細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●2月の試写ベスト・3 &ワースト

2006年02月28日 | Weblog
●2月の試写ベスト・3
☆「ぼくを葬る」(2005)仏・監督・フランソワ・オゾン 主演・メルヴィル・プポー ★★★★☆
突然のガン告知を受けた青年が、身辺の整理をしていくクールな美学だが、映画としてのパワーは熱かった。
☆「ブロークバック・マウンテン」(2005)米・監督・アン・リー 主演・ヒース・レジャー ★★★★
今年のアカデミー作品賞本命の重圧とは関係のない、きわめて素朴なダメ男たちの哀しい思い出が残る。
☆「ファイヤー・ウォール」(2006) 米・監督・リチャード・ロンクレイン 主演・ハリソン・フォード ★★★☆☆☆
窃盗強盗誘拐犯グループから家族を守る、ただそれだけのシンプルなサスペンスが全然途切れない演出の英知。

△2月の試写ワースト/「イーオン・フラックス」(2005)米・監督・カリン・クサマ 主演・シャーリーズ・セロン ★★☆
コミックものの映画化。それにしては実写イメージがお粗末だった。セロンもいいところなし。

●2月に見たDVD,LD,VHSなどの「自宅名画座」ベスト・10
◎「女優志願」(シドニー・ルメット)57/LD ★★★★☆☆
◎「クライ・ヴェンジェンス(原題)(マーク・スティーブンス)54/VHS ★★★★
◎「ファニー・ガール」(ウィリアム・ワイラー)68/DVD ★★★★
◎「とまどい」(クロード・ソーテ)95/LD ★★★★
◎「異国の出来事」(ビリー・ワイルダー)48/VHS ★★★☆☆☆
◎「トラフィック」(スティーブン・ソダーバーグ)03/DVD ★★★☆☆☆
◎「キー・ラーゴ」(ジョン・ヒューストン)48/DVD ★★★☆☆☆
◎「血闘<スカラムーシュ>」(ジョージ・シドニー)52/DVD ★★★☆☆
◎「ワーロック」(エドワード・ドミトリク)59/VHS ★★★☆☆
◎「ブロードウェイのバークレイ夫妻」(チャールズ・ウォルタース)49/LD ★★★☆☆
他に印象に残った作品
「烙印」(50)
「怒濤の果て」(48)
「裏切りの街角」(49)
●個人的な思い入れでクラシックが多くて毎度すみません。

●「ファイヤー・ウォール」は本道サスペンスの傑作。

2006年02月27日 | Weblog
●2月27日(月)13-00 日比谷<ワーナー試写室>
M-027 「ファイヤー・ウォール」Firewall (2006)Warner Brothers 米
監督・リチャード・ロンクレイン 主演・ハリソン・フォード ★★★☆☆☆
タイトルの意味は内部ネットワークを、外部ネットの不法侵入を阻止するコンピュータ・システムのことだという。
ハリソン・フォードは銀行のファイアー・ウォールのシステム管理エンジニアー。
家族を誘拐して、彼の頭脳を利用して高額の預金口座から大金をスライド窃盗する新手のギャングが、ハリソンの自宅に立てこもって犯罪計画を決行する。
あの「必死の逃亡者」の構図だが、ロンクレインの演出も雨のシアトルを背景に、ぬかりがない。
久しぶりにCGに頼らないで、あくまで頭脳で勝負するサスペンスは、油断がない。
ラストは逆襲に出たハリソン・フォードのヒロイックなアクションでハッピー・エンド。
古典的なワーナー映画自慢の、ストレートなテンポが気持ちいい面白さ。
ハリソンとしても「エアフォース・ワン」以来10年ぶりの娯楽快作だ。
ポール・ベタニーも「ダ・ビンチ・コード」の悪役への充実を予感させる好演だ。

