●2月20日(月)13-00 外苑前<GAGA試写室>
M-022『ELLE<エル>』(原題)2016 SBS Productions / Twenty Twenty Vision Film Production/ France 2 Cinema 仏
監督・ポール・ヴァーホーヴェン 主演・イザベル・ユペール ローラン・ラフィット <131分・ビスタサイズ> 配給・ギャガ
ことしのアカデミー賞で主演女優賞ノミネートだったイザベル・ユペールの主演で話題の新作であったが、結果は残念ながらエマ・ストーンが受賞。
ま、結果はともかく、この作品のユペールは、何と131分というラニング・タイムを、ほとんど全編に出ずっぱりの名演で、演技的にはエマを凌駕していた。
原作が、あの「ベティ・ブルー*愛と激情の日々」のフィリップ・ディジャンで、監督が「氷の微笑」のポール・ヴァーホーヴェンなのだから、かなりアヴノーマル。
パリのゲーム会社でCEOとして働いているイザベルは、自宅の1階リビングルームで、カーテンに隠れていた黒ずくめの暴漢に襲われて犯された。
映画はそのレイプシーンが終ったところから始まり、暴行されて乱れた衣装を直している彼女のショックと怪我で傷ついた荒い息づかいからいきなり衝撃的に始まる。
久しぶりのヴァーホヴェン演出なので予測していたが、それからは、そのショックを隠して普通の独身生活と、会社での仕事ぶりをこなしていく日常を繊細に見せて行くのだ。
ま、セックス暴行のあとにも大騒ぎしないところが、このワーキング・ウーマンの<おとな>なところだが、そこをユペールは毅然とした表情で演じて行く。
かなり裕福な一軒家にひとりで住んでいる彼女の日常は、会社でのリーダーぶりと、ご近所や家族とのつきあいなど実に洗練されて豊かな日常で、そのスケッチはさすがに巧い。
ペットにしている黒い猫が、その彼女の生活ぶりや、秘められているレイプの状況などを見ているという、その視線の妖しさが、いかにもヴァーホーヴェンらしくてサスペンスがある。
大きな猫の目を通じて、レイプの状況を目撃していた映像を歪ませるテクニックは、あのキム・ノヴァックの傑作「媚薬」の歪んだショットを思い出した。
映画は、その衝撃を平然と受け止めているようにも見えるが、実はまた同じナゾの暴漢を誘っているような、じつに心理的に曖昧な態度をするあたり、さすがユペールの演技が光っている。
おそらくご本人は、覆面のレイプ犯が誰なのかは承知のうえで、また罠をしかけているようだが、その辺の熟女の内心は察するのもスリリングで予測を狂わせて行くのだ。
セクシュアル・サスペンスとして、かなりユニークな心理状態を演じているユペールの女優としての頂点を演じている自信のほどは、さすがに底知れぬ演技で、まったく飽きさせない。
■強打したゴロがファーストのベースに当たって転々し、その間に好走二塁へ。
●この夏、TOHOシネマズ・シャンテでロードショー