細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『サラの鍵』で閉じられていた哀しい人生の鍵を開ける。

2011年09月29日 | Weblog

●9月28日(水)13−00 六本木<シネマート試写室>
M−119『サラの鍵』Elle s'appelait Sarah (2010) hugo production / studio 37 / canal+  仏
監督/ジル・パケ=プレネール 主演/クリスティン・スコット・トーマス <111分> ★★★☆☆
これまた偶然だが、昨日見た「灼熱の魂」同様に、戦渦の悲劇を体験した母への追想。
ただしこちらは遺家族の捜索話ではなく、戦時下のパリで起こった実話を、女性ジャーナリストが調査するスタイル。
ナチス統治下のパリで、ユダヤ人家族を屋内競輪場に監禁。その人質をアウシュヴィッツに送ったという事実。
混乱を逃れた少女サラは、脱出して自宅の隠し部屋に残しておいてきた弟を探すが、既に死亡していた。鍵が運命を変えたのだ。
成人したサラは戦後ニューヨークに住み、家庭を守るが精神障害で晩年に自殺。
クリスティン演じるジャーナリストは、謎の多いサラの過去や遺族を探すが、みな一様に真実を語らない。
「アンネの日記」と同じような戦争悲劇の後日談を、監督は現代と過去を交錯させて真相を探る。
昨日見たアラブの女性のストーリーほど強烈で奇異ではないが、これもまた女性の信じられないような悲劇。
残された隔世家族にも、まだこのように、あの戦争の悲劇は残って行く。
宗教や人種偏見、文化と生活による運命の格差。
非常にドラマティックに再現された、こうした大河ドラマは、たしかに感動的だが、同時に哀しい。
クリスティンが、さすがに繊細な表情で好演している。

■レフトオーバーのヒットを野手がファンブルする間にツーベースヒット。
●12月、銀座テアトルシネマなどでロードショー


●『灼熱の魂』アラブに生まれた、あまりにも過酷な母の人生。

2011年09月28日 | Weblog

●9月27日(火)12−30 築地<松竹試写室>
M−118『灼熱の魂』Incendies (2008) entertainment one カナダ
監督/ドゥニ・ヴィルヌーヴ 主演/ルブナ・アザバル <131分> ★★★★
カナダの公衆プールで、高齢の女性が失神して急逝した。
双子の遺児に残された遺書には、墓はいらないが、もうひとりの長男を探してくれ、と書いてあった。
娘はひとりで母の故郷だった中東のベイルートに、兄の消息を探しに行くが、そこで恐るべき母の青春を知る。
キリスト教の家に生まれたことで、家族はイスラム系の断圧を受けて、家族は離散。
牢獄で拷問の果てに強姦された末、母の長男である幼児は連れ去られた。
未だに戦乱の耐えない危険な現地を旅して、娘は母の過酷な人生に対峙していく。父親はいったい誰なのだ。
これは、あまりにも悲惨な「女の一生」だが、現実に起こりえた不遇の旅路。中東70年代の悲惨な歴史でもある。
衝撃の原作は戯曲だったが、監督はナイーブな映像で繊細な映画にして、アカデミー賞にもノミネートされた。
複雑な過去を、8つのエピソードで区切ったことで、非常に明快な大河ドラマとして成功している。
とくにレバノンでロケしたという、中東の都市部の崩壊した映像は、それだけで悲劇性を強調していて迫力がある。
意外な結末には、かなり無理はあるが、そもそも母の人生そのものが有り得ないことの連鎖だったのだ。
戦争は、かくも悲惨な裏面も押し流していたというドラマだが、知的な女性ミステリーとしても素晴らしい。

■センターのフェンスを打球が転々とする間に、俊足をいかしてスリーベース。
お正月、日比谷シャンテシネなどで、ロードショー


●わたしが一番好きだった刑事コロンボ。さようなら。

2011年09月26日 | Weblog

●ミステリマガジン11月号/追悼ピーター・フォーク特集/アンケート寄稿

わたしの「刑事コロンボ」
     第14話『偶像のレクイエム』    細越麟太郎(映画評論家)

