細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ギャロウ・ウォーカー・煉獄の処刑人』の凄惨なるゾンビ・ウェスターンの末路。

2014年02月28日 | Weblog

2月26日(水)13-00 六本木<シネマートB-2試写室>

M-022『ギャロウ・ウォーカー/煉獄の処刑人』The Gallow Walker (2012) Boundless Pictures / Jack Boyer Films

監督・アンドリュー・ゴス 主演・ウェズリー・スナイプス <90分> ★★☆

ついに登場したゾンビ・ウェスターンだ。といっても、タランティーノの「ジャンゴ」だって、まるでゾンビ映画のようだった。

久しぶり、3年ぶりのウェズリーは、こめかみが白くなったが、相変わらずの体型で登場するが、話は「キル・ビル」の続きのようなメキシカン・マッドネス。

実に殺風景な砂漠のホッ立て小屋だけが舞台の、殺伐な復讐ガンマンの撃ち合いは、久しぶりのマカロニ・ウェスターンの気分で嬉しい。

しかし大したストーリーはなく、ただ殺した筈の悪人たちが、白眼のゾンビとなって復讐に現れるだけで、その関係はよくワカラナイ。

あのクリント・イーストウッドの「荒野のストレンジャー」ほどの、しっかりした執念の美学があるわけでもなく、やたらと血しぶきや首が飛ぶ。

一種の俗悪B級コミック・ウェスターンなのだが、いくらウェズリーが凄んで見せても、肝心の悪漢たちに大して凄みも魅力もないので、ワンマン活劇なのだ。

何か60年代の、遅れて来たマカロニの気分なので、こちらも場末の深夜劇場の、あのトラッシュ・ムービー3本立てのノリで見るしか救いはない。

せめて、アントニオ・バンデラスのような強面が、この砂漠の亡霊として登場したら、もう少しは見栄えがしたかも。

 

■大振りのファースト・ファールフライ。

●近日公開。v


●『ミスターGO!』の強打者ゴリラの痛快な野球コミック。

2014年02月27日 | Weblog

2月24日(月)13-00 青山外苑前<GAGA試写室>

M-021『ミスターGO!』Mister Go ! (2013) showbox / media plex / dexter films 韓

監督・キム・ヨンファ 主演・シュー・チャオ <133分> 配給・ギャガ ★★★☆

むかしから野球大好きファンとしては、これがゴリラの代打ホームラン・バッターという、天下のゲテもの野球コメディは承知で、とにかく試写室に駆けつけた。

中国の吉林省の大地震で、地元のサーカス小屋も倒壊して、ゴリラのミスター・GOは怪我をしながらも飼育係の少女シューを助けた。

しかしサーカス団は解散となり、困ったシューは、普段からボール打ちの得意な、親友老ゴリラを韓国の球界最下位のベアーズにテストを受けさせた。

日頃から、野球のボールは片手で軽く150メートルは飛ばせる反射神経を持っているゴリラの<ミスター・GO>は、さっそく代打で登場して逆転ホームランを打つ。

これは違法ではないか、と、韓国の各プロ野球チームは抗議するが、ゴリラを代打にだしていけないというルールはない。

とうとう最下位チームは勝ち続けて、リーグの上位まで進出したので、とうとうわが中日ドラゴンズのオーナーのオダギリ・ジョーまで球場に視察にくる始末。

要するに、名作「キングコング」のアイデアを、あの「TED」のスペシャル・エフェクトの処理で見せるという魂胆なのだ。

だからゴリラの動きや、毛並みや表情は、まったく違和感がなく、おまけに縦横に飛び回るカメラワークも、「ゼロ・グラビティ」も顔負けのテクニック。

とくにキム監督はトゥサン・ベアーズの大きなスタジアムを、まるでバード・アイのような飛行ショットで満員のスタジアムの興奮を捉えるので、目が離せない。

ついに、優勝を争うライバル・チームは、負けじと抜群のスピード・ボールを投げるゴリラ投手を急遽登板させて、異例のゴリラ対決となるのだ。

ま、そんな具合なので、いちいち作品に文句を言うのもアホらしい。これは野球ファンの悪夢である。と判断して楽しむべきCG・エンターテイメント。

だから、横浜ベイスターズには、ぜひ代打要員として、今年は韓国ベアーズからスカウトして欲しい強打者である。

 

