細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ELLE<エル>』のユペールはオスカー像に触れる名演を見せたのだが・・。

2017年02月28日 | Weblog

2月20日(月)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-022『ELLE<エル>』(原題)2016 SBS Productions / Twenty Twenty Vision Film Production/ France 2 Cinema 仏

監督・ポール・ヴァーホーヴェン 主演・イザベル・ユペール ローラン・ラフィット <131分・ビスタサイズ> 配給・ギャガ

ことしのアカデミー賞で主演女優賞ノミネートだったイザベル・ユペールの主演で話題の新作であったが、結果は残念ながらエマ・ストーンが受賞。

ま、結果はともかく、この作品のユペールは、何と131分というラニング・タイムを、ほとんど全編に出ずっぱりの名演で、演技的にはエマを凌駕していた。

原作が、あの「ベティ・ブルー*愛と激情の日々」のフィリップ・ディジャンで、監督が「氷の微笑」のポール・ヴァーホーヴェンなのだから、かなりアヴノーマル。

パリのゲーム会社でCEOとして働いているイザベルは、自宅の1階リビングルームで、カーテンに隠れていた黒ずくめの暴漢に襲われて犯された。

映画はそのレイプシーンが終ったところから始まり、暴行されて乱れた衣装を直している彼女のショックと怪我で傷ついた荒い息づかいからいきなり衝撃的に始まる。

久しぶりのヴァーホヴェン演出なので予測していたが、それからは、そのショックを隠して普通の独身生活と、会社での仕事ぶりをこなしていく日常を繊細に見せて行くのだ。

ま、セックス暴行のあとにも大騒ぎしないところが、このワーキング・ウーマンの<おとな>なところだが、そこをユペールは毅然とした表情で演じて行く。

かなり裕福な一軒家にひとりで住んでいる彼女の日常は、会社でのリーダーぶりと、ご近所や家族とのつきあいなど実に洗練されて豊かな日常で、そのスケッチはさすがに巧い。

ペットにしている黒い猫が、その彼女の生活ぶりや、秘められているレイプの状況などを見ているという、その視線の妖しさが、いかにもヴァーホーヴェンらしくてサスペンスがある。

大きな猫の目を通じて、レイプの状況を目撃していた映像を歪ませるテクニックは、あのキム・ノヴァックの傑作「媚薬」の歪んだショットを思い出した。

映画は、その衝撃を平然と受け止めているようにも見えるが、実はまた同じナゾの暴漢を誘っているような、じつに心理的に曖昧な態度をするあたり、さすがユペールの演技が光っている。

おそらくご本人は、覆面のレイプ犯が誰なのかは承知のうえで、また罠をしかけているようだが、その辺の熟女の内心は察するのもスリリングで予測を狂わせて行くのだ。

セクシュアル・サスペンスとして、かなりユニークな心理状態を演じているユペールの女優としての頂点を演じている自信のほどは、さすがに底知れぬ演技で、まったく飽きさせない。

 

■強打したゴロがファーストのベースに当たって転々し、その間に好走二塁へ。

●この夏、TOHOシネマズ・シャンテでロードショー 


●『3月のライオン・後編』で将棋の名人戦となるが、またもサプライズ出演あり。

2017年02月27日 | Weblog

2月15日(水)12-30 日比谷<東宝本社11F試写室>

M-020『3月のライオン<後編>』(2017) 東宝映画、アスミック・エース、ROBOT,朝日新聞、電通、KDDI、白泉社

監督・脚本・大友啓史 主演・神木隆之介、有村架純 <136分・ビスタサイズ> 配給・東宝、アスミック・エース

前編の試写を午前中に見て、30分の休憩軽食時間を挟んでの連続試写は、まるで高校時代の授業のようで気持ちが焦ってしまう。

たしかに前編の余韻が残っているアタマなので、映画のリズムには入りやすく、昨年の「64ロクヨン」のような、一種の親しみは持続するのはいい。

しかし、とにかく<将棋>はやったことがなくて、あの駒の持つ強さとか役割を知らない無知な当方としては、チェスのボビー・フィッシャーの強さが判らない気分と同じ。

ただ羽海野チカの国民的な人気コミックのロングランの魅力は、むしろ神木くんが少年から青年へと、人間的に独り立ちしていく精神過程の進化を見て行く楽しみもあるのだろう。

