細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●いまこそスクリーンで見たい『アメリカの友人』が6月のサンセット座ベスト!!

2015年07月11日 | Weblog

6月の二子玉川サンセット傑作座<自宅>上映ベストテン

 

*1・『アメリカの友人』77(ヴィム・ヴェンダース)主演・デニス・ホッパー LD ★★★★☆

   贋作画家と額縁商人と、その密売人の奇妙な関係を、パトリシア・ハイスミスのトム・リプリーを中心に描いたスクランブル・サスペンスの妙。

 

*2・『サンシャイン・ボーイズ』75(ハーバート・ロス)主演・ウォルター・マソウ VHS ★★★★

   かつて40年もコンビだったブロードウェイの老コメディアンが数十年ぶりに組まされたイベントで、生死をかけた口論の果てに掴む本当の友情。

 

*3・『ファーゴ』96(ジョエル・コーエン)主演・フランシス・マクドーマンド LD ★★★★

   ノース・ダコタの田舎町で起きた、いかさまディーラーをめぐる殺し屋たちの事件を担当したおばさん警官の、想像を絶する大活躍をコーエン兄弟が描いた奇作。

 

*4・『フリック・ストーリー』75(ジャック・ドレー)主演・ジャン=ルイ・トランティニアン VHS ★★★☆☆☆

   凶悪非道な殺人犯が脱走して、アラン・ドロン刑事が追うが、クレバーで冷静なジャン=ルイは当局の捜査網を巧みにかいくぐる。上質なフレンチ・サスペンス。

 

'*5・『女相続人』49(ウィリアム・ワイラー)主演・オリビア・デ・ハヴィランド DVD ★★★☆☆

   膨大な遺産を相続した中年独身女性のところに、ハンサムな青年モンゴメリー・クリフトが言いよってきたが、恋におちた老嬢は悩んだ末に、彼を拒絶してしまう。

 

*6・『イヤー・オブ・ザ・ガン』91(ジョン・フランケンハイマー)シャロン・ストーン

*7・『生存者からの電話』50(ジーン・ネグレスコ)ベティ・デイビス

*8・『白い肌の異常な夜』71(ドン・シーゲル)クリント・イーストウッド

*9・『ジャッキー・コーガン』12(アンドリュー・ドミニク)ブラッド・ピット

*10・『長い夜』47(アナトール・リトヴァク)ヘンリー・フォンダ

 

その他では『フォローイング』99(クリストファー・ノーラン)

『拳銃魔』49(ジョセフ・ルイス)

『ボディ・アンド・ソウル』49(ジョン・ガーフィールド)

『800万の死にざま』86(ジェフ・ブリッジス)

『カッスル夫妻』49(フレッド・アステア)・・・などでした。

  


●豊作の6月の試写は、アンダースン美学が秀逸でした。

2015年07月10日 | Weblog

6月に見た新作試写ベスト5

 

*1・『さよなら、人類』(ロイ・アンダースン)主演・ホルガー・アンダースン ★★★★☆

   ブラック・ユーモアで描かれた人間模様のおかしさと哀しさ。マジめにして滑稽。矛盾と挫折だらけの人生でも意味があり、哀しくも笑える日常スケッチの秀作。

 

*2・『マッドマックス・怒りのデスロード』(ジョージ・ミラー)主演・トム・ハーディ ★★★★

   30年ぶりに復活した<極限の狂気>は、荒涼とした砂漠を疾走する改造車の群れ。モラルやイデオロギーを無視して暴走する映画という視聴覚暴力の、これは試練。

 

*3・『人生スイッチ』(ダミアン・ジフロン)主演・リカルド・ダリン ★★★★

   ありがちな日常のボタンのかけ違いで転落する人生の罠。6つのエピソードは全て我々も遭遇しがちな些細なスイッチの判断ミスを、おかしくも哀しく描いたオムニバス。

 

*4・『Mr・タスク』(ケヴィン・スミス)主演・ジャスティン・ロング ★★★☆☆☆

   深夜のラジオ番組のキャスターが、カナダの山奥に住む車椅子の老人にインタヴューに行ったきり行方不明。プールサイドには一匹のセイウチが鳴いていた変質の喜劇。

 

*5『夏をゆく人々』(アリーチェ・ロルヴァケル)主演・モニカ・べルッチ ★★★☆☆

   ローマ郊外の農園で養蜂を営む一家の夏の日に訪れる、貧しくも不思議で美しい奇跡を、まさにフェリーニのような感性で描いたイタリア映画の新人女性監督に拍手。

 