 シリーズがスタートした当時は毎回のように見ていたので、ベストとなると、どうしても初期の番組の印象が強い。
テレビよりも映画が好きだった関係もあって、ゲストに映画スターが犯人役などで出ると、どうしても見入ってしまうのだった。
その点で『イヴの総て』(50)でブレイクして、多くの作品で印象深いアン・バクスターが落ち目のハリウッド女優を演じた14作目の『偶像のレクイエム』(72)が楽しめた。
当然のように名作『サンセット大通り』(50)にインスパイアーされたような着想もいいが、彼女は『生きていた男』(58)でも、二重人格的な性癖と美貌を武器に演じてみせてコロンボを混乱させる。
監督がキム・ノヴァクのパートナーだった『媚薬』(58)のリチャード・クワイン。
しかもオードリー・ヘプバーンのご主人メル・ファーラーと、ハリウッドでは超セレブなコスチューム・デザイナーのイディス・ヘッドも顔を出すという、いかにも映画通好みの趣味的な一本だ。


●秋の夜には、ケイコ・リーの『秋桜』もいいかも・・・。

2011年09月25日 | Weblog

●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84−4mhz)
今夜の放送/ Vol. 064『ザ・セプテンバー・ソングス大会/第二夜』The More September Songs   
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎

★9月25日(日)午後8時ー9時放送
★曲目メニュー紹介

1/『オータムズ・フリー』演奏/ミッシェル・ルグラン・トリオ
2/『セプテンバー・ソング』唄/エラ・フィッツジェラルド
3/『オータム・イン・ワシントン・スクエア』演奏/デイブ・ブルーベック・カルテット
4/『セプテンバー・イン・ザ・レイン』唄/スー・レイニー
5/『セプテンバー・イン・ザ・レイン』唄/フランク・シナトラ
6/『オータム・イン・ニューヨーク』演奏/ジョージ・シアリング
7/『オータム・チェリー(秋桜)』唄/ケイコ・リー

★今週の映画紹介/午前10時の映画祭『天井桟敷の人々』監督/マルセル・カルネ

●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★来週の、この番組は「ヨーロッパの旅」と題して、主に北欧、東欧に関係したユニークなジャズを。
ご期待ください。


●『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』の奇想天外な飛行船チャンバラ。

2011年09月24日 | Weblog

●9月22日(木)13−00 市ヶ谷<シネアーツ試写室>
M−117『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』The Three Musketeers (2011) constantin films / summit
監督/ポール・WS・アンダーソン 主演/ローガン・ラーマン <104分> ★★★☆
有名なデュマの原作をもとに、「バイオハザード」の監督が新解釈映画化。
アクションと恋をCG処理をベースにして、飛行船型帆船による空中戦を展開するアドベンチャー。
勝手知ったるストーリーなので、見所はイングランドの巨大飛行船に対抗する三銃士とダルタニアンの戦い。
まるで「パイレーツ・オブ・カリビアン」の空中バトルは、同様にコメディ・タッチで楽しませる。
ドイツ資本の作品だが、仕上げは正にハリウッド感覚だ。
残念なのは、ほとんどのシーンがCGと世界遺産ロケに制作費が取られたのか、主演クラスに魅力の乏しいこと。
「パーシー・ジャクソン」のローガンでは、とても身が持たない。
かろうじてオーランド・ブルームとミラ・ジョヴォヴィッチが助演でご愛嬌に悪役として顔を見せるのみ。
たしかに従来のドラマ手法では、稼ぎにならないので、アニメチックな空中活劇手法を選んだのだろう。