あの「るろうの剣心」でヒットした大友監督が長編ニ部作に映画化に挑戦したのも、その辺の若々しい青年の進化を見極めてみよう、とした辺りで、ただの勝負師映画にする気はなかったろう。

隅田川の近所に住む和菓子屋さんと、その家族姉妹たちは、神木くんの将棋の成長には直接には絡まないが、この後編では、長女の有村の男性関係等でドラマが複雑になってくる。

という次第で、後編の目玉としては、情報がまだ解禁されていない有名俳優が、その和菓子屋の一家のドラマに介入してくることになり、いよいよホームドラマは厚みが出てくるのだ。

やはり盛岡一高の後輩監督の新作なので、後半の将棋の名人戦の会場が、盛岡市の郊外にある御所温泉の<ホテル大観>になるというサービスがあり、谷藤市長までが登場。

ま、この辺は、監督のふるさとサービスだろうが、いよいよ将棋の天才、加瀬亮との対決が迫って来る・・というクライマックスは、さすがに<和>の世界を強調した演出が静粛だ。

将棋に無知な当方としては、これを勝負師のサクセス・ストーリーとして見ているだけで、なにがどう勝負を決めたのかがわからない悔しさは、この後編では募って来る。

多くの原作コミック・ファンや、将棋の醍醐味をご存知の方には、この作品の細部がよく理解できるだろうが、当方はただの傍観者レベルだったことは、お恥ずかしい。

 

■前進守備のセカンドの頭上を越えるバスター・ヒット ★★★

●4月22日より、<後編>東宝系でGW公開。 


●『3月のライオン・前編』囲碁の世界に挑む少年の苦難のはじまり・・。

2017年02月25日 | Weblog

2月15日(水)9-30 日比谷<東宝本社11F試写室>

M-020『3月のライオン<前編>』(2017) 東宝映画、アスミック・エース、ROBOT,朝日新聞、電通、KDDI、白泉社

監督・脚本・大友啓史 主演・神木隆之介、有村架純 <132分・ビスタサイズ> 配給・東宝、アスミック・エース

何と10年もの長い間もヒットを続けているという、羽海野チカの国民的な人気コミックを、これまた「るろうの剣心」でヒットした大友監督が長編ニ部作に映画化。

つい先般にも「ミュージアム」という傑作猟奇殺人鬼映画を公開したばかりの大友監督の、これは期待の長編新作であって、試写も日を分けているのを、前後篇を一気に見た。

両親を交通事故で失った17歳の少年は、完全に大都会東京で孤立していたが、江東区の隅田川を望むひと部屋の住まいで、孤独を将棋盤と向き合って生きて行く姿を描く。

という碁盤の少年勝負師の話なので、まったく将棋のルールも知らない当方としては、まさにこの勝負には無能で見る資格もないのだが、やはり盛岡一高の後輩監督の新作なので見逃せない。

だからして、これを勝負師のサクセス・ストーリーとして見て、それをゴチャゴチャ語る資格などないのだが、ま、不遇の少年がいっぱしの青年に成長していく人間作品として見た次第。

学校でも友人のいない神木少年は、不良化する暇もなく好きな囲碁の盤と向き合い、学校の先生と少しだけ話をするだけの生活だったが、不良達のイジメに負傷したところを親切な家族に救われた。

映画は、親切に介護してくれた前田吟の扮する下町の和菓子屋の家族と、その三姉妹たちとの交流を通じて、少しずつ囲碁を打つ事で人間らしい精神力を鍛えて行く日々を描いて行く。

わたしなどは、あまり馴染みのない囲碁の勝負師たちの世界なので、関係ないが、どうも前田吟の風格から、ついつい「男はつらいよ」のあの寅次郎の実家の賑わいやおせっかいをダブらせて見てしまう。

その質素な生活を背景にして、神木少年は次第に青年の佇まいを身につけて行くのは、和の世界を背景にした囲碁の勝負の世界が、沈黙と威厳に支えられて行くという盤石な背景があるからだろう。