■強打でボールがグラウンドに四散してしまって、とにかくはヒットというジャッジ。

●5月24日より、渋谷シネマライズ他で開幕ロードショー 


●『大人ドロップ』の青春の甘くも苦みなドロップ味。

2014年02月25日 | Weblog

2月20日(木)13-00 日比谷<東宝映画本社11F試写室>

M-020『大人ドロップ』(2014) TOHO, Bandai Visual, / Asatsu DK / Sony Music

監督・脚本・飯塚 健、 主演・池松壮亮 <119分> 配給・東宝映像事業部 ★★★☆

高校3年生の夏休み。青春の「おもいでの夏」を描いた樋口直哉2007年の小説を、なかなか好感の持てるタッチで描いた新作。

つい先日見た、妻夫木クンの「ぼくたちの家族」で、多感で動きのいい弟役を好演していた池松少年がここで主演しているので,やっぱり観ることにした。

ストーリーは学園ものにありがちで、少年が大人に脱皮しようとして、見るも悲壮な思いをして女子の同級生にアプローチする滑稽なサマをスケッチ。

しかし奥手な友人の手助けをして、代打で声をかけた橋本 愛に誤解されて、その作戦は意外な展開となる。そのドタバタが軽快でいい。

かなり乱暴で「不良番長」風のヤクザな言葉を使うくせに、本心は非常にフラジルな青春の本音が、教室を出て、夏休みの田園へとロードムービーの様相となるのだ。

お話は、彼女が家庭の事情で退学して、故郷の伊豆の河津に帰ってしまったので、このドジな男ふたりが追いかけて行く。そののどかな車窓のドラマが意外な展開となるのだ。

こうなると主人公のキャラの魅力が、この作品の出来を左右するのだが、この池松少年の魅力が実に微妙なアブナさがあって面白い。好演だ。

一応は、青春の学生団体劇のスタイルを持ちつつも「桐島、部活を・・・」のような、一触即発の青春らしい夏の日々を見せて行く。

監督自身がシナリオと編集をしているので、そのアヤフヤな感情の揺れが、カメラを自由に揺らしていて共感を呼ぶ。

「肝油ドロップ」が、この青春のひとつのシンボルとして描かれているのも、やっぱり、平成なのだろう。

たしかに、誰にだって、あの曖昧なドロップ風味の青春期はあったのだから、逆にあのホロ苦さが、妙に懐かしくも思えた2時間だった。

 

■意表をついた狙いのプッシュ・バントが、投手の頭上を越えたラッキーなヒット。

●4月4日より、新宿ピカデリーなど全国ロードショー

  

●『8月の家族たち』の壮絶な老母と娘の実戦バトル。

2014年02月22日 | Weblog

2月18日(火)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-019『8月の家族たち』August, Osage County (2013) the weinstein company / battle mountain films