*6月は傑作が多くて、とても5本に絞るのは辛い豊作揃いでした。

★『ラブ&マーシー』ジョン・キューザック

★『チャップリンからの贈りもの』グザヴィエ・ボーヴォア

★『日本のいちばん長い日』原田真人

★『フレンチアルプスで起きたこと』リューベン・オストルンド・・・・などなど、 


●『チャップリンからの贈りもの』のホロ苦くも懐かしい可笑しさ。

2015年07月09日 | Weblog

6月30日(火)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-082『チャップリンからの贈りもの』" The Prince of Fame " (2014) Why not Productions / Wild bunch / Canal+ 

監督・グザヴィエ・ボーヴォア 主演・ブノア・ポールヴールド <115分> 配給・GAGA

信じられない話だが、これは実際に起こった一種の誘拐事件で、1978年3月3日の朝日新聞夕刊にも大きく報道されたスイスで起こった事件の映画化。

前の年のクリスマスに亡くなった喜劇俳優チャーリー・チャップリンの遺体は、スイスのレマン湖に近いヴェヴェイの墓地に埋葬されていたが、それが<誘拐>されたのだ。

呆れた事件だが、犯人の二人組グループは、遺族に高額な1億円の<身代金>を要求してきたのだ。普通は生きた人間を誘拐するので、その生死の安否がタイムリミットの争点となる。

ところが、この誘拐事件は有名人の棺の盗難というから、生死には無縁で前例もなく、いかにもチャップリンの「殺人狂時代」のように、呆れた発想であり、どこかユーモラスなのが面白い。

生活に苦しい前科者は、入院している妻の手術代のことで困り、その友人と悩み抜いた末に、近所の墓地に眠るチャップリンの棺桶を盗み出して、遺族に<身代金>を要求した。

しかし地元の警察は、事件の前例のない異常さに手こずって、なかなかアクションを取れないのだった。というのも、実行犯は英語を話せず、遺族への脅迫もチグハグなのだ。

事態の渋滞に焦れてしまったブノアは、たまたまヴェヴェイに訪れていたサーカス団の、ピエロ役のアシスタントにスカウトされて、まるで「地上最大のショウ」のジェームズ・スチュワートの立場となる。

つまりピエロの化粧のために、誘拐犯としては都合のいいカモフラージュとなり、そうこうしているうちに、ドジな模倣犯が逮捕されて、事件は大袈裟に報道されるようになったのだ。

ま、ストーリーはネタバレになるので書かないが、このサーカスのピエロ役で化粧をしているブノアの姿に、あの「ライムライト」の音楽が流れて、ファンにはジーーーンとくる後半。

さすがに音楽はミシェル・ルグランが担当しているので、いろいろなチャップリン映画のメロディを随所に流すので、あの時代のコメディを知っているオールドファンには嬉しくなる。

いかにもひとを食ったような事件は、あっけなく解決はするのだが、これは犯罪事件映画ではなくて、あくまでチャップリン映画のユーモアとペイソスの味わいを引き出そうという狙いなのだ。

あのマルチェロ・マストロヤンニとカトリーヌ・ドヌーブの間に生まれたキアラが、サーカスの団長として出演していて、いかにもこの映画的な作品の伝統を代表しているようで嬉しい。

 

■右中間の凡フライだが、レフトが前進しすぎて後逸のツーベース。 ★★★☆☆

●7月18日より、新宿ピカデリーなどでロードショー 


●『ラブ&マーシー』で「スマイリー・スマイル」誕生のシーンを識る歓び。

2015年07月07日 | Weblog

6月29日(月)13-00 飯田橋<角川映画試写室>

M-081『ラブ&マーシー』 " Love & Mercy" (2014) Lionsgate / Riverroad Entertainment

監督・ビル・ポーラッド 主演・ジョン・キューザック <122分> 配給・KADOKAWA 

あの「ザ・ビーチ・ボーイズ」をご存知ない方には、<猫に小判>か<カエルにショーベン>か。非常にコアな魅力に溢れた、懐かしい青春ポップ映画だ。

1960年代の後半といえば、わたしなどは入社5、6年で、すべてがアップライトに輝いて見えていた時代だ。しかもロックの変革時代。

生まれて初めてニューヨークに出張できたのも、ちょうどその頃。67年の春だったが、現地ではビートルズの「サージェントペッパー」が大ヒットしていた。

ところが、その帰りにハリウッドに寄ったら、こちらは「ザ・ビーチ・ボーイズ」の<スマイリー・スマイル>が圧倒的な人気で、アメリカってデケーな!!!と実感したものだ。