育ての親だった豊川悦司を勝負で破り、学校生活と和菓子屋家族たちとの生活を通じて、孤独な勝負師は少しずついっぱしの人間に成長していく日々で多くのトラブルに遭遇して前編は終る。

タイトルの意味は、英国のことわざで、「3月の気候は、まるでライオンの気性のように荒々しいが、次第に子羊のように穏やかになる・・・」という例えから引用しているという。

とくに大友監督らしい大胆な映像のサスペンスはないが、<囲碁>という狭く画一された線上で戦う勝負師たちの日々を通じて、ひとりの少年が大人に成長していく姿を丁寧に見つめるのだ。

 

■まずは基本通りにセンター狙いのゴロのヒット。 ★★★☆

●3月18日より、<前編>のみ東宝系で公開。 


●『無限の住人』の無限の殺陣に耐えられるか!!

2017年02月23日 | Weblog

2月13日(月)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース試写室>

M-019『無限の住人』(2017)製作プロ・OLM+楽映舎 「無限の住人」製作委員会、ワーナー・ブラザース映画ジャパン

監督・三池崇史 主演・木村拓哉、杉咲 花 <139分・シネマスコープ> 配給・ワーナー・ブラザース映画 

やっと試写の情報が16日に解禁になった国産時代劇だが、なぜかワーナー・ブラザース日本支社が製作に絡んだ作品が「最後の忠臣蔵」以来、「るろうに剣心」三部作のヒットで増えた。

東映や松竹などの老舗の本格時代劇とは一味も二味も違った視線のコミック系映画化時代劇は、たしかに海外市場にも視線を意識したスタンスが面白いのは確かで、この傾向は続きそうだ。

なにしろ映画に関する情報は、たった一枚のチラシのみで、この映画の原作が講談社の沙村広明のものであって、おそらくは「るろうに剣心」なみのヒット・コミックなのだろう。

山本陽子の妖怪のような魔女に一命を救われたキムタクは、体に出来た無数の傷で不思議なミミズのような害虫に体内汚染されて、血液は不死身の幼虫に入れ替わった浪人なのだ。

その木村拓哉は、まさに片目の<座頭市>のような形相になって、ナゾの助っ人稼業をしていたが、全編を片目で演じているので、まさに<片目のジャック・素浪人>。

少女の杉咲 花が、両親を殺されて単身で外敵に向かう姿を見かねて、つい<子連れ狼>のようにガードマンになったのがキッカケで、何と、数百の侍たちに囲まれてしまうというピンチになる。

そこは不死身の剣のワザを駆使して、まあ、バッタバッタと数十分の殺陣で、あっという間に皆殺しにしてしまう、その森の中の殺陣は、あの健さんの花田秀次郎のレベルを凌ぐのだ。

片目に傷のある素浪人なので、あの座頭市よりは有利だろうが、とにかく日本映画史上最大の敵を相手にして、キムタクは壮絶に殺陣を繰り返して行くサマは、まるでミュージカルのようだ。

監督は「一命」で、歌舞伎役者の市川海老蔵の映画主演を果たした三池なので、かなり気合いの入ったマジ時代劇であることは、片目の無頼侍の木村拓哉の形相の凄みでも期待できた。

ま、あの海老蔵侍の他にも、田中岷や、山崎努もワキで絡んで来るので、日本映画としての重厚さもある異色殺陣映画なのだが、ちょっとリアリティを超越していくのは、コミック・ベース。

重苦しいケンゲキ時代劇がやっと終ったら、エンディング・クレジットは「るろうに剣心」のようなロック・ビートで我々を現実に引き戻すのだが、かなり疲労するのは、マジ見ていてシンドイ。

 

■大きなファールを連発のあとショート直撃のゴロが左中間へのヒット。 ★★★☆

●4月29日より、GW全国ロードショウ 


●アカデミー賞、今年の予想は盲撃ちだ!!?