監督・ジョン・ウェルズ 主演・メリル・ストリープ <121分> 配給・アスミック・エース ★★★

昨年、アカデミー賞に輝いた「アルゴ」のチーム・リーダー、ジョージ・クルーニーが制作した女系ファミリー・バトル。

どうせならクルーニーが演出した方がよかったのに、テレビの『E.R.』以来の友人だというジョン・ウェルズに任せたのが失敗のもと。

ピュリッツアー賞と、トニー賞も受賞したという戯曲の映画化だから、マイク・ニコルスやシドニー・ルメット級ならば消化できたであろう難題だ。

オクラホマのオセージ広原の中にある木造の旧家だけが舞台。そこの老家長だったサム・シェパードが失踪して、死体で発見された。

突然の訃報に、老妻のメリルもかなりのストレスを抱えた精神衰弱で、クスリ漬けのイライラ状態なのに、気丈な娘のジュリア・ロバーツなどが葬式にやってきた。

テーブルについたのが、クリス・クーパー、ユアン・マクレガー、ジュリエット・ルイス、ダーモット・マローニー・・・・などなどオールスター。

これが、テネシー・ウィリアムズや、ユージーン・オニールのような壮絶な<英語団体劇>を演じるのだから、本格ステージ・ファンには見ものである。

ところが、ボルテージの上がった名優たちが、とりわけ主演の女優二人が中心になって、目一杯のケンカ腰でテンションをあげるものだから、見ているこちらは凄惨な女性家庭争議の餌食となる。

しかも、ユアン以外は、自己主張が激しいものだから、ドラマはほとんどが口論劇となって、あの「ヴァージニア・ウルフ・・」のような<映画的な>映像の息抜きがないのだ。

とくに、今年のアカデミー主演と助演女優賞にノミネートされているメリルとジュリア・ロバーツの取っ組み合いの実践バトルは、もうヘキヘキ。

クリフォード・オデッツを思わせる女性たちのパワー激突は、たしかに演技以上に俳優たちの役者根性を見せ合って壮絶だ。

しかし、これは映画としては、もう目のやり場のない女傑バトル状況なので、2時間はヘキヘキであったのが実感だ。

 

■強打のファール連発のあとは、セカンド・ライナー。

●4月18日より、TOHOシネマズ・シャンテなどでロードショー 


●『キネマ旬報・アカデミー賞予想座談会』本日発表です。

2014年02月20日 | Weblog

2月20日(木)8-00・速報

『第86回アカデミー賞・予想座談会(前編)』(1月30日・18時開催)

出席・渡辺祥子、襟川クロ、細越麟太郎 <会場・キネマ旬報4F会議室> 120分

恒例で、もう18年くらい継続している、こん3人での「キネマ旬報」誌の座談会の詳細が、本日発売の「キネマ旬報」3月上旬号に掲載された。

当日の会談の詳細には、それぞれの選出理由が語られているので、詳しくは書店で掲載誌(表紙・松山ケンイチ)でお読み下さい。

実話ものの映画化が流行で、その強みを語り合いました。

わたしの希望的な予想では、文句なくSF3Dの「ゼロ・グラビティ」の各10部門圧勝ですが、この「予想」というのは、個人的な趣向では通用しません。

7000人ともいわれるハリウッドのアカデミー会員の、これからの最終投票で決定して、結果は3月3日(日本時間)にテレビ中継で発表されます。

そのことで、アカデミーのメンバーである映画関係者のことしの命運が左右しますが、もちろん、日本での興行成績にも大きく作動します。

その結果は、ともかく、当日までは厳重な秘密管理にあって、多くの予想は裏切られます。その背景はハリウッドの機密。

というワケで、わたしの、今回の予想です。これは、くれぐれも、わたしの好みではなく、あくまで「予想」です。

 

★作品賞・・・・・『それでも夜は明ける』

★監督賞・・・・・アルフォンゾ・キュアロン<ゼロ・グラビチィ>

★主演男優賞・・・マシュー・マコノヘイ<ダラス・バイヤーズクラブ>

★主演女優賞・・・ケイト・ブランシェット<ブルー・ジャスミン>

★助演男優賞・・・ジャレッド・レト<ダラス・バイヤーズクラブ>

★助演女優賞・・・ルピタ・ニョンゴ<それでも夜は明ける>

 