その<スマイリー・スマイル>が気に入って、カセット・テープを買って、モーテルのプールサイドで聞いていたのが、今でも鮮明に思い出す、わが青春のハイライトだったのだ。

だから、グループ・リーダーのブライアン・ウィルスンの存在と消息はすごく気になっていたのだが、あの曲想は完全にマリファナ・トリップの境地だと思ったので、彼の病状は職業病だと思っていた。

人気では、ビートルズやストーンズが凄かったので、<ビーチ・ボーイズ>は、ほんの一部のサンタモニカ・サーファーのものだろう、・・・と、当時は認識していたのだ。

そして、イーグルス、ジャクソン・ブラウン、ニール・ヤングらのスーパー・ヒットが続出してからは、ウェストコーストのファンの間でも、ブライアンのことは次第にレジェンドとして忘れられた。

だから、この映画は嘘みたいな出現で、まさか、あれから50年もして、またブライアン・ウィルスンの真実が見られるなんて、まったく予測もしていなかった。

でも昨年に、クリント・イーストウッドが「フォー・シーズンズ」の「ジャージー・ボーイズ」を発表してからは、もしかしたら・・という期待もあったのだ。だからこの映画を評価するのは青春悔恨となる。

よれよれのジョン・キューザックが演じる80年代のブライアンは、ある程度は現実を美化したプロフィールなのだろうが、たしかにアリガチなバックグラウンドだと、いまになって納得している。

ポール・ジアマッティが悪どく演じている悪質セラピストは、ロバート・アルトマンの「ロング・グッドバイ」でのメンタル・クリニックと酷似していて、80年代の世相だったのだろう。

真実はともかく、あの謎めいた「スマイリー・スマイル」のレコーディング・シーンの再現だけでも、わたしには貴重な<青春リメンバー>だったのだ。

 

■よれよれの右中間のフライだが、風に流されてツーベース。 ★★★☆☆*

●8月1日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー 


●『アベンジャーズ<エイジ・オブ・ウルトロン>』壮大なゲーム感覚バトルの果てに。

2015年07月05日 | Weblog

6月26日(金)12-30 虎ノ門<ウォルト・ディズニー映画試写室>

M-080『アべンジャーズ*エイジ・オブ・ウルトロン』" Avengers / Age of Ultron " (2015) MARVEL studios

監督・脚本・ジョス・ウェドン 主演・ロバート・ダウニー・Jr <141分> 配給・ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

毎度おなじみ、”MARVEL”レーベルの超人気キャラクター達が、アイアンマンの指揮のもと<全員集合戦闘>に参加するのが、この大作だ。

実業マンのトニー・スタークが<アイアンマン>として開発した平和維持システムの人工知能<ウルトロン>が、国際テロ組織によって悪用されて、世界各地で破壊活動が頻発した。

そこでアイアンマンの指揮のもと、周知の<キャプテン・アメリカ>、<ブラック・ウィドー>、<ハルク>、<ソー>、<ホークアイ>など、それぞれのキャラクターが集結。

しかも、サミュエル・L・ジャクソン、ドン・チードル、ポール・ベタニー、ステラン・スカルスガルドなどもちらちらと顔を出しているという、とんでもないキャスティングなのだ。

<マーヴェル>ブランドのキャラクター・ファンにとっては、まさに待望の世紀の超人グループ、オールスターの連合軍がスクリーンで同時に見られるという超バーゲン大会。

ストーリーは毎度のことで、パソコン・ゲーム事情に疎い、しかもゲーム・センターに無縁の当方としては、さっぱり何事が起こっているのかがワカラナイ・・。

しかも、スクリーンでは別個に見て来たパワー・スターが、どうしてこうして簡単に集まるのか?、いろいろと訳のわからないうちに、映画はハイスピードで戦闘が続くのだ。

またしても「チャッピー」で問題のあったばかりのヨハネスブルグから、韓国のソウル、イタリアの山岳のAア小都市などで派手なロケが行われ、国籍不明なテロ破壊軍団との間で、まさに壮絶な死闘が繰り返されるのだ。

登場する人気キャラクター達のカンケイを悩む間もなく、大きなスクリーンでは「マッドマックス」顔負けのハイパワー戦闘が展開されていき、とても背景や過去などを考える時間もない。

ま、これが現代のゲーム感覚による映像破壊バトルなのだと、ただ傍観するしかないのだろう。だから、スクリーンで何が起こっても驚かなくなってしまった。

ロボットのウルトロンを、あの往年のハンサムスターのジェームズ・スペイダーが演じている、というが、一回くらい顔を見れると思ったがダメだったのが残念。

近所の109シネマズ二子玉川の様子を見に行ったら、3つのスクリーンのほとんどの回が満席状態なのだから、この呆れるばかりの興行力もまた恐るべき事実だろう。

文句があったら、いちどご覧になった方がいいだろう。

 