2017年02月21日 | Weblog

2017年度、第89回アカデミー賞、個人的大予想

 

毎年、「キネマ旬報」誌上で、渡辺祥子さん、襟川クロさんとの3人でアカデミー賞の受

賞予想を座談会で紹介していましたが、今年も2月2日に開催されて、その詳細は21日

発売の3月上旬号の、アカデミー賞特集ページに掲載されました。

選出の理由は、74ページからの座談の様子をご覧下さい。

 

★わたしの予想

★作品賞・「ラ・ラ・ランド」

★監督賞・バリー・ジェンキンス<ムーンライト>

★主演男優賞・ケイシー・アフレック<マンチェスター・バイ・ザ・シー>

★主演女優賞・エマ・ストーン<ラ・ラ・ランド>

★助演男優賞・ジェフ・ブリッジス<最後の追跡>

★助演女優賞・ミッシェル・ウィリアムズ<マンチェスター・バイ・ザ・シー>

 

当然のように、座談会の時点でも、まだ見れない作品も今年は特に多くて、予想はまさに盲撃ち。

結果は、ハリウッド時間26日(日)ですが、日本は来週月曜日27日ですので、お楽しみに。

★セカンド・オピニオンとしては、作品賞は本格群像劇の「ムーンライト」

★監督賞は「セッション」の音楽性をミュージカルにしたデミアン・チャゼル。

★主演男優賞は「沈黙」での苦労も加味して奮闘賞としてアンドリュー・ガーフィールド。

★女優賞は、「エル」で130分の出ずっぱり熱演のイザベル・ユペール。

★助演男優賞は「ムーンライト」の黒人マハーシャラ・アリ。

★助演女優賞は、大ベテランのヴァイオラ・デイヴィス・・・・という線もあるかも・・・。 


●『ライオン*25年目のただいま』で見せる<Googleマップ>の驚異的映像探索力。

2017年02月19日 | Weblog

2月7日(火)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-018『ライオン*25年目のただいま』"LION" (2016) Long Way Home Holdings / The Weinstein Company /Screen Australia

監督・ガース・デイビス 主演・デヴ・パテル、ニコール・キッドマン <119分・シネマスコープ> 配給・ギャガ・GAGA

サルー・ブライアリー著の原作「25年目の<ただいま>5歳で迷子になった僕と家族の物語」は、驚くべき自身の奇跡的な人生の体験を書いたベストセラー小説。

その実話をもとにして、あの「英国王のスピーチ」の製作陣が、オーストリアの女優ニコール・キッドマンなどのキャストで、実話と同じインドとオーストラリアで撮った再現ドラマ。

呆れるような真実のストーリーを忠実に映画化したこの作品は、今年のアカデミー賞で作品賞を含む6部門でノミネートされていて、26日の結果が注目されている。

1986年のインド、ムンバイの東北に位置するカンドワという村に住む5歳のサルーは貧しいシングルマザーの4人の子供のひとりで、いつも兄弟で遊び回っていた。

極貧の住民たちの田舎町には仕事もなく、兄は深夜のアルバイトでささやかな食費を稼いでいたが、サルーは兄の仕事中に停車していた回送列車の中で眠ってしまったのだ。

気がつくと回送列車はノンストップで終日走り、やっと夜になって停車したのは、インドの東、バングラデシュに近い貧困の犯罪都市コルカタだったのを、彼は知る由もない。

浮浪者たちと路上で暮らすが、どうして家族のいるカンドワまで帰ったらいいのか・・・、身分証明も金も知人もいないサルー少年は、とにかくホームレス達と同様の生活となる。

結局は当局の浮浪者収容所に護送された挙げ句に、身元不明の迷子として施設に入れられた後に、里子としてオーストラリアの南の島タスマニアの夫婦に引き取られてしまった。

そして25年後になって、メルボルンの大学でホテル経営を学んでいた30歳になったサルーは、どうしても産みの母親や兄たちに会いたくて、自分の記憶を頼りにネット検索をしたのだ。

正確な住所や所番地は記憶にないし、成人したデヴは大学のPCを使って、<Google Earth>の<地図の旅>というサイトの移動上空撮影のスクリーンで少年時代の記憶を辿って行く。

ま、いまだからこそ可能な検索方法だが、むかしなら「母を探して3千里」のように、自分の足と目で探さなくてはならないが、いまでは<グーグル>という文明の利器がある。

1992年のアルゼンチンのフェルナンド・E・ソラナス監督の「ラテンアメリカ光と影の詩」では、パタゴニアからメキシコまで少年が父親を自転車で探した名作があった。

それに比較しては無駄だろうが、どうも<グーグル>の宣伝映画のような後半の美談印象になったのは、惜しまれたが、最後にタイトルの「ライオン」の意味には驚いた。

 