●結果についての弁明は、3月の反省座談会で・・・。


●『ぼくたちの家族』の壊滅状態からの爽やかな脱出日記。

2014年02月18日 | Weblog

2月17日(月)13-00 六本木<シネマートB-1試写室>

M-018『ぼくたちの家族』(2013)Fantom Films、RIKI プロジェクト、ホリプロ

監督・石井裕也 主演・妻夫木 聡 <112分> 配給・ファントム・フィルム ★★★☆☆

なにしろ、昨年の邦画ベスト「舟を編む」の石井監督の新作なので、試写室も早々に満席補助椅子の盛況だ。

しかしお話は、どこか「東京家族」に通じる構図で、4人家族一家の主婦の原田美枝子が、どうも変。ときどき記憶が飛んでしまうらしい。

夫の長塚京三のこの家族は、借金で買った郊外の家に住むが、近くの病院で診断の結果、妻の脳腫瘍が見つかり、突然の入院。

結果は1週間の様子待ち。病状結果が曖昧なのに、長男の妻夫木は妻の妊娠と、会社内での浮遊状態でイライラしてしまい、大学留年中の弟も放心状態となる。

つまり、この4人家族は母親の大病入院で、崩壊寸前となったのだ。それもオヤジが借金だらけで発言力がないのがテーマを浮遊させるのだ。

この最悪の状態を、さすがに石井監督は、いまの若い感性で映像の淡々とした空気感で描いて行くリズムが、さすがに巧い。

おまけに母親のサラ金のカードが沢山出て来て、この家はもう完全に赤字火だるま家族ということが発覚。

それでも長男は、会社をサボって病気の真実を知るために病院を奔走して、どうにか都内の専門病院に再検診のセカンド・オピニオンへの道を見つけて行く。

ドロドロの家庭状態の中でも、かすかな絆を見つけていくという美談は、ま、累計的ではあるものの、いまの家庭にはどこにでもある縮図。

それを、現実味のある会話と沈黙で見せて行く、この石井監督の感覚は、とても好漢が持てた。

昭和の、あの小津映画のような節度のある家族ではないが、確実に愛情に支えられているという温度は、ラストまで心地いい。

<泣きの妻夫木>も涙をこらえて、どうにか、がんばって生きて行く。この借金だらけの「東京難民家族」にも、まだ救いが残っている後味が、とてもさわやかだった。

 

■ボテボテの左中間のゴロだが、かろうじて野手の間を抜けてツーベース。

●5月24日より、新宿ピカデリーなどでロードショー 


●『プリズナーズ』のクールなカメラによる少女失踪事件の真実。

2014年02月15日 | Weblog

2月12日(水)12-30 東銀座<松竹映画3F試写室>

M-017『プリズナーズ』Prisoners (2013) alcon entertainment / mad house entertainment

監督・ドゥニ・ヴィルヌーヴ 主演・ヒュー・ジャックマン <153分> 配給・ポニー・キャニオン ★★★☆☆☆

最近、とくに少女が突然に行方不明になる事件が日本でも多い。そのケースはまちまちだが、両親にとっては最悪の悲劇となる。

この映画もペンシルヴァニアの郊外の住宅地で起こった、ふたりの少女の失踪誘拐事件を、不幸な家族からの視点で描いている。

11月の終わりの寒い感謝祭の日。ふたつのご近所家族がささやかなパーティをしていた午後。ふたりの少女が外に出たきり消えてしまった。

父親のヒューとテレンス・ハワードは、すぐに近所の住宅街を探すが、降り出した雨で、誰も外出などはしていない。

一台のキャンピングカーが森の路上に止まっていたので、ヒューは不審に思って、ドライバーの青年をパトロール警官に突き出した。

しかし警官のジェイク・ギレンホールは、その青年が10歳程度の知能の障害者なので、すぐに釈放してしまった。で、・・・事件は迷宮入り。

素晴らしいのは、今年もアカデミー撮影賞に、この作品でノミネートされているロジャー・ディーキンスのカメラで、まさに捜査の視点で周囲を凝視する。

そのカメラ目線が秀逸で、この作品の知的なレベルを上げているのだ。これでは、2時間半もの上映時間も飽きさせない。

非常にクールなカメラは「羊たちの沈黙」のようでいて、「ノー・カントリー」「バーバー」の、彼の過去の映像レベルを、より鮮烈にして美しい。

事件は「エンド・オブ・ウォッチ」のジェイク刑事の執拗な捜査で、意外な展開を見せて行くが、非常に達者な脇役が揃っているので、見事なのだ。

ただ、ひとり、ヒュー・ジャックマンだけが、「Xメン」と同じように過剰に力演するので、せっかくの知的ノワールのムードが損なわれているのが、残念。

とはいえ、最近見た犯罪映画では、抜群のテンションを維持した傑作ミステリーである。とくにラストのカットが秀逸。

 

