●7月28日(土)13−00 渋谷<オーチャード・ホール>
A New Musical < COME FLY AWAY> 『カム・フライ・アウェイ』frank sinatra enterprise
演出/振付/トワイラ・サープ 出演/ラモーナ・ケリー他 <1場、95分> ★★★☆☆
フランク・シナトラの唄った歌曲を並べたミュージカルということで、ブロードウェイでも評判になった。
そのステージが、ほぼそのままで渋谷で見られるというので、半年前から楽しみにしていた。
「スターダスト」から、「ニューヨーク、ニューヨーク」まで、シナトラのヒットソング27曲が一気にメドレーで踊られる。
唄はもちろん、シナトラの声だが、バックの演奏はビッグバンドの生演奏。
やはり予想したように、ネルソン・リドルなどのアレンジは、ところどころ小節を延ばして編集工夫されている。
4組の男女がそれぞれの恋の展開で唄に合わせて踊るが、振り付けはモダーンなアンサンブル。
映画「踊る大紐育」のようなストーリー構成だが、ステージはひとつのバー・フロア。
おそらく、ブロードウェイでは、バンドがオーケストラ・ボックスなのだろうが、今回はステージの上段だ。
そのせいか、踊りが添えもののようで、さっぱり彼らの関係とストーリーが掴めない。
それは1曲ごとにダンサーが変わり、衣装も変化するからで、目まぐるしい。
パンフレットを読むと、ハリウッド映画の有名なカップルをもじっているらしいが、それが判らずに進行する。
シナトラの大ファンとしては、つい曲の内容と順番でストーリーを勘ぐるのだが、それは無用だった。
ブルーベックの「テイク・ファイブ」は、とくにシナトラとは関係ないが、バンドのジャズ演奏で盛り上げるため。
「マイ・ウェイ」も、歌詞の内容とは関係ない踊りなのが、どうもミュージカルとしてはドラマ性に欠けた。
つまりこれは、唄合わせの着せ替えショウなのだ。
つまり、このシナトラ歌曲ミュージカルとしての、企画の狙いに発想の違いがあって、無理もないだろう。
とにかく、シナトラの唄がこうしてオーチャードホールに流れたという幸福だけで、わたしは嬉しかった。
恐らくは場内の満員の高齢なファンも、みなシナトラの曲を聞き込んでいるようだった。
ま、われらシナトラ・ファンにとっては、至福の時間だった。
■ヒットエンドランのゴロが野手の逆をついて、幸運なヒット。
●8月12日まで、渋谷オーチャードホールで公演中。
●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84−4mhz)
今夜の放送/ Vol.107『カム・フライ・アウェイ』Come Fly Away
★いま、渋谷のオーチャードホールにシナトラ・ミュージカルが出現中。
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎
★7月29日(日)午後8時ー9時放送
★今夜の曲目メニュー紹介
1/『アイブ・ガッチュー・アンダー・マイ・スキン』唄/マイケル・ブブレー
2/『ウィッチクラフト』演奏/マーヴィン・ゲイ
3/『ボディ・アンド・ソウル』演奏/リー・コニッツ+ケイコ・リー
4/『サタデイナイト』演奏/パット・ウィリアムズ
5/『レッツ・フェイス・ザ・ミュージック・アンド・ダンス』唄/ゲイリー・ウィリアムズ
6/『ワン・フォー・マイ・ベイビー』唄/ダイアン・リーヴス
7/『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』唄/トニー・ベネット
★今週の映画紹介/『ダークナイト・ライジング』監督/クリストファー・ノーラン
●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★次回のこの番組は、8月5日(日)には「カム・フライ・アウェイ第二夜」と題して、シナトラ・ミュージカルの別版ジャズを。
どうぞ、ご期待ください。
●ご好評につき、この番組は金曜日の午後7時からも、FMたちかわで再放送されます。
●7月26日(木)13−00 目黒<ウォルト・ディズニー試写室>
M−089『推理作家ポー最期の5日間』The Raven (2012) intrepid pictures / garavis films / film nation
監督/ジェームズ・マクチィーグ 主演/ジョン・キューザック <110分> ★★★☆☆
あの有名な推理作家の元祖エドガー・アラン・ポーは40歳で変死した。
その事実をベースにして、彼の書いた事件簿をもとに、その最期の日々を追跡する。