■ゴロの打球が左中間でイレギュラーする間にツーベース。 ★★★☆☆

●4月7日より、TOHOシネマズみゆき座などでロードショー  


●『素晴らしきかな、人生』には、まだ当分、時間がかかりそうだな。

2017年02月17日 | Weblog

2月7日(火)10-00 神谷町<ワーナー・ブラザース第2試写室>

M-017『素晴らしきかな人生』" Collateral Beauty " <Life Can Be Wonderful>  (2016) Warner Brothers / New Line Cinema / Village Road Pictures 

監督・デヴィッド・フランケル 主演・ウィル・スミス、エドワード・ノートン <97分・シネマスコープ> 配給・ワーナー・ブラザース映画

ちょっとクラシックな名画のファンならば、当然、フランク・キャプラ監督の名作「素晴らしき哉、人生」のリメイクか、と咄嗟に心配してしまう、が、関係ない。

原題は「コラテラル・ビューティ」といって、この映画のキーワードとして、ドラマの会話のなかでも再三に登場するが、日本語では<不幸中の幸い>とでも言うのか。

主人公のウィル・スミスは、ニューヨークで広告代理店として成功している会社のエドワード・ノートンとの共同創始者であって、シャキシャキの広告マンだった。

ところが突然の交通事故で妻を失い、そのショックで彼はまったく、生きる気力を失って、会社にいても放心状態で、親友の忠告にも上の空だから、会社経営もヤバい状態になる。

パートナーのエドは,精神科医の受診をすすめ、気分転換の方法を、いろいろと薦めるのだが一向に効果はなく、あの陽気なウィルも無精髭で放心状態の日々が続くのだった。

とうとう会社も傾き出して、従業員もポロポロと辞めて行き、このままでは一流だったアドヴァタイジング・エージェンシーも倒産の危機が迫っていた。

そこでエドは、ブロードウェイの劇団の連中に、芝居の稽古のつもりで、偶然を装ってウィルに近づいて、メンタルな底辺を持ち上げるような芝居をするように仕組んだのだ。

その3人の俳優たちは、それぞれにバイブルの<三人の賢者>の役を演じて、ハンフリー・ボガートの「俺たちは天使じゃない」のように、ウィルの窮地を救って行く。

という設定なので、アメリカでは古くからある設定で、そのヘンな賢者たちを名優ヘレン・ミレンやキーラ・ナイトレイらが演じているのが豪華なのだが、シナリオがまずい。

おまけにこの3人は<天使>なのに、ブロードウェイの俳優たち、という中途半端な設定なので、人生を軌道修正するようなパワーが感じられないのが非常にもどかしくなる。

しかも演出が「プラダを着た悪魔」のメリル・ストリープのクレイジーな大胆さがなくて、平板なので、全然、天使のアドヴァイスのような特殊効果が薄く、ウィルの回復も時間切れ。

せっかくのオスカー・ノミニー達が集まったのに、シナリオが平板なのと、演出に思い切った発想が乏しく、無精髭の不機嫌なウィル・スミスの空回りが目立ってしまった。

 

■三遊間の面白い当たりだが、高く上がりすぎて平凡なサードフライ。 ★★★

●2月25日より、全国ロードショー 


●『午後8時の訪問者』の応対に出られなかった女医の犯罪トラブル。

2017年02月15日 | Weblog

2月2日(木)15-30 京橋<テアトル試写室>

M−016『午後8時の訪問者』" La Fille Inconnue (2016) Les Films du Fleuve / Archipel 35- Savage Film , France 2 Cinema ベルギー

監督、脚本、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 主演・アデル・エネル、オリヴィエ・ボノー <106分・ビスタサイズ>配給・ビターズ・エンド 

異色な味の「少年と自転車」や「サンドラの週末」などの、ダルデンヌ兄弟の新作は、タイトルの気分から、もしや<フレンチ・ノワール>かと思ったのだが、それは手前の勝手な予測。

たしかに午後8時に、若い女医の診療所のベルが鳴ったのだが、ひとりで切り盛りしているクリニックなので、彼女は電話中で忙しくてそのベルに応答が出来なかった、という発端だ。

