●7月5日(金)13−00 九段下<角川映画試写室>
M−080『アップサイドダウン/重力の恋人』Upside Down (2011) onyx films / trans films / studio 37 カナダ
監督/フアン・ソラナス 主演/ジム・スタージェス <109分> 配給/角川書店 ★★★☆
実にまあ、恐れ入る夢と勇気のある異色のラブストーリー。
この地球ではなく、ある接近した惑星での話しで、ふたつの重力の違う星だが、その人間世界は貧富の差が激しい。
判りやすくいえば、むかしの東ベルリンと西との接点。または南北朝鮮か。
ジムの星はほぼ廃墟であって、上空に輝く惑星は非常に文化の発展途上。まさにシャイニング・スターなのだ。
異星からの平和的な下請けの産業などで、ジムの惑星はどうにか起動しているが、リッチな惑星に憧れる彼は、上の世界の女性とコンタクトを試みる。
その上空惑星の女性はキルスティン・ダンストだが、ジムは重力の差をコントロールして、上空の星への秘密の階段通路から侵入する。
ま、これは「ロミオとジュリエット」の発想だが、とてつもない宇宙世界での恋。
天空一面をうずめる光の惑星は、非常にミステリアスで美しい。
よく考えると、どうも妙な設定なのだが、それを言ったら、この映画は、バカみたいなのだ。
しかし、ここまで考えたこともない発想を映像化したフアン監督のイメージ表現の努力は素晴らしい。
おそらく宮崎駿ワールドのアニメなら、もっとヴィジュアルにも説得力が出たろう。
と、善意の目で見ないと、この夢想空間ラブストーリーは理解できない。
ファンタジックな、おとなの絵本という余裕の感性を問われる、まさにアップサイドダウンの発想は、面白い。
■打球がドーム天井に当たって、ファールグラウンドに落ちたが、ツーベースの判定。
●9月7日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー
●7月4日(木)13−00 京橋<テアトル試写室>
M−079『ニューヨーク、恋人たちの2日間』2 Days in New York (2012) polaris films / senetor / saga films 仏
監督/ジュリー・デルピー 主演/クリス・ロック <95分> 提供/ニュー・セレクト ★★★
5年前の「パリ、恋人たちの2日間」で好評だったジュリーの連作。
マンハッタンを舞台に、黒人とフランス女性の同棲トラブルを描いたホロ苦いコメディだ。
ま、見た目はウディ・アレンの作品を連想するが、レベルはかなり低い。
問題は、フランス語と英語のディス・コミニケーションのおかしさを狙ったのだろうが、かなりもたついていてイライラする。
それが狙いだろうが、見ている方としては困ったものだ。
というのも、ジュリーが個展をするので、フランスから変な老父と、キレている妹とその恋人も登場。
ただでさえ狭いアパートに赤児もいるのに、この珍客の登場で、まるで雑居家族の混乱となる。
これではDJが仕事のクリスも、自室でオバマ大統領の等身大パネルに愚痴るしかないだろう。
「ロスト・イン・トランスレーション」よりもマズいのは、終始話題が混乱して、しかも下ネタだらけ。
せっかくのおしゃれなシチュエーションも、展開が鈍感なので、結果もすっきりとは笑えない始末だ。
ジュリーは原案、脚本、監督、音楽、主演、などを一手にこなしているが、ちょっと過労気味でごクロウさまだった。。
ふたりだけの話しで充分なのに、変な取り巻きに気苦労する部分が、あまりも多すぎて退屈した。
■ファールで粘ったが、結局はキャッチャーへのファール・フライ。
●7月27日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー
●7月1日(月)15−30 銀座<TCC試写室>