■シャープなライナーが、ダイレクトにレフトのフェンス上段を直撃のスリーベース。

●5月3日より、丸の内ピカデリーなどでロードショー 


●『泥棒成金』のデジタルで色あせぬヒッチコック美学。

2014年02月12日 | Weblog

2月10日(月)14-00 新宿ピカデリー劇場・11番スクリーン

M-016『泥棒成金』To Catch a Thief (1955) Paramount Pictures / hitchcock trust. all rights reserved

監督・アルフレッド・ヒッチコック 出演・ケイリー・グラント、グレイス・ケリー <106分> 提供・コミュニティ・フィルムセンター ★★★★

<ヒッチコックとブロンド・ビューティ>という企画で、3本のヒッチコック映画が、デジタル・リマスターでビッグ・スクリーンで、また見られる。

これは、ヒッチコッキアンにとっては外せない。どうしても、また大きなスクリーンで見たい。

本当は「めまい」を見たいのだが、なぜか夜の回のみの上映なので、それでは、と、こちらで我慢した。

月曜日の午後2時だというのに、ピカデリーの11番スクリーンは、ほぼ満席の状態だ。多くのシニアに混じって、若いカップルの姿も多いのには驚いた。

この映画を初めて見たのは、まだ高校生の頃で、盛岡市の中劇だったが、その面白さに魅了されて、渋谷の東急名画座や、テアトルハイツでも見た。

これまでもベータマックスや、VHS、LD, DVDでも入手して、もう数十回は見ている作品なのに、やはりでかいスクリーンで、また見たい。

これって、何なんだろう。と、疑心暗鬼で見ていたが、これはもう、あのケイリー・グラントとグレイス・ケリーが、呼吸している・・・という実感なのだ。

もう、この美男美女はとっくに、この世にはいない。見ているのは、ただの映画の記憶なのだ。しかし自宅のDVDとは違う。

それは、フレンチ・リビエラの海の風や花の香りを、この大きなスクリーンで見ていると、なぜか思い出すのだ。

グレイス・ケリーがまだモナコの王妃だった時代に、いちどモナコの崖の上をドライブしたことがある。そのときの風を感じたのも、このスクリーンだ。

やはり、映画は大きなスクリーンで見なくてはいけない。そんな当然、判りきっていることを、この時間に痛く知らされた。

ヒッチコックの話術の巧さは、細かな捨てカットにも意味を持たせていて、改めて感服した幸福な時間だった。

 

■見事なバックスクリーンへの美しいホームラン。

●4月14日まで、新宿ピカデリーなどでロードショー 


●『パンドラの約束』それでも原発は必要なのだ、というドキュメント。

2014年02月10日 | Weblog

2月7日(金)13-00 東銀座<松竹映画本社3F試写室>

M-015『パンドラの約束』Pandore's Promise (2013) Impact Partners / Balcan productions + CNN films

