細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『バーレスク』に見られる古典的蝋人形の再生作業。

2010年11月30日 | Weblog
●11月29日(月)13-00神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>
M-148『バーレスク』Burlesque (2010) sony pictures
監督/スティーブン・アンティン 主演/クリスティーン・アギレラ ★★★☆
既存のレコードに合わせてセクシーな下着スタイルで踊る古典的な<バーレスク>ショー。
あまり見られなくなった一種のキャバレーショーだが、その群舞に魅せられてデビューしようとした田舎娘のサクセス物語。
古風な低俗芸の舞台で、まるでワックス・ミュージアムのような夜のレビュー映画だ。
ハリウッドの倒産しかかった老舗バーレスクを再生すべく奔走するのが、あの歌手のシェール。
元気のいいクリスティーンの才覚を、どうにかして咲かせようとするショウビズの裏ステージは迫力のサウンドだ。
厚化粧とケバい照明で、一種異様なステージだが、これも前世紀のエンターテイメントである。
シェールが自分の生き様とリベンジを歌うシーンで、作品の気概は見せた。
しかし旧来の「スター誕生」のパターンには演出の新鮮味はなく、やたらカットと音響の激しさでカバーする。
ライザ・ミネリの「キャバレー」のような哀愁はない。
ともかく、いま、このようなセクシーなコスプレで踊る女性の作品としては、グッドタイミングだろう。
若い都会好きのダンシング・レディたちへの応援歌として、まずは無難な作品。

■当てたフライが左中間。いいコースのシングルヒット。
●12月18日より、渋谷東急などでロードショー

●『ザ・タウン』監督第二作でのベンの力量はなかなかの及第点だ。

2010年11月26日 | Weblog
●11月25日(木)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース試写室>
M-147『ザ・タウン』The Town (2010) warner + regendary
監督+主演/ベン・アフレック 共演/ジェレミー・レナー ★★★☆☆☆
「ゴーン・ゴーン・ゴーン」で、見事な初監督に成功したベンの、2度目の監督作品。
ボストンの低額所得者が住むチャールズタウンに育ったベンは、不良仲間と銀行強盗を繰り返していた。
勝手知った街なので、情報源や資金調達、そして逃走経路などはお手のものだ。
しかし人質にとった女性と恋におちてからは、この泥沼の犯罪地獄から這い出す努力を始める。
だが悪徳組織や悪友たちの関係を断ち切る方法はない。
名作「ミスティック・リバー」のように、その人間関係のしがらみから、強引に抜け出すのは死を意味している。
アカデミー脚本賞をかつて受賞したベンは、この映画で、悪人の心の移ろいを重点的に描こうとしている。
まるでフィルム・ノワールのようにダークでハードボイルドだった画調が、少しずつ優しさを見せる。
入念に計算された演出とリズムが、意外に心地いいのは、やはり彼の映画経験の豊富さだろう。
よく先輩クリント・イーストウッドやポール・ハギスの作品を勉強している意図が、随所に炸裂するのも楽しい。
そして往年のハリウッド犯罪映画のような、楽天性も持ち得た映画作りにはちょいと恐れ入った。
作家や監督は、第二作目が肝心だ。
それをベン・アフレックは見事にクリアして見せた。頼もしい新人監督の成果だ。
「ハート・ロッカー」の主演でオスカーにノミネートされたジェレミーが、また悪役を好演している。

■鋭いライナーがレフトの頭上を超えてフェンスに届いて、悠々の二塁打。
●2011年2月5日、新宿ピカデリーなど全国ロードショー

●『ウッドストックがやってくる!』は家庭改革と青春カミングアウトだ!

2010年11月25日 | Weblog
●11月24日(水)13-00 京橋<テアトル試写室>
M-146『ウッドストックがやってくる!』Taking Woodstock (2009) focus features 米
監督/アン・リー 主演/ディミトリ・マーティン ★★★☆☆
あの1969年の「ウッドストック」コンサートは、50万人の若者たちを集めた歴史的ロック・イベントだった。
そのロックシーンは当時記録映画として公開されたが、その背景はまさにパニック状態だった。
40年ぶりに再現されたこの作品は、ロックではなく、あの時代の境目としての家族を見つめている。
倒産寸前のモーテルを、どうにか立て直そうとしていた青年は、裏の野原でのロック・コンサートを企画。
ところが、ベトナム戦争の泥沼化に反発した多くのピッピーや若者たちが突然ウッドストック村に集結した。
3日間のイベントの外側で、その若者ディミトリの3人家族は結束し、それぞれの生き甲斐を見つける。
これはそのささやかな人間らしい再生へのホームドラマ。
「ブロークバック・マウンテン」で繊細な人間像を描いたリー監督は、大騒ぎのイベントを尻目に、この家族の姿を主役にして見せる。
かすかにあのイベントのサウンドを聞かせながらも、若者と老夫婦は自分らしい人生を探す。
それを見守る映画の視線が、監督の意図して非常に暖かく描かれて心地いい。この作品の狙いは愛と希望なのだ。
よく時代を再現しつつも、ちゃんと人間ドラマをしての主軸をぶれさせない演出は、とても好感が持てた。

