細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『おとなの恋の測り方』は男性の身長コンプレックスを解消してくれるのだ。

2017年05月30日 | Weblog

5月24日(水)13-00 築地<松竹本社3F試写室>

M-061『おとなの恋の測り方』" Un Homme a la Hauteur ( 2016) VVZ Production / Goumont / M6 Films / Canal+L` Insense Films

監督・脚本・ローラン・ティラール 主演・ジャン・デュジャルダン ヴィルジニー・エフィラ <98分・ビスタサイズ> 配給・松竹株式会社

久しぶりに、フランス映画らしい、とてもウィットとエスプリに富んだ、おとなの上質傑作コメディだが、この邦題は、まったく意味が判らなくて試写へ行く気を損ねたのだ。

どう考えても、この邦題の意味がワカラナイのだが、どうやら極端に身長の低いおとなの男性と、その男よりも背の高い女性との恋を、こういうややこしい難解なタイトルにしたのだろう。

 ま、それは配給会社の苦肉の策なのだろうが、要するにチビな男性と、その彼よりも極端に背の高い女性との恋というのは、あの画家のロートレックの恋を描いた「赤い風車」が印象的。

それとパトリス・ルコント監督のミステリアスな傑作「仕立て屋の恋」が思い出されるが、ここまで思い切って描いた身長差の恋は、いまのスクリーン・エフェクトの技術があるからこその発想だろう。

主演のジャン・デュジャルダンはご存知のように、つい2011年のアカデミー賞で、フランス映画「アーティスト」の演技で主演男優賞を受賞したばかりの長身のハンサム・ガイ。

パリの街に行くと、意外に背の低い男性が、長身の女性とカップルでデイトしているのを見かけるが、古来、ハリウッド映画ではゲイリー・クーパーやジョン・ウェインのような長身が人気者だった。

そのせいか背の高い男性と、それよりは低めの女性のカップルが<絵>になっていたのだが、そのバランスを極端に反転させようとしたアイデアがこの映画の秀逸な発想で、いまだからこそ可能なこと。

というのも、最近の映像技術の革命的な進化で、グリーン・バックスクリーンの使用で、大抵の特殊撮影は可能になったからこそ、「スターウォーズ」だって宇宙飛行が簡単に出来る。

そこでこの映画は長身のジャンの身長を20センチほど縮める、というアイデアが可能になったワケで、ホセ・ファーラーは画家のロートレックを演じるために「赤い風車」では膝に靴をはかせて苦労した。

相手役のヴィルジニーは、この極端に背の低いジャンの容姿に違和感をもって、その交際には奥手だったのだが、建築家のジャンは背は低いが、非常に実行力とユーモアに溢れた男性なので惹かれて行く。

という、まさに恋愛関係の古典的な神話の図式を、ここで根底からひっくり返してしまうというラブ・コメディが、さすがオスカー俳優の名演で可能になり、革新的な男女関係を逆転させて見せるのだ。

昔の「縮み行く人間」などのような稚拙なトリック撮影の時代は悪夢だった、と思わせる、この斬新なアイデアと撮影技術で、また映画は新しい表現方法を可能にしたことに、思わず感銘したのだ。

身長の低いコンプレックスで悩んでいる男性は、この映画を長身のカノジョと見るべしで、もし笑わなかったら,そのカノジョはアプローチをやめたほうがいい。

 

■浅いライトフライだと思っていたら、意外にフェンス直撃のスリーベース。★★★☆☆☆

●6月17日より、新宿ピカデリー他でロードショー