細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『Dr.パルナサスの鏡』の幻想世界と魔界の童話的なファンタジー。

2009年11月28日 | Weblog
●11月27日(金)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-127 『Dr.パルナサスの鏡』The Imaginarium of Dr. Parnassus (2009) U.K.
監督/テリー・ギリアム 主演/ヒース・レジャー ★★★☆☆
<イマジナリウム>という街頭移動式の出し物芸は、人形劇のようなステージで役者がピエロの扮装で演じて、客を楽しませ、その舞台裏に誘い込むのだが、カーテンの裏が突然、ギリアム風の幻想世界となる。
座長のパルナサスは永遠の長寿を悪魔から買い取り、その代償として娘を交換するという約束をしているが、テムズ川の橋桁に首をつられた仮死状態の男を助けたことから、ドラマは幻想世界と現実を行き来する。
その幻想はサルバトーレ・ダリの絵画のようであり、現実のサーカス小屋に似た世界はフェリーニのようだ。
撮影半ばで急死したヒースは、仮面をつけて、その悪魔との幻想空間に登場するが、その代役としてジョニー・デップやジュード・ロウが顔を出す。
これが不思議な仮装劇に多彩な効果を出しているが、映画としてはエンターテイメント性が出過ぎたか、ドラマとしての軽さが出たようだ。それは悪魔役のトム・ウェイツのユーモラスな個性の軽さもある。
しかしテリー・ギリアムらしい幻想絵画のイマジネーションは相変わらずの毒牙をちらつかせて楽しい。
とくに童話的な可愛らしい世界に凶悪な魔性をカラフルにCGを駆使する世界は健在で安心した。
その幻想地獄を視覚的に楽しむには充分だが、せっかくのヴィジュアルなのに、音楽的なアイデアが貧弱に見えたのが惜しまれた。

●2010年1月、TOHOシネマズ有楽座などでロードショー

●『おとうと』で見せる「姉もつらいよ」の温情。

2009年11月26日 | Weblog
●11月25日(水)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-126 『おとうと』松竹映画・(2009)
監督/山田洋次 主演/吉永小百合 ★★★☆☆☆
山田監督とすれば「男はつらいよ」のフーテンの寅さんの破天荒な晩年を、妹のさくらが姉代わりになって面倒をみる設定だから、演出しなれた設定だろうが、やはりここまで問題が多いと、喜劇にはならない。
しかし深刻な家庭内問題も、さほどシリアスに描かずに、松竹映画伝来の、小津調を匂わせる軽さで通したのは好感が持てた。そこが「母べえ」とは違って親しみが持てる。
多少凡長に見えたドラマだが、やはり終盤の民間ホスピスに担ぎ込まれたおとうとを介護する、献身的な人々の温かい描き方に、この作品の強靭な個性が強くにじみ出ていて、思わず感動させられた。
どんな家族にもいろいろ厄介な問題はあるが、その複雑な局面をささやかな愛情で支える勇気が、家族の絆なのだから、それを精一杯の冷静さを保った演出と演技はさすがだ。
本来ならば渥美清さんの役どころを、笑福亭鶴瓶が抑えた好演を見せたが、ラストシーンで見せた家族と介護スタッフを演じた演技陣のバランスが、作品の資質を押し上げた。

●2010年1月30日より、松竹系ロードショー

●『(500)日のサマー』で露呈される男の片思いの哀しさ。

2009年11月25日 | Weblog
●11月24日(火)13-00 六本木<FOX試写室>
M-125『(500)日のサマー』(500) Days of Summer (2009) fox-seachlight
監督/マーク・ウェブ 主演/ジョセフ・ゴードン=レヴィット ★★★☆☆
男と女の恋の温度差を描いた面白いコメディだ。
いきなり「結局、これはラブストーリーじゃないですよ」というコメントがあったように、男の思い込み映画であるから、ワンサイド・ロマンスなのだろう。
好きでデイトして、それなりに深い関係になったのに、女性には結婚の意志がなく、500日の交際で消滅。
「ごめんなさい、別のひとと結婚するわ」でおしまいでは、男も浮かばれない。
あの秀作『アニー・ホール』症候群なのだ。
かなり本音を吐いた、というシナリオはいいが、編集がマズい。やたらフラッシュバックしすぎるので、展開が読めなくなるのは、イライラしてしまった。
よくある男の片思い話だが、「こんな女は、捨てちゃえば」と言えない男の小心が哀しい。
ま、女性から見れば、「その気がなかっただけのこと」かもしれない。この感情の落差は謎だ。
とはいえ随所に見せた映像処理や、突然のミュージカル演出など、退屈はさせない傷心映画。見て損はない。