■ファール狙いの小フライが、ラッキーにファースト頭上を超えるヒット。
●2011年1月15日より、渋谷ヒューマントラストシネマでロードショー

●『RED』はレッドではなく、リタイアしたが、かなり危険な連中のこと。

2010年11月24日 | Weblog
●11月22日(月)15-30 京橋<テアトル試写室>
M-145 『RED』< Retired Extremely Dangerous> (2010) summit + Disney
監督/ロベルト・シュヴェンケ 主演/ブルース・ウィリス ★★★☆☆
リタイアして年金生活している元CIAの機密エージェントのブルースの家が、突然武装集団に襲われた。
老人養護施設にいた元上司のモーガン・フリーマンの協力で、その暴挙はCIAの秘密グループだとわかる。
80年代に南米グァテマラでのミッション機密がもれて、ブルースの存在が政府の邪魔になったらしい。
恋人にも危機が迫った彼は、旧友の連中に声をかけて、秘密暗殺部隊の殲滅に奮闘する。
ちょいと「オーシャンズ11」に似た発想だが、元CIAのトラブルとしては「ザ・シューター/極大射程」にも似ている。
要するに、邪魔者となったオヤジたちの生き残りサバイバル・リベンジなのだ。
勝手知った内部事情だから、組織への潜入も手慣れたもので、多少コミックなご都合主義は、もともとコミックの映画化。
だから「ダイハード」並のアクションも、どこかユーモラスで笑える。
とくにジョン・マルコヴィッチの悪のりぶりが、いかにもベテランのお遊び感覚。
おまけに「クイーン」のヘレン・ミレンまでが、白いドレスにマシンガンを持って撃ちまくる爽快感はクレイジーでいい。
主役全員がシニア・グループでアンチCIAなのは、ちょいとワンサイド・ゲームだが、それもご愛嬌。
悪役捜査官で、ひとりカール・アーバンが孤軍奮闘している。
ま、「エクスペンダブル」のコミック版としては、おしゃれに楽しめる。

■ライトライナーが意外に伸びてフェンスまでのツーベース。
●2011年1月29日より、全国ロードショー

●『MAD探偵/7人の容疑者』倒錯的な幻覚映像の果てに。

2010年11月23日 | Weblog
●11月22日(月)13-00 京橋(テアトル試写室)
M-144『MAD探偵/7人の容疑者』(2007)中国
監督/ジョニー・トー+ワイ・カーワイ 主演/チャン・クワイバン ★★★☆
香港で実際に起こった警官同士の未解決怪事件をヒントにしたサイコ犯罪映画。
そのテーマを香港ノワールの二人の監督が演出したので、面白いがかなりややこしい。
精神分裂で退職した元刑事に、この難事件解決の協力を求めた現職刑事は、現出する多重人格の容疑者に翻弄される。
随所にイメージされた幻覚人像が現れるので、見ているこちらは、それが現実なのか幻覚なのかに見間違う。
とくに事件よりも、女性関係までが煩雑に展開する。
犯行に使われた拳銃のナンバーまで、こちらは認識できまい。
これは監督の意図した映像ゲームなのだが、やたらと幻覚が頻発するのでアタマが混乱する。
あの「シャッター・アイランド」のように、単数の幻覚ならフォローできるが、ここでは錯乱され続ける。
従って、事件の本筋よりも、この幻覚人間の関係を考えているうちに、映画は唐突に終わった。
つまり、ビデオゲーム感覚の犯人探し映画で、黒沢明の「野良犬」のように単純ではない。
分裂症の元刑事のキャラクターだけならエキセントリックでいいが、映画そのものの編集が分裂症気味なのが惜しい。
アタマの勉強向きの犯人当てゲームだ。

