細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●「DAISY・デイジー」殺し屋の片思い。

2006年03月31日 | Weblog
●3月31日(金)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>
M-042 「DAISY/デイジー」(2006)サイダス・韓国
監督・アンドリュー・ラウ 主演・チョン・ジヒョン ★★★
「インファナル・アフェアー」の監督が作ったダークなラブ・ストーリーを期待したらハズレてしまった。
なぜかオランダのロケ。画家志望のチョンが街頭で似顔絵を描いていると、韓国の青年が現れる。
恋が生まれたが、青年は派遣捜査官。突然、街は市街戦のような銃撃がはじまる。
流れ弾でチョンはクビに銃弾を受けて、声を失ってしまった。
傷ついた青年も韓国に帰国。
そこに殺し屋の男が登場して、声の出ないチョンを間に、ふたりの男が対立する。
ま、ストーリーは「インファナル・アフェアー」のラブ・バージョンと見れなくもない。
しかしアクション・シーンには定評のある監督も、ラブ・シーンはまるで小学生。
いくらストイックな純愛物語でも、会話がないのだから退屈してしまう。
日本の資金で韓国が、中国の監督で制作した不思議なラブ・ストーリー。
しかもオランダのロケなので無国籍な悲恋アクション作品に果ててしまった。お疲れさまでした。

●「ナイロビの蜂」の日常的庭いじり。

2006年03月28日 | Weblog
●3月28日(火)13-00 六本木<GAGA試写室>
M-041 「ナイロビの蜂」The Constant Gardener (2005) FocusFilm 英国
監督・フェルナンド・メイレレス 主演・レイフ・ファインズ ★★★★☆
久しぶりに映画らしいスケールと人道的な危機感とテンションに満ちた傑作だ。
ジョン・ル・カレの原作だから、国際的な陰謀とサスペンスに満ちているが、「ロシア・ハウス」のようなラブ・ストーリーでもある。しかも怒りに満ちたメッセージ性は「ミュンヘン」に負けていない。
事なかれ主義の外交官レイフ・ファインズの妻、レイチェル・ワイズがアフリカのナイロビ奥地で死体で発見された。
ことの状況に不審を持った彼は、妻の殺害の真相を探る行動をとるが、身辺に危険が迫ってくる。
極貧のアフリカ難民に、期限切れの薬品や開発試験中の危険な薬剤を投与している大手医療会社の陰謀。
ル・カレの一流のストーリー・テリングが、どんどん我々の感覚引き回す。
「シティ・オブ・ゴッド」の鬼才メイレレスの鮮烈なタッチが、美しいロケーションの中に汚染していく人間たちの企業犯罪の残酷さをさらけ出して行く。
ひとり敢然と企業悪に挑むレイチェル・ワイズが、殺された妻を好演。
「コンスタント・ガーデナー」というタイトルは、グレアム・グリーンの「やさしいアメリカ人」を思わせる比喩がある。
この作品がアカデミー賞にノミネートされなかったのも、何か偏見と陰謀を感じさせる。

●「連理の枝」はタイトル負け。

2006年03月24日 | Weblog
●3月24日(金)13-00 渋谷<東芝試写室>
M-040 「連理の枝」(2006) 韓国
監督・キム・ソンジュン 主演・チェ・ジウ ★★☆
韓流メロドラマの定番スタイルを強引に編集した凡作。
ストーリーもシナリオも新鮮味がなくて、ドラマはテレビ・ドラマの延長。
映画なのだから、もう少し映画としての工夫と創意が欲しかった。
韓国映画の信用のためにも、お願いだから、このレベルの作品は輸入しないで欲しい。

