細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『三度目の殺人』の変貌する殺人犯の供述には騙されないように・・。

2017年07月25日 | Weblog

7月21日(金)10-00 日比谷<東宝本社11F試写室>

M-081『三度目の殺人』(東宝映画、フジテレビジョン、アミューズ、GAGA、阪急阪神東宝グループ)

監督・是枝裕和 主演・福山雅治、役所広司 <シネマスコープ・125分> 配給・東宝、GAGA

弁護士というのは因果な商売だなーーと、いつも映画を見ると思うのだが、私感はさておき逮捕された容疑者の罪状をなるべく軽くするために、その犯行の弁護をするのが本業だ。

本人の心情はともかくとして、犯罪者の弁護を引き受けた以上、とにかく裁判では検察側や警察の追求を交わしつつ、とにかく犯人とされる容疑者の代弁者として刑の軽減のために奮闘する。

多くの映画では、絶対に不利とされた裁判での、弁護士の殊勲で逆転無罪のハッピーエンドなんていう、いかにもドラマティックな美談が多く映画化されたが、この映画はチト違う。

前作「そして父になる」で、なかなか味のあるホームドラマを作ったマルチタレントの人気者、福山雅治と是枝監督の再度タグを組んだ新作は、監督の原案、脚本、編集による裁判映画だ。

といっても、ワイルダーの名作「情婦」や、あの「告発」「評決」などの法廷サスペンスの名作とは違って、この作品の場合は、逮捕されている殺人犯人の供述が、コロコロと変わるので実にフラジルな内容。

冒頭で殺人容疑で逮捕されている役所広司の、淡々とした供述があるので、担当弁護士の福山もやりやすい裁判の筈だったのだが、その供述はかなり曖昧であって、ポイントがつかめない。

この殺人犯は、実は30年前にも強盗殺人で服役経験のある前科者で、今回の犯罪も不当に解雇された食品加工工場の社長を、深夜の多摩川河原に呼び出して背後から撲殺し、財布を奪って死体に火をつけた。

このシーンは映画の冒頭にあるので、この犯行事実には疑問もなく、依頼されて担当弁護士となった福山としても、罪状を死刑から無期懲役に持って行くのは、ちょっとヤッカイな仕事となる。

ところが、裁判間近になって、犯人の真情を聞き取っているうちに、「オレはやってないすよ」と言い出したものだから、さあ、困ってしまった福山担当弁護士は、何が真実やら・・・???となる。

ま、映画を見ているわれわれは、冒頭のシーンの犯行現場を見ているので、これはまた殺人犯が司法を嘲笑する、あの「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクター教授を気取ったのか・・と気をまわす。

そんなヤバい展開の中でも、被害者の娘が苦情を訴えて、実は元妻の共犯者がいたという情報をほのめかしたために、単独犯だと信じられていた役所は「おれ、やってないスよ」と言い出したのだ。

これは映画のレトリックであり、ネタバレにもなるので、これ以上は書く訳にはいかないが、それならば、なぜ社長は夜中の多摩川河川敷に同行したのか・・・という単純な疑問もでてくる。

作品は当代人気と実力の二大スターの共演作品なので、ま、彼らの演技格闘を愉しめばいいのだが、わたしとしては、ミステリー映画としては曖昧なシーンが多かったのが、残念だった。

 

■左中間に抜けたツーベースだが、オーバーランしてタッチアウト。 ★★★☆?

●9月9日より、全国東宝系でロードショー