細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『終着駅/トルストイ最後の旅』で名優ふたりの至芸に酔う。

2010年06月09日 | Weblog
●6月8日(火)13-00 神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
M-068 『終着駅/トルストイ最後の旅』The Last Station (2009) sony classics 米
監督/マイケル・ホフマン 主演/ヘレン・ミレン ★★★☆☆☆
1910年の晩秋。82歳の文豪トルストイは家出をした。
モスクワ郊外のアスターポヴォ駅で最期のときを迎えるまでの数日を描いた作品で、ハリウッド映画ではあるが、当時の時代や風土などは、かなり考証された現地のロケーションが美しい知的な作品だ。
主演はあの文豪ではなく、むしろその生涯を支えたソフィア夫人。この存在感が作品の資質を非常に高めている。
一種の悪妻ものだが、それは作家の高名を食い物にしようとした善意ある後援者たちから、主人の時間を守ろうとしたガーディアン・エンジェルとしての存在であって、例によってヘレンの演技が光彩を放つ。
彼女とトルストイを演じたクリストファー・プラマーは、揃ってアカデミー賞にノミネートされたが、彼らのアンサンブルの見事さは、まさに白眉だ。
秘書の視線として描いた横移動のカメラもまた素晴らしい。
あのアガサ・クリスティの失踪を描いた『アガサ』にも似ているが、ひとりの老人の終着駅と、その夫婦愛を見つめた傑作である。

■ライト線を抜けた技ありの渋いツーベースヒット。
●9月、TOHOシネマズ シャンテなどでロードショー

●『瞳の奥の秘密』に見えて来た犯罪の多重構造。

2010年06月08日 | Weblog
●6月7日(月)13-00 日比谷<東宝本社試写室>
M-067 『瞳の奥の秘密』El Secreto de Sis Ojos (2009) tornasol アルゼンチン
監督/ファン・ホセ・カンパネラ 主演/リカルド・ダリン ★★★★☆
今年のアカデミー外国語映画賞を授賞した理由は、この作品がただの殺人捜査映画ではなく、その驚くべき真実を解明しようとした捜査官の、25年にも及んだ愛の軌跡をも描いた重厚さだろう。
話は韓国のポン監督の名作「殺人の追憶」とよく似ている。
しかし迷宮入りしかかった昔の事件が、捜査線とは全く別の真相だった、というシナリオの巧妙さ、そして監督の熟達した演出視線にも恐れ入ってしまった。
殺人事件は、被害者の身内がいちばん傷つき、犯人への憎しみも強い。捜査官というのは、いつも真実の傍観者なのだ。その視覚の盲点というか、別目線での描き方が鮮烈だった。
昔見たデュヴィヴィエ監督の「埋れた青春」やベルトルッチの「暗殺の森」なども思い出してしまった犯罪美学。今年屈指の秀作だ。

■バックスクリーン直撃のホームラン。
●8月、TOHOシネマズ シャンテでロードショー

●『ザ・ロード』の果てしなく善意の一本道。

2010年06月04日 | Weblog
●6月2日(水)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-066 『ザ・ロード』The Road (2009) dimension films 米
監督/ジョン・ヒルコート 主演/ヴィゴ・モーテンセン ★★★☆☆☆
なぜかまた地球崩壊後の陽のあたらない世界。
生き残った父は息子の手を引いて、ひたすら南に向かう。
話は「ウォーカー」や「ゾンビランド」に共通しているが、テーマは父と息子の愛情と絆がテーマ。あの「ノー・カントリー」のコーマック・マッカーシーがピュリッツァー賞を授賞した原作なので、哲学的なモノローグが多く、映像もクールで知的ではある。
こうした絶望的な極限状態を描くことで、いまの飽食社会への皮肉を諭しているのか。それとも西部劇のような基本的な自活の日々に、人間の本質的な強さと美しい善意を描こうとしたのか、とにかく重く暗い。
ヒーロー映画やゾンビ映画にしなかったのも、テーマの未来性に暗示が強いせいだろうか。
ただのホームレスものとすれば、あの「自転車泥棒」への憧憬も見て取れたが、それにしては演出が常套なのが惜しまれた。
本当に善意で真剣なる労作である。