■満塁のランナーを置いてのセカンドライナーで全員アウト。
●2011年2月、新宿K’s シネマ他でロードショー

●『ソーシャル・ネットワーク』は軽快で知的な<ファイト・クラブ>だ。

2010年11月20日 | Weblog
●11月18日(木)13-00神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>
M-143『ソーシャル・ネットワーク』The Social Network (2010) sony pictures
監督/デヴィッド・フィンチャー 主演/ジェシー・アイゼンバーグ ★★★★☆
ひとりのハーバード大学生が2003年に、失恋の腹いせに立ち上げたパソコンの校内情報が、拡大波及。
あっという間に人気が感染して世界最大の「フェイスブック」となった。
現在世界中で5億人のアクセスを持っている巨大ネットワークの誕生エピソードだ。
その背景プロセスを、痛快な青春映画とした鮮やかなアイデアと技量もまた、これはお見事。
パソコンのスキルや利用度は個人差があるが、この映画はまるでその私有感に似ていて奥が深い。
会話のスピードもウディ・アレン並みだが、映像展開もまたネット処理のように軽快だ。
フィンチャーの映画は、現代の犯罪構造の本質を「セブン」や「ゾディアック」でダークに見せたが、
今回のインターネット戦略エンターテイメントは、あの「ファイト・クラブ」の<IT>版のようだ。
ジェシーの相棒になるアンドリュー・ガーフィールドも曲者でこれからが楽しみだ。
一種「市民ケーン」の現代版のようだが、むしろ「スティング」の痛快さだろう。
しかし前例はともかく、これはただの失恋の青春映画として見た方が面白い。
見事なアプローチで、次回のアカデミー賞候補は間違いないし、一番ピン側近くにつけている。

■ラインドライブの飛球が、左中間のスタンドにあっという間に飛び込んだ。
●2011年、1月15日より、全国ロードショー

●『フード・インク』と『ありあまるごちそう』に見る食文化構造の歪み。

2010年11月19日 | Weblog
●11月17日(水)10-00 目黒<ソニーPCL試写室>
Mー141『フード・インク』Food Inc. {2008) participant media. 米
監督/ロバート・ケナー <ドキュメンタリー> ★★★☆☆
アメリカのファスト・フード・システムや、大量消費店舗の拡大流通構造の功罪を示唆した作品。
あくまで客観的な視点で、大きな問題点を紹介しているのは、知的で好感が持てる。
「エリン・ブロコヴィッチ」や「シビル・アクション」のようなドラマティックな摘発姿勢はなく、判断は見る側の良識だ。
ただ、このような食文化の危機は、われわれ日本人は、生来日常的に気をつけていることが多いので、サプライズは少ない。
これはひとつの問題提起として、毎日の食事に気をつけるワーニングなのだと、解釈すべきだろう。
その警戒や対応は、それぞれの認識が決めることだ。
「食費よりも医療費に金のかかる人生は異常だ’。」おっしゃる通りである。

●M-142『ありあまるごちそう」We Feed the World (2005) filminstifit. オーストリア
監督/エルヴィン・ヴァーゲンホーファー <ドキュメンタリー> ★★★☆
「フード・インク」と続けて見た<食の社会見学>シリーズ。
こちらはヨーロッパの食文化と、その格差の歪みを見せてくれる。
毎日のように捨てられる大量のパンや、殺される大量のチキン。
それなのに食物不足で飢餓で死亡するアフリカの子供たち。
アメリカの過食に対して、こちらはヨーロッパの食の流通格差。それは政治や気候の問題だけではないようだ。
基本的な小国で自給自足してきた日本は幸運だろうが、実態は輸入大国でもある。
まだ食にありつけるだけ、幸運なわれわれの環境に感謝しつつ、考えさせられる問題は多い。