■予想通りのバックスクリーンへの大飛球だが、センターがフェンスに激突キャッチ。 ★★★☆

●全国でロードショー中。

  

●『日本のいちばん長い日』での混乱を、リアルにドラマ化した勇気。

2015年07月04日 | Weblog

6月25日(木)12-30 築地<松竹映画3F試写室>

M-079『日本のいちばん長い日』" The Emperor in August " (2015) 松竹映画、文藝春秋、

監督・原田眞人 主演・役所広司 <137分> 配給・松竹、アスミック・エース

個人的に、わたしは、あの日は盛岡市で小学1年生だったので、抜けるような真夏の空の、あの正午の玉音放送の間も、庭で蝉採りに懸命だった。

だからその頃の東京が、これほど緊迫した状況だったことは、そのあとの映画や教材で知ったのだった。

戦後70年を迎えての定番企画だが、1967年に公開された三船敏郎主演の同名映画よりは、この新作はリアルで、半藤一利の『決定版』をベースに制作された新解釈版。

とにかく、あの昭和20年8月15日を前後した映画化は、いつもの夏の季節企画となって、つい一昨年もピーター・ウェーバー監督で「終戦のエンペラー」が公開されたばかり。

あの作品では、戦争終結後の天皇陛下の戦争責任を、アメリカ軍総司令官のマッカーサー元帥が、直接に昭和天皇に説明を求めたものだったが、こちらはその数週間前のリアル事件。

とくに東京大空襲から広島への原爆投下へと、戦局が急変して、日本の敗北が現実的になった8月。当時の内閣総理大臣と陸軍大臣がどのようにして極右軍部の混乱を終息させたかが描かれる。

映画の冒頭に東条英機の激怒ぶりが描かれたので、これはまた政府内の戦局終息の混乱を描くのか、と、ちょっと引いてしまったが、それよりは昭和天皇の発言が多くなり、映画はクールに締まった。

たしかに「決定版」をベースにしているし、こうした歴史的な事実には周到なこだわりを見せる原田監督のテンションなので、まるで<悲劇オペラ>のように主要人物が持論を激しく放つ。

という意味では、久しぶりに日本映画らしい、ドラマとしての個人の意見が、高揚した日本語の応酬が続くので、かなり高揚した論戦ドラマとなり、一種の緊張感が圧倒的だ。

あくまで<一億玉砕論>が声だかに響く中、本木雅弘が演じる昭和天皇と、山崎努が演じる内閣総理大臣は、そのあとの日本の歴史と国民の存続を考えた終息論をつぶやき続ける。

激高する軍部と、昭和天皇の終決論の間で、ひとり役所広司が演じる阿南陸軍大臣は苦悶する姿が、緻密な討論ドラマの中で一気に8月15日の玉音放送の時間を迎えるタイムリミット・ドラマ。

つまり、われわれにとっては、平和的な終局だと思っていた、あの日本のいちばん熱い夏は、かくも危険でドラマティックだったのを再現してみせる。そこは社会派作品のベテラン監督らしいメガホン裁きだ。

という視点で、問題の<切腹>シーンも、ハリウッド経験の長い原田監督らしい設定で真摯に描かれるが、これを撮らないといけないという監督の慎重さが、作品の堅さにもなっている。

 

■フルカウントまでファールで粘った末のサードオーバーのツーベース。 ★★★☆☆

●8月8日より、全国松竹系でロードショー 


●『夏をゆく人々』と、ミツバチとラクダのコントラスト。

2015年07月03日 | Weblog

6月23日(火)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-078『夏をゆく人々』" Le Meraviglie " (2014) Tempesta / Rai Cinema / AMKA films productions 伊

監督・脚本・アリーチェ・ロルヴァケル 主演・マリア・アレクサンドラ・ルング <111分> 配給・ハーク

不思議な庶民性の魅力に満ちた映画で、古典的なフェデリコ・フェリーニや、ヴィットリオ・デ・シーカの初期の映画のような、貧しくとも美しく生きる、豊かな人間達の日常生活を描く。

ローマ郊外の北西部に住む人々は、古代のローマ時代、エトルリア文化を受け継いでか、今でも非常に貧しいながらも特有の価値観で、古来の養蜂手段によって楚々と生活している。 

