細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ミッドナイト・ガイズ』の懲りないジジイたちの弔い合戦。

2013年08月31日 | Weblog

●8月28日(水)13−00 渋谷<ショウゲート試写室>
M−105『ミッドナイト・ガイズ』Stand Up Guys (2012) lakeshore entertainment / lions gate films
監督/フィッシャー・スティーブンス 主演/アル・パチーノ <95分> 配給/カルチャー・パブリシャーズ ★★★☆☆
28年の刑に服役して、老練ギャングのアル・パチーノが出所した。
出迎えたのは、旧友のクリストファー・ウォーケン。
しかし、彼は組織の命令で、その夜のうちに親友を殺さなくてはいけない。もちろん、彼は知らない。
最期の夜は豪勢にステーキを食い、コールガールを抱く為に強壮剤を盗み、ベッドで暴れた。
そしてもうひとりの旧友アラン・アーキンを、老人ホームから助け出して、3人は久しぶりに深い夜の街を暴走した。
年老いたワルガキ3人組は、いずれもアカデミー賞受賞の名優そろい踏みなので、勝手にやりたい放題の自慢芸に酔うのだ。
だから、パチーノは、まるでスーツを着たマクベスのようで、横のウォーケンは呆れて苦笑している。
そして悪友たちの夜は明けて、ミッドナイト・ガイズは決断の朝10時を迎える。
ペキンパの「ワイルド・バンチ」よりは「昼下りの決闘」を思わせるラストは、われら老齢のファンにはジーンとくる。
まさに地味で身勝手なB級トラッシュ・ムービーだが、我々ノワール・ファンには至福のお遊び映画なのである。
大袈裟な、「RED」のようなコミックもいいが、リタイアー・オヤジ達の最期には、こうした思い切りのいい哀愁も似合う。
ラストで、ボン・ジョヴィの唄う「オールドハビッツ・ダイハード」(ジジイは、なかなかくたばらない)がよろしい。

■老練の変化球狙いは、見事に左中間へのゴロのツーベース。
●11月16日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー


●『ウルヴァリンSAMURAI』に宿るヤマト魂の謎。

2013年08月29日 | Weblog

●8月26日(月)13−00 六本木<F0X試写室>
M−104『ウルヴァリンSAMURAI (2013) 20th Century Fox / marvel entertainment
監督/ジェームズ・マンゴールド 主演/ヒュー・ジャックマン <125分/3D> 提供/20世紀フォックス映画 ★★★
マーヴェル・コミックスの「スーパーマン」「バットマン」「スパイダーマン」などの系統の「Xマン」の経路。
ウルフマンが進化して、両手に鋭い刃を秘めたウルヴァリンは不死身のグラヂィエイターだ。
なぜかブロードウェイの人気スター、ヒュー・ジャックマンのお得意の定番キャラクター。
今回は原爆被害当時の長崎で救った実業家の葬儀に喚ばれて、このウルヴァリンが東京にやってきた。
おそらく2020年のオリンピック開催を見込んでの企画だろうが、「ワイルド・スピード」のように都心で暴れる。
ワサ者としては、話題の東京、芝増上寺でのバトル・シーンが見てみたくて試写に駆けつけた。
たしかに見慣れた斎場で、あのウルヴァリンと忍者まがいのヤクザ達との乱闘は奇異である。
ただ監督が遠慮したのか、ほとんどはセットでのCGアクションとなり、後半はハリウッド・コミックの定番となる。
あの「キル・ビル」のような堂々たるオリエンタル悪趣味は控えめで、それがイマイチ不発なのだ。
広島県福山市でのロケも、どうもあの「007は二度死ぬ」の頃と変わらないオリエンタル趣味が目立って興醒めだ。
真田広之との対決は「ラスト・サムライ」の気迫は見せるが、後半の巨大ロボットとに対決となると、ああーーまたか。
ジャパンやオリエンタル・マーケットへのサービスも、かなり具の多すぎたもんじゃ焼きのようだ。