■左中間のフェンスに届くツーベース・ヒット。
●8月頃、TOHOシネマズ シャンテでロードショー

●『トイレット』気まずくも仄かな異文化コミニケーションの妙味。

2010年06月03日 | Weblog
●6月1日(火)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-065 『トイレット』Toilet (2010) paradise cafe 日
監督/荻上直子 主演/アレックス・ハウス ★★★☆☆
例によって、外国を舞台にしてオフビートで風変わりな家族のはなし。
今回は主役はカナダの若者たち。パニック症候群で引き蘢りのピアニスト志望とエアギターの好きな女学生。そして何やら研究所に通っている弟のトロントでの妙な兄弟三人暮らし。
そこに亡くなった母の、その母という祖母役で日本人のバーちゃん、常連のもたいまさこが加わる。
ほとんどコミニケーションのない家族。それがなぜか日本食や手作り餃子。それにいろいろな不測の事件で、少しづつ心が通い出す。無口だが、お互いの存在は尊重している気配はいい。
この不可思議な人間ドラマは、またしても異文化融合の荻上ムードでゆったりと展開する。それはまた心地いい。
でも気になったのは、寿司やウォシュレットなどの日本文化が、礼賛されすぎる会話と気配。
それが妙にムズ痒い気分にさせた。
ま、漫画的な夢の寓話としては、毎度ながら、おかしい。

■当たりそこねの凡ゴロが、サード前でイレギュラーしてヒット。
●8月28日より、新宿ピカデリーなどでロードショー。

●5月の二子玉川サンセット傑作座ベストテン。

2010年06月02日 | Weblog
●5月の二子玉川サンセット傑作座<自宅>上映ベストテン。

1/『マーニー』(アルフレッド・ヒッチコック)64 主演/ティッピー・ヘドレン DVD ★★★★☆☆
  盗癖のある美女は赤い色彩に異常に怯えた。不審に思った婚約者は彼女の過去にトラウマを発見した。

2/『ザッツ・エンターテイメントpart.2』(ジーン・ケリー)76 主演/フレッド・アステア DVD
★★★★☆☆
  MGM映画のミュージカルをアステアとケリーが唄って踊って紹介する夢と至福の2時間絵巻。

3/『東京暮色』(小津安二郎)57 主演/笠 智衆 DVD ★★★★☆
  子連れで出戻りの長女と、失恋した次女のふたりを見つめる父もまた、自身の渠を持つノワール。

4/『ハウス・バイ・ザ・リバー』(フリッツ・ラング)50 主演/ルイス・ヘイワード DVD ★★★★
  間違って殺した女中の死体を、家の前の大河に捨てた作家は、事件と同じミステリーを書いてしまう。

5/『薔薇のスタビスキー』(アラン・レネ)73 主演/ジャン=ポール・ベルモンド LD ★★★☆☆☆
  貴族や政界に関った詐欺師は、ナチスの興隆によって人生を狂わされ陰謀の罠に謀殺されてしまう。

6/『恋愛小説家』(ジェームズ・L・ブルックス)97主演/ジャック・ニコルソン DVD ★★★☆☆☆
  ニューヨークに住む異常に潔癖性な小説家は、苦手なアパートの住人たちとの交流で変心していく。

7/『追跡者』(マイケル・ウィナー)70 主演/バート・ランカスター DVD ★★★☆☆
   悪党たちは容赦なく殺して行く保安官の、異常なまでの正義感は彼の人間性も悪魔に変えて行く。

8/『暗殺の森』(ベルナルド・ベルトルッチ)70主演/ジャン=ルイ・トランティニアン LD ★★★☆☆
   愛人の男の暗殺の指令を受けた彼は、現場への車のなかで少年期に冒された記憶を思い出す。

9/『絞殺魔』(リチャード・フライシャー)68 主演/トニー・カーティス DVD ★★★☆☆
   ボストンの婦女連続絞殺事件の犯人は普通の家庭の亭主だが、殺害の記憶がないので捜査は難航する。

10/『レッドライン7000』(ハワード・ホークス)65 主演/ジェームズ・カーン LD ★★★☆
   普通乗用車タイプのカーレースを背景に描いた60年代の青春群像。加熱したスピードの限界は死。

★その他に見た傑作は
『ビッグ・リボウスキ』98 ジェフ・ブリッジス
『ドラブル』74 マイケル・ケイン
『めんどりの肉』63 ロベール・オッセン
『誇り高き男』56 ロバート・ライアン
『口紅殺人事件』54 ダナ・アンドリュース
などでした。