細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●「RENT・レント」のナガティブな青春群像。

2006年03月09日 | Weblog
●3月9日(木)13-00 六本木<ブエナビスタ試写室>
M-032 「RENT/レント」Sony Picture 米
監督・クリス・コロンバス 主演・ロザリオ・ドーソン ★★★☆
台本を書き、作曲と作詞をしてブロードウェイでの公演直前に37才で突然病死したジョナサン・ラーソンのミュージカル。
その伝説的な人気でいつもチケットが手に入り難いステージが映画化された。
しかしこの作品の本質は、ブロードウェイでないと伝わらないようだ。
話はテレビの人気番組「FRIENDS」の負け組のような、貧しい8人の若者グループの青春群像。軸になるキャラがいないせいか、どうもドーナツのように中心のないストーリーで落ち着かない。
しかもダメな若者たちの悲壮な日々なので、どうも気分がマイナーになってしまう。
せめて感情を移入できる若者がいれば良かったのだが、いないので困った。
たしかに「ウェストサイド物語」のようにニューヨークの貧しい若者のミュージカルはあったのだが、なぜか新鮮味がないのだ。多分、監督のクリスの感覚にズレがあったのかも知れない。

●「隠された記憶」の見えない恐怖。

2006年03月07日 | Weblog
●3月7日(火)13-00 東銀座<シネマート試写室>
M-031 「隠された記憶」Cache (2005) 仏
監督・ミヒャエル・ハネケ 主演・ダニエル・オートゥイユ ★★★★
面白いのは、なかなかストーリーの核というのか、問題点が見えて来ないスリラーだからだろう。
しかもスタティックで漂白されたような、ごく普通の風景がフリーズしたように変化がない。
ある日、家の遠景を撮ったビデオが脅迫めいたイラスト画とともに、ダニエルに届けられた。
彼はテレビの人気ジャーナリストなので、その脅しも有名税のひとつかと軽視していた。
デヴィッド・リンチの「ロスト・ハイウェイ」や、アルトマンの「ザ・プレイヤー」と同様な視点だ。
しかし、どうもこの脅迫は、彼の忘れていた過去に関係しているようだ。
見えない恐怖。覚えのない威嚇。
人間というのは、こちらの視線とは別に、いわれのない他人からの恨みや妬みをかうものだ。
その得体の知れない恐怖がコワい。
そして徹底したペースでスクリーンのフレームを凝視するハネケの映像感覚に魅了された。

●アカデミー賞のビッグ・サプライズ。

2006年03月06日 | Weblog
●3月6日(月)10-00 WOWOW
第78回アカデミー賞受賞結果
「キネマ旬報」誌で座談会したように、順調に5部門を正解して、あとは作品賞。
今年は主要全部門正解だな、と思った瞬間、ジャック・ニコルソンが登場したので嫌な予感がした。
その前のオリジナル脚本部門で「クラッシュ」が受賞。しかもジャックといえば「バットマン」のジョーカーではないか。
通常なら前年受賞のクリント・イーストウッドがプレゼンターで出るのに、なんでジャックなのだ。
「the oscar goes to.....」言ったあと彼の表情が微笑した。いや嘲笑かな。
「crash..」と言ったのはジョークかと思った。
この結果は、さすがアカデミーの英断だと思う。
「ブロークバック・マウンテン」はいいが、どこか不満があったのは正直な気持ち。
しかし「クラッシュ」は、いかにもテレビ・ドラマ風で、アカデミー賞にしては小振り。それが甘かった。
おめでとう。
今年のアカデミー賞には、協会の意地が込められていた。
今頃、クリントとポール・ハギスは次作の編集室で「父親たちの星条旗」のラッシュを編集しながら乾杯しているだろう。

●雪に願うこと」は北海道産シービスケットだ。

2006年03月04日 | Weblog
●3月3日(金)13-00 京橋<映画美学校第一試写室>
M-030 「雪に願うこと」(2005)ビーワイルド・日
監督・根岸吉太郎 主演・伊勢谷友介 ★★★★
昨年の東京国際映画祭でグランプリを受賞したのが不思議なほど素朴な小品だ。
東京で結婚と事業に失敗した弟が、北海道室蘭で厩舎を営んでいる兄の所に無一文で帰ってくる。
13年ぶりだ。
薬品輸入業から馬糞拾いへの転落よりも、神経がズタズタになった男に人生。
兄は馬主から預かっている輓馬は、地区の馬そり引きの馬力レース「ばんえい競馬」にも出馬するが、成績の悪い駄馬は、九州で馬刺の皿に乗る運命だ。
傷心の弟はその馬と生活を共にしながら、復活の勇気を貰い心を癒されて行く。
まさにアメリカ不況の最中の実話「シービスケット」のばんけい版だ。
素朴で寡黙な人間関係が、厳寒の北海道なのにハートを温かくしてくれる。
根岸監督の端正な演出と、佐藤浩市の控え目な好演が作品に深い、ひそかな馬力をつけている。
今年見た日本映画の最初の感動作だ。

●「フーリガン」は意外にマジな喧嘩ムービー。

2006年03月02日 | Weblog
●3月2日(木)13-00 新橋<FSスペース汐留ホール>
M-029 「フーリガン」Green Street Hooligans (2005) 英
監督・レクシー・アレキサンダー 主演・イライジャ・ウッド ★★★☆☆
イギリス映画のエキセントリックなパワーを期待したのだが、意外に古典的な男たちの喧嘩ムービーだった。
サッカー試合のパラサイト的な存在だと思ったフーリガンは、この作品で見る限りは地域抗争で、とくにサッカーの試合とは関係がないようだ。
まるで「ウェストサイド物語」や「サタデーナイト・フィーバー」のように、街ぐるみの宿命対決。
ルームメイトの麻薬所持退学の責任からアメリカを捨てたイライジャ青年が、イギリスのフーリガン抗争で、本当の男としての責任と根性を叩き直すまでの屈折を描いたストーリーは、西部劇そのまま。
「トレイン・スポッティング」のような新鮮味はないが、マジな青春根性映画として楽しめた。

●「アンジェラ」堕天使の愛の手ほどき。

2006年03月01日 | Weblog
●3月1日(水)13-30 汐留<スペースFS汐留ホール>
M-028 「アンジェラ」Angela (2005)europacorp・仏
監督・リュック・べッソン 主演・リー・ラスムッセン ★★★☆☆
ベッソンが「ジャンヌ・ダルク」以来6年ぶりに監督した新作は、タイトルのように天使の恋。
セーヌ河に飛び込もうと自殺を考えた男の前に、美女が飛び込んでしまう。
フランク・キャプラ監督「素晴らしき哉、人生」と同じ展開だ。
自ら天使を名乗る長身の美女は、自殺願望の男に人生の幸せをいろいろと伝授する。
そして恋。
このようなテーマは「ベルリン天使の詩」や「シティ・オブ・エンジェル」でも描かれたように、古典的テーマ。
ケイリー・グラントの「気まぐれ天使」もあった。
全編モノクロームでノスタルジックな巴里を舞台に、コミックな恋はマジな展開となるのだ。
これはこれで可愛いのだが、久しぶりのベッソン監督としては、サプライズがなかった。
恋のキューピッドがダメ男に恋をした。珍しくストレートなラブ・ストーリーだが・・・。