■大きなセンターフライだが、上空で失速して伸びなかった。
●9月13日より、全国ロードショー


●『42/世界を変えた男』に漲るヒューマニズムの原点。

2013年08月27日 | Weblog

●8月26日(月)10−00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>
M−103『42/世界を変えた男』<42>warner brothers / legendary pictures
監督/ブライアン・ヘルゲランド 主演/チャドウィック・ボーズマン <128分> 配給/ワーナー・ブラザース映画 ★★★☆☆☆
1947年の春。ブルックリン・ドジャーズのジェネラル・マネジャー、ハリソン・フォードは決断した。
白人のスポーツだった、メジャー・リーグの歴史に、初めて黒人の選手をラインアップに入れた。
それが名手ジャッキー・ロビンソン。背番号の「42」は、メジャー球団の名誉ある永久欠番となった。
当時の、あの戦後のアメリカの新しいプロ野球界の復興には、どうしても黒人選手と、黒人のファンが欲しかったのだ。
名作「L.A.コンフィデンシャル」でアカデミー賞を受賞した脚本家のブライアンは、あの時代を忠実に再現する。
時代背景となるスタジアムの喧噪はもちろんだが、重要なのは、当時まだ残っていた白人優位主義の大衆感情の表現だ。
9人のメンバーの中でたったひとりの黒人。しかも大観衆もマスコミも他球団も、その都市も、ジャッキーの登場を白眼視した。
「やっと太平洋戦争が終わったのに、球場は南北戦争の最中だ」と、彼はボヤく。
最初の打席。予想されたように、ピンボールが彼の頭上をかすめる。
フォアボールで出塁したジャッキーは盗塁して、セカンドへの暴投を誘いサードに進む。そしてホームスチールだ。
ノーヒットでも1点。これでドジャースのファンも渋々と拍手。
「・・バカな相手の挑発には絶対に乗るな。彼らのレベルで戦っては負けるに決まってる・・」とGMは諭すのだ。
ジーター、A・ロッド、リベロ、そしてイチロー。いまやメジャー・リーガーは多国籍軍なのだ。
その原点を懐かしい時代背景と、新しい視線で描いたヒューマン・ドラマの感動作だった。
現在、歴代の野球映画第二位のヒット中だという。

■レフト・ライナーが意外に伸びてそのままフェンス直撃のスリー・ベース。
●11月1日より、丸の内ピカデリーなど全国ロードショー


●『もうひとりの息子』での異家族息子交換の素晴らしい美談。

2013年08月24日 | Weblog

●8月23日(金)13−00 築地<松竹本社3F試写室>
M−102『もうひとりの息子』The Other Son (2012) Rapsodie Production / Cite Films 仏
監督/ロレーヌ・レヴィ 主演/エマニュエル・ドゥヴォス <109分> 配給/ムヴィオラ ★★★☆☆
先日見た是枝監督の「そして父になる」と同様のテーマだが、こちらの問題は、より複雑だ。
18年前の湾岸戦争時にイスラエルのハイファで出産した男の児が、病院爆撃の混乱で取り違えていた。
テルアビブに住む青年は、兵役検査の血液反応で遺伝子の違いが判り、その深刻な事態が発覚した。
もうひとりの青年は、ヨルダン河西地区の分離壁のパレスチナ国境地区に住んでいることが調査で判った。
問題の解決のために、両方の家族がテルアビブで会うことになったが、ただでさえ国民感情の対立した両親は苦悶する。
宗教、人種、生活感、貧富差、そして歴史的的な民族意識への相克。
父親同士は戦争敵国の意識が強くて一触即発だが、息子同士は、案外に軽い。
この映画の素晴らしさは、この18歳の若者同士の、国際感覚の暖かさだ。
大きなテーマを抱えているが、この若者同士のサッカー感覚のスポーツマンシップが、大きな救いになり感動的だ。
もっと深刻になりがちな深いテーマを、女性監督のロレーヌは、さらりとした優しさで微笑む。
とくに、両方の母親ふたりの母性は、男達の対敵意識を嘲笑するように豊かに感動的なのだ。
「アイデンティティなんて、血じゃねえよ、おれたちの生き方の問題だよ」と笑う息子たち。
現実には、そうは簡単には解決できないテーマだが、大きなヒューマンな感性で描いているのが、この作品の素晴らしさ。
いまのエジプトの混乱を思うと、少し現実離れした美談だが、これが「映画だからできること」なのである。
だから「そして、家族になる」。という印象だ。

