細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は感情のさざ波がデリケートに光る秀作。

2017年03月19日 | Weblog

3月14日(火)13-00 半蔵門<東宝東和映画試写室>

M-031『マンチェスター・バイ・ザ・シー』" Manchester by the Sea " (2016) Universal Pictures /K Period media / A Pearl Street Films / The Media Farm / Forcus Features 

製作・マット・デイモン 監督・脚本・ケネス・ロナーガン 主演・ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ <137分・シネマスコープ>配給・ビターズ・エンド

何とも懐かしい、あの50年代に多かった「エデンの東」や「ハリーの災難」「青春物語」「ピクニック」のような、アメリカ中流のカントリー・ライフの呼吸を感じさせる人間ドラマ。

今年のアカデミー賞レースで、あのオール黒人ドラマの「ムーンライト」と互角に健闘した小市民の日常を見つめた秀作で、こちらは東部海岸の疲れた白人たちの人生スケッチだ。

「アルゴ」でアカデミー作品賞を受賞した俳優のベン・アフレックの実の弟のケイシーは、兄よりも遥かに繊細な演技力と細かな感情表現が巧みで、この作品で主演男優賞を受賞。

あの「華麗なるギャツビー」のロングアイランドよりは北部に位置する<マンチェスター・バイ・ザ・シー>は、昔からの漁師なども住む平凡な海辺の町で、ひなびたヨットの係留港。

兄の突然の病気死亡の知らせに、ボストンから急遽戻ったフリーの便利屋下請け工事をひとりでしているケイシーは、疎遠だったが実の兄の急死の知らに郷里に駆けつけた。

その兄の甥っ子の高校生を、遺体安置所に連れて行き、母親や知人たちにもメールしたり、弁護士との葬儀の打ち合わせ等と、その事後処理に忙殺されていくスケッチが、実にデリケート。

どうしてケイシーが、こうして山積された兄貴の残務を処理しなくてはいけないかは、彼らの過去の多くのトラブルが回想されていくが、それは公開まではネタバレなので、書く訳にはいかない。

いろいろな細かな過去の思い出によって、ケイシーの人間像と、どうして故郷を捨てて都会に出てしまったのかが、このような些細なエピソードで語られて行く演出が、流れるペースだ。

このような小市民の生活には、特に語るようなドラマはないのだが、この映画の脚本と監督のケネス・ロナーガンは、実にデリケートに人間関係の感情的なトラブルを再現していくのだ。

やはりケイシーの性格が、時にキレやすいという、いかにも神経だった弟らしい細かな感情表現がドラマを実にセンシティブな体質にしているので、ぼーーーっと見ていられないテンションがある。

兄のベン・アフレックが監督した2007年作品「ベイビー・ゴーン・ベイビー」でも、ケイシーはモーガン・フリーマンを圧倒する細かな演技を見せたが、この作品も、彼の存在で成立している。

久しぶりに人間同士の複雑な感情と、葛藤が穏やかに平然と描かれた人間ドラマとして、いまこそ「ムーンライト」と並ぶ秀作として、ある種、貴重な意味をもつ人間ドラマだ。

 

■ゴロで左中間を抜けたヒットだが、イレギュラーして3ベース。 ★★★★

●5月13日より、シネスイッチ銀座ほかでロードショー