ところが、後日になってひとりの若い身元不明の女性殺害遺体が近所で見つかり、捜査線上には、アデルのクリニックのベルを、午後8時に、その女性が慌てて押している映像が見つかる。

しかし彼女にはその女性は知らない訪問者で、急患だったかも知れない・・という思いに、すでに大きな病院への栄転の決まっている彼女には気になる事件だった。

アシスタントの学生も、医学への思いが叶わぬ現状で、クリニックを辞めてしまい、問題が山積される現状での大病院には気がとがめる状況から、アデルは今のクリニックに留まることにした。

防犯カメラに移っていたその<午後8時の訪問者>を探すことにしたアデルの日々は、まるで新米探偵のようで心もとないのだが、とくにノワール色はなく、ドラマは淡々と続く。

殺されていた女性は国籍も居住地も不明なために、恐らくは不法滞在者だったのかも知れなく、大きな病院には相談できずに、小さなアデルのクリニックのベルを鳴らしたのかも知れない。

警察の取り調べを聞いたアデルは、不法入国者でも立派な人間であって、国籍はともかく、平等に医療は受けられるべきだと考える信念の清純さを、ダルデンヌ兄弟監督は静かに告げて行く。

というストーリーなので、殺人の遺体遺棄による刑事事件がバックになるストーリーなので、視線を替えればノワール色が濃厚なテーマなのだが、この作品は頑にそれをしない。

タイトルの気分で、チャールズ・ブロンソン主演のノワール作品「夜の訪問者」のようなサスペンスを予想して見たわたしも、とんだ<試写室の訪問者>。

この正義の天使のような女医の姿を、アデルはまるでドキュメント・フィルムのように自然に、まさにあたふたと演じていて、そのことで事件の身近な深刻さを訴えているようだ。

若いインターンの女医さんには、医者の鑑として、見て頂きたいものだが・・・。

 

■左中間へのいい当たりだが、意外に伸びずにセンターが好捕。 ★★★☆

●4月8日より、ヒューマントラストシネマ有楽町でロードショー 


●『汚れたミルク*あるセールスマンの告発』で明かされるパキスタンでの乳幼児死亡事件。

2017年02月13日 | Weblog

1月2日(木)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-015『汚れたミルク*あるセールスマンの告発』" Tigers " (2014) Cinemorrhic. Sikhya Entertainment & ASAP Films インド+UK

監督・脚本・ダニス・タノヴィッチ 主演・イムラン・ハシュミ、ダニー・ヒューストン <90分・シネマスコープ> 配給・ビターズ・エンド

ボスニアの出身で、サラエヴォでの戦闘で、最前線での記録映画の撮影活動をしていた前歴から、ベルギーに移住して「ノーマンズ・ランド」で監督デヴュしたというダニスの新作。

これはパキスタンで1994年に実際に起こった幼児用の粉ミルクに、有害成分が混入されていて、生まれたばかりの乳幼児が死亡していた事件を、それを販売していたセールスマンが告発した事件。

原タイトルの「タイガー」とは、もちろん猛獣のことではなく、猛烈なトップセールスマンの呼称であって、自分の販売していた幼児用粉ミルクの使用が原因だとされる未熟児の存在に驚く。

とくに事件の重要性を誇示することもなく、イムラン扮する若い男は実直な性格の普通の男で、この映画の持つリアリティを素直に好演していて、あの「ミルク」のショーン・ペンほど個性はない。

ドラマの深刻性はともかくとして、この映画のスタンスは極めて誠実冷静で、まるで教育放送の番組のように貧しいパキスタンの小市民と病院の日々をスケッチしていくのが、ちょっと平板だ。

つまり、あくまでエンターテイメント性は拝して、現実にあった巨大多国籍製薬会社の実態と、そこに発生していた事件を追求し、告発しようとする主人公の姿は地道に徹底して行く。

社会の貧しさ故に見逃して行く病理誤算の実態を、もしエリア・カザンやフランチェスコ・ロージ監督だったら、もっと過激で迫力のある味つけをするだろうが、このダニス監督は平静を貫くのだ。

