細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『こころに剣士を』で磨くフェンシングのスタイルと、亡命サスペンス。

2016年12月12日 | Weblog

12月6日(火)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-155『こころに剣士を』"The Fencer " ( 2015) Making Movies, Kick Film .Alli film, Nordeck Films, Euriages, FFF Bayern.  フィンランド

監督・クラウス・ハロ 主演・マルト・アヴァンディ、ウルスラ・ラタセップ <99分・シネマスコープ>配給・東北新社

どうせ、少年少女にフェンシングの技術を教える教師の苦労話で、あの「サウンド・オブ・ミュージック」のフェンシング篇かと思ってパスしていたら、試写友達から嘲笑された。

これもまた「ヒットラーの忘れもの」に共通した、第二次世界大戦の<忘れもの>のひとつだろうか、エストニアの小さな町の小学校に流れ着いたひとりの体育教師のエピソード。

戦後のエストニアは、ロシアのスターリン指揮下にあったために、ドイツ軍にいたことのあるマルト・アヴァンティ扮する教師は、前歴を隠して逮捕を逃れて、小学校の教師になった。

教育者としての経験もないので、身についていたフェンシングの授業を教えることにして、小学生たちに、手作りの剣をつくっては、一応知っているフェンシングのスタイルを教えことにした。

その辺の拾った棒切れで一応はフェンシングのスタイルを教えているうちに、徐々に生徒たちは、そのスタイルに魅せられて、熱心にクラスに通い出して、徐々に古い金属道具も揃い出した。

しかし、教師のキャリアがドイツ軍兵士だったことを疑り出した校長は、何かと授業の妨害をするのだが、とうとう生徒たちの熱望で、レニングラードでの選手権大会に出場することになった。

映画はその教師と生徒たちの友情と、ドイツ兵であった過去のために警察の逮捕の緊迫に迫られるという、いわば二重構造のサスペンスものになっていく後半は、かなりサスペンスがらみとなる。

純粋な生徒たちのスポーツマンシップを育てるのか、過去の戦争犯罪の追求から逃れるべきか、この教師の心の動揺が、ラストのコンサートに向かって、徐々に緊迫していく・・・という具合。

むかしのポール・マッカートニーが出演した「ヤア、ブロードストリート」での紛失した録音テープを探すサスペンスににて、この作品でも「二十四の瞳」フェンシング・トーナメント版の様相になるのだ。

監督は「ヤコブへの手紙」でも2010年にアカデミー賞の外国語映画部門でノミネートされたように、戦渦の国エストニアの地方学校を舞台にして、質素で閑散とした学校の状況を丁寧に再現。

フィンランドという、大戦の戦渦に翻弄された地域と、住民、とくに純粋な子供たちの素直な姿を中心に、戦犯として身を隠したい教師の複雑な心境を、実に感動的に暖かく見つめる演出は、気分いい。

ちょっとヴィゴ・モーテンセンに似た風貌のマルトの好演も、この映画の誠実さを強く印象づけていて、なかなか、爽やかな作品になっていた。

 

■レフト狙いの打法スタイルで、意外やファースト頭上に抜けるツーベース。 ★★★☆☆

●12月24日より、ヒューマントラストシネマ有楽町などで、お正月ロードショー 


●『ナーヴ・世界で一番危険なゲーム』のヤバい映像体験ゲームに参加しますか?

2016年12月09日 | Weblog

12月1日(木)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-154『NERVE*ナーヴ・世界で一番危険なゲーム』(2016) Lions Gate Entertainment , 

監督・ヘンリー・ジュースト&アリエル・シュルマン 主演・デイヴ・フランコ、ジュリエット・ルイス <96分・シネマスコープ> 配給・プレシディオ

ポケモンGOや、ピコ太郎や、トランプ・ゲームや、電車に乗っても3人に2人はケータイを手にして、その画面を見ているのが、日常的な群衆スタイルのいまの東京。

それぞれに、自分には大切な情報や時間を無駄なく入手する手段なのだろうが、数十年前にはほとんどの人が読書していたシーンを思うと、この現在は仮装次元のように見える。

ま、そのNowなスマホ映像ゲームの感覚を、そのままにドラマにした映画なので、カンケイないといえばそれっきりだが、ま、これもまた「ハンガー・ゲーム」やカード・ゲームの世界。