ミツバチを生活の糧にしている農家は、今ではほとんどが近代化されていると思うが、この昔ながらの農家では、男手もなく「海街diary」のような4人姉妹ばかりの家族なのでオヤジが孤軍奮闘。

映画は、その貧困ながらも、つつましく生きている家族の、夏の日々を描いているが、淡々とした日常にも波乱は生じる。知的な障害をもつ少年を、家業の手助けに引き受けたのだ。

そこでドラマには波乱が生じるが、健気な長女<ジェルソミーナ>が、その不思議な少年との接点となり、ローマの<養蜂家族コンテスト>のテレビ取材を受けることになった。

あの「ジンジャーとフレッド」のような展開だが、長女の名前は、もしかしたらフェリーニ監督の「道」からのオマージュかもしれないが、父親も彼女だけは特別の愛情を注いでいるのだ。

古来の農家の生活と、近くの島にある遺跡跡でのテレビ取材のシーンの、この絶妙にして奇異なアンバランス感覚は、まさにあのフェリーニ・ワールドとなる。

テレビの司会者として、イタリアの美女モニカ・ベルッチが登場するが、これが、あのアニタ・エクバーグのように、場違いな蝶のように妖艶な違和感。

しかしコンテストに落選した家族は、古い家を処分して、野原で野宿するが、そこにジェルソミーナが憧れていた、大きなラクダが現れる。まさに映画ならではの奇跡のコントラスト。

ふと、貧富の差は天国と地獄だが、わたしはそこに「グレート・ビューティ*追憶のローマ」のパオロ・ソレンティーノ監督の、イタリア映画史への憧憬と感性との共感性を見たような感動を味わった。

1981年生まれという、若いアリーチェ・ロルヴァケルの、若い女性監督にして、この感覚。ま、例えは極端だが、わが国の呉美保監督といい勝負なのであった。

映画は2014年の、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞。拍手!!!

 

■左中間のライナーが意外に伸びてフェンスを転々のスリーベース。 ★★★☆☆☆

●8月22日より、岩波ホールにてロードショー 


●『かけがえのない人』やはりポール・ウォーカーの喪失は大きい。

2015年07月01日 | Weblog

6月19日(金)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-077『かけがいのない人』" The Best of Me " (2014) Relativity Media / Di Novi Pictures / N. Sparks Pro.

監督・マイケル・ホフマン 主演・ミシェル・モナハン <118分> 配給・ブロードメディア・スタジオ

ロマンティックなラブ・ストーリーは嫌いじゃないが、どうも一方的に思い過ぎの<ハーレクイン・ロマンス>というのは個人的には困りものだ。

あの「きみに読む物語」で、世界的なヒット・ライターになったニコラス・スパークスが、二匹目のドジョウを狙って、自身のプロダクションで作ったという新作。

しかも監督にジョージ・クルーニーの「素晴らしき日」や「終着駅トルストイ最後の旅」のホフマン監督が起用されているので、これは見逃せない、と感じた。

主演には、あのポール・ウォーカーを予定していたというが、事故で亡くなり、急遽、起用されたのが、かなりポールにそっくりさんのジェームス・マースデン。

だから、たしかにポールをイメージしたな、と思われるシーンが多いが、問題はその事故によって、彼の若い時代のシチュエーションが増えたために、作品のバランスが崩れたようだ。

ストーリーは、いかにもスパークスらしい発想。青春時代に恋人だったふたりが、家庭の事情で別れてから20年の歳月が経ち、運命的なきっかけで再会する。

海洋石油開発の事故で奇跡的に助かった彼は、静養に20年ぶりに帰ったルイジアナで、かつての恋人で人妻のミシェルに出会うが、彼女は家庭崩壊寸前の危機だった、というパターン。

そうゆう話で、20年ぶりの初恋が、紆余曲折がいろいろあって、やっと結ばれるというラブ・ストーリーは沢山見て来たが、この作品はキャスティングが致命的なミス。

しかもストーリー・テラーの必要から、青春時代の時間が多すぎるのに、いまの中年の二人と似ていない俳優を起用しているので、どうも感情移入ができないのだ。

つまり、シナリオの段階でのミスが、恐らくポールの事故死で書き換えられて、大幅な修正をしての無理な作業が、この作品のひび割れになっているようだ。

好演のマースデンには気の毒だったが、もしポールが生きていれば、このような煩雑なストーリー構成にならなかっただろうと惜しまれる。初恋の修復は大変なのですよ。

まさにこの映画の企画は「かけがいのない人」を事故で失ったのだった。

 

■ヒットで出塁したが、代走がタッチアウト。 ★★★☆

●8月22日より、YEBISU GARDEN CINEMAなどでロードショー