細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『東ベルリンから来た女』の清楚で緊迫のラブ・ロマンス。

2012年11月07日 | Weblog

●11月6日(火)13−00 京橋<テアトル試写室>
M−132『東ベルリンから来た女』Barbara (2012) the match factory / schramm film 独
監督/クリスティアン・ベッツウォルト 主演/ニーナ・フォス <105分> ★★★☆☆
まるでサイレント映画のように台詞の少ないサスペンス充満の恋愛映画だ。
1980年の夏。ベルリンの東西が分断されていた時代の、東ドイツのバルト海岸の町。 
自由思想に憧れた看護婦ニーナは左遷されて、東の秘密警察の監視下での病院勤務にあった。
恋人は西側にいて、彼女を脱出させるために密会していたが、<シュタージ>という秘密警察の執拗な目が光る。
風の音、ひとのささやき、時計の秒針、犬の遠吠え、自動車の通過音、階段の靴音、・・・・。
まるで試写室が、その彼女の心境の低迷を感じさせるような、沈黙のサスペンスが見事だ。
初期のヒッチコックや、フリッツ・ラングのスパイ映画を思わせる、異様な緊張感が続くのだ。
しかしこれはスパイ映画ではなく、美しい感性のロミオとジュリエットのような密会ラブストーリー。
普通なら、最後まで自由思想に憧れて、この禁断の恋を貫く脱出ドラマになる筈だが、・・・これが違った。
まるで北朝鮮と韓国のような背景だが、ニーナの心は、少しづつ社会主義のつつましさにも共感していく。
この大胆な発想が、この新作の鋭さで、早くも次回アカデミー賞外国語部門に推薦選出された。
必ずしも自由主義だけが、人間の幸福を支えるのだろうか。という疑問を囁く新作。
スパイものでも、ラブストーリーでもなく、人間の本質に迫った、異色作だ。

■痛打がファーストのベースに当たってブルペンに転々のツーベース。
●2013年1月下旬、Bunkamuraル・シネマなどでロードショー


●『秋のソナタ』の最悪の家庭崩壊が、10月のベスト。

2012年11月04日 | Weblog

●10月の二子玉川サンセット傑作座(自宅)上映ベストテン

1/『秋のソナタ』77(イングマール・ベルイマン)イングリッド・バーグマン/DVD ★★★★
   世界的ピアニストの母は休暇で実家に戻るが、二人娘の下の精神病が悪化していて、家族の崩壊に愕然とする。

2/『イン・ザ・ベッドルーム』01(トッド・ヘインズ)トム・ウィルキンスン/VHS ★★★☆☆☆
   ひとり息子の突然死が故殺と審判された父は、確信犯を追って復讐殺害する完全犯罪ノワールの異色作。

3/『ボギー、俺も男だ』72(ハーバート・ロス)ウディ・アレン/VHS ★★★☆☆
   もてない中年男ウディは、ボギーの亡霊を友にして友人の妻に恋するが「カサブランカ」のラストを演じる。

4/『恋におちたシェークスピア』98(ジョン・マッデン)グウィネス・パルトロウ/DVD ★★★☆☆
   シェークスピアが「ロミオとジュリエット」を創作中に起こった恋の大騒動を軽快に描いた秀作コメディ。

5/『浮草』59(小津安二郎)中村鴈治郎/VHS ★★★☆☆
   座長の隠し子のいる田舎に、毎年の夏に歌舞伎の巡業に寄る一座は、その夏ついに解散する羽目になってしまった。

6/『拳銃王』50(ヘンリー・キング)グレゴリー・ペック/VHS
7/『旅愁』50(ウィリアム・ディターレ)ジョーン・フォンティーン/DVD
8/『バーン・アフター・リーディング』08(ジョエル・コーエン)ジョージ・クルーニー/DVD
9/『クリムゾン・リバー』00(マチュー・カソヴィッツ)ジャン・レノ/DVD
10/『冬の華』78(降旗康男)高倉健/DVD

★その他に見た傑作
『ララミーから来た男』55/ジェームズ・スチュワート
『ナポリ湾』60/クラーク・ゲイブル
『私の中のもうひとりの私』88/ウディ・アレン
『醜聞殺人事件』52/リタ・ヘイワース
『フラッシュ・バック』09/ダニエル・クレイグ
『クイーンメリー号襲撃』66/フランク・シナトラ
『ミンクの手ざわり』59/ケイリー・グラント
『ハーフ・ア・チャンス』88/アラン・ドロン・・・・などなど。


