細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『エリックを探して』オフサイド気味の逆転ゴール!だが。

2010年11月11日 | Weblog
●11月10日(水)13-00京橋<テアトル試写室>
M-137『エリックを探して』Looking for Eric (2009) sixteen films 英
監督/ケン・ローチ 主演/スティーブ・エヴェッツ ★★★☆☆
イギリスのマンチェスターに住む郵便配達員のスティーブは、かみさんに逃げられ、二人の息子はぐうたら。
人生も後半なのに、幸せは遠のいて、このところノイローゼ気味。
中高年に多い落ち込み病だ。
ひとつの夢は、部屋に飾っているサッカーのヒーロー、エリック・カントナだ。
そして遂に、そのカントナ選手の亡霊が、彼の部屋にやってきて人生リベンジのアドバイスを語るのだ。
小市民の挫折感と小さな夢を、いつもテーマにしていたケン・ローチ監督らしいアプローチは暖かい。
しかし、息子がギャングの使用した拳銃を自宅に隠していたことが発覚してからは、突然リズムが変わる。
警察が自宅に乱入。事態は深刻となる。
パブでビールを飲み合う仲間たちの協力で、一気に悪漢退治。とんだミラクルのサドンデスとなるのは、どうもやりすぎで調子が狂った。
ウディ・アレンの喜劇のように、現実と幻想が交錯するのはいいが、あまりにも甘いご都合主義。
いつものケン監督の実直な作風とは、ガラリと変わった娯楽趣味はどうしたのだろう。
第一、こんなにいい仲間たちとビールを飲んでいて、突然に落ち込む筈がない。
アイデアは愉快だが、あまりにも楽天的な着地に、正直、呆れてしまったよ。

■平凡なレフトフライを野手が落球して、おまけに慌てて暴投。ラッキーなツーベース。
●2011年、正月映画として Bunkamura ル・シネマなどでロードショー

●『愛する人』理不尽でセルフィッシュな女性の生理を照らす。

2010年11月09日 | Weblog
●11月8日(月)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>
M-136『愛する人』Mother & Child (2009) Sony classics 米
監督/ロドリゴ・ガルシア 主演/ナオミ・ワッツ ★★★☆☆
未成年で出産した母は赤子を養子に出し、いまは老母を介護している。
成人した一人っ子は、法律事務所で自立しているが、男性不信のアラフォーで妊娠している。
この会った事もない二人の女性の孤独な生活を交互にみせながら、一方で子供に恵まれない黒人カップルも描く。
見知らぬ女性たちの、それぞれの人生を「バベル」のアレハンドロ・G・イニャリトウが制作。
女性たちの避けられない体と心の生理を、見事なアンサンブルで飽きさせない。
難題山積の本格スクランブル女性映画で、その生理の本質は、われわれ男性には閉口するエピソードが多い。
しかし、どうしても子供を欲しがる本能も判らないではない。とくにアメリカでは多い社会問題。
矛盾した<マザー&チャイルド>心の迷いは、そのままドラマを迷走させ、意外な決着を迎える。
結局、生んだ子供を捨てた親子は、両方とも心を病んでしまう。
その苦悩を演じたアネット・ベニングの好演が救いだ。よく出来た作品だが、女性専用である。

■ピッチャーの股間を抜けたシングルヒット。
●2011年1月、日比谷シャンテシネなどでロードショー

●『しあわせの雨傘』は晴れ時々雨のため、一応、雨傘の用意を。

2010年11月05日 | Weblog
●11月4日(木)13-00 六本木<シネマート試写室>
M-135『しあわせの雨傘』Potiche (2010) mandarin cinema 仏
監督/フランソワ・オゾン 主演/カトリーヌ・ドヌーブ ★★★☆
久しぶりのフランス映画伝統の、お家騒動のライト・コメディ。
雨傘メイカーのワンマン社長が、労組紛争のストレスで倒れて、急遽、妻が代行する。
もともとは創業者の娘なので、経営の手腕はヒトラー髭の父親譲り。
そのリリーフ社長をドヌーブが楽しげに演じている。
いつも斬新なテーマと手法を見せるオゾン監督、今回は70年代のフレンチ・コメディに徹している。
それが不満であるが、安心感でもある。
所詮は、ドリス・デイの得意としたウーマン・リボルーションの喜劇なので、楽しむしかない。
それにしても名優ジェラール・ドパルデュの超メタボな変貌ぶりには、驚き呆れた。
これだから、中年男はダメなのよ、と言われても反論できまい。トリュフォーが見たら哀しむだろう。
しかしドヌーブだけはお元気で、あの「モン・パリ」や「ロシュフォールの恋人たち」のように陽気に歌い踊る。
ああ、徹底的に女性万歳、の映画だ。

