細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『美しい星』の自称宇宙人たちの笑えない<家族はつらいよ>。

2017年03月21日 | Weblog

3月16日(木)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-032『美しい星』(2017)プロダクション・リクリ、「美しい星」製作委員会、GAGA

監督・吉田大八 主演・リリー・フランキー、亀梨和也 <127分・ビスタサイズ> 配給・ギャガ

雑誌<新潮>に連載されて、1963年に単行本として刊行されたという、三島由紀夫のSF異色小説の映画化だが、かなり不思議な現代ホームドラマだ。

その原作小説は読んでいないが、この映画で見る限りは、ごく平凡な家族だが、それぞれに自分は異星人という意識を持っていることで、一種の地球環境問題悪化を危惧している。

しかしシリアスなドラマではなく、どこかピントの外れた意識を共有する「家族はつらいよ」異色版であって、あの60年代にあった地球危機感の視点が、妄想と現実を歪ませてオカしい。

表面的には、それぞれに平凡な生活意識を持った家族なのだが、母だけが地球人で、父親はテレビの気象予報士なのだが自分が火星人だといい、息子は水星人、娘は金星人、だと思い込んでいる。

ドラマはそのヘンな宇宙人家族の奇行を、マジに見つめていて、とくにコメディとしてでもなく、かといってSF家族の怪奇ドラマでもなく、ごく普通のドラマとしてスタンスはクール。

吉田大八監督の映画がいつも面白いのは、「クヒオ大佐」でも「桐島」くんでも、「紙の月」の女性でも、ごく普通の常識で生きている人間の心理の、ちょっとヘンな脱線を描いて面白い。

この宇宙人家族も、表面的にはごくアリガチな常識人家族なのだが、とくに主人のテレビのお天気予報官の実況予報ぶりが、少しずつズレてきて、その予報のなかに地球の危機感を訴えるのだ。

そこはライブ放送なので、エキスパートの自覚に作用されるライブ放送の宿命なので、リリー・フランキーの個性から見ていると、冗談のように聞こえるところが、逆に気味が悪くなる。

むかし、あのオーソン・ウェルズのラジオ放送で、火星人が襲来したことを話したら、それを聞いていた視聴者たちは、思わず外に飛び出して空を見上げた・・・というエピソードを思い出した。

この作品では、そのヘンな家族の意識を通じて、地球が抱えている空気汚染の日常的な悪化の危惧を訴えているようだが、そこは山田洋次の家族のようにコミックでないところが、この異色家族。

どこか舞台劇のようなスタンスなのも、ドラマの空気が一種のコミックな心配性な冗談めいているからで、とくに危機感はないのだが、参議院議員の秘書官の佐々木蔵之介が、いちばん宇宙人っぽかった。

しだいにリリー・フランキーの天気予報官は、ライブ放送で地球危機感をしゃべるようになるのはいいとして、妙なポーズで覚醒して、娘の橋本愛までがヘンなポーズをやりだすのは苦笑。

恐らく三島由紀夫の原作では、その辺の覚醒家族の変態ぶりがシニカルに書かれているのだろうが、このキャスティングでは、終始ノリ切れなかった異色コメディだった。

 

■かなり高く上がったライトフライだが、結局ファール・アウト。 ★★★

●5月26日より、全国ロードショー