●10月29日(月)13−00 六本木<FOX映画試写室>
M−129『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』The Best Marigold Hotel (2011) fox=searchlight participant media.
監督/ジョン・マッデン 主演/ジュディ・デンチ <124分>★★★☆☆☆
夫に先立たれ、借金の返済で家財を消却した初老のジュディは、気分転換に激安のインド・ツアーに参加する。
それぞれに訳ありの、アカの他人のシニアたちが、ロンドンの空港に集合する。
偶然、エアポートのベンチにズラーっと並んだ7人の見知らぬ他人。それがドラマの運命共同体。
「恋におちたシェークスピア」でオスカー受賞のジョン・マッデン監督、快調のオープニングである。
さて、インドの名所旧跡が見られる観光映画と思ったら、いきなり天候悪化で予定便はキャンセル。
しょうがないので、満員の列車で徹夜移動してやっと着いた田舎町シャイブールは、何と貧困の雑居街。
予約した「マリーゴールド・ホテル」も倒産寸前のオンボロ宿屋なのだ。
老後のひとときをエキゾチックな癒しのリゾートで過ごそうとした予定は代理店の広告詐欺だったらしい。
途方にくれたが、帰りの便も金もない。これが、かれらの人生の乗り換え駅なのだ。
まるで「ハングオーバー」のシニア版だが、軽いウィットで徐々に環境に対応していくのもシニアならではの順応性なのだ。
この絶体絶命のピンチを、徐々に乗り越えて行く味わいが、さすがは監督の力量だ。
あの「スラムドッグ・ミリオネア」のパワーと色彩に刺激されて、この落ちこぼれシニアたちは価値観を変えるのだ。
それが映画のテーマで、逆境転嫁こそが、いま求められるテーマ。
ハリー・ポッターのマギー・スミスが、相変わらずの名演で光る。
思わず「旅情」のころのイギリス人感覚は、本当に過去の思い出になってしまった、と嘆きのジュディ・デンチには「慰めの報酬」だ。
■ファール連発のあとにパスボールで、あれれの進塁。
●2013年2月1日より、TOHOシネマズ シャンテなどでロードショー
●10月26日(金)13−00 六本木<FOX映画試写室>
M−128『96時間/リベンジ』Taken 2 (2012) 20th century fox / europacorp, m6 films, grive pro.
監督/オリヴィエ・メガトン 主演/リーアム・ニーソン <92分> ★★★☆☆
3年前の2009年に公開された「96時間」のパート・2。
原題はテイクン。つまり「拉致」。だから、、あまり96時間というタイムリミットとは今回は関係ない。
またしても元CIAの捜査官だったリーアムの元妻と、娘が誘拐された。前作で家族を殺されたアルバニア人の「リベンジ」だ。
リタイアした筈のリーアムは、トルコのお仕事でイスタンブールにいたが、休暇で妻と娘を呼んだのが悪夢の始まり。
前半は、どうでもいいような観光旅行だったのだが、ホテルを出て混雑したマーケットで組織グループに襲われる。
旅行先でのトラブルは、土地勘がないので恐ろしい。
あのハリソン・フォードの「フランティック」の悪夢。しかも元妻と娘が、別々に拉致監禁されたのだ。
ただでさえ迷路だらけのバザールで、さあどうするリーアム。
しかしさすがは元捜査官。小型のケータイや、業務経験の方向感覚で、グループのアジトを突き止める。
それからは「タクシー」シリーズのリュック・ベッソンお得意の大追跡。
しかもフィルム・コミッション大歓迎のイスタンブール・ロケだ。
監督も「トランスポーター」の技ありのスピード・カットでジェーソン・ボーン並みのアクションが続く。
これで、全米ナンバーワンの大ヒットで、前作以上のヒットとなったのは、めでたし、めでたしだ。
家族の愛情。リタイアーおやじ。異境での危機。近代機器とマーシャル・アーツ。
しかも92分にまとめ上げたコンパクトな編集。もはやベッソンはハリウッドの救世外人になったようだ。
試写では、第1作のDVDもプレゼント。FOXさん、どうもありがとう。
■右中間を鋭く抜けるライナーで、走り込みのツーベース。
●2013年1月11日より、六本木ヒルズシネマズ正月ロードショー
●10月25日(金)13−00 六本木<シネマート3F試写室>
M−127『ルーパー』Looper (2012) endgame entertainment / film nation / dmg
監督/ライアン・ジョンソン 主演/ジョセフ・ゴードン=レヴィット <118分> ★★★☆
またしても、何だコリャー、の不思議映画だ。
劇画風といえばそれっきりだが、ワカラナイなりにも面白く最後まで見せるのは、ちゃんとした映画術があるからだ。
「マトリックス」や「インセプション」のタイプの、いわば現次元から遊離した、不可思議な仮想未来。
ただし人間の文化は衰退していて、文明もほぼ横ばいの破綻状態。というのがネガティブなスタンス。