●「トゥー・フォー・ザ・マネー」は予想屋コンビの悲哀。

2006年03月22日 | Weblog
●3月22日(水)11-10am 銀座<シネパトス>RS.
M-039 「トゥー・フォー・ザ・マネー」Two for the Money (2005) universal米
監督・D.J.・カルーソー 主演・アル・パチーノ ★★★☆
試写の案内もなく、突然公開されたアル・パチーノの新作。
気になるので、他の新作試写に行くのはやめてシネパトスに行った。
アメリカン・フットボールの選手だったマシュー・マコノへイが、試合中のアクシデントで選手生命を失い、プロの予想屋としてニューヨークのスポーツ・アドバイザーのパチーノにスカウトされる。
実際の試合をテレビの番組で予想するのが、実際にオン・エアーされているのもアメリカらしいが、その放送で大掛かりな賭博が行われている。
ちょいと「スティング」のような発想で楽しめたが、映画は地味。
パチーノとしては「リクルート」や「フェイク」のような若者との騙し合いドラマで、充分に楽しめたものの、もともとマシューが善良すぎて意外性はないのが残念。
これだけのキャストの新作が、何の宣伝もなく公開されることの方が映画マニアとしては恐ろしい。

●「親密すぎるうちあけ話」の「間違えられた男」の純情

2006年03月20日 | Weblog
●3月20日(月)13-00 京橋<映画美学校・第二試写室>
M-038 「親密すぎるうちあけ話』Confidences Trop Intimes (2004) 仏
監督・パトリス・ルコント 主演・サンドリーヌ・ボネール ★★★★
いまフランス映画監督でもっとも安定しているルコントの新作。
妻に逃げられて精神状態の不安定な税理士のオフィスに、ひとりの女性がやって来た。
同じフロアの精神医師とドアを間違えたのは、彼女も夫との関係がぐらついてノイローゼだったから。
この悩めるふたりの中年男と女、間違いとウソの会話がぎくしゃくと続く。
不思議に緊張感のある会話。シャープな映像とノワールな音楽。
これはトリュフォーの「柔らかい肌」の関係と、「日曜日が待ち遠しい」のユーモア感覚を交えた情感が心地いい。
レシピを無視して、客の顔を見てカクテルをシェイクする名バーテンダーの腕。酔わされた。
ルコントは、さすが、おとなの恋をミステリアスに語って聞かせる。
たしかにヒッチコックを思わせる男と女の底知れぬ騙し合いはスリリングで高級品だ。

●「ニューヨーク・ドール」のドラマ性の深み。

2006年03月17日 | Weblog
●3月16日(木)15-30 渋谷<シネカノン試写室>
M-037 「ニューヨーク・ドール」New York Doll (2005) 米
監督・グレッグ・ホワイトリー 主演・アーサー・ケイン ★★★☆☆☆
70年代に人気のあったロック・グループ「ニューヨーク・ドール」は、現在6人のメンバー中3人が亡くなった。
30年の空白の中、貧困から図書館の補欠などで食いつないでいた55才のアーサーに、グループ再編成での公演の誘いが届く。古い楽譜と音楽の記憶は、リハーサルで少しずつ甦ってくる。
まさに青春の「かくも長き不在」だ。
3人の残った老友は、若いメンバーを補充して、ロンドン公演の準備をする。
この作品はベーシストのアーサーに密着したドキュメンタリーだから、ロック・グループの再編フィルムかと思ったが、実は中味が意外に濃くて哀しくて衝撃的だ。事実は恐ろしい。人生はロックンロール。転がる石なのだ。
真実だから、ドラマよりもドラマティックだ。静かだがパワフルな作品だ。

●「僕の大事なコレクション」の不思議な幸福感。

2006年03月15日 | Weblog
●3月15日(水)13-00 日比谷<ワーナー試写室>
M-036 「僕の大事なコレクション」Everything is Illuminated (2005)Warner Independed 米
監督・リーヴ・シュライヴァー 主演・イライジャ・ウッド ★★★☆☆☆
「身代金」や「ハリケーン」などの性格俳優リーヴ・シュライヴァーの初監督作品。
祖母の遺品の写真を手にしたアメリカ在住のイライジャ青年は、先祖の故郷のウクライナに出かけて、その写真に映っていたひとを探す。
戦争のあとの残るウクライナの街から、心の旅路は辺境のペンダントヘッドに向かう。
ガイドの陽気な男と、自分で盲目だという老人の案内で奇妙なロード・ムービーとなる。
ワン・テンポずれた会話。そして広大な草原。サミー・デイビス・Jr.Jr.という名前の駄犬。
そして旅は人間たちの意外な戦争の傷跡を見せる。
素晴らしいシナリオ。そして端正な演出。シンプルな映像。
どこかチェーホフの「黒い瞳」を思わせた追憶の旅は、ハートをやさしくした。
初監督、なかなかやるじゃないか。

●「STAY/ステイ」のイリュージョン・スリラーって何?