しかし、その<仮想ゲーム>のつもりのジョイントが、そのまま現実的なトラブルの世界に巻き込まれる・・・という、ごくアリガチな発想のアクション映画だ。

わたしはポケモンにも、スマホにも縁のない、ごく旧世界のライン人間で、クリント・イーストウッドのように「電線でつながっていない奴からの通知は信用しない」という旧世代人間。

だからこの試写も正直迷ったが、監督が「パラノーマル・アクチィヴィティ」のヘンリー・ジューストだとなると、表向きはクレイジーでも、中身はちゃんとしている、と思って見た。

たしかに現実的にはロクなこともなく、デイトのアポもない若者にとっては、スマホからのネット・ゲームへの参加は、その退屈な現実からの一時的な解放手段となる、のはワカル。

ところが、ごく簡単なスマホ検索でのゲームに、ちょっとイエスしただけで、次のステップのテーマを与えられて、それにイエスすると、懸賞金がアップして、預金に振り込まれる。

遊び感覚でクリックしただけのジョイントで、それが現実の危険なゲームになり、クリアすれば多額の賞金がゲットされるとなると、つまらない時給アルバイトよりは気軽でいい。

という具合に、そのゲーム課題はより危険になり、<イエス>と<ノー>の表示だけで、現実が信じられない展開になるという、あの「ファイト・クラブ」のような恐怖の連鎖。

それがリスキーであれば、映画のアクションも果てしなく危険になる・・というエンタメ映画で、ま、怪獣やエイリアンが出て来ない分では、かなり<リアル>な危険ゲーム映画なのかも・・・。

 

■出したバットにボールが当たり、サードをオーバーの想定外ヒット。 ★★★

●2017年1月6日より、TOHOシネマズ・シャンテなどでロードショー 


●ミルドレッドの母としての愛憎が、ニコタマ・サンセット座11月ベスト。

2016年12月07日 | Weblog

11月のニコタマ・サンセット傑作座<自宅>上映ベストテン

 

*1・『ミルドレッド・ピアース』(47)監督・マイケル・カーティス 主演・ジョーン・クロフォード DVD ★★★★☆

   女手ひとつでチェーン・レストランに成功したジョーンの一人娘が、情痴殺人を犯してしまい、母親として殺人の罪を被ろうとするノワールの秀作。

 

*2・『強迫・コンパルージョン』(59)監督・リチャード・フライシャー 主演・オーソン・ウェルズ VHS ★★★★

   エリート大学の友人同士が、情欲の末にガールフレンドを殺してしまうが、大学や富豪家族は罪を事故にすべく暗躍するが、検事はその精神的犯罪性を暴く。 

 

*3・『ゴーン・ガール』(14)監督・デヴィッド・フィンチャー 主演・ベン・アフレック DVD ★★★☆☆☆

   結婚記念日に妻が失踪してしまい、夫は地方警察を動員するが、その裏には妻が故意に犯した殺人事件があり、それを察知した夫は妻の計画の深さに驚愕する。

 

*4・『ワイルドマン・ブルース』(78)監督・バーブラ・コップル 主演・ウディ・アレン VHS ★★★☆☆ 

   ジャズ・クラリネット奏者としてのウディが、自分のグループでヨーロッパ各地を演奏ツアーをするドキュメントのなかに、ウディの意外な小心さと繊細さが同居する。

 

*5・『タンゴ』(98)監督・カルロス・サウラ 主演・ミゲール・アンゲロ・ソラ VHS ★★★☆☆

   アルゼンチン・タンゴのディレクターは、病身ながら数十人による踊りの振り付けレッスンをしながら、病苦の現実と、タンゴの情熱に冒されて夢想する。

 

*6・『笑う警官<マシンガン・パニック>』(73)監督・スチュワート・ローゼンバーグ VHS 

*7・『追求』(45)監督・カーティス・バーンハート 主演・ハンフリー・ボガート DVD

*8・『パジャマ・ゲーム』(57)監督・スタンリー・ドネン 主演・ドリス・デイ LD

*9・『落とし穴<ピット・ホール>』(48)監督・アンドレ・ド・トス 主演・ディック・パウエル DVD

*10・『追跡者』(70)監督・マイケル・ウィナー 主演・バート・ランカスター DVD

 