●『スカイフォール』のボンドは過去最悪のピンチを迎えた。

2012年11月03日 | Weblog

●11月2日(金)13−00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>
M−131『007/スカイフォール』Skyfall (2012) albert k. broccoli eon production / MGM / sony pictures
監督/サム・メンデス 主演/ダニエル・クレイグ <143分> ★★★☆☆☆
何とジェームズ・ボンド映画、生誕50周年。これがシリーズ23作品目という。
はじめて、渋谷のパンテオンで「007殺しの番号」を見てから、嗚呼、もう50年。
いまの渋谷ヒカリエのビルを横目に見ながら、この新作を語るのは複雑だ。
というよりも、これが映画という娯楽興行システムの歴史そのものの変貌なのだ。と、感じた。
あの何やらゲテもの的なスーパー・コミック諜報部員が、いまや超アスリートな特殊工作エージェント。
しかも今回は、巨悪なテロリスト・グループでも、美人スパイや危険暴走国家が相手でもない。
何と、元イギリス諜報部員による、英国秘密情報部の本部組織破壊を狙った陰謀で、ボンドは最悪の危機となるのだ。
まさか、こんな大それたシナリオを御大のイアン・フレミングが書く筈もないが、CIAの一連の内部抗争とテーマは似ている。
試写の際に、ソニー社の方から、この内容の詳細は、まだ伏せておいてください、という指示があった。
だから、この「スカイフォール」事件の詳細は書けない。
監督は99年の名作「アメリカン・ビューティ」でオスカーを受賞しているベテラン。
ボンド役のダニエルとは「ロード・トゥ・パーディション」でジョイントしていたので、さすがに手慣れた演出はシャープだ。
強敵の裏切りの元エージェントは「ノーカントリー」でオスカー受賞の、あの不気味なハビエル・バルデム。
これで、この映画面白くない筈がない。
しかも、ボンド生誕の地「スカイフォール」でのフランチャイズ対決。古城と地の利を活かした壮絶な対決となる。
アカデミー受賞の3人がタグを組んだ入魂の新作は、色事は抜きにした死闘の連続。
これが映画(モーション・ピクチャー)のエンターテイメントとしての醍醐味である。
それにしても、ダニエルは、「ブリット」時代のスティーブ・マックイーンにそっくりになってきた。
撮影はコーエン映画の名手ロジャー・ディーキンス。映像の美しさも、過去最高。文句なし。


■ラインドライブの左中間ライナーがフェンス上部を直撃。俊足のスリーベース。
●12月1日より、日劇ほかで全国ロードショー


●10月の試写は『東京家族』がトップを独走。

2012年11月02日 | Weblog

●10月に見た新作試写ベスト3

1/『東京家族』(山田洋次)橋爪 功 ★★★★☆
   往年の小津安二郎の名作「東京物語」を震災後の現代という世相のなかで、離ればなれで暮らす家族の崩壊と忍耐を諭す。

2/『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(ジョン・マッデン)ジュディ・デンチ ★★★★
   リタイアしたロンドンのシニアたちが、癒しのつもりで旅をしたインドの田舎町は、貧困と混乱と若さが混沌とした異次元だった。

3/『みなさん、さようなら』(中村義洋) 濱田 岳 ★★★☆☆
   東京郊外のマンモス団地に住む少年は、その団地が自分の世界だと決め込んで、広い社会とは隔絶した青春にハマっていたが。

★その他に見た新作の傑作は『ボディ・ハント』ジェニファー・ローレンス
『黄金を抱いて翔べ』妻夫木 聡
『ディラン・ドッグ』ブランドン・ラウス
『96時間/リベンジ』リーアム・ニースン
『ウーマン・イン・ブラック』ダニエル・ラドクリフ・・・・ってとこ。


●『みなさん、さようなら』の閉鎖的でユニークな極私幸福論。

2012年11月01日 | Weblog

●10月31日(水)13−00 六本木<シネマートB−1試写室>
M−130『みなさん、さようなら』(2012)スモーク、トライベッカ、日
監督/中村義洋 主演/濱田 岳 <120分> ★★★☆☆
東京郊外にある巨大団地で青春時代を過ごした青年濱田は、その団地が自分の世界。
すべての生活必要品は団地内で揃うから、外部に出る必要はない。
というのは彼の言い草で、要するに自己中な<ひきこもり症候群>である。
かなり極端なストイック心理を、おもしろおかしく描いて行く一種のシチュエーション・コメディだ。
甘やかされた母子家族で兄弟もなく、学校では変人として、イジメの対象になっているが、本人は悲観的ではない。
1981年の団地ブームには、学校のクラスメイトも107人もいたが、時代につれて友人も減っていき、気がつけばひとりきり。
それでも、彼は「団地」に固執する。
これは久保寺健彦の原作で評判になり、「フィッシュ・ストーリー」「アヒルと鴨のコインロッカー」などの異才、中村監督が撮った。
いつも現実を多少のニヒリズムとコミック感覚で描くこのテーマも、いわば現代の縮図だろう。
すべての生活手段が「コンビニエント」に手近にそろい、ネットで何でも買えるし、メル友も出来る。
だから、引きこもりでも、どうにか生活はできる。
でも、いったい、人生の幸福ってのは、何なんだ。。。。という、テーマが冷たく残る。
秀作「東京家族」とは、対局にある作品だが、この寓話も哀しく恐ろしい。
「みなさん、さようなら」は、学期末に教室で生徒が一緒にいう別れのことば。
家族は破綻し、人生の幸せも曖昧で希薄。ひきこもりの美学も、判るような気がして身震いした。

■微動しないで痛くない自分からのデッドボール。
●2013年1月、テアトル新宿などでロードショー