細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●12月に見た新作試写ベスト5

2010年12月30日 | Weblog
●12月に見た試写ベスト5

1/『トスカーナの贋作』(アッバス・キアロスタミ)主演/ジュリエット・ビノシュ ★★★★☆
   著書『贋作』の講演に来たイギリスの作家が、トスカーナの午後に過ごした女性との幻想と現実。

2/『英国王のスピーチ』(トム・フーバー)主演/コリン・ファース ★★★★
   突然英国王になったジョージは、幼い頃から人前で話すのが苦手。しかし時代は戦乱を迎えた実話。

3/『ヒアアフター』(クリント・イーストウッド)主演/マット・デイモン ★★★★
   生死の境目を見た人間たちの、心の交流と事故の偶然を描いたヒューマン・ファンタジー異色作。

4/『毎日かあさん』(小林聖太郎)小泉今日子 ★★★☆☆☆
   漫画家のど根性な視線から見える生活の悲惨も、笑い飛ばせば、それなりに、いい人生に見える。

5/『アンストッパブル』(トニー・スコット)デンゼル・ワシントン ★★★☆☆
   危険な化学薬品を搭載した貨物列車が暴走した。アクション映画の原点に徹して描く痛快疾走作。

☆他にも12月は「シリアスマン」「木洩れ日の庭で」「ヤコブへの手紙」などの傑作揃いでした。
今年の試写もこれでおしまい。鑑賞したのは、合計160作品でした。
それぞれの感想は、すべてブログに掲載してあります。2011年もよろしく。
●極私的ベストテンは、お正月早々に掲載の予定です。お楽しみに。

●『木洩れ日の家で』に見る人生終幕の覚悟。

2010年12月29日 | Weblog
●12月28日(火)13-00 銀座<TCC試写室>
M-160 『木洩れ日の家で』 Time to Die (2007) ポーランド映画
監督/ドロタ・ケンジェジャフスカ 主演/ダヌタ・シャフラルスカ ★★★☆☆
まるで別荘地のような木々に囲まれた大きな屋敷に老婆がひとりで住んでいる。
息子の家族は、この老朽した家を好まず、そそくさと去る。
だから彼女は一匹の犬と、日々会話をして死期を待っている。
周囲の住人や、親戚たちは財産を狙っているが、彼女には考えがあった。
孤独な老婆のひとりごとを聞いてくれるのは、犬だけだ。
時々かかってくる電話は、やっと彼女が受話器を取ると、切れる。
これは、彼女の幸福への幻覚なのだろう。
監督、脚本、編集をひとりでこなしたドロタはポーランドの女性作家。
あくまで老婆の一人称で描かれた作品だが、実は愛犬の視線から見た映画でもある。
この犬のリアクションが素晴らしく、むしろ犬が主演、と言ってもいい。
モノクロームの画調も、どこか老婆の記憶のように、曖昧にフォーカスが揺れる。
美しくも孤独で厳格なひとりの女性。彼女の荘厳な終焉が、端正でいい。

■イレギュラーなゴロがセンター前に抜けたヒット。
●2011年4月16日より、神保町の岩波ホールでロードショー

●『英国王のスピーチ』の大衆面前恐怖症のユーモラスな解消法。

2010年12月28日 | Weblog
●12月27日(月)13-00六本木<シネマート試写室>
M-159『英国王のスピーチ』The King's Speech (2010) UK council 英
監督/トム・フーバー 主演/コリン・ファース ★★★★
第二次世界大戦を迎えた時期、イギリスの国王逝去で、長男のエドワード8世が王室を離れ、突然、次男のジョージ6世が継ぐはめになった。
困ったことに、彼は小心で大衆の面前でスピーチができない。
少年時代に極度の劣等感から「吃音」の症状があり、とにかく大役は苦手。
そこで夫人は民間の矯正師に、そのコンプレックスを治療してもらうことにした。
王室の秘話を、これだけ辛辣に描いたのは、あの「クイーン」以来だが、たしかに国王もただの人間。
コンプレックスや持病はある。
もともとジェフリー・ラッシュの企画らしいが、彼の演じる治療師の手段が面白い。
「シンプルマン」のコリン・ファースが演じる、慇懃な割に小心な国王。
その絶妙なサポートがユーモラスで笑わせる。
おそらくアカデミー賞には、多くのノミネートをされるだろうが、この「おかしな二人」が傑作。
王室の恥部を、雄大なユーモアで撮影許可するイギリスのお国柄にも敬礼したい傑作だ。

