候は、まるでライオンの気性のように荒々しいが、次第に子羊のように穏やかになる・・・」という例えから引用しているという。

とくに大友監督らしい大胆な映像のサスペンスはないが、<囲碁>という狭く画一された線上で戦う勝負師たちの日々を通じて、ひとりの少年が大人に成長していく姿を丁寧に見つめるのだ。

 

■まずは基本通りにセンター狙いのゴロのヒット。 ★★★☆

●3月18日より、<前編>のみ東宝系で公開。