*その他に上映した作品は

『殺意の香り』83・メリル・ストリープ

『ミート・ザ・ペアレンツ』00・ロバート・デ・ニーロ

『チザム』70・ジョン・ウェイン

『浜辺の女』46・ロバート・ライアン

『愛人関係』74・アラン・ドロン

『恐怖への旅』43・ジョセフ・コットン・・・・などでした。


●11月に見た試写では『たかが世界の終わり』がダントツでした。

2016年12月05日 | Weblog

★前項で「家族の肖像」の公開日を抜かしてしまいましたが、

公開日は、2017年2月11日より、神保町<岩波ホール>で特別ロードショー公開です。

 

11月に見た新作試写のベスト・3

 

*1:『たかが世界の終わり』監督・グザビエ・ドラン 主演・ギャスパー・ウリエル ★★★★☆☆

   弟でゲイの作家が久しぶりにパリ郊外の実家に帰ってきたが、それぞれに不満を抱えた家人は、老いた母以外は冷たい態度をとる、それぞれに愚かな家族の肖像。

 

*2・『ヒトラーの忘れもの』監督・マーティン・サントフリート 主演・ローラン・ムラ ★★★★

   戦後のデンマーク西海岸一帯に埋められていた地雷を、若い未成年のドイツ兵に手探りで撤去させた実話を、息詰まる緊張感と、監督官の苦痛の温情で描いた人情ドラマ。 

 

*3・『グリーンルーム』監督・ジェレミー・ソルニエ 主演・アントン・イエルチェン ★★★☆☆

   山奥のライブ・バーのステージに呼ばれたロックバンドのメンバーは、楽屋に殺人死体と一緒に閉じ込められてしまった・・という脱出サスペンスの新しい切れ者監督登場。

 

*etc・・・・*「五日物語」マッテオ・ガローネ監督、サルマ・ハエック主演

*『ニュートン・ナイト』ゲイリー・ロス監督、マシュー・マコノヒー主演

*『家族の肖像』ルキノ・ヴィスコンティ監督、バート・ランカスター主演

*『愚行録』石川 慶監督 妻夫木 聡主演

*『マグニフィセント・セブン』アントワン・ヒュークア監督、デンゼル・ワシントン主演

*『ザ・コンサルタント』ギャビン・オコーナー監督、ベン・アフレック主演・・・などが面白かった。デス。 


●『家族の肖像』格調高いローマ貴族の老人版<家族もつらいよ>

2016年12月04日 | Weblog

11月29日(火)13-00 築地<松竹本社3F試写室>

M-153『家族の肖像』<デジタル完全修復版>" Conversation Piece " <Gruppo di Famiglia in Interno > (1975) Minerva Pictures

監督・脚本・ルキノ・ヴィスコンティ 主演・バート・ランカスター、シルヴァーナ・マンガーノ <121分・シネマスコープ> 配給・ザジフィルムス

イタリアの映画史で二人の巨匠といわれた、「甘い生活」などのフェデリコ・フェリーニと並ぶ、ルキノ・ヴィスコンティ監督の没後40年のメモリアル記念公開の一本。  

わたしの趣味からいうと、当時もフェリーニ映画の方のファンで、ヴィスコンティ監督では71年の「ベニスに死す」が一番に好きで、なぜか、この「家族の肖像」は見逃していた。

おそらくハリウッド・スターのバート・ランカスターが、63年に「山猫」があったものの、イタリア映画に出ている貸衣装のような軽い存在感が、気に入らなかったからだろう。

だから、今回のデジタル・リマスターでの公開は、まるでゴッホやダリなどの展覧会のように、何か貴重な骨董美術品でも久しぶりに鑑賞するような、ありがたい気分で見たのだ。

ローマの高級邸宅にひとりで暮らす年老いた教授のランカスターは、まさに図書館か博物館のように古書や美術品などに囲まれた、死を待つだけの優雅な生活をしている。

しかし広すぎる豪邸に、二階を旧知の伯爵夫人のシルヴァーナが貸してくれと強引に迫ったので、否応無しに貸してやると、そこに見知らぬ若い愛人の男ヘルムート・バーガーが越して来た。