■初球狙いの技ありホームラン。
●2月26日より、TOHOシネマズ シャンテなどでロードショー

●『毎日かあさん』の骨太で楽天的な肝っ玉かあさんぶりに脱帽。

2010年12月23日 | Weblog
●12月22日(水)13-00 築地<松竹本社試写室>
M-158 『毎日かあさん』(2010) ツインズジャパン/松竹
監督/小林聖太郎 主演/小泉今日子 ★★★★
西原理恵子の人気アニメの実写映画化で、彼女の私生活の様子を心のこもったホームドラマにしている。
前半は、人気作家で二児の母親としてのバタバタな生活ぶりを披露して、ちょいと退屈。
しかし永瀬正敏が演じるアルコール依存症の亭主が退院してからは、俄然ドラマが引き締まる。
戦場カメラマンとして活躍後帰国して結婚したが、戦地でのトラウマから酒浸りとなり、入退院を繰り返すが、すぐに酒に溺れるダメ男。永瀬の好演と存在感で後半は痛恨のホームドラマとして緊迫する。
「泣いてるヒマがあったら、笑おう」という、西原のオプティミズムが、テーマをつねに明るく見つめる。
随所に、アニメの映像をちりばめて、それがファンタジーとしての味付けになっている。
原作の図太さもあるが、きょんきょんのタフママぶりも好感。
老舗松竹の伝統も踏まえた新しい平成ど根性ホームドラマとして、素晴らしい。
小林監督の初演出の確かさにも、拍手だ。

■平凡なレフトフライが、意外に伸びてフェンス直撃の長打。
●来年2月5日より、松竹系全国ロードショー

●『死にゆく妻との旅路』の悲壮なホームレスの家路。

2010年12月22日 | Weblog
●12月21日(火)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-157『死にゆく妻との旅路』(2011)イメージ・フィールド/日
監督/塙 幸成 主演/三浦友和 ★★★☆
借金破産した壮年男は、重い末期ガンの妻を自家用のバンに乗せて、当てどなく北陸路をドライブする。
実際にあった保護責任者遺棄致死事件を、忠実に、誠意を込めて描いたラブストーリー。
生活苦と親戚事情もあって、いっさいの友人知人関係も絶ってしまった二人旅。
しかもジリ貧の路上生活なので、会話も少なくドラマとしては、事実上平板となってしまう。
これが実話映画化のリスクであって、面白く見せようにも無理がある。
となると、病弱な石田ゆり子の演技に重圧がかかり、同様に亭主の三浦も出ずっぱりの熱演となる。
これは現実逃避のロードムービーだが、むしろ迷走する夫婦愛の探求ドラマと見るべきだろう。
たしかに重病と貧困は、われわれにとっても重大な落とし穴。それを描くのも、かなり苦痛も伴いがちだ。
誠実すぎる夫婦の、あまりにも過酷な現実。
それを淡々と、謙虚に描いたラブストーリーだ。
実話とフィクションの格差は、「春との旅」と比較するのは、酷というものだろうが・・・・・。

■止めたバットにボールが当たり、不覚の内野安打。
●来年2月26日より、ヒューマントラストシネマ有楽町でロードショー

●『RED/レッド』対談、放談、笑談果てぬ/逢坂 剛さん。

2010年12月18日 | Weblog
●12月15日(水)15-30 神保町<カフェ・フォリオ>
RED -Retired Extremely Dangerous (disney)
対談/逢坂 剛さん。

1月29日から全国ロードショーされる新作『RED/レッド』について、久しぶりに作家の逢坂さんとお会いして、映画の面白味を語り合った。
主演のブルース・ウィリスは元C.I.A.の特別捜査官だが、突然自宅を襲われる。
銃器の派手な使用で、それは古巣の機密隠滅のための強硬手段だと判断した彼は、旧友で同僚だったモーガン・フリーマンや、ジョン・マルコヴィッチ、そしてヘレン・ミレンなどに協力を求める。
この経路は「ザ・シューター/極大射程」やジェーソン・ボーン・シリーズのプロットに似ているが、リタイアした強者たちの逆襲という、一種のサバイバル・リベンジものと解釈して、話は尽きない。
ついつい好きな西部劇の「黄色いリボン」や「昼下りの決闘」から、「スペース・カウボーイ」など、リタイア活劇の話になると、むかしの映画談義で脱線する。
まさに同世代アクション映画ファン同士の、至福の時間だった。
その放談の楽しさは、ぜひ公開されたら、劇場プログラムの誌上で読んで頂きたい。

●『デュー・デート』の旅はヤな予感の連続だ。

2010年12月17日 | Weblog
●12月16日(木)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース試写室>
M-156『デュー・デート』Due Date (2010) warner bros, regendary
監督/トッド・フィリップス 主演/ロバート・ダウニーJr. ★★☆☆
妻の初めての出産のために、仕事先のアトランタから、ロサンゼルスまで帰る男の連続災難。
それを「ハングオーバー」で好評だった監督主演で撮った二作目だ。
しかし、この話は90年代にスティーブ・マーティン主演であった「大災難」と酷似。
しかも、あれほどの可笑しさも情感もなく、急場しのぎの即製コメディの印象なのが残念だ。
飛行機にテロリスト容疑で搭乗拒否されても、いろいろ移動手段はある。
取り急ぎ、列車という発想が普通だろう。それなのにレンタカーに見知らぬ変人と同乗したら、当然先は思いやられる。そして悪夢の連鎖だ。
ダウニーJr,の相手は「ハングオーバー」のザックなのだが、このクマ男が非常にむさ苦しいので、ギャグもクサいのだ。ひとの外見でおちょくるのは不快感が伴う。肝心の友情にはほど遠い関係が続く。
おまけに、相手の財布を隠し持っていたという問題は、犯罪であってギャグにはならない。
従って、見ている方にも、その不快な重圧がのしかかるのだ。この旅にはつきあいたくない。

