●9月6日(木)13−00 六本木<FOX試写室>
M−107『リンカーン/秘密の書』Abraham Lincoln ; Vampire Hunter (2012) 20th century fox / dune entertainment
監督/ティムール・ベクマンベトフ 主演/ベンジャミン・ウォーカー <105分> ★★☆☆
要するにヴァンパイアー映画。邦題に偽りあり。
何ということはない。おなじみのハリウッド・スチューピッドである。
リンカーン大統領に関しては、つい先日、ロバート・レッドフォードが作った「声をかくす人」で興味深く扱っていた。
それだけに、この新しい切り口の、ティム・バートンはそそられた。が、・・・何だこりゃ、である。
ベン・スティーラーの「ナショナル・トレジャー」か、インディ・ジョーンズ博士の新解釈を期待したが、見事に裏目。
大体、このような大ボラ吹き映画は、コメディ仕立てにしなくては面白くない。
もともと、バートンとしても「マーズ・アタック」的な発想だったろうから、アダム・サンドラー級がリンカーンを演じるのが当然だろう。
いや、ジョニー・デップが、大統領を演じるべきだった。
そこを誠しやかに下手なホラを吹くので、見ている方もまったく笑えない。
しかも、ティム・バートンの、カルト的な毒舌の面白味が封印されてしまったのだから、嗚呼、まいった。
あの「シャーロック・ホームズ」の大変身に倣っての企画だろうが、結局はただの吸血鬼騒動だ。
しかも、演出が初期のハマー・ピクチャーの幼稚なレベル。せめて105分だから我慢の限界だった。
いっそのこと、次回はニクソン大統領主演でゾンビ映画を作った方が笑えるだろう。
■大きなファール連発のあとは、ファールチップ。
●11月1日より、TOHOシネマズ 日劇などでロードショー
●9月5日(水)13−00 六本木<シネマート試写室B−1>
M−106『みんなで一緒に暮らしたら』Et Si on Vivait tous Ensemble ? (2010) rommel film / manny films / studio 37 仏
監督/ステファン・ロブラン 主演/ジェーン・フォンダ <96分> ★★★
パリ郊外で後期高齢者の友人たち5人が共同生活を始めた。
家族に迷惑はかけたくないし、老人ホームや擁護施設に入るのも味気ない。
どうせあと数年の命なら、長年の友人たちと余生を送りたい。という夢を実現しているグループ。
しかし、末期がんや重病やアルツハイマーの進行で、5人の生活も現実的に苦労が多い。
なぜかジェーン・フォンダが、あの名優の父の老後を描いた秀作「黄昏」から数十年の復帰。
しかも、今度は、彼女がおくられる老人の役。だって彼女も74歳。人生は皮肉で短いのだ。
理想的な老後というのは、必ず誰にでも訪れる命題だ。だから理屈ではこうありたい。
郊外の緑地のなかの大きな一軒家。友人達と別々の部屋で、食事だけ一緒。たしかに理想的。
しかし、どうも生温いコメディで、まったくリアリティが、・・・つまり共感味がない。
とくに、庭に突然プールを作ったりして、誰が泳ぐのだろう。
孫たちのためにしては、巨額の出資は誰が負担するのだろう。
ジャック・レモンの「ラブリー・オールドメン」のような、突飛なおかしさもなく、淡々としたスケッチが続く。
これが、フランス人の老後の夢なのだろうが、どうも我々の環境とは距離があり、感覚も違う。
ま、リアルな夢なんて、所詮は絵空事なのだから、もっと「コクーン」のように飛躍して欲しかった。
これで老後のテーマを考える、ひとつの参考になればいいが・・・・。
■出したバットにボールが当たり、ボテボテのファーストゴロ。
●10月下旬、シネスイッチ銀座でロードショー
●9月4日(火)
東宝作品『あなたへ』監督/降旗康男 主演/高倉 健
今年のモントリオール国際映画祭で「特別賞」を受賞したのは、とても嬉しかった。
人間の感情の機微を描いた上質な作品として評価されたこと。それが嬉しい。
降旗監督は、あまり人の感情の昂りや深みは描こうとしなくて、特にこの作品は楚々としていた。