■右中間を抜けたシャープなライナーがフェンスを転々。
●10月、銀座シネスイッチなどでロードショー


●『サイド・エフェクト』に滲むヒッチコック・タッチの切れ。

2013年08月21日 | Weblog

●8月20日(水)13−00 築地<松竹本社3F試写室>
M−101『サイド・エフェクト』Side Effects (2013) endgame entertainment / film nation entertainment
監督/スティーブン・ソダーバーグ 主演/ジュード・ロウ <106分> 提供/プレシディオ ★★★☆☆
ニューヨークでのインサイダー取引の罪で牢獄にいた夫が久しぶりに出獄。
迎えた妻は、ノイローゼでウツになっていて、薬物治療を受けていたが、その後遺症で衝動的な自殺未遂を繰り返していた。
そして、ある日、キッチンで突然包丁で夫を刺殺。
しかし彼女には自覚がなく、担当医師のジュード・ロウが事情聴取で拘束された。
つまり、生活苦からの過度の薬物摂取により、副作用(サイド・エフェクト)が事件の真相ではないか、という容疑がかかった。
いま世間一般に起こりうる衝動殺人などの、精神病医薬の過度の接種が問題とされるテーマ。
統合失調症の場合、通常の生活はできるが、精神的に非常にフラジルな状態になりことも多い。
このような問題の映画はヒッチコックの「マーニー」や「めまい」のように、たしかにスリリングで面白い。
しかしポイントが、薬物の副作用なのか、本人の殺意なのかは、なかなか解明は難しい。
ベテランのソダーバーグは、このようなテーマには手慣れた手法で、鋭くカット割りをして飽きさせない。
後半になって、彼女には同性愛の兆候があって、精神科女医のキャサリン・ゼタ・ジョーンズが登場してから、いよいよ面白くなる。
ヒッチコッキアンを自認する当方としては、非常に面白くて、席を乗り出して見入ってしまった。
珍しくカーチェイスもバイオレンスもない、知的で深いミステリー。
ただ巨匠と比較すると、派手な絵造りも、ユーモアもなく、実に整頓された情欲の医薬ミステリーだった。

■計算されたライト線をキレて行くライナーのツーベース。
●9月6日より、TOHOシネマズみゆき座でロードショー


●『トランス』の多重構造サスペンスでアタマもトランスだ。

2013年08月19日 | Weblog

●8月16日(金)13−00 六本木<FOX映画試写室>
M−100『トランス』Trance (2013) fox searchlight / pathe / cloud eight
監督/ダニー・ボイル 主演/ジェームズ・マカヴォイ <109分> ★★☆☆
「こりゃ、何じゃい・・・」という映画がよくある。
自分の知性と映画的想像能力と試聴体力的な限界の範疇を超えた作品。とでも解釈すべきなのだろうか。
だから、悪い、と言っているのではなく、「わしゃ、わからん」という高度なレベルの作品なのだ。
オスカー監督のダニー・ボイルが、先般のロンドン・オリンピックでの映像監督をしていた前後に、これを製作していた。
そのロンドンで、スペインの画家ゴヤの絵画「魔女たちの飛翔」がオークションの会場から消えた。
もともと窃盗グループが計画的に会場から盗む計画で、競売人のマカヴォイと、ギャングのヴァンサン・カッセルが巧妙に仕組んでいた。
ところが実行の途中で、マカヴォイがアタマを強打されて病院に緊急搬送。そして名画を隠していた場所も記憶喪失。
この意外な展開で、事件の真相は失われた競売人の記憶の回復を待つしかない。
ところが記憶に残された鍵で、盗んだ名画の在処を辿ったが、そこには腐乱した女性の死体があった。
発想はミステリーとしては面白く、「華麗なる賭け」や「トプカピ」のレベルかなーーーーと、思っていたが後半は別の展開となる。
「トランス」とは、催眠状態のことらしいが、映画が催眠と錯乱と夢想症状で、しかもテンポが早い。
これは監督の趣味と技量の範疇なので、大体の見当はついていたのだが、猛暑の夏バテに見たから、こちらも「トランス」となる。
多くの窃盗グループの名作の多い中でも、こうも別のストーリー展開になり、ゴヤの名画までがシュールにアニメ化されては、もう参ってしまう。
多重構造の謎解きパズルのお好きな方なら、驚喜するかもしれないが・・・。

