細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『秘めたる情事』の味わいは、見る人の加齢によって、深みを増して来る名作だ。

2021年10月17日 | Weblog
●10月17日(日)21-40 ニコタマ・サンセット傑作座・VHS
0V-149-57『秘めたる情事』"Ten North Frederick" (1958) 20th Century Fox; VHS
監督・フィリップ・ダン 主演・ゲイリー・クーパー、スージー・パーカー<99分・モノクロ・シネマスコープ>
いろいろな意味で、ひとつの時代の終焉というのか、季節の変化とか、時代の転換を、そして人生のエンディングを実感させた秀作だ。
むかし話しで恐縮だが、この作品は58年当時、日比谷の<有楽座>で見たが、シネマスコープを最初に公開した大劇場だったが、たしか、これで閉館。
しかもゲイリー・クーパーのラスト・ピクチャーで、あのフランク・シナトラの傑作「抱擁」の原作を書いたジョン・オハラの「北フレデリック街十番地」の映画化。
いかにもアメリカ東部のエスタブリッシュメントが崩壊してゆくプロセスを、ひとりの初老の紳士の人生の終焉を通じて描いたメロドラマとして、大好きだった。
フィラデルフィア辺りの市会議員を定年退職したクーパーは、悪妻の後押しで政界に出されそうになるが、彼にはまったくその野心などはなく、平穏な老後を願っていた。
娘がボストンの大学寄宿舎にいたので、そこを尋ねた際に、娘はたまたま留守だったので、同室のスージー・パーカーと近所のレストランに出て夕食にした。
娘の同級生なのだが、クーパーは初めて悪妻を逃れて、女性のやさしさと美貌の時間に酔ってしまうが、行ったレストランでは父と娘の同伴と勘違いされてしまう。
これまでの人生で、味わったことのない至福の時間に、自分の老齢を忘れるような甘さに、生まれて初めて女性を愛する、という至福の感情に溺れて行くが現実は過酷。
さすがに高齢を自覚した彼は、自分の意思で彼女との時間を、紳士的に辞退して、しばらく後年に娘から、スージーが結婚したことを知り、自室に籠るようになる。
ラストシーンで、暗い自室の自分のチェアーで、ひとり思い出の時間に陶酔していたクーパーの手からグラスがポトリ・・と落ちたところでエンドマーク。
ま、老人の哀れな恋ものがたり、といえばそれっきりだが、いかにも人生に疲れたが、最後に至福の瞬間を味わった表情には、充実した時間の至福が伺えた。
老齢となった自我を痛感させるメロドラマだが、やはり、公開当時に見た印象よりは、当然、実感も伴う、ハリウッド終末期の秀作ということを、再認識。

■VHSテープで見たが、本体の具合が老化していて、知り合いの電気屋さんに探してもらい、VHS機を新調 ★★★★☆☆