●2010年、1月 TOHOシネマズ シャンテなどでロードショー

●『パーフェクト・ゲッタウェイ』の意外なオチの面白さは拾い物だ。

2009年11月21日 | Weblog
●11月20日(金)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-124『パーフェクト・ゲッタウェイ』A Perfect Getaway (2009) rogue 米
監督/デヴィッド・トゥーヒー 主演/ミラ・ジョヴォヴィッチ ★★★☆☆☆
かなり練り込んだミステリーなので決着は言えないが、面白かった。
バカンスで、とんだ災難、という『脱出』や『ブラック・ウォーター』のような設定だが、これは知能犯の仕掛ける罠だから面白い。それも殺害の計画性よりも自然条件も計算外のサスペンスとなるのだ。
ハワイで新婚カップルが殺害されて、その容疑者がカウアイ島に潜伏したというニュースが流れた。
島には秘境の探検トレッキング・コースがあり、3組のカップルが事件に巻き込まれる。
さて、その犯人は? という謎当てクイズエンターテイメントなのだ。
それは見てのお楽しみだが、嬉しいのは絶景のハワイの自然を存分に見せつつ、まさにアガサ・クリスティのミステリーのように、それぞれ6人の男女に怪しげな要素を見せて行く演出の旨味だ。全員がクサい。
とくに映画の趣味的な会話のなかに、殺意やその衝動が込められていて、とにかく油断が出来ないのだ。
あの『ワイルド・シング』のような逆転ものではないが、見ている側のイメージを根底からひっくり返そうと言うシナリオの貧欲さと、そのサービス精神には拍手である。
犯人当てクイズのお好きな方は、ぜひこの難題に挑戦をお勧めしたい。

●2010年1月23日より、新宿ピカデリーなどでロードショー

●『ウディ・アレンの夢と犯罪』で倒壊する兄弟のカサンドラ・ドリーム。

2009年11月18日 | Weblog
●11月17日(火)13-00 京橋<映画美学校 第二試写室>
M-123 『ウディ・アレンの夢と犯罪』Cassandra's Dream (2007) wild bunch UK
監督/ウディ・アレン 主演/ユアン・マクレガー ★★★☆☆☆
まるでジェームズ・M・ケインの転落小説のような、ノワール色の下地が薄気味の悪い犯罪映画だ。
ウディとすれば『重罪と軽罪』に近いテイストだが、犯罪の経緯とすれば衝動的で軽はずみである。
仲のいい兄弟だが、ギャンブルのつけから知人からの人殺しを請け負ってしまった。本来であればプロに依頼するような殺人だが、それを素人感覚でやってしまうところが、今回の犯罪軽視への警鐘なのだろうし、人生の落とし穴の日常的な軽さなのだろう。白日の暗転とは、これである。
これは喜劇ではないが、悲劇のくせに、どこか間抜けでドジな安易さが、逆に恐ろしいノワール的な転落への怖さを感じさせるのだ。よくあるプロの犯罪映画とは、まるで違うテイストなのは、ウディならではの話術のテクニックが、さすがに巧い。
犯罪映画とすれば、随分といい加減な動機と行動なのだが、実際の犯罪って案外にこんな展開なのだよ、とウディは茶化しているようで、妙に空恐ろしい気分も残ってしまう。

●明春、恵比寿ガーデンシネマでロードショー

●『ニューヨーク、アイ・ラブ・ユー』アンバランス・アンサンブル。

2009年11月17日 | Weblog
●11月16日(月)13-00 京橋<映画美学校第一試写室>
M-122 『ニューヨーク、アイ ラブ ユー』New York I Love You (2008) 米
監督/ランディ・バルスマイヤー 主演/オーランド・ブルームetc. ★★★☆
10人の監督たちが、10分ほどの短い時間でニューヨークの生活をスケッチするアンサンブル・ドラマ。
過去にもパリや東京をテーマにしたオムニバス映画があったが、これはタイトルのようにニューヨークに捧げる小片集で、ウディ・アレンの『ニューヨーク・ストーリー』ほどの厚みはない。
国際的な雑居都市なので、人種も多彩。その分、ドラマもごった煮に見える。
個性的な監督たちは、それぞれの味わいで大都会の讃歌を詠っているが、混声合唱にしてはまとまりは薄いようだ。これはオムニバス映画の宿命でもあろうか。ひとつの主軸になる人物が欲しかった。 
その点では、この企画が、亡くなったアンソニー・ミンゲラ監督に捧げるだけに、彼の残したシナリオ部分だけが特に印象的に見えた。
ジュリー・クリスティとシャイア・ラブーフが短いがいい芝居を見せている。
ただ、すべてが断片ではなく、登場人物が、別のエピソードにも多少絡むという工夫は面白く、その接点を映画的に工夫した部分はいい接点として、嬉しかった。