監督・ロバート・ストーン 出演・ジェーン・フォンダ、スチュワート・ブランド他 <87分> 提供・フィルムヴォイス ★★★

都知事選挙も、結局は原発廃止の徹底推進の細川+小泉組が惨敗した。

このドキュメンタリー・フィルムは、もともと環境保護派で、とくに原発徹底廃止論のロバート・ストーンが、多くの国の放射能を観察。

もともとは地球温暖化の原因を追求しようという作為が、福島の事故以来、とくに原発の事故の現状をチェルノブイリの現在と平行して取材。

先日の読売新聞でも、この映画の作為のバックグラウンドが紹介されたせいもあってか、試写室はまるで永田町の議員会館のようなグレイスーツばかり。

というのも、世界の放射線量を調査した結果、原発事故とは関係のないデータが出た事と、それ以上の電力による文化度の進行格差が浮き彫りになったのだ。

結果、世界の文明発展進度は、もちろんそこの国や都市の電力消費量の格差が歴然となったのだ。

水力も、火力も、風力も、太陽光も、現在の巨大な消費都市のスケールには、とても追いつけない。そして多くの知識人の発言にも矛盾が多発したのだ。

巨大国は競ってエネルギー開発をしているが、ロシアの原子力エネルギーの半分は、アメリカ政府が平和的に買い上げているのだという。

つまり原子エネルギーも、自国の電力供給だけでなくて、世界の市場で貿易されて、平和的に活用されているという、この不思議な現実にストーンは主観を変えた。

始めは地球温暖化の根源は、過剰なエネルギー開発だったのだが、この世界の文化振興を支えているのは、つまりは電力なのだ、ということになる。

ソチの冬期オリンピックだって、あの華やかさは、すべて電力であり、当然、われわれの日常も、こうして電力に異存していることに変わりはない。

いろいろな知識人が作品のなかで語るが、もちろん結論はない。映画もその結論は、見た人の英知に任せるように、多くは語らない。

映画にも出た渋谷のスクランブル交差点の賑わいは世界一だが、これだけの人的な交通量があったら、これも電力になるだろうと余計な事を考えてしまった。

 

■ショート頭上へのライナーだが、伸びが足りなくキャッチ。

●4月19日より、渋谷シネマライズなどでロードショー 


●『とらわれて夏』の懐かしいあの夏の終わりの感傷。

2014年02月07日 | Weblog

2月5日(水)13-00 神谷町<パラマウント映画試写室>

M-014『とらわれて夏』Labor Day (2013) paramount picture / indian paint plan 

監督・ジェイソン・ライトマン 主演・ケイト・ウィンスレット <111分>配給・パラマウント・ピクチャーズ・ジャパン ★★★☆☆

邦題の感傷的な視線で見ると、これも「おもいでの夏」の系統かもしれないが、原題の「レイバー・デイ」は勤労感謝の日、みたいなもの。

アメリカでは8月の終わりの国民休日で、キム・ノヴァックの出た名作「ピクニック」を思い出す。つまりアメリカでは年度代わりの節目で、よくドラマになった。

ウィリアム・インジの「ピクニック」は戯曲で、非常にドラマティックだったが、こちらは離婚によるメンタルな障害を持った母を見つめる少年の視線。

ニューハンプシャーの田舎町に、脱獄して負傷している中年男が、その母子家族の家にかくまってもらう5日間をセンチメントに描いたもので、犯罪映画ではない。

しかしその指名手配犯はテレビでも報じられていて、それを承知で微妙な情愛の経過となるのは、戦後よくあったニューロティックなフィルム・ノワールに似ている。

ロバート・ライアンとアイダ・ルピノ主演の「Be Careful Stranger」や「危険な場所で」のようなサスペンスが臭うが、ここでは少年の無垢な視線がフィルターとなっている。

だから、ジェイソン・ライトマン監督としては、お得意の「JUNO・ジュノ」のような、アメリカン・ファミリー・ドラマとしての節度を保ちつつ、サスペンスの味付けは微妙だ。

しかも母親役のケイトは例によってナーヴァスな演技によって、ドラマの健全さを危うくしていて、そこがゴールデングローブ賞でもノミネートされた。

残念なのは逃亡犯のジョシュ・ブローリンで、「ショーシャンクの空」のティム・ロビンスの「逃亡者」としての妻殺し容疑者ほどのデリカシーが伺えないのだ。

だから、どうしてもあの70年代の頃のテレビ・シリーズのような視線に見えてしまう。だから質感はとても懐かしくもあり、もどかしさも伴ってしまうのだ。

ただ、ラストでハッピーエンドを用意したライトマンの気遣いには、彼らしいやさしい視線があって、好印象なホームドラマに着地しているのは、さすがだ。

 

■セカンド頭上のフライだが、幸運にもグラブをかすめたヒット。

●4月下旬より、日比谷シャンテシネなど全国ロードショー