50年以上前ならば、小津安二郎監督が終始一貫して描いていたような「豆腐の味」である。
黙々とデパ地下の客の前で、イカめし弁当用の調理をしている健さん。
阪神タイガースの優勝で大騒ぎしている客を横にして、静かに食事している健さん。
妻の若い頃の写真を、写真館のウィンドウ越に見つけて「コツン」と叩いた健さん。
船のへりから、妻の遺骨を腕まで海中に浸して流した健さん。
ほとんど無口で淡々と表現された寡黙な男の感情を、映画は実に清楚に淡として描いていた。
「こうゆう細やかな心の動きは、他所もンにはわかんねーだろうな」と思って見ていた。
それを日本人の、自分だけの心境として勝手に感動していた。
それが外国の評論家や記者たちに理解されての、今回の受賞は、じつは意外だった。
恐らく、受賞の瞬間に流した健さんの涙は、その意外性に感動されたのだろう。
健さん、この賞は『あなたへ』です。
おめでとうございました。
●8月の二子玉川サンセット傑作座(自宅)上映ベストテン
1/『さらば愛しき女よ』75(ディック・リチャーズ)主演/ロバート・ミッチャム LD ★★★★☆
探偵フィリップ・マーロウの事件を、最高の時代考証と抜群のキャスティングで再現したフィルム・ノワールの秀作。
2/『悪徳』55(ロバート・アルドリッチ)主演/ジャック・パランス DVD ★★★★
人身事故を起こした人気ハリウッド・スターの挙動をめぐって、スタジオや友人、愛人、妻たちが進退をあらわに論争する。
3/『リスボン特急』72(ジャン=ピエール・メルビル)主演/アラン・ドロン LD ★★★☆☆☆
銀行強盗がリスボンに逃亡すると愛人に明かしたことを、三角関係で察知した刑事は大胆で非道な罠を仕掛けるノワール。
4/『間諜最後の日』36(アルフレッド・ヒッチコック)主演/ジョン・ギールグッド DVD ★★★☆☆
英国の軍事秘密の漏洩を探るスパイの活躍と活動の誤算、ほろ苦い恋を交えた巨匠ヒッチコックの鮮やかなラストへの展開。
5/『恐怖の土曜日』55(リチャード・フライシャー)主演/ビクター・マチュア VHS ★★★☆
アメリカ中部の田舎町にある小さな銀行を襲った一味も、ひとりの警官の機転で、意外で劇的な最後を迎えるという傑作。
6/『日本侠客伝・刃』71(小沢茂弘)主演/高倉 健 DVD
7/『モホークの太鼓』39(ジョン・フォード)主演/ヘンリー・フォンダ DVD
8/『シノーラ』72(ジョン・スタージェス)主演/クリント・イーストウッド DVD
9/『キング・オブ・コメディ』82(マーティン・スコセッシ)主演/ロバート・デ・ニーロ DVD
10/『仮面の報酬』49(ドン・シーゲル)主演/ロバート・ミッチャム DVD
●そのほかの上映作品
『ドノバン珊瑚礁』63/ジョン・ウェイン
『猟奇的な彼女』01/クアク・ジェヨン
『ザ・ラケット』51/ロバート・ライアン
『ピース・メイカー』01/ジョージ・クルーニー
『ノー・マーシー』86/リチャード・ギア などでした。
●8月に見た新作試写ベスト3
1/『希望の国』(園 子温)主演/夏八木 勲 ★★★★☆
前作「ヒミズ」の線上とも言える、震災被災による原発危険区域の強制退去で、離散した家族の崩壊を見据えた冷静なドラマ。
2/『ミステリーズ/運命のリスボン』(ラウル・ルイス)主演/アンドリアヌ・ルーシュ ★★★★
僧侶に育てられた少年が辿る出生の謎。19世紀のポルトガルを舞台に、267分という長尺で描いた人生の奈落のような迷宮。
3/『あなたへ』(降旗康男)主演/高倉 健 ★★★★
妻の故郷の長崎の海まで、遺骨を散骨するためにキャンピングカーで旅をする老いた健さんの心の旅路。水彩画のようなドラマ。
★その他に印象に残った傑作は
『思秋期』監督/パディ・コンシダイン
『アウトレイジ/ビヨンド』監督/北野 武
『菖蒲』監督/アンジェイ・ワイダ
『声をかくす人』監督/ロバート・レッドフォード
『危険なメソッド』監督/デビッド・クローネンバーグ・・・・などでした。