■平凡なレフトフライだが、野手が落球。
●2011年1月中旬、日比谷シャンテシネなどでロードショー

●『エクスペリメント』の実験で一体何が実証されたのか。

2010年11月04日 | Weblog
●11月2日(火)13-00京橋<テアトル試写室>
M-134『エクスペリメント』The Experiment (2009)inferno/magnet 米
監督/ポール・シュアリング 主演/エイドリアン・ブロディ ★★☆☆
スタンフォード大学で、学生の心理テストで実験されたというテーマ。
高額の日当で希望したアルバイトたち数十人は、囚人と監視員に分けられた2週間の監禁生活を約束。
会話禁止。暴力禁止。法律の内側と外側の立場となる。
かりに友人同士であっても、立場が対立すれば諍いは当然起きる。
その動物的な本能を、果たして知性が平和的にバランスがとれるか、というのが狙いらしい。
たったふたりの舞台劇なら、もっと感動的な友好のストーリーになったろうが、これはただの監房もの。
すぐに両者が野獣化して、実験は悲惨な結果となる。
こんな判りきったドラマをどうして映画化したのか、最後まで判らず、不快な印象だった。
公平な割り振りな設定なのに、監視員側に様々な自由な特権が与えられていたのではテストの意味もない。
フォレスト・ウィテカーが、次第に野獣化していく演技を演じたかったのだろうか。
いくらでも感動的な要素はありながら、敢えてそれを拒絶したのが作品の狙いとしたら、その実験は成功したのだろう。

■ショートのエラーで出塁したが、オーバーランでタッチアウト。
●12月4日から、ヒューマントラストシネマ渋谷でロードショー

●『再会の食卓』の暖かさは生活文化度に反比例するのか。

2010年11月03日 | Weblog
●11月1日(月)13-00 六本木<シネマート試写室>
M-133『再会の食卓』Apart Together (2009) jinzhow audio 中国
監督/ワン・チュエンワン 主演/リサ・ルー ★★★★
新婚時代の戦争で別れ別れになった夫が、40年ぶりに台湾から上海に帰ってくる。
妻はとうに中国人と再婚して、いまは貧しいながらも孫たちと同居して暮らしている。
ふたりの夫は、それぞれに思慮深く、老後は温暖な台湾で暮らそうという前夫の申し出にも賛同した。
しかし子供たちは見慣れない元父には反抗的だ。
こうした中国と台湾との、微妙な政治背景を踏まえながらも、この映画の美点は、人間の良識を優先している姿勢だ。
お互いの立場で、よく話し合い、そして酒を飲み、唄う。
どこか昔の小津監督の映画のように、古風だが懐かしく暖かい。
設定は、ジャック・レモン主演の「私の夫は二人いる」と似ているが、ドラマの堅実さは見事だ。
長いワンショットが多いのに、まるで舞台劇のようにバランスと呼吸が乱れない。本当に素晴らしい脚本と演出だ。
あの山田五十鈴さんを思わせる妻役のリサの、押さえた演技も抜群だった。
人にはそれぞれ歴史がある。
その奇遇を、冷静な知性で見つめた秀作だ。拍手。

■ライトフライが意外に伸びてフェンス直撃のスリーベース。
●2011年、正月第二弾として、日比谷シャンテなどでロードショー

●10月の二子玉川サンセット傑作座ベスト10

2010年11月02日 | Weblog
●10月の二子玉川サンセット傑作座<自宅>上映ベスト10

1/『無分別』(58)スタンリー・ドネン監督、ケイリー・グラント/VHS ★★★★☆
  中年の訳あり独身男女の結婚願望の落差を、実に巧妙でスリリングなコメディ・タッチで描破。