静かで孤独な日々を送っていた老教授にとっては、とんだ災難なのだが、それでも晩餐に連中を招いたりして、孤独なひとりだけの食事も珍しく賑わいで、ま、それはまた、いい刺激でもあった。

ところが、案の上、上階に居座った若者たちは、その豪華な環境に慣れると、深夜などにも大騒ぎをして踊ったり騒いだりの乱痴気パーティをして、下に住む老人の生活をかき乱すようになった。

ローマの古来からの階級意識の差や、教養や知性の差が、戦後の新しい文化や若者たちの価値観の変化で、まさにその豪邸は以前の静寂と格式を、急速に失いはじめ、とうとう殺人事件が起きる。

あのサマーセット・モームの「剃刀の刃」を思い出すような歴史の格式や礼儀も、まるで津波のような若者たちの乱行で崩れ始めて行く・・・という、「ベニスに死す」のローマ貴族版。

重厚で華麗な、まるでクラシックな絵画展でも見るような映像は、やはり昨今の映画では見る事もないが、ま、これもまた美術館の古い貴族の肖像画展でも見るような、古色な格調は存在している。

クレイジーな若者を演じるヘルムート・バーガー、回想で出て来るドミニク・サンダ、クラウディア・カルディナーレ・・・などなど、われわれには青春のクラス会のフィルムのようだ。

 

■ベテランらしいレフト線の奥まで転がる、さすがのツーベース。 ★★★☆☆ 


●『愚行録』で暴かれる一家殺人事件への、意外な闇の部分。

2016年12月02日 | Weblog

11月25日(金)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-152『愚行録』(2016)バンダイビジュアル、テレビ東京、北野オフィス、東北新社、ワーナー・ブラザース映画

監督・石川 慶 主演・妻夫木 聡、満島ひかり <120分・シネマスコープ> 配給・ワーナー・ブラザース映画

あの世田谷一家殺人事件が、ほぼ迷宮入りして長い時間が経過しているが、あの事件の直後に警察の聞き込みを受けた当方は、ご近所であったこともあり、とても印象深い。

貫井徳郎の原作は、あの事件のように、10年前に起こったある若い家族が皆殺しになった迷宮の事件を、売れない週刊誌の記者である妻夫木くんが単独捜査することから始まる。

殺された一家の主人のかつての学友や、奥さんの同級生たちの聞き込みをしていくが、もう事件から時間も経っているので、もちろん、新しい情報などが出て来るでもない。

それでも、妻夫木記者は<ネグレクト(育児拒否)>で入所している妹の満島を訪ねたりして、停滞している生活の日々、ライターとしての取材を繰り返す日常なのだ。

映画は、このところ「ロクヨン」や「クリーピー」「ヒメアノール」などの好調な邦画ミステリーの画質を継承したような、なだらかなサスペンスを秘めて飽きさせない。

どうも妻夫木記者のキャラが、事件記者としては感情が薄いナー・・と思っていたが、やはり獄中の妹との会話の節々から、徐々にドラマの異常さが覗き始める辺りから、テンションが濃くなる。

ま、映画は<愚行>には違いないが、それ以上に異常な人間関係の闇を描いていくので、ポーランドで、あのロマン・ポランスキー監督と同じ学校で学んだという石川監督の冷感が巧み。

というのも、同じポーランド映画大学卒業生のピエトロ・ニエミイスキのカメラが、すべてを東京郊外で撮影しているのに、いつも見ている風景と違って、とても冷たい感触なのだ。

だからもちろん、日本映画なのだが、見ている風景や登場人物たちの陰影の温度が、ちょっとヒヤリとする冷たさを見せて、とくに満島の表情にはこれまでとは別の味があった。

当然のように、試写の前には、重要な4つの問題点については、来年2月の公開までは、<ネタバレ>になるので、書かないで下さい・・・という念書が渡されたのだ。

もし事前にネタを知りたい方は、書店で創元推理文庫の原作本を買って読んでみて頂きたいが、ま、真相の意外性よりも、この作品の低温のタッチは、邦画としては心地よい冷たさだ。

 

■定位置よりもかなりライト線ギリギリの痛烈なヒットでツーベース。 ★★★☆☆+

●来年2月18日より、全国ロードショー