という具合で、娯楽映画にしては非常に地味で、問題の重要性も敢えて誇示しないので、ま、実に誠実で知的な告発映画であって、そこに激しいアジテーションを期待すると、失望するだろう。 

ムンバイのボリウッド映画のスター、イムラン・ハシュミは始終誠実な青年セールスマンを演じていて、強烈な個性はないが、その視線には好感が持てた。

あのジョン・ヒューストン監督の息子のダニー・ヒューストンが、久しぶりに顔を見せていたが、映画製作プロデューサーの役で、かなり高齢なシブい顔になっていたのが懐かしい。

このダニス・タノヴィッチ監督の社会ドラマ「サラエヴォの銃声」も、3月25日より、連続公開される。

 

■サードのベースに当たる巧打だったが、バウンドが野手の前で同時アウト。 ★★★+

●3月4日より、新宿シネマカリテでロードショー 


●『ジャッキー』は女性として最も過酷な10年間と、その生涯を閉じた。

2017年02月11日 | Weblog

2月1日(水)15-00 五反田<イマジカ第一試写室>

M-014『ジャッキー*ファーストレディ最後の使命』" JACKIE " (2016) Protozoa / Wild Bunch /Fabula Production

製作・ダーレン・アロノフスキー 監督・パブロ・ラライン 主演・ナタリー・ポートマン、ピーター・サースガード <99分・ビスタサイズ>配給・キノフィルムズ

ご存知、あの暗殺されたアメリカ大統領ジョン・F・ケネディの奥さんで、最近までアメリカ駐日大使だったキャスリーンの母親のジャクリーン・ケネディをテーマにした映画。

伝記ではないので、その後のオナシス夫人になった経緯などは描かれていなくて、あの悲劇のあと、ホワイトハウスを退出する時のインタビューが回想ドラマ化されている。

当のジョン・Fに関しては、1963年11月22日の事件から、かなり多くの映画がドラマ化されて、オリバー・ストーン監督の『JFK』などが記憶に残っている。

悲劇の大統領として、あの事件は暗殺の関連として容疑者の「ジャック・ルビー」から、関連したドラマが多く映画化されて、「大統領の堕ちた日」や「ブラインド・ホライズン」は有名。

しかしなぜか未亡人のジャクリーンをヒロインにした映画は作られなかったのは、その後の波乱に満ちた人生の関係者などからの映画化許可取りが不可能だったからだろう。

ジャッキーを演じているナタリー・ポートマンは、つい最近「ブラック・スワン』の好演で、オスカーを受賞したばかりだが、あの時の監督のダレンが、ここではプロデューサー。

監督には、チリ出身の若いパブロ・ララインが起用されているが、以前にチリの大統領をテーマにして監督した作品が好評で、この作品での起用になったろうが当然のようにダーレン色が濃い。

プライベイトでも社会貢献活動家としても貧民救済の政治活動しているナタリーが、この作品のプロデューサーとしてもクレジットされていることから、このテーマの言い出しっぺに違いない。

映画はホワイトハウスから転居する時間での、記者のインタビューでの回想となっていて、ほとんどのシーンでジャッキーが絡んで来るという、ワン・ウーマン映画になっているのも当然だ。

どうしても、あの「ブラック・スワン」で麻薬に冒されて行くバレリーナのドラマがダブってしまうのは、ダーレンの指示もあったろうが、ミカ・レビのダークなサウンドの不気味さかも知れない。

24才の若さでJFKと結婚し、最初の子供を死産して、31才でファーストレディとなり、次男は生後3日で亡くなり、その年の11月には夫が目の前で暗殺、たった10年の結婚生活だった。

ナタリーは似ていないにしても、不運で気丈なヒロインを独演して、またオスカーにノミネートされたが、どうもインタヴュアーの演技がフラットなせいか、ドラマは盛り上がらないのだ。

ダラスでの暗殺シーンも、バート・ランカスターの「ダラスの熱い日」よりもかなりリアルに表現されているものの、やはりアロノフスキーの趣味なのか、ちょっと後味が悪いのが惜しまれた。

 

■左中間を抜くヒットだが、セカンドに滑り込み憤死。 ★★★☆

●3月31日より、TOHOシネマズ シャンテ他でロードショー