2006年03月14日 | Weblog
●3月14日(火)13-00 六本木<FOX試写室>
M-035 「STAY/ステイ」2005 FOX 米
監督・マーク・フォースター 主演・ユアン・マクレガー ★★★☆
試写室の入り口で「この映画の結末は公表しないで下さい」と念を押されたので、ストーリーは書けない。
しかし、試写状に「イリュージョン・スリラー」と書いてあることで、ほとんどバレている。
つまり魔法にかかったような、次元や幻覚に誤差の生じたような展開なので、あの「12モンキーズ」を思い出した。
デビッド・リンチの世界と比較するには、美術的にオリジナリティが弱く、とても「ロスト・ハイウェイ」と比較するのは無謀だろう。映像そのものが、どうもおどろおどろして落ち着きがない。
イアン・マクレガーにも精神医学者の風格がないので「アイランド」の続編のような気になってしまう。
ナオミ・ワッツは「マルホランド・ドライブ」の同系のつもりらしいが、ちょいと浅い。
それにしても、イリュージョン・スリラーって何なんだろう。

●「ママが泣いた日」は上質な女性ホームドラマ。

2006年03月13日 | Weblog
●3月13日(月)13-00 京橋<映画美学校・第二試写室>
M-034 「ママが泣いた日」The Upside of Anger (2004)newline 米
監督・マイク・バインダー 主演・ジョアン・アレン ★★★☆☆☆
オーソドックスだが案外に上質な女性だけのホームドラマだ。
年頃の4人姉妹を残して、浮気な中年の夫が秘書と突然に蒸発した。
母子家族となったストレスで、ジョアンの演じる妻はキレてしまいアルコール依存症になり、やたら怒りまくる。
「若草物語」の現代バージョンというか、「マグノリアの花たち」のような、陽気な女性ドラマ。
それぞれの問題を抱えて口論の絶えない家族だが、悲壮感はない。
それは、4人の姉妹がそれぞれに個性的で成人しているからで、いちばん子供みたいにキレまくる母親が台風の目だ。
あの名作「愛と追憶の日々」のように、理解のある隣人のケビン・コスナーが何かと介入してくる。
元大リーガーの彼は、しがないDJをして気ままな独身生活をしているが、この存在が女性家族をかき回す。
このケビンがなかなかにいい味だ。
再三にわたって、ジョアンにアプローチするタイミングが絶妙なのだ。
おそらく、デトロイト・タイガース時代、彼はキャッチャーだったのだろう。
「俺みたいに我慢強くていい奴はめったにいないぞ」とタンカを切るあたり、説得力があった。
古風だが、ラストには意外な展開もあり、拾い物の一本である。

●「13歳の夏に僕は生まれた」の密入国移民問題。

2006年03月10日 | Weblog
●3月10日(金)13-00 汐留<スペースF.S.汐留ホール>
M-033 「13歳の夏に僕は生まれた」Once You're Born (2005)伊
監督・マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ 主演・アレッシオ・ボーニ ★★★☆☆☆
13歳のイタリア少年は、父親たちとギリシャの海でヨット・クルージングにでた夜、不注意で海に落ちた。
波に流されて、密航船に救われたが、その船に乗っていた不法密航者たちとイタリアに戻ってくる。
溺死したと思っていた両親は息子の奇跡の帰還に喜んだが、少年の心は助けられた外国の不法入国者の兄妹との友情が強い絆になり、昔の子供のように素直にはなれなかった。
少年から青年に成長する時期に、彼は人間と国境、貧富の差、宗教の違い、生活感覚の違いなど、我々をとりまく様々な国際問題の亀裂に心を悼めてしまう。
トリュフォーの名作「柔らかい肌」のジョルジュ・ドルリューの音楽を要所に使ったりして、監督は「大人は判ってくれない」を意識したのだろうか。
不法移民の問題は先進国の深刻な課題だが、少年の心には負担が大きすぎる。
そのせいか、映画も問題を抱えたままに迷走する。