だから、一種のノワールな趣味に溢れた殺し屋の話。
自虐的なモノローグと、ゴミだらけの排他的映像。ま、見物する分には面白い。
30年後の悪を根絶するために、ジョセフは処刑人として、未来から振り落とされた悪人を殺す。
この処刑人のジョセフは「ダークナイト・ライジング」でいい味を見せて、ここでも多彩な風貌を発揮。
ニヒルな笑顔で処刑して、それで得た金塊が収入源。はは、これは「ブレードランナー」の一派か。と気がつく。
大げさなタイムスリップや、奇怪な近未来の世界ではなくて、「第9地帯」のような冷めた視線がいい。
ところが、ある日、殺さなくてはならないターゲットが何と、またもブルース・ウィリスだ。
どうも視線が会った瞬間、あれ、30年後の自分だな、と察した瞬間に、彼は逃走する。
そりゃそうだ。未来の方が、テクノロジーは多少は先行しているので、戦術もスピーディ。
あとは親子の相克と清算のホームドラマ。というと甘いが、これも今風の時空エンターテイメントだ。
ま、アタマの体操を兼ねて、どこまで理解できるか。挑戦するには上出来のサスペンス。
ただしライアン監督の映画の見せ方としては古典的で、50年代と、あまり変わらない未熟な部分も多い。
■大きなライトフライだが、惜しくもファールラインを割って好捕される。
●来年1月12日より、丸の内ルーブルなどでロードショー
●10月22日(月)13−00 六本木<シネマートB−1試写室>
M−126『ディラン・ドッグ/デッド・オブ・ナイト』Dylan Dog (2010) Long Distance films / hyde park entertainment
監督/ケヴィン・マンロー 主演/ブランドン・ラウス <106分> ★★★
イタリアで人気のグラフィック・ノベル・シリーズの映画化。
「ターミネイター4」や「カウボーイ&エイリアン」などのVFXチームが特殊映像を担当したという、おとなのコミック・アクションだ。
旅の疲れのせいか、ウトウトしながらも楽しんだが、これは一種のタイムスリップ・ファンタジー。
気怠い私立探偵のモノローグと、ダークなクライム・ノヴェルの色調が、どうも懐かしくも眠気を誘う。
そう、これは、むかし40年代に見たディック・パウエルの探偵映画のムードなのだ。
ただし、殺人事件を担当していくと、殺害された死体も、死体解剖の担当官も、どうやらゾンビ。
つまり闇の社会に暗躍しているのは、すべてがゾンビたちで、犯罪を犯すのは凶暴なエイリアンなのだった。
新規の「スーパーマン」役者、ブランドンも、まさにあのモノクロ・テレビ・シリーズの気分。
片腕を失ったゾンビのアシスタントを従えて、美女の依頼の事件を追って行く。
闇の核心に迫って行くと、ハリウッドお得意のバンパイアーやモンスターが続々と現れる。
要するに、化け物屋敷にタフなフィリップ・マーロウ気分の探偵が迷い込んだという、お遊び映画。
ま、B級であることは百も承知のエンターテイメント。
正々堂々のスチューピッド・ムービーだから、その気分で楽しむのが礼儀である。
いま、やっと気がついたのだが、もしかして探偵も、ゾンビだったのかも。???。
■ボテボテのサードゴロがイレギュラーして野手の股間を抜けて、エラー判定。
●12月22日より、シネマート新宿などで正月ロードショー
●10月16日(火)13−00 渋谷<ショウゲート試写室>
M−125『グッモーエビアン!』Good Morning Everyone (2012) アミューズ・ソフト・エンターテイメント
監督/山本 透 主演/麻生久美子 <102分> ★★★
名古屋に住む離婚母子家族は、母が若くして生んだ娘なので、姉妹のような仲良し。
高校進学を直前にして、外国放浪していたパンクロッカーの大泉 洋が狭いアパートに居候をはじめた。
母と大泉は、もともと気のあったロックンローラーで、子供のようにジャレあっては毎晩バカ騒ぎ。
これでは高校受験どころではなく、親友も家庭の事情で引っ越しした。
ドラマは、そのヤバい生活環境におかされた少女の視点で、甘辛く描かれる。
ま、フーテンの寅さんがロックンローラーだったという、単純な設定。おかしくも哀しい。
「さくらん」や「ジャージーの二人」で助監督をしていた山本監督のデヴュー作としてはマズマズ楽しい。
このテンポがころころ変わる家族の日常も、そのまま映画のリズムとなる。
そして最後はロックンロールでハッピーエンド。かなり楽天的な生活コメディとして粗雑だが、楽しい。
大泉の悪ノリのロッカーの感覚に、ついて行ければ、楽しめる。
バカ陽気な「名古屋家族」のロック魂。年忘れの忘年会ムービーとして、いいかも。
■きわどいファールで粘ったが、結局はキャッチャーのファールフライ。
●12月15日より、テアトル新宿ほかでロードショー
●10月15日(月)13−00 京橋<テアトル試写室>
M−124『ボディ・ハント』House at the End of the Street (2012} filmnation entertainment / bigger boat pro.