M−078『恋のベビーカー大作戦』La Strategie de la Poussette (2012) Sombrero films / studiocanal 仏
監督/クレマン・ミシェル 主演/ラファエル・ペルソナーズ <90分>提供/WOWOW/ポイント・セット ★★★
WOWOWの「旅するW座」という新企画で、放送に先駆けて全国で順次公開されるという新作。
フランスでは、この春に大ヒットしたというベビー騒動コメディで、これもミスマッチ・シチュエーション。
パリの売れないイラストレイター、ラファエルは彼女に振られた。
失意のどん底のときに、アパートの上階に住むシングル・マザーが入院。
その赤児を預かることになり、彼のグウタラな生活が一変する。
なにしろ乳幼児の育児生活である。当然、清潔にすべき日常はベイビー主体となり、ベビーカーは生活必需品となった。
しかし、そのことで、忘れていた人間への情感が癒されて、彼のライフスタイルも柔和に変化しだした。
ひところハリウッドではやったベビー・ムービーのパターンで、「赤ちゃんはトップレディがお好き」の逆バージョン。
たしかにキューピー人形のような赤児は見ていて癒されるし、当然、ケアしている男の人格も変化する。
1年後に再会したガールフレンドは、元カレの人格の変化で、ハートが揺らぐ。という狙い。
ただし、コメディとしては新味もないし、悪くはないが、驚きもない。
噂のラファエルも、一応難役をクリアしているが、アラン・ドロンの再来という噂ほどではないな。
■当たりそこねのファーストへの凡フライ。
●7月5日より、シネマスコーレ他で、全国順次ロードショー
●6月の二子玉川サンセット傑作座(自宅)上映ベストテン
1/『秘めたる情事』58(フィリップ・ダン)ゲイリー・クーパー<VHS>★★★★
人生の夢に破れた末に、家庭の事情で政界出馬を諦めた初老の父は、娘のアパートのルームメイトに最後の恋をした。枯淡の秀作。
2/『現金に体を張れ』56(スタンリー・キューブリック)スターリング・ヘイドン<DVD>★★★★
周到な計画で、競馬場の金庫からレース中に大金を強奪する男たち。ほんの少しのホツレから、大金は滑走路の風に舞うノワール。
3/『失われた心』47(カーティス・バーンハート)ジョーン・クロフォード<DVD>★★★☆☆☆
恋した男に振られた熟女は精神を病んで入院したが、心の傷は癒されずに、再会した時に相手を殺してしまう、ニューロティック・ノワール。
4/『メイド・イン・L.A.』89(マイケル・マン)スコット・プランク<DVD>★★★☆☆
名作「ヒート」のオリジナルになった監督初期の力作。捜査官と主犯の男同士の心意気が、なぜか任侠映画のような熱気がある。
5/『ダニー・ケイの天国と地獄』45(B・ハンバーストーン)ダニー・ケイ<LD>★★★☆☆
殺されたボードビリアンの一卵性双生児は、兄の霊がときどき体内に入るので、ステージでも抱腹絶倒の二重人格で楽しませる。
6/『追求』45(カーティス・バーンハート)ハンフリー・ボガート/DVD
7/『死の接吻』47(ヘンリー・ハサウェイ)リチャード・ウィドマーク/VHS
8/『幻の女』44(ロバート・シオドマーク)フランチョット・トーン/VHS
9/『ザ・ラインナップ/殺人捜査線』58(ドン・シーゲル)イーライ・ワラック/VHS
10/『泥棒野郎』69(ウディ・アレン)監督/主演/LD
★最近、フィルムノワールDVD/BOXを2セット入手した関係で、どうしてもノワールが多いなーー。
その他に見た傑作
『5枚のカード』68/ロバート・ミッチャム
『追いつめられた男』50/ジョセフ・コットン
『征服されざる人々』47/ゲイリー・クーパー
『ジョニー・イーガー』51/ロバート・テイラー
『ビヨンド・ザ・シー』04/ケビン・スペイシー
『6月の夜』40/イングリッド・バーグマン
『私の夫は二人いる』55/ジャック・レモン
『夜の訪問者』70/チャールズ・ブロンソン・・・・などでした。