■ゴロでセンターへ抜けるシングルヒット2本。
●2011年、1月から、渋谷イメージ・フォーラムで順次公開。


●『白夜行』で浮き上がってきた、呪われた過去の精算。

2010年11月18日 | Weblog
●11月16日(火)13-00 六本木<シネマート試写室>
M-140『白夜行』(2010)GAGA / image field 日
監督/深川栄洋 主演/堀北真希 ★★★☆☆☆
東野圭吾のベストセラー・ミステリーの執拗な長尺映画化。
25年ほど前の昭和末期。廃工場で見つかった質屋業の男の死体をめぐる謎は迷宮入りとなった。
担当刑事の船越栄一郎は、定年退職してからも、ひとり事件の真相にこだわっていた。
あの名作「殺人の追憶」や、「砂の器」を思わせる大河ミステリー。
このテーマを深川監督は、丁寧な視線で克明に追求していく。
ダークなモノトーンにこだわった画質は、久しぶりに本格ノワールを感じさせる。
長引く捜査過程の難航の片隅で、事件の被害者の息子と、交遊のあった少女も、はや三十路を過ぎていた。
この辺が東野文学に緻密な構造だが、やはり映像だけでは追いきれない。
とくに終盤の劇的決着は、無理な回想シーンのフラッシュバックがリズムを崩して、唐突に終わったのが惜しまれた。
変質な過去に囚われた重い青春が、映画の重量を支えきれないまま終わる。
とはいえ、近年屈指のミステリー大作の味わいは、かなり楽しめた。

■飛距離のあるセンターフライが、フェンスの上部に跳ねて、ビデオ判定の結果ツーベース。
●2011年、1月29日より全国ロードショー

●『ハリー・ポッターと死の秘宝/パート・1』の飽くなき魔法大戦争の行方。

2010年11月16日 | Weblog
●11月15日(月)12-30 内幸町<ワーナー・ブラザース試写室>
M-139『ハリー・ポッターと死の秘宝/part 1』(2010)Harry Potter and the Deathly Hallows part 1 / warner brothers
監督/デヴィッド・イエーツ 主演/ダニエル・ラドクリフ ★★★☆
ここ10年来の人気シリーズの最終章。
原作小説を読み、毎回この連作映画を熱心に見ているファンには、待望の新作。
しかし毎度見ているのに、3人に主役以外の人間関係に疎いわたしなどは、またしても蚊帳の外。
オドロオドロした怪物や死者の霊が、突然飛び出すのは毎度の事で驚かない。
とくに今回は、ホグワーツ魔法学校を出て、ヴァルモート卿の魂の眠る分霊箱を探す旅なので、イングランドの空撮が嬉しい。
その分霊箱は、このシリーズの毎回の宿題で、まだ5つの箱が残されていた。
例によって、ラテン語らしい呪文を唱えて、さっぱり判らない地名や人名がアタマを撹乱する。
だから、こちらは視覚エンターテイメントとして、そのCGスペクタクルを楽しむしかない。
まだシリーズ初期には可愛げのあった3人も、もう立派な大人なので、それなりに真剣なバトルなのだ。
そのせいか、以前にあったユーモア感覚も消滅。マジなアクションの連続は疲れた。
ハリポタ・マニアのファンにとっては、いよいよ8回裏の攻撃が楽しみだろう。が・・・・。
蛇嫌いのわたしには、大蛇の3D狙いの登場だけで、もう退くしかない。

■大きなセンターフライだが、バックスクリーン手前で失速。
●11月19日より、全国ロードショー

●『ランナウェイ』で甦るガールズ・ロックの爆音。

2010年11月12日 | Weblog
●11月11日(木)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-138『ランナウェイ』The Runaways (2010) river road entertainment 米
監督/フローリア・シジスモンディ 主演/ダコタ・ファニング ★★★☆☆
1975年に登場した女性だけのロック・バンド「ランナウェイ」の誕生から消滅までを描いた青春映画。
しかし、よくある音楽家のサクセス・ストーリーではなく、これは一種のセックス・リボリューション。
ドラッグと貧困と暴力の街で、様々な苦境を打破してのし上がる若い女性のエネルギー。
ロックのリズムと轟音と喧噪、彼女たちの半裸でのパフォーマンスは鮮烈だ。
「エクリプス/トワイライト・シリーズ」のクリスティン・スチュワートがガラリと変身。
成長したダコタと共に、派手なメイクとボディラインを強調して暴れ回る。
表現しているのは、音楽というよりな、彼女たちの怒りだ。
あの「ブルース・ブラザース」の陽気さとは対照的に暗く破滅的なロックシーンもまた、70年代なのだ。
監督は、女性ならではの挑発的な演出を随所に見せて、視聴覚をフルに刺激する。
このエネルギーは、やはり男性よりも、女性たちに向けられたものだろう。
懐かしいテイタム・オニールが、ああ、なんと母親役で登場。70年代も遠くなった。

■痛烈なサードライナーを野手がファンブル、意地のヒット。
●来春公開予定。