われわれ世代にはジーン・ケリーのダルタニアンが懐かしいと、愚痴も出る。
が、「三銃士」を知らない若い世代には、お手軽な中世アドベンチャーとして、気軽に楽しめる。

■大きなファールフライを連発した後、いきなりドラッグバントで内野を撹乱してのヒット。
●10月28日より、全国ロードショー


●『家族の庭』で収穫される人生という後悔の味覚。

2011年09月22日 | Weblog

●9月21日(水)12−30 京橋<テアトル試写室>
M−116『家族の庭』Another Year (2010) Untitled 09 limited UK  film council.
監督/マイク・リー 主演/ジム・ブロードベント <130分> ★★★★
ロンドン郊外に住む高齢夫婦の、ささやかな生活を、1年間の季節に区切って描いた秀作。
もともとマイク監督は「秘密と嘘」や「人生は、時々晴れ」のように、ごく平凡な人々の生き方を描く監督。
この作品でも、高齢者の周辺に起こる些細なできごとを、実にやさしい視点で見つめて行く。
とくに四季を通じて一貫したストーリーはない。
「春」はカウンセラーをしている妻と、その独身の友人のこと。
「夏」は夫の友人が家にやってきて酒を飲んで愚痴る。
「秋」はひとり息子がガールフレンドを家に連れて来た。
「冬」は兄の老妻が亡くなって、孤独な彼のケアをする。
まるで小津安二郎監督の名作を見ているように、そこには普通の人々の生きる風景が何気なく描かれる。
ただ、共通しているのは、アルコールによる倦怠症状と、人生への溜め息だ。
タイトルの意味は、もしあなたが別の人生を、もういちどトライできたら・・・・、という意味。
誰だって、もっとマシな「アナザー・イヤー」が送れた筈なのに。
でも、人生をこの歳になって後悔したって、何の得にもならない。
ウディ・アレンの作品と共通したテーマだが、マイク監督はもっとクールに残酷に見せる。
激しい感情の吐露はないが、静かな心にグサリと残る痛恨の一作だ。

■軽いスイングでフラリと上がったセンターへの飛球がそのままホームラン。
●11月、銀座テアトルシネマでロードショー


●『スマグラー』の呆れるような悪夢の転落連鎖の可笑しさ。

2011年09月21日 | Weblog

●9月20日(火)13−00 内幸町<ワーナー・ブラザース試写室>
M−115『スマグラー』Smuggler (2011) hint / jango films  / warner brothers
監督/石井克人 主演/妻夫木 聡 <116分> ★★★☆
真鍋昌平の劇画を、かなり過激なコミック・タッチで描いた暴力映画。
スマグラーとは、法の境界線を生きている強者のことらしいが、これも闇社会の抗争を激写。
妻夫木はフリーターの風来坊。パチンコの儲け過ぎでヤクザに脅され借金を作る。
そこで謎の高利貸から大金を借り、その返済のために、深夜の陸送トラックの助手をやらされたが、運んだのがヤバい死体。
チャィニーズ・マフィアや、関東暴力団の抗争に巻き込まれ、失われた死体の代役までやらされる。
泥沼のような暴力連鎖のなかで、彼はとうとう最悪の拷問ピンチを迎えてしまった。
凶悪な集団の中にも、実は気のいいアニキもいて、永瀬正敏の存在だけが、彼には救い。
ド派手なバイオレンスは、タランティーノの感覚を狙っているが、どうも粘着性が強くて不快な臭気が漂う。
しかもトリッキーな、コーエン・ブラザース風の展開も、台詞にキレが乏しく無理が多すぎる。
足の指の間に焼ごてを入れられ、顔面陥没の筈の主人公が、次のシーンでは全快している不思議。
ええ、何でこうなるのーーーという漫画的な省略が多すぎて苦笑してしまう。
いっそのこと、吹き出しを入れて、マーヴェル・コミック風にしてしまった方が、納得かも。
ま、血や唾がハイスピードで飛び散るシーンの連続に、あのペキンパーも苦笑するだろう。な。

■強打したバットが微塵に折れて内野に散乱。それで野手が逃げてしまって同時セーフ。
●10月22日より、新宿バルト9でロードショー


●あのビル・エバンスが9月のポップスを演奏!!!