■初球ヒッティングで出たが、ベースをオーバーランしてタッチアウト
●10月、日比谷TOHOシャンテなどでロードショー


●『ハンナ・アーレント』が語る、別のアイヒマン・レポート。

2013年08月16日 | Weblog

●8月14日(水)13−00 六本木<シネマートB−1試写室>
M−099『ハンナ・アーレント』Hannah Arendt (2012) heimat films / sophie dulak production 独
監督/マルガレーテ・フォン・トロッタ 主演/バルバラ・スコヴァ <114分> 提供/セテラ・インターナショナル ★★★☆☆
1960年。15年の逃亡生活の末、ナチスの高官アイヒマンが亡命潜伏していたアルゼンチンでイスラエルの諜報部に逮捕された。
ニューヨーク在住のユダヤ人女性で哲学教授のハンナは、かつて戦時下に強制収容所を脱走した経験もあり、裁判の傍聴に赴いたのだ。
それは大時下強制捕虜の被害者としてではなく、平和主義の大学教授としての参加だった。
映画は、その経緯をセミ・ドキュメンタリーなタッチで音楽も廃して、非常に静的に描いて行く。
極悪戦犯というイメージだったアイヒマンは、むしろ小心な凡人であり、大量殺人に関しても総統の命令執行であったと釈明。
戦時下で受けた狂人のような殺人鬼は、実はただのしがない作業人だったことに、ハンナはショックを受けた。
あの狂気の戦争は何だったのか。
ニューヨークに戻ったハンナは、裁判の印象を素直に発言したが、それは多くの知識人たちの反感をかってしまう。
歴史の事実と、個人の関わりについて、あくまで冷静な哲学的私感で発言したことが、彼女の存在を逆に危険な立場にしてしまう。
この作品は、そうした真実と歴史の主観のギャップを追求して、われわれに返答を求めるのだ。
「・・・歴史というものは、時間が解決するものだ・・・」というような曖昧な概念に、この映画は設問する。
あのスタンリー・クレイマーの「ニュールンベルグ裁判」でも描かれなかった戦争犯罪の本質を、ここで問われるのだ。
ま、いまさら、どうして?という疑問もないではないが、映画の真摯なタッチは、その愚問も嘲笑する。
ハンナを演じたバルバラのバイリンガルな好演が光っていて、この作品の品位を支えていた。

■渋いゴロのヒットが左中間を割ってツーベース。
●10月26日より、岩波ホールでロードショー


●『ランナウェイ/逃亡者』が逃げ回る追憶の古傷。

2013年08月14日 | Weblog

●8月12日(月)13−00 渋谷<ショウゲート試写室>
M−098『ランナウェイ/逃亡者』The Company You Keep (2012) voltage pictures / wildwood enterprises
監督・主演/ロバート・レッドフォード 共演/シャイア・ラプーフ <122分> 配給/ショウゲート ★★★☆☆
昨年公開されて好評だった「声をかくす人」の監督ロバート・レッドフォードの久々の本格サスペンスだ。
1969年にピークだった、ベトナム反戦運動の過激派<ウェザーマン>の首謀犯たちは消息を断っていた。
当時は、フラワー・チルドレンたちの反戦ロック活動や、ウッドストックの人気で、こうした反政治活動は地下に潜ってしまっていた。
当局はその後も追跡捜査をしていたが、時間とともに、彼ら反動グループの消息などは風化しつつあった。
ところが最近になって、グループのひとりが40年ぶりに自首したことから、FBIは、また関係者リストを再調査。
名前を替えて、まったく別人として善良な家庭人だったレッドフォードは、身の摘発を逃れて、逃亡を始める。
面白いのは、彼がただ捜査網をかいくぐって逃げるだけでなくて、テロ・グループの主犯だった、元恋人を探すという二重構造。
そこで、まさに「再会の時」のクラス会のように、40年前の反動同士の現在が浮かび上がって来るという、ドラマの面白さ。
あの「コンドル」や「スパイゲーム」で培ったのように、このテのサスペンス演出の鋭い視線は、さすがレッドフォードだ。
その奥のふかい事件構造に興味を持った新聞記者のシャイアが推理して会ってみる古参が、実にいいキャスティングなのだ。
ニック・ノルティ、スーザン・サランドン、クリス・クーパー、リチャード・ジェンキンス、サム・エリオット、ジュリー・クリスティ・・・・。
おお、まさに70年代に活躍したスター達のクラス会のような、壮観な面々を見ているだけで、複雑な回想をしてしまう。
現在76歳のレッドフォードも、恐らくあの「追憶」の実現しなかった「パート2」への思いもこめて情感を連ねていくのだ。
「・・・あのときは<理想>を追っていた・・」
「・・・いや、俺は<可能性>に賭けていた・・・」
青春の反動は、こうして時代を経過してみりと、はかなくも、ただの「追憶」なのだろうか。実に深いサスペンス傑作だ。

