細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『赤毛のアン』はこうして強い女性の遺伝子を育てる。

2017年03月31日 | Weblog

3月28日(火)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-037『赤毛のアン』" L.M. Montgomery's Anne of Green Gables " (2015) Breakthrough Entertainment, Gables Productions カナダ

監督・ジョン・ケント・ハリソン 主演・エラ・バレンタイン、マーティン・シーン <89分・ビスタサイズ> 配給・シナジー

この世界的に有名な少女小説のことは「オズの魔法使い」や「若草物語」「赤ずきん」などと同様に、少女小説のベストセラーだということ程度しか知らなかった。

たまたま午前中に試写で見た映画のことを、3月中には公表してはならない、という書面にサインしたために、その後に見たこの映画のことを書くことになった次第。

ま、試写を見ていると、最近はよく、公開事前の情報コントロールをされる関係で、こうゆうこともあり、お陰でこうして偶然に、思いがけずにアンにもお目にかかった・・・という次第。

カナダのプリンス・エドワード島というのは知らないが、「ミモザの島・・・」のように、本土からは少し離れた、あの<モン・サン・ミッシェル>か、江ノ島みたいな所だろう。

その島の農場に、孤児院から少年の手伝いの派遣を頼んだのに、何かの手違いで、おしゃべりで小生意気な少女、アンがやってきて、老農夫のマーティン・シーンは困惑してしまう。

あの「地獄の黙示録」のマーティンも、すっかりジジイになってしまって、見ている我が身の老化を心配してしまうが、その他には見た事もないカナダの俳優たちがドラマをまとめるのだ。  

とにかく、「レ・ミゼ・・」でコゼット役を演じたというエラは、元気溌剌で身勝手な行動派だから、あの「アンネの日記」の少女とは正反対な強気な少女で、出ずっぱりの独演。

その農家を仕切っているオバさんのカナダの名女優サラ・ポッツフォードもアタマが痛いし、老父のマーティンは無駄な抵抗はしない傍観ジジイ。

どうやら、これはカナダのテレビ映画のために製作された作品のようで、15分くらいでドラマのエピソードはフェイドアウトしてしまうので、「奇跡の人」のようには過激に盛り上がらない。

その風光明媚なプリンス・エドワード島の四季の変化を美しく見せて、ドラマとしては、その強気のアンの行動に翻弄される老夫婦家族の混乱ぶりを淡々と描いて行く。

そして当然のように、アンの本家はリッチな本土の<お嬢さん>なのに、彼女は貧しいこの島の老人農家の家にステイすることを決める・・・のは、予想通り。

こうしてみると、男の子よりは、女の娘の方が言いたい放題のわがままで、自分は王女さまのつもりで生き抜いて行くド根性が痛快で、それがこのオリジナルの人気の元なのだろう。

 

■強引な初球ピッチャーゴロを投手が弾いて、強襲安打。 ★★★

●5月6日より、全国ロードショー 


●『ブラッド・ファーザー』の壮絶な老父と不良娘の逃避行と感涙のラスト。

2017年03月29日 | Weblog

3月24日(金)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>

M-036『ブラッド・ファーザー』" Blood Father " (2016)  Wild Bunch / Why Not Productions / D. N. Y.

監督・ジャン=フランソワ・リシェ 主演・メル・ギブソン、ウィリアム・H・メイシー <88分・シネマスコープ> 配給・ポニー・キャニオン

ことしのアカデミー作品賞にノミネートされた日米激突の戦争映画「ハクソー・リッジ」で、元気な演出ぶりを発揮したメル・ギブソンの、これも元気な主演映画。

街はずれの寂れたトレーラーハウスに暮らす初老のメルは、ムショ帰りながら執行猶予の観察つきというアウトローで、アルコール中毒から抜け出すためにリハビリをしているダメ男。 

妖しいタトゥーの彫り職人で、無法者たちを相手にストイックに、細々と暮らしているが、十数年も前に生き別れになったひとり娘から「ヘルプ・ミー」という電話がかかった。

少女の頃にしか知らない一人娘が、別れた女房と暮らしていたが消息不明だったが、この突然の電話を放っておくわけにもいかず、とにかく泣きつかれたブスな不良娘に会ってみた。