監督/マーク・トンデライ 主演/ジェニファー・ローレンス <101分> ★★★☆☆
久しぶりのB級映画の1級品。上質なサスペンス・ミステリーだ。
離婚したばかりの母と娘は、森林に隣接した激安の一軒家に超して来た。
安い理由は、少し離れた隣りの家で、精神障害のある娘が両親をナイフで殺害した事件があったからだ。
そこには長男の青年がひとりで棲んでいたが、越して来たジェニファーは学校で青年と親しくなる。
誠実で孤独な彼とは、音楽の趣味が合い、次第につきあいは恋に変わる。
しかし青年には秘密があり、家の地下室には、行方不明になっている凶悪な妹をかくまっていた。
ま、設定としては、さすが「ブレーキダウン」のジョナサン・モストウのシナリオは面白い。
要所にコワーいシチュエーションを用意していて、この不気味なドラマは飽きさせない迫力がある。
アカデミー賞ノミネートのジェニファーは、さすがに恐怖のリアクションが巧く、テンションが高まる。
マナーとして、これ以上の展開は書けないが、ベースはヒッチコックの名作だ。
非常にあの名作のポイントを巧くアダプトして、「コレクター」の要素もある。
ドラマの展開の、とくにクライマックスには無理もあるけど、嬉しいのは、この押せ押せのサービス精神だ。
これがハリウッドの正統サスペンスであり、B級スピリット満載。タランティーノ以来、ここ久しぶりの発掘傑作。
■強烈なゴロが左中間を抜けて、悠々のツーベースヒット。
●11月17日より、ヒューマントラストシネマ渋谷でロードショー
●10月11日(木)12−30 築地<松竹映画本社3F試写室>
M−123『東京家族』A Tokyo Family (2012) 松竹映画、テレビ朝日、衛星劇場
監督/山田洋次 主演/橋爪 功 <146分> ★★★★
あの小津安二郎監督の名作「東京物語」の60年ぶりのリメイク。しかも山田監督の50作目の監督作品。
東北の震災のために、シナリオを変更しての、入念なホームドラマだ。
作品の大筋と主要人物は、ほぼ旧作と同じ設定なので、小津作品をご存知の方には非常に懐かしく、感慨深い。
しかし、昔は戦死した次男の若後家、原 節子の役が重要だったが、その部分に次男役を入れて、妻夫木 聡にキャスティングしたところが新鮮だ。
長男は開業医で二児の父なのに、彼は独身のフリーター。
ちょっとドジで、家族の風あたりも強い。老父とも不仲で口をきかない。これが今回のキー・パーソン。
とくに前半は淡々としたホームドラマのパターンだが、旅行中の家で母親が倒れてからが、俄然、山田監督の本領が発揮されてくる。
橋爪の老父も、前半は淡々として、あの笠 智衆の気分だったが、病院のシーンからは、ガラリと気骨に拳がみなぎる。
老後の独り身生活を心配した長男は、東京での同居を薦めるが、「わしはもう、東京には行かない」と言い切る。
そして不甲斐ない次男のガールフレンドの蒼井 優が葬式に登場してからが、この新作の特色がでた。
「この作品を小津安二郎監督に捧げます」というクレジットが、ラストに出た瞬間、監督の自信のほどが伺えた。
リメイクというのは、とかく外野がゴチャゴチャ余計なことを言うのは通例だ。
それも、世界的な名作のリメイク。ただごとではないリスクだ。
しかし60年も時代が流れて、東京も激変した現在。映画も当然のように変化する。
ま、小津さんは、ご自分の映画を、豆腐のようだ、と謙遜していたが、この豆腐料理もまたいいものだ。
■フルカウントからの軽いスイングのレフトの飛球が、そのままスタンドイン。
●2013年、1月19日より、全国公開。
●10月10日(水)13−00 神谷町<パラマウント映画試写室>
M−122『シルク・ドゥ・ソレイユ3D/彼方からの物語』Cirque du Soleil (2012) paramount pictures / reel fx
製作/ジェームズ・キャメロン 監督/アンドリュー・アダムソン <97分> ★★★
あのステージを見ていなかったが、3Dで見られる。
要するにマペット・ファンタジーの発想だろうか、バレエを基本に、各種の室内体操種目、シンクロナイズド・スイミングなどをサーカス感覚で演じる。
おそらくステージとは違って、映画だから、カメラが縦横に演技者の至芸に迫るだろうと期待した。
しかし映画は、まるでビデオ録画のように、全体像としてのショウは見せるが、傍観的。