■ボテボテのセカンドゴロでダブルプレー。
●1月22日より、渋谷シネセゾンなどでロードショー

●『トスカーナの贋作』に見る偽りのような夫婦ゲームの真違。

2010年12月16日 | Weblog
●12月15日(水)13-00 京橋<テアトル試写室>
M-155 『トスカーナの贋作』Certified Copy (2010) bibi films, canal+ 伊
監督/アッバス・キアロスタミ 主演/ジュリエット・ビノシュ ★★★☆☆☆
トスカーナの街で、イギリス人作家が著書の「贋作」に関する講演をした。
帰国の時間までの間、主催したギャラリーの女性オーナーと近所をドライブする。
映画は、そのふたりの午後を通じて、まるで夫婦間の調整のような意見の対立を見つめて行く。
まるでロッセリーニ監督の「イタリア旅行」の贋作のようだ。
はじめは、それぞれの人生の現状を話していたのに、次第にお互いの感情の交錯に戸惑い、過去を追想したりする会話は、まさに熟年の夫婦の姿だ。
これを現実の夫婦と見るか、ただの男女の諍いと見るかは、観客の感性に任せる、と、監督はいう。
イランの名匠キアロスタミの視線が揺らぐ不思議に緊迫したラブストーリーだ。
ジュリエットの味のある好演も、曲者。

■イレギュラーなライトへのゴロを野手が後逸して二塁打。
●2月中旬より、渋谷ユーロスペースでロードショー

●『ヒア アフター』の斬新な霊界と死界へのアプローチ。

2010年12月14日 | Weblog
●12月13日(月)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース試写室>
M-154『ヒア アフター』Hereafter (2010) warner brothers
監督/クリント・イーストウッド 主演/マット・デイモン ★★★★
スティーブン・スピルバーグは、死後と霊感をテーマに「ラブリー・ボーン」を制作したが失敗。
それに懲りずに、また死の周辺の世界を映画化したくてクリントに監督を依頼したのが、この作品。
3つの異なる場所で起きた実際の事件。南のリゾートでの津波。ロンドンの地下鉄テロ。そして自身も大手術から生還した霊感者。
このパズルのピースのような別のエピソードが、次第にひとつのドラマになって来る構成と演出は、さすがにクリント・イーストウッドの熟練と青眼だ。
つまりスピルバーグの食材でクリントが料理した一品であって、さすがはベテランの味。ちゃんとした大人のラブストーリーに着地する技は見事であった。
大体、霊感とか運命とかいうテーマには無関係だった監督だからこそ、偶然ではあっても必然は見せて行くという計算が、こうした現代ならではのミステリーにも説得力を見せる。
そのしたたかな映像力と、監督のロマンには、またしても酔わされてしまった。
ジャーナリスト役のセシル・ドゥ・フランスが新鮮で魅力があった分、相手役がもしマット・デイモンでなかったら、もっと味が濃くなったかもしれない。

■レフトのポールにギリギリのホームラン。
●来年、2月19日より、丸の内ピカデリーなどでロードショー

●『ヤコブへの手紙』は、心に響く愛の手紙。

2010年12月10日 | Weblog
●12月9日(木)13-00 京橋<テアトル試写室>
M-153 『ヤコブへの手紙』Postia Pappi Jaakobille (2009) フィンランド
監督/クラウス・ハロ 主演/カーリナ・ハザード ★★★☆☆☆
北欧フィンランドらしい質素な風土と、そこに住む素朴な人間性を見せる佳作だ。
17年の服役で恩赦を得たカーリナは、人里離れた一軒家に住む盲目の老人の世話をすることになった。
無口で重そうな体の彼女は、まだ獄中の動きだ。
もと神父だった老人には、各地から人生相談の手紙が届くのだが、読めるひとの援助が必要だったのだ。
はじめはうんざりして手紙を読んでいたカリーナの凍てついた心も、そのことで少しずつ溶け出す。
孤独な人間の、ささやかな交流を通じて、ほのかな情感の流れる清楚な作品だ。
このふたりと、郵便配達の老人だけの三角構造、そして静かなピアノだけの音楽。
こうして、シンプルで清楚な映画は、カーリナの傷だらけの心を、ゆっくり介抱してゆく。
まるで短編映画のようなストレートさで、多くを語らない作品だが、内容には心地いい深みがあった。
スエーデン映画の巨匠ベルイマン作品のマックス・フォン・シドーのような神父の声がテーマの善意を感じさせる。

■ゆるいゴロでセカンドの横を抜けたシングルヒット。
●2011年、1月中旬から、銀座テアトルシネマでロードショー