細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『スペシャルズ!』の無欲な善行には、天使の誇りがある。

2020年08月07日 | Weblog
●8月6日(木)20-40 <ニコタマ・サンセット傑作座>
M-024『スペシャルズ!』"Hors Normes" (2019) ADNP -TEN Cinema Gaumont-TF1 Films Production
監督・エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ 主演・ヴァンサン・カッセル、レダ・カテブ <114分・シネマスコープ>配給・GAGA
<メンタル・プロブレム>は、ここ最近になって、どこの国の人間社会にも増えて来ているのは、われわれの生活文化がより複雑になってきた、といえばそれっきり。 
多様な家庭環境から生じる感性の病い、といえばそれっきりだろうが、たしかに社会生活が複雑になってきて、とくに都市部では人間環境に不具合が多発する。
この作品は、よくある男性二人の<バディ・ムービー>なのだが、あの「おかしな二人」や「冒険者たち」のようにアグレッシブではなく、メンタルが繊細なのだ。
ヴァンサンはとくに団体には所属していないが、<困ったメンタルなひとは放っておけない>タイプの、信じられないほどに他人に親切な古典的なおじさんなのだ。
一応は<正義の声>という、<メンタル・プロブレム>な若者たちをケアするグループに所属しているようなのだが、とにかく毎日のように個人的に率先して行動していく。
たしかにパリや東京のような巨大都市部では、この多様化した人間社会からはみ出してしまった若者が多く、一人前の独立した人間になるための努力をしている人は多い。
ヴァンサンは、根っからの世話好きな好人物で、友人とで恵まれない気弱な若者の救済のために毎日のように奔走している、という<特別な>人格の人間の実話なのだ。
その献身的な善意は、普段のわれわれの生活感覚からいうと、とても信じられないような<善意の行動>をする日常なのだが、ここではそのヒューマニズムは強調しない。
むかしはキャロル・リード監督の「文なし横丁の人々」や、フランク・キャプラ監督の「素晴らしき哉、人生」のような、人間の善行をテーマにした作品も多かった。
しかし絵に描いたような<ヒューマニズム>には、もう動じなくなった現代人には、こうした<尽力>というメンタルな努力こそが<美徳>とされるようになった。
とはいえ、この作品は、その<善意の人間性>を特に強調するでもなく、ヴァンサンの表情に滲む人間性の暖かい強さが、作品の動脈となっていて感動的だ。

■人間の善意は、見えない部分にあるから美しい。 ★★★★
●9月11日より、全国ロードショー

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