2011年09月18日 | Weblog

●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84−4mhz)
今夜の放送/ Vol. 063『ザ・セプテンバー・ソングス大会』The September Songs   
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎

★9月18日(日)午後8時ー9時放送
★曲目メニュー紹介

1/『スウィート・セプテンバー』演奏/ビル・エバンスとオーケストラ
2/『セプテンバー・ソング』唄/ローズマリー・クルーニー+マリアン・マクパートランド
3/『イト・ワズ・ア・ベリー・グッド・イヤー』演奏/スリー・サウンズ
4/『メイビ・セプテンバー』唄/トニー・ベネット+ビル・エバンス<ピアノ>
5/『セプテンバー・ソング』演奏/スタン・ケントン+ジューン・クリスティ+フォア・フレッシュメン(唄)
6/『セプテンバー・オブ・マイ・イヤー』唄/フランク・シナトラ
7/『オータム・リーブス』演奏/マイルス・デイビス+キャノンボール・アダレー

★今週の映画紹介/『サンクタム』監督/ジェームズ・キャメロン

●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★来週の、この番組は「セプテンバーの歌/2」と題して、9月に関係した爽快なジャズを。
ご期待ください。


●『アントキノイノチ』が、プロレスラーの名前とは知らなかった。

2011年09月17日 | Weblog

●9月15日(木)12−30 築地<松竹本社試写室>
M−114『アントキノイノチ』(2011)松竹/ツインズジャパン
監督/瀬々敬久 主演/岡田将生 <131分> ★★★☆☆
さだまさしの原作を慎重に作った新作。まとまりは悪くない。
青春時代の心身が、学校生活で壊れてしまった吃音の青年と、同様に心を病んだ女性の交流。
孤独死などの住居の遺品を整理する請負清掃会社で、ふたりは知り合う。「かたづけびと」だ。
交際を通じて、ふたりの過去が少しずつ見えて来る姿を、映画は淡々と見つめる。
しかし演出が清楚すぎて遠慮がちで、「おくりびと」のようなドラマの強さと鋭さはない。
たしかにふたりは、正常な若者ほど、アグレッシブではない。その性癖が映画をおとなしくしているようだ。
心の汚物を吐き出す手段に遠慮がちなせいか、映画も多くを語りたがらないのだ。そこが惜しい。
ラストは定番の、別れのお涙頂戴となる。それも淡々と。
榮倉奈々も岡田も、慎重な演技で作品を安定させているが、問題は演出に意外性が少ないせいだろうか。
それが「八日目の蝉」のレベルには届かなかった。
アベレージな、青春映画という印象だった。

■フルカウントでファールで粘り、結局はフォアボール。
●11月19日より、松竹系でロードショー


●『ブリッツ』のUK刑事は「ブリット」より荒っぽいぞ。

2011年09月16日 | Weblog

●9月15日(木)10−00 六本木<シネマートB−1試写室>
M−113『ブリッツ』Blitz (2011) lionsgate uk / davis film
監督/エリオット・レスター 主演/ジェイソン・ステイサム <97分> ★★★☆
ロンドン、スコットランドヤードといえば、007などのプレイボーイもいた警察だが、これは別の所轄。
サウスロンドンは、麻薬と暴力、窃盗と殺人など凶悪犯罪のたまり場。
そこのジェイソン刑事は、悪漢以上に暴力をふるう暴れん坊として、上司もテがつけられない。
そこで警官を白昼襲う連続凶悪犯が出没。
気取ったゲイの上司と、折り合いが悪いがジェイソンはコンビで捜査する。おかしな二人だ。
聞き込み捜査や目撃情報などを集合して、ひとりの殺人鬼の名前が浮上。
そのアジトに踏み込み、あっさり逮捕したが、証拠不十分で釈放された。
なにしろ殺した警官の制服を着ての犯行なので、予防のしようもない大胆な犯行。
そしてまた仲間が殺された。悪を制するには毒しかない。
もう法律で裁くことのできない奴は、裏の手段で始末するしか、方法はないのだ。
ま、ハードボイルドな刑事ものは多いが、このUKの暴れん坊デカも派手で情け無用だ。
ひところのブルース・ウィリスを思わせるジェイソンの荒っぽいアクションで、映画は飽きさせない。
このB級娯楽映画の強引さには、いちいち文句を言っても意味ないだろう。

■痛烈なサードゴロが、イレギュラーして野手の股間を抜けてヒット。
●10月15日より、新宿バルト9ほかでロードショー