●「間宮兄弟」のオフ・ビート感覚。

2006年02月24日 | Weblog
2月24日(金)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>
M-026 「間宮兄弟」(2005) 日・アスミック・エース
監督・森田芳光 主演・佐々木蔵之介 ★★★
原作を読んでいないので、その味わいの機微はワカラナイ。
しかし森田監督の「HARU」が好きだったファンにとっては、よく呑み込めないオフ・ビートなコメディだった。
これを面白いとするのはいいが、TVドラマのような感覚。これが監督の最新ベストだろうか。
ニートでも、フリーターでもない男兄弟は、気味が悪いほど仲がいい。兄弟愛を描く映画は多いが、ろくに女性にモテないこのおかしな二人は、まだ少年なのだ。そして親も異星人だ。
コミックだと思いながらも、違和感が終始する。
夜中の公園で紙飛行機を飛ばす30男兄弟。文章としては美的かも知れないが、全然共感できない2時間だった。

●「ニュー・ワールド」は結局は純愛映画なのか。

2006年02月23日 | Weblog
●2月23日(木)12-45 東銀座<松竹試写室>
M-025 「ニュー・ワールド」The New World (2005) New Line 米
監督・テレンス・マリック 主演・コリン・ファーレル ★★★☆☆
17世紀のアメリカ大陸開拓期。
イギリスの冒険家ジョン・スミスは、後のヴァージニア州の奥地で、先住民ので介護を受けて、酋長の娘ポカホンタスと恋に堕ちる。
有名な史話でディズニーのアニメにもなったラブ・ストーリーは、純粋で寡黙だ。
「シン・レッド・ライン」以来7年目の監督作品を手がけたテレンス・マリックは、またも例によって多くを語らず、やたら映像の流れで本質を語ろうとする。
こちらもつい深読みしてしまうが、それにしても煮え切らない恋物語で、せっかくの時代考証の面白さが中断する。
まるでディスカバリー・チャンネルのドキュメンタリーに、恋物語が挟まったような印象になり、まさに歯がゆい。
これだけのロケーションをしていたら、当然アカデミー賞を狙える作品になっただろう。
しかし、変人のマリックは、またこちらの期待と違った作品に仕上げてしまっている。

●「ディヴァージェンス」みな殺しの交差点。

2006年02月21日 | Weblog
●2月21日(火)13-00 東銀座<シネマート試写室>
M-024 「ディヴァージェンス」Divergence (2005) 中国
監督・ベニー・チャン 主演・アーロン・クォック ★★☆☆☆
香港ノワールのつもりらしいが、「インファナル・アフェア」のような重厚感はない。
十年前に消えた恋人の幻想を追う刑事アーロンは、いくつかの事件が交錯する捜査の行方に彼女の姿を追う。
どうもセンチメンタルな「泣き」が目立って、せっかくのノワール・タッチが甘くなる。
美術のウィリアム・チャンだけが「花様年華」の画調を見せているのに、演出がアクション本位なので、さっぱり映画のテンションが定まらない。いかに殺戮シーンに凝っても風格は見えていないのだ。
結局はほとんどの登場人物が死んでしまい、ため息だけが残ってしまった。

●「ぼくを葬る」ことの意味。

2006年02月20日 | Weblog
●2月20日(月)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-023 「ぼくを葬る」Le Temps Qui Reste (2005) studio canal 仏
監督・フランソワ・オゾン 主演・メルヴィル・プポー ★★★★
人間の死を見つめるシリーズの「まぼろし」に次ぐオゾン監督の第2作は、若いカメラマンの死。
突然の末期ガン告知で、ゲイの彼は恋人と別れて、身の回りの整理を始める。
しかし家族とのトラブルの多かった彼は、とくに家族には知らないないで、祖母にだけ通知する。
理由は「お互いに余命が短いから」。
オゾンの演出は例によって淡々とクールで感情を爆発させない。
これだけストイックに美的に自分の短い生涯を整理できるものではないが、これは、あくまで監督の理想だろう。
「夕陽が沈むと必ず誰かが死ぬ。今日は俺の番だ」と言ったのは「悪の花園」のリチャード・ウィドマークだったが、この青年も自殺ではなく、自分を葬ることの美学にこだわる。
これはこれで見事な終焉。
感動の秀作である。

