細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『サン・フィアクル殺人事件』は、メグレ刑事の初恋の女性が殺された!!

2021年06月20日 | Weblog
●6月19日(土)21-30 <ニコタマ・サンセット傑作座>
0V-118-48『メグレ警視*サン・フィアクル殺人事件』"Maigret: L' Affaire Saint-Fiacre" (1959) Filmsonor/ Intermondia Film
原作・ジョルジュ・シムノン 監督・ジャン・ドラノワ 主演・ジャン・ギャバン、ロベール・イルシュ <102分・モノクロ・スタンダード>配給アートデイズ
たしか昨年も見て、このブログにアップした筈だが、なぜか昔の学校の先生にでも会えるような気分で、このシリーズは、再三のように見てしまう。
たまたま入手していた<メグレ警視シリーズ>は、たったの2作品だが、フランスでは、あの<刑事コロンボ>シリーズのように、かなり製作された筈だ。
ま、コロンボは短編のテレビ番組だったので、かなり量産されたが、このメグレは、ちゃんとした劇場用の長編フィルムなので、味わいは段違いに深い。
おまけに、フランス希代の名優ジャン・ギャバンが演じているので、その味わいは上質なリキュールやチーズのように、見るたびに濃くなってくるようだ。
しかもこの作品は、おそらくは彼の少年時代の初恋のガールフレンドが、初老の未亡人になってからの、遺産相続のトラブルなので、メグレも放ってはおけない。
列車に乗って、久しぶりの生まれ故郷に帰り、駅前のカフェの奥のシートで、かつての初恋の老嬢に会い、その殺人事件に遭遇するなんて、とんだ<心の旅路>なのだ。
この老刑事の役は、ジャン・ギャバンだからこそ、実に味わいの深いシリーズであって、他の俳優では到底考えられないハマり役なので、できればもっと見たかった。
事件が解決して、ひとりまた列車で帰るメグレ刑事の孤独官は、かつての初恋の恋人の喪失以上に、人生の過酷な過酷な孤独を、あの「冬の猿」と同様に沁みる。
やはり彼は、南仏の明るいモンテカルロでの事件よりは、この北フランスの田舎町での、追憶の事件の冷たい空気の方が似合っていて、深みがあるのだ。
老嬢のヴァランティーヌ・テシエが、いかにも往年の「舞踏会の手帖」のマリー・ベルのような風情でいいが、若いミシェル・オークレールも懐かしい。

■NHKエンタープライズ・VHS・モノクローム・スタンダードサイズ・102分・
●古くて忘れていたワインのような、酸化した味わいがシブい。 ★★★☆☆☆