せっかくの3D効果もなく、ストーリーのない演目が続けられていく。
あの『フェリーニのサーカス』のようなマジカルな視線もない。
やっとビートルズのメドレーで注目したが、ほとんどはアクロバティックな演技の連続。
とくに映画的なアップ手法もなく、ドキュメンタリーでもない。
ステージをナマで見た方には、興奮も伝わるだろうが、この望遠鏡姿勢では迫力はない。
せっかくのイベントだが、天井桟敷の立ち見という印象だったのが残念。
■ファール連発でキャッチャーフライ。
●11月9日より、全国ロードショー
●10月9日(火)13−00 六本木<シネマート3F試写室>
M−121『マリー・アントワネットに別れをつげて』Les Adieux a la Reine (2012) GMT productions / les film du lendemain / 仏
監督/ブノワ・ジャコー 主演/ダイアン・クルーガー <100分> ★★★☆
このところ、リンカーン、シェークスピア、アラン・ポーなどの偉人異伝が多いが、これもまた別の伝説。
1789年7月14日にバスティーユが陥落し、フランス革命が起こった。
同時に優雅な朝を迎えたヴェルサイユ宮殿にも、王妃のほか286人のギロチン処刑の命が届いた。
宮殿は大混乱となり、宮中では自殺者もでた。
当然、筆頭のマリー・アントワネットは覚悟を決めるが、愛するポリニアック夫人をスイスへ脱出させる作戦をたてる。
いわゆる替え玉作戦だが、選ばれたのは、王妃の読書朗読係のレア・セドウだった。
彼女がいわば映画のストーリーテラーで、そのジャーナリスティックな視線。
急転落のドラマは、彼女の視線でヴェルサイユ宮殿の混乱を描いて行くが、映画は意外にクールでサスペンス・タッチ。
監督はここで脚本も書いているが、あくまでセミ・ドキュメンタリーな感覚の演出は、あくまで華美な視線は避けている。
やはり狙いは、「タイタニック」のような、運命というものの突然の混乱と崩壊を見つめて行く。
という意味で、この映画は意外に実直で、まじめに歴史の悲劇を直視しようとしていて驚いた。
フランスではフェミナ賞を受賞したベストセラー小説の映画化。
これもまた歴史のサイド・ストーリーとして、興味深い視点だが、映画は非常にコンサバであった。
■強打と見せかけてサード前に意外なドラックバント。
●12月15日より、TOHOシネマズ、シャンテなどでお正月ロードショー
●10月4日(木)13−00 築地<松竹映画試写室>
M−120『ウーマン・イン・ブラック/亡霊の館』The Woman in Black (2011) squid distribution / u k film institute
監督/ジェームズ・ワトキンス 主演/ダニエル・ラドクリフ <95分> ★★★☆
「メン・イン・ブラック」はエイリアン退治だが、ウーマンのこちらは亡霊退治。
あのハリー・ポッター魔術学校を卒業したばかりのダニエルは、今度は亡霊の棲む屋敷に挑むことに。
しかも妻を亡くして傷心のまま、幼い息子の父親役だが、法律事務所をリストラされそうな可哀そうな役だ。
19世紀末のイギリス。彼は住人のいなくなった孤立した海岸の古い館に、隠された遺書の整理に赴く。
あのヒッチコックの名作「レベッカ」のような、いかにも亡霊の棲みそうなクラシックな屋敷だ。
このテのホラーもののブランドメイカーだった「ハマー・フィルム」が威信をかけての本格ゴシック・ホラーである。
暗い肖像画。こわれた人形。鍵のかかった部屋。動き出す安楽椅子。部屋に棲むカラス。割れた鏡。風のささやき。・・・。
ああ、懐かしいクラシック・ホラーの舞台。
やはりハリー・ポッターのイメージを温存したのか、あの重厚なイギリス・カントリーの異様な屋敷と霧の風景は、いかにも異様でそそられる。
要するに<お化け屋敷もの>の、あらゆるテクニックで、観客を怖がらせようと言う西洋怪談映画。
素晴らしいロケーションの美しさと、不気味なホーンテッド・メゾンの対比が、B級ホラーの真骨頂だ。
一応、その霧のお化け屋敷の撮影は素晴らしく、ハマー・フィルムのブランドの確かさは見てとれる。
ま、伝統的な英国怪談映画の気分は、充分に楽しめる作品ではある。
■ファールで粘って、痛くないデッドボール。
●12月1日より、新宿ピカデリーなどでロードショー