2/『キャッシュマン』(83)ハーバート・ロス監督、ジェイソン・ロバーツ/LD ★★★★
  壮年で家を捨てていた末期がんの窃盗犯は、孫の野球少年にメジャーリーグのコーチを大金で雇う。

3/『タバコロード』(41)ジョン・フォード監督、ダナ・アンドリュース/DVD ★★★★
  不況のルイジアナ州の貧しい農家を舞台にした、楽天的でトコトン明るい老人の人生観を貫く。

4/『インランド・エンパイア』(03)デヴィッド・リンチ監督、ローラ・ダーン/DVD ★★★☆☆☆
  異色のポーランド映画のリメイクをしようとしたスタジオには、前作の不思議な霊が出現して邪魔をする。

5/『バベル』(06)アレハンドロ・G・イニャリトウ監督、ブラッド・ピット/DVD ★★★☆☆☆
  めくら撃ちした少年の銃弾が旅行中のアメリカ女性に当たり、それが様々な国の人々のドラマを引き起こす。

6/『ピアノ・ブルース』(03)クリント・イーストウッド監督、デイブ・ブルーベック/DVD ★★★☆☆
  「映画で人生を台無しにした」というクリントが、憧れのレイ・チャールズなどのピアニストと連弾。

7/『アルファビル』(65)ジャン=リュック・ゴダール監督、エディ・コンスタンティーヌ/VHS ★★★☆☆
  すべてを記号化した先進国家アルファビルに潜入した探偵は、感情をなくした美女をつれて決死の脱出をする。

8/『ラストタンゴ・イン・パリ』(72)ベルナルド・ベルトルッチ監督、マーロン・ブランド/DVD ★★★☆☆
  晩秋のパリで徘徊する中年男の、怠惰で傲慢なラブストーリーを、名優ブランドがオフビートな名演で魅せる。

9/『小早川家の秋』(61)小津安二郎監督、原 節子/DVD ★★★☆☆
  老舗をリタイアした遊び人の老父が突然倒れて、久しぶりに集まった家族たちはそれぞれの感慨を語る。

10/『暴力団』(54)ジョセフ・H・ルイス監督、コーネル・ワイルド/DVD ★★★☆
  一匹オオカミの悪徳警官と広域組織暴力団の戦いをクールな光と影で投影したフィルム・ノワールの傑作。 

●その他に見た傑作は、
『コーナード(窮地)』46/ディック・パウエル
『秘密諜報機関』60/リチャード・ウィドマーク
『闇の曲がり角』46/マーク・スティ-ブンス
『パジャマ・ゲーム』57/ドリス・デイ
『馬上の二人』61/ジェームズ・スチュワート
『シノーラ』68/クリント・イーストウッド
など、青春のクラシックがメインですね。

●10月に見た新作試写ベスト3

2010年11月01日 | Weblog
●10月の新作試写ベスト3

1/『クロッシング』監督/アントワン・ヒュークワ 主演/イーサン・ホーク ★★★★
   まったく別々の捜査をしていた3人の刑事が、ある夜の銃撃で同じ場所で遭遇する運命の皮肉。

2/『ノーウェア・ボーイ』監督/サム・テイラー・ウッド 主演/アーロン・ジョンソン ★★★☆☆☆
   ふたりの母親に育てられた貧しいジョン・レノンの屈折した青春から、あのロックが生まれてくる。

3/『フェアモント・ホテル』監督/ダン・アイアランド 主演/ジョーン・ブロウライト ★★★☆☆☆
   先の短い老齢を過ごす孤独な人々が住むロンドンの老朽ホテルにも、奇跡のような情愛も生まれる。

☆その他に見た印象的な傑作は、
フランソワ・オゾンの『リッキー』
ロバート・ルケチィックの『キス&キル』
ネヴェルダイン&テイラーの『ゲイマー』
マシュー・ヴォーンの『キック・アス』
それにジャン=リュック・ゴダールの『ゴダール・ソシアリスム」などでした。