●2010年2月、TOHOシネマズ シャンテなどでロードショー

●『サロゲート』の代理ロボットは雑務はこなすが愛情が欠乏。

2009年11月13日 | Weblog
●11月12日(木)13-00 六本木<ウォルト・ディズニー試写室>
M-121 『サロゲート』Sarrogates (2009) touchstone 米
監督/ジョナサン・モストゥ 主演/ブルース・ウィリス ★★★
ロボットが一般的に私物化されて、人間の雑務がすべて代行されるようになった世界の話。
事故に見せかけた殺人事件に、FBIのサロゲート(代理ロボット)であるブルースが捜査に乗り出した。
というのも、事件の背景には強力な秘密殺人マシーンの存在があるらしい。
あの傑作「ブレイド・ランナー」を、もっと多様化したような設定だが、なぜか都市や交通機関は今のまま。
そして、すべての人間がサロゲートという構成は、次第に陳腐なドラマに見えて来る。
時々は生身の人間が登場するが、ほとんどは厚化粧したようなロボットたちのドラマだから、仮面劇のようで迫真性がない。犯罪の残酷性はあっても人間的な傷みとか怒りが稀薄になってしまう。せっかく夫婦の愛をラストで語っても遅すぎた。ロボットには心臓機能はあっても、愛情を察知するハートはない。
それがこの映画を絵空事に終わらせてしまったようだ。
所詮はSFコミックの世界なのだが、それにしても陳腐だった。

●2010年1月22日より、日比谷スカラ座などでロードショー

●『E YAZAWA ROCK 』を見て元気とやさしさを貰った。

2009年11月12日 | Weblog
●11月11日(水)13-00 西銀座<東映試写室>
M-120 『 E YAZAWA ROCK 』(2009) 東映/プルミエインターナショナル
監督/増田久雄 主演/監修/矢沢永吉 ★★★☆☆
ロックンローラー、矢沢永吉の1979-2009年に及ぶ30年間の、ストレートなロック人生を描いている。
10曲ものヒット曲も、リハーサルやライブで紹介されるが、やはり武道館での100回にも達するライブの偉業は、たしかに彼の生き様を象徴していて素晴らしい。
人間、ひとつのことに打ち込むのは幸せだが、そのことで生まれるネガティブな部分にはやさしい配慮を見せながら、ストレートライフを誇らしげに語る彼の表情に、勇気と輝きがあった。
公開中のマイケル・ジャクソンの<THIS IS IT>とはまた別の音楽家の姿として、これは音楽映画というよりも、ひとりの雄々しい男の肖像だ、と映った。それは、松田優作の姿にもダブって来る。
ボブ・ディランの <FOREVER YOUNG>の体現にも似ているが、むしろそれはアクティブなスポーツ選手のファインプレイのように、見ている我々に大きな<元気>をもたらすのだ。

●11月21日より、新宿バルト9ほかでロードショー

●『カティンの森』の信じられないような戦争の残虐と悲しみ。

2009年11月11日 | Weblog
●11月10日(火13-00 )築地<松竹試写室>
M-119 『カティンの森』Katyn (2008) ポーランド
監督/アンジェイ・ワイダ 主演/マヤ・オスタシェフスカ ★★★☆☆
80歳を過ぎたワイダ監督が、初めて過去の父の死の真相を暴露した入魂の力作だ。
大戦の前、ドイツとロシアに侵攻されたポーランドは、交戦する間もなく軍人たちは捕虜となり、将校たちは拉致されたまま消息を絶った。
のちにカティンの森の地中で多くの将校たちは大量虐殺死体として発見されたが、両国は国家機密として真相は明かさず、その事件も口外を禁じていた。
ワイダ監督の実の父もその虐殺に巻き込まれ、母も真実を知らぬままに他界。やっとその悲惨な処刑の実態を執念の映画として制作して、昨年のアカデミー外国語映画賞にノミネートされ話題となった。
たしかに恐るべき残虐さは目を見張るべきだが、前半の留守家族を中心に描いた沈着なミステリータッチが、ラストでは激情のバイオレンスとして爆発。そのリアルな描写には不快感までが気分を圧してしまう。
これが戦争の現実だ、というワイダの気持ちは判る。でも、それにしても過剰な暴虐の描写だった。

●12月5日より、岩波ホールでロードショー

●『ロフト』で発覚した全裸女性殺人事件の不可解な迷走。

2009年11月07日 | Weblog
●11月6日(金)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-118 『ロフト』Loft (2008) woestijnvis NV ベルギー
監督/エリク・ヴァン・ローイ 主演/ケーン・デ・ボーウ ★★★☆
新築されたマンションの最上階にあるロフトのベッドで、手錠を掛けられた若い全裸女性の殺害死体が発見された。雨の降る大都会の夜。
そこは建築関係者が仲間5人で使っていたスペースで、警察は彼らに事情聴取するが、アリバイのある彼らは真実を語らない。
「ユージュアル・サスペクツ」のような謎解きミステリーで、非常にスタイリッシュな映像と演出で飽きさせない。それぞれに犯人としての容疑はあるように見える。
仲間はみな妻帯者で生活には困っていない。つまりそこは、彼らの情事の隠し部屋だったのだ。
よくありがちなアガサ・クリスティ風の謎解きで、それぞれの男たちの過去の交流関係もフラッシュバックされるので、アタマの整理が大変だ。
しかし、よく考えると妙な点も多いのに気がついて来る。ストーリーの不具合も見えて来るのだ。
ベルギーでヒットしたのは、もしかしたら奇異な事件の発端に問題があったからだろう。

●11月20日より、渋谷ANGERICAでロードショー