●4月25日(火)13-00 六本木<キノ・フィルム試写室>
M-050『武曲・MUKOKU』(2017) TCエンターテイメント、TBSサービス、巌本金属、TBSラジオ、ソニーPCL、キノ・グループ
監督・熊切和嘉 主演・綾野 剛、村上虹郎 <125分・シネマスコープ> 配給・キノ・フィルムズ
はじめ試写状を見たときは、一瞬、ほらまた「無限の住人」のようなサムライ時代劇の新作かた思ったが、いやいや試写で見たら、実にシンプルで、ストイックな青春現代劇。
とはいえ、やはり佐藤泰志の原作は、警察官の厳格な父と、その息子の相剋の親子の悲劇で、ま、ある意味ではギリシャ悲劇やジョン・スタインベック原作の「エデンの東」を思わせる。
北鎌倉という場所には、あの小津安二郎監督の墓があり、多くの先経つ映画人たちの眠る墓の多い特殊な雰囲気のある山裾が、どこか時代とは無縁の佇まいを感じさせる。
その一角の旧家に住む厳格な父は、武道の達人でもあって、柄本明が演じている寺の住職で師範でもある老人に、息子の綾野を預け、幼少の頃から木刀による剣術を厳しく指導していた。
しかし親子の確執も、父と子の闘争心を炙り上げて、とうとう庭で剣道の練習中に、思わず青年の綾野は無心に父親を剣で突いてしまい、脳梗塞か、父は意識不明のまま長期の入院生活となった。
その衝撃で心を痛めた綾野は、苦悩に任せて酒をあおり、まるで狂人のように日夜泥酔しては悪態をつき、路上で朝を迎えるような自暴自棄な日々に、まるで無精な廃人のような風采になる。
見かねた住職は、道場に通う若者の村上虹郎を使いにやり、廃人化している綾野との闘争心をけしかけて、とうとう二人は台風上陸の豪雨の夜に、マジ命がけの決闘を展開するクライマックス。
ストーリーはシンプルで、その廃人状態の綾野を、剣道のこころで立ち直らせようとしている住職の配慮で、そのクライマックスの決闘で、廃人だった綾野は正常な精神を取り戻すきっかけを掴む。
つまりはサムライ精神の更生を、いまの軟弱なひとりで悩む若者の心に、こうして取り戻そうとする強制手段を見せる・・・という青春のガッツを取り戻す<青春ハードボイルド剣道劇>。
シブい「夏の終わり」や「私の男」で堅実な演出を見せた熊切監督は、あの昭和をいまだに残しているような北鎌倉の空気のなかに、伝来の<サムライ魂>を取り戻そうとした映像がシブい。
このところ快調の綾野剛は、持ち前のデリケートな感情表現を、豪雨のなかの剣道勝負で発散させて、いまの軟弱な若手テレビ出身の青春イケメン達には、一喝となる好演を見せている。
三池監督の「無限の住人」のメッタ切りもいいが、むしろ彼が11年に作った「一命」のときの海老蔵の精神が、この現代劇にはチラリと見えたような、一種のサムライ映画のような爽快感があった。
■ボテボテのサードゴロだが、グラブを弾いて転々のツーベース。 ★★★☆☆
●6月3日より、新宿武蔵野館他でロードショー