■左中間へのライナーが意外に伸びて、フェンスへのツーベース
●10月5日より、新宿武蔵野館などでロードショー


●『ストラッター』の70年代に着たアンティーク・ジーンズの感触。

2013年08月13日 | Weblog

●8月8日(木)13−30 六本木<シネマートB1試写室>
M−097『ストラッター』Strutter (2012) Allison Anders / Kurt Voss / french fanclub
監督/アリソン・アンダース&カート・ヴォス 主演/フラナリー・ランスフォード <87分>B&W 提供/フルモテルモ、オデッサ・エンターテイメント ★★☆☆
低予算で無名の役者を使い、監督が制作、脚本を書いてハンディ・カメラで撮りまくる。
よくあるインディ・ムービーの典型で、商業映画としてのバックアップは少ない。
そんな悪条件でも、映画を作りたがるムービー・フリークの若者は多い。
「イージー・ライダー」や「ファイブ・イージー・ピーセス」「パリ、テキサス」なども、発端はそのプロセスに似ていた。
この作品も、タランティーノやイーサン・コーエンなど、インディーズの先輩たちの協力で作られたというロードムービー。
問題は、そのテーマの本質に、何か新鮮な起爆剤があるのか、どうか、だろう。
敢えてモノクロームで撮影されたこの映画にも、たしかに映画的な初心のもどかしさは見られる。
でも、いかんせん、このテーマ、失恋と迷走のロック・アーティストというには、あまりにも生彩がない。
70年代の、あの反戦ヒッピーズのパワーもなく、ただ無毛の砂漠をあてもなく徘徊するのでは、困りものだ。
タイトルは「気どり屋」なそうだが、むしろ「ドリフター」ではないだろうか。
あの時代の、懐かしい8ミリ・ホーム・ムービーを見ているような寂しい印象だった。

■ファールを連発したものの、ボテボテのセカンドゴロ。
●9月14日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー


●『許されざる者』で満を持した道産子ウエスターンの怒りが爆発する。

2013年08月11日 | Weblog

●8月8日(木)10−00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>
M−096『許されざる者』The Unforgiven (2013) warner brothers / Nikkatu / Office Sirous
監督/李 相日 主演/渡辺 謙 <139分>配給/ワーナー・ブラザース映画 ★★★★
ご存知、クリント・イーストウッド監督・主演、1992年のアカデミー作品賞受賞の同名作品の完全日本映画リメイク。
かなり不利なリスクを背負っての再映画化だが、中々に充実した力量のある秀作だ。
アメリカの西部開拓時代を、ここでは明治時代の初期の北海道に舞台をアレンジ。
幕府の討伐隊が、落ち武者の敗残サムライたちの撲滅のために、未開拓の北海道奥地にも武力制裁をしていた。
それに便乗してか、とくにアイヌ先住民への虐待や、女郎宿への横暴な取り締まりなど、その暴挙は無法な男たちによって横行していた。
子供たちを養う金にも困った農夫の渡辺謙は、旧友の柄本明の誘いで、逃亡犯の懸賞金目当てにマンハントに出かける。
ストーリー展開は、ほぼオリジナルと同様のペースだが、次第に、開拓の警察権力の横暴な圧政に反発を感じて行く。
悪役の佐藤浩市が、いかにも横暴で傍若無人な振る舞いで、ドラマを引き締めて行く。
われわれはオリジナルのペースを認知しているので、展開に無理は感じないが、そこは名作「悪人」の監督。手抜きはしない。
重厚な時代考察と、広大なロケーション効果も、大スクリーンに堂々とした風格を見せつける。
とくに、ごく善良だった農夫の渡辺謙が、次第に怒りをあらわにして、同友の柄本の殺害を知ってからの怒りは凄まじい。
懐かしい東映任侠映画での、ラストの討ち入りに似ていなくもないが、そこはストレートなクライマックスとして爆発。
素晴らしいのは、その炎上する修羅場を見向きもしないで歩くフルショットと音響と、音楽の洗練さだ。
この作品を見たクリント・イーストウッドは「まさに新しい日本映画の登場」と絶賛したという。
たしかに、ここ最近に見た日本の時代劇映画として、堂々の風格と度量を見せつけた入魂の一作に違いはない。あっぱれだ。

■期待通りのフルスイングで、バックスクリーン直撃弾。
●9月13日より、新宿ピカデリーほかで全国ロードショー