●「キスキス、バンバン」は私立探偵小説からのパロディ。

2006年02月17日 | Weblog
●2月17日(金)13-00 日比谷<ワーナー試写室>
M-022 「キスキス、バンバン」Kiss Kiss,Bang Bang (2005) Warner Brothers
監督・シェーン・ブラック 主演・ロバート・ダウニー・Jr ★★★☆☆
ケチな泥棒のロバートが、ハリウッドでヒョンなことで私立探偵映画のオーディションを受けることになり、ヴァル・キルマー探偵のアシスタントとして、5日間、密着取材特訓の役作りをする。
「ハード・ウェイ」と同じ設定だが、こちらは、5つのチャプターにわかれて本当の殺人事件を追い、その毎日のタイトルがレイモンド・チャンドラーの小説からヒントを受けて、ストーリーも「湖中の女」や「かわいい女」となる。
ミステリー・マニアには面白いジョークの連発で大いに楽しめた。
50年代のパルプ・マガジンの感覚を現代に移したのはいいが、演出はコメディ・タッチで軽い。
次作「M.I.3」でトム・クルーズの相手が決まっているミシェル・モナハンがいい味を発揮している。
ちょいとエルモア・レナード・タッチのブラック・ユーモアが好感である。

●「大統領のカウントダウン」のロシアン・アクション。

2006年02月15日 | Weblog
●2月15日(水)13-00 京橋<メディアボックス試写室>
M-021 「大統領のカウントダウン」Countdown (2004)ロシア
監督・エヴゲニー・ラヴレンティエフ 主演・アレクセイ・マカロフ ★★★☆☆
ロシア映画が史上最高の800万ドルの制作費で完成したポリティカル・アクション大作。
CGを使わないで、ロシア軍の空陸の武力を最大限に使ったテロ撲滅の徹底したスピード展開は迫力がある。
アラブのアル・カイーダが介入してチェチェンのテロリスト・グループがサーカス場を占拠。
同時にTNT爆弾を仕掛けた軍用機をハイジャック。
ふたつの事件が同時多発テロとなり、サスペンスを倍増する。娯楽映画としては面白い。
とてもあり得ねースーパーヒーローが大活躍するのは、ハリウッド・タイプの影響なのか。
ロシア軍の全面協力で、アメリカFBIが指揮しているというから、背景は盤石で平和だ。
むかしの対ロシアの恐怖をテーマにしていた時代も、変わってしまったのはいいが、派手な戦争ごっこをしていていいのかね。
派手な花火大会はハリウッド顔負けだ。

●「リトル・イタリーの恋」と麗しのサブリナ

2006年02月14日 | Weblog
●2月14日(火)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-020 「リトル・イタリーの恋」Love's Brother (2004) 豪
監督・ジャン・サルディ 主演・アメリア・ワーナー ★★★☆☆☆
バレンタイン・デーのせいか、試写室の受付でチョコレートをもらったせいでもないが、甘いラブ・ストーリーの傑作。
1960年代のオーストラリア。イタリア移民のジョバンニ・リビシはいい年をして結婚相手をイタリアから文通で合意した女性を迎えることになった。
しかしハンサムな弟の写真を手紙に入れて送ったので、船でやってきたアメリアは失望し困惑する。
ウイリアム・アイリッシュのミステリー「暗闇のワルツ」と同じ展開だが、この作品はのどかなラブ・ロマンスだから、この誤解だらけの出逢いが迷走する。なかなか面白いストーリーは、さすが「きみに読む物語」のジャン・サルディ。
語り口が、上質のエッセイのように心地よい。
そして気がつくと「麗しのサブリナ」のような、おしゃれで本質的なラブ・ロマンスとして完結する。
久しぶりに、気持ちのいい恋愛映画の佳作。

●「イーオン・フラックス」のDNA戦争。

2006年02月13日 | Weblog
●2月13日(月)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-019 「イーオン・フラックス」Aeonflux (2005) Paramount 米
監督・カリン・クサマ 主演・シャーリーズ・セロン ★★☆☆
SF・コミックの映画化で、400年後の人間のDNA戦争を描いている。
なにしろシャーリーズが、初めてのアクション映画に挑むというから、SFでもストーリーに捻りがあるのかと期待したのだが、何と60年代のような単純なイメージによる地味な展開。
演出もCGも信じられないほどの単純さで、この狙いは何なのか、理解に苦しんでしまった。
シャーリーズも、いくらイメージ・チェンジといっても、このレベルの映画に出るようでは、オスカーも風邪を引いてしまうだろう。「バーバレラ」でも見て、口直しをしてみようか。