1849年、ボルチモアの公園のベンチで、彼は毒物を飲んで死んでいた。
原題は「大きなカラス」。このタイトルの方が、邦題よりも遥かに面白そうだ。
キューザック演じるポーは、いくつかの猟奇的な連続殺人事件のトリックが、彼の作品を模倣していると気づく。
捜査主任のルーク・エヴァンス刑事も、ポーの推理に協力を求めていた。
そして犯人から、かつてない着想の犯罪予告があった。
その予告された仮面舞踏会の夜に、ポーの恋人が模倣犯に誘拐されたことから、事態が迷宮化していく。
まだ電気照明も、カメラもなく、科学捜査の不自由な時代。事件を解く鍵は、ポーの推理しかない。
初期のヒッチコックや、フリッツ・ラングのゴシック・ミステリーのようなスタイリッシュな映像が暗くて妖しい。
監督は「Vフォー・ヴェンデッタ」のように、そのクラシックな美学を強調するので飽きさせない。
アイデアとシチュエーションは素晴らしいのだが、どうも今風のポップな演出が時々目立つ。
これも昨今のハリウッド・エンターテイメントの個性なのだが、ちょいと性急なタッチが後半に浮いた。
大きな漆黒のカラスの名演技も不気味。
久しぶりの本格ミステリーだが、もったいない素材だった。
■ショートの後方にポトリと落ちたヒット。
●10月12日より、丸の内ルーブルなどでロードショー
●7月24日(火)
51/31『刺激と試練』
今年でシアトル・マリナーズとの契約の切れるイチローの去就に関しては、
ニューヨーク・ヤンキースへの移籍以外は考えられないが、それも今年のシーズンオフだろうと思っていた。
ところが、この電撃移籍。さすがは俊足イチロー。
しかもマリナーズのホーム球場、セーフコフィールドでのヤンキース戦。
いつものホームベンチではなく、ビジターベンチで、それもヤンキースのユニフォームで登場とは、何という演出。
以前、同じくマリナーズからヤンキースに移籍したA・ロッドのときは、凄まじいブーイングで、偽札までがスタンドに投げ込まれた。
でもジョン・オルルッドが、ヤンキースに移籍して、セーフコに凱旋したときは暖かいスタンディング・オベーションだった。
つまり、シアトルの野球ファンは、地元チームが弱くても応援し続ける本当の野球ファンが多い。プレイヤーのハートを知っているのだ。
イチローがヤンキースの31番のユニフォームで初打席に立った時の拍手の暖かさは、あのオルルッドの時の感動があった。
おそらくイチロー自身も、生涯印象に残る打席だったに違いない。
メジャー・リーグは金銭関係が優先するし、ヤンキースは最高の財閥球団だ。
だからイチローのトレードも、一種の賭けであり、評価は当然もっと厳しくなるだろう。
でも、その試練を、イチローは「刺激」と表現した。
かなり厳しいシーズンとなり、これからはもっと過酷な数字との闘いが始まる。
背番号の「51」を辞退したのは、まだ尊敬するバーニー・ウィリアムスのレベルではないという自覚だろう。
もし今後またバーニー級の活躍をすれば、「51」を背負う筈。
でも、それを選手生命の花道と考えて、敢えて飛び込んで行くイチローに、心からの拍手で応援したい。
そして残されたムネリンこそは、マリナーズに踏みとどまって頑張るべきだ。
●7月23日(月)12−30 内幸町<ワーナー・ブラザース試写室>
M−088『ダークナイト・ライジング』The Dark Knight Rises (2012) warner brothers / legendary pictures
監督/クリストファー・ノーラン 主演/クリスチャン・ベール <165分> ★★★★
ほぼ3時間近くも退屈せずに見られる映画って、ザラにない。
ジョーカー亡き後は8年間も平和だったゴッサムシティに、凶悪なテロリスト・ペインが現れる。
孤高の富豪ブルース・ウェインは、無策な警備体制に苛立ち、ついにあのダークナイトのマスクを被る。
おなじみバットマンの再来だが、さすがノーラン監督は新しい見せ場を連発して、まったく飽きさせない。
映画の感動には種類があって、ドラマの人間性を訴えるのがアカデミックだが、かつてない映像で翻弄する手段もある。
この作品は、後者だ。
つまり、映画のテクニックの斬新さで、古典的なコミック・ワールドを塗り替えてみせる。
映画が好きで、日常的に新作に接する機会の多いファンにとって、一番の感動は、この<技>の斬新さだ。
3Dではなく、見ているシーンの工夫が抜群の新鮮さがあれば、そのテクニックに感動する。
現在のハリウッドで、この豪腕を見せるのは、ノーランの他に5人ほどの監督しか見当たらない。
それを承知で着実に見せる彼の技量には、この3時間は幸福に酔わされた。
クレイジーな乱射事件のおかげで、この作品の宣伝にケチはついたが、しかし作品のテーマはそれをも予測したようだ。
表現の自由こそが、映画の快感であって、それは常に変貌する。
金をかければいいものが出来るのは当たり前だが、それが本物の質感を維持しなくてはいけない。
アカデミー受賞の役者が、ずらりと4、5人も同じ画面で見られる壮観の魅力。
しかしこの作品は、古典的なテーマに、映画力の新しさを塗り替えて魅了した。文句なしの傑作である。
■フルカウントからの一発。ライナーでバックスクリーン。
●7月28日より、全国ロードショー
●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84−4mhz)
今夜の放送/ Vol.106『モア・エキゾチック・ジャズ』More Exotic Jazz
★不安定な天気の夜には、エキゾチックなジャズサウンド効果を、もう一夜。
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎
★7月22日(日)午後8時ー9時放送
★今夜の曲目メニュー紹介
1/『ソウル・ボサノバ』演奏/クインシー・ジョーンズ
2/『メディテイション』演奏/クラウドベリー・ジャム
3/『ブリージン』演奏/アル・ジャロウ+ジョージ・ベンソン
4/『サイレン』演奏/トーリ・エイモス
5/『ラモーンズ・リヴェンジ』演奏/ピーター・ホワイト
6/『コルドラへの道』唄/フランク・シナトラ
7/『ポインシアーナ』演奏/アーマッド・ジャマール・トリオ
★今週の映画紹介/『セブン・デイズ・イン・ハバナ』監督/ギャスパー・ノエ他
●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★次回のこの番組は、7月29日(日)には「サマー・ドリーム特集」と題して、夏の夜に見たい夢、のような快適ジャズを。
どうぞ、ご期待ください。
●ご好評につき、この番組は金曜日の午後7時からも、FMたちかわで再放送されます。
●7月20日(金)13−00 京橋<テアトル試写室>
M−087『そして友よ、静かに死ね』Les Lyonnais (a Gang Story) 2010 lgm films / gaumomnt france
監督/オリヴィエ・マルシャル 主演・ジェラール・ランヴァン <102分> ★★★☆☆
「さくらんぼ、ひとつかみで」というエドモン・ヴィダルの原作映画化。
つまり少年時代に屋台の「さくらんぼ」を盗んだのがきっかけで悪の路に落ちて行った友だちの話だ。
今は老年を迎えたジェラールが、長年の親友の35年前の裏切りを知り、<おとしまえ>をつけることになった。
おお、あの名作「現金に手を出すな」の再来かと期待したが、ほとんどは青春期の犯罪の回想なので、ノワール色は薄い。
つまり原題の言うように、これは「ギャング・ストーリー」。
男のロマンと友情は匂わせるが、全体の印象は、ハリウッド並みの若いタッチの銃撃戦なのでガックリ。
ま、それでもフランス犯罪映画伝来の、ダークな男性たちの体臭は匂うので、ありがたい。
ガブ飲みするウィスキー。やたら煙たいシガー。そしてタフなヒゲづらの野郎共の談笑と殴り合い。
70年代を回想しているので、アラン・ドロンとベルモンドを予想して見ていると懐かしいのだ。
髭で仏頂面のジェラールも、見ているうちに味はでてきた。
だから、もっと若い回想シーンを減らした方が、映画に深みが出て来ただろうにと惜しまれる。
まさに女性はオフリミットのタフな男性オンリー。薄汚い男子用トイレを覗いているような臭気なのだ。
「銀座シネパトス」が、閉館するという噂だが、これこそ最終興行すべきタイプの作品だろう。
■ボテボテの当たりだが地を這う痛打となりライト前。
●9月中旬、銀座テアトルシネマなどでロードショー
●7月19日(木)12−30 築地<松竹本社試写室>
M−086『天地明察』(2012)角川映画/松竹/TBS
監督/滝田洋二郎 主演/岡田准一 <144分> ★★★☆☆
江戸時代まで800年もの間、古来の暦に頼って生活して来た日本で、初めて日本独自のカレンダーを作った男。
そのユニークな星と対話した青春を描いた原作を、「おくりびと」の滝田監督が4年ぶりに映画化。
これまでになかった時代劇の発想が、かなり興味深く描かれて行く。
とにかくチャンバラなし。浪人侍なし。お家騒動なし。お国の争乱なし。とにかく青年は夜空を見上げて星を観察する。
最近特に東京などに住んでいると、まず夜空を見上げることはない。
先日の金冠日食をテレビで見たのが、天体を意識した微かな日常。しかし手帳のカレンダーは毎日見る。
ごく当たり前のようにスケジュールの日程に添って生きて来た我々の生活が、実はこの映画の主人公が極めていた。
この江戸の、日本人としても初めての天文学者。しかも囲碁の達人にして算術の天才。
つまり、アタマがいい。
たしかに囲碁や算術のソロバンや暗算などは、まったく記号のない先見の領域であり、日本の知恵でもある。
そうした古風だが基本的な歴史的な生活の知恵を描いた作品。このユニークな起点が面白い。
すべての情報ネットワーク社会の、その基本の数字が天文学から発想していたという原点創出。
数理天文だけでなく、多くの若い学生達には、ぜひ見て欲しいユニークな作品だ。
■高々とファールを連発した後の、センター前ヒット。
9月15日より、松竹系でロードショー
●7月17日(火)13−00 六本木<シネマートB−1試写室>
M−085『WIN WIN/ウィン・ウィン』2011 fox-searchlight / everest entertainment
監督/トム・マッカーシー 主演/ポール・ジアマッティ <106分> ★★★☆
サブタイトルが<ダメ男とダメ少年の最高の日々>とあるように、かなりスノッブなコメディ。
ポールは弁護士だがロクな仕事はない。借金だらけの生活のために、老人の介護斡旋や高校レスリングのコーチもしている。
すべてがその日の勝負で、まったく先の見えない日々だ。
このタイプの小市民カリカチュア映画は、一枚漫画的なエピソードは面白いが、先が見えない不安もある。
その曖昧なドラマ性が、オフビートで面白く、フォックス・サーチライトは好んで映画化して成功している。
でも、この動きの少ないドラマも、家出少年のレスリング戦効果で後半は少し明るさが見えて来る。
おお、「がんばれベアーズ」の再来か。と勘ぐった。
しかし人間の向上心とか努力というのは、多くの名画のように、必ずしも結果を伴う訳ではない。
ただし見ている我々は、愚かにも、そこに微かな感動の可能性を探してしまう。
先日見た「ローマ法王の休日」がそうだったように、それすら裏切られると、ああ現実ってもんはこんなものさ、で納得はする。
しかし映画は絵空事なのだから、幸福の別のアングルも見せて欲しい、と思ってしまう。
「WIN WIN」って、結局は勝ち負けなし、ということなのか。
その甘さは、この作品は辛辣に否定する。
■フルカウントでフォークボールが落ちすぎてキャッチャー後逸。振り逃げ出塁。
●8月18日より、シネマート新宿でロードショー
●7月13日(金)13−00 六本木<FOX映画試写室>
M−084『プロメテウス』Prometheus (2012) twentieth century fox / dune entertainment /scott free
監督/リドリー・スコット 主演/ノオミ・ラパス <124分> ★★★☆
2089年。新たに発見された古代の洞窟壁画には、謎めいた巨人の像が描かれてあった。
考古学者で宇宙飛行士のノオミは、この謎に興味を持ち、他の惑星に住むであろう生命体を探しに宇宙船に乗る。
まさに「2001年宇宙の旅」のように、2年もの睡眠飛行の果てに、荒廃しきった惑星に着く。
そこまでは、いかにも慎重なSF映画で、何とも神秘的な3Dの宇宙空間が魅力的だ。
ところが、荒野の洞窟でスコットランドのスカイ島で発見した壁画に似た石の棺を見つけてから、異常事態が発生。
隊員の皮膚に発疹ができ、ノオミは突然に腹部が腫れて来る。異常妊娠。しかも突発の帝王切開出産。
胎児は見た事もない奇形オクトパス。
さあ大変。そして後半は例によって、あの「エイリアン」騒動になってくるのが、やっぱり監督の趣味。
あとの壮絶な顛末については、FOX側から発言禁止令が出ているので、ここで明かす訳にはいかない。
ま、過去のスコット・フリーの作品歴から想像できるだろうが、アイスランドの荒涼とした岩地でのロケは素晴らしい。
徹底した暗黒世界は、かなり息苦しいが、「ミレニアム」シリーズで登場したノオミが、ニュー・ヒロインとして奮闘。
シガニー・ウィーバーの跡目をしっかりと好演して、次作への予感も臭わせる。
宇宙船の黒人機長が、スティーブン・スティールスの唄を引用するが、100年も前の曲が通用するのか、疑問だな。
いずれにしても、開けてびっくりの宇宙箱。
このテの軟体爬虫類のニュルニュル・ネバネバ化け物のお好きな方は、どうぞ。
■高く上がったセンターの飛球だが、意外に伸びずに失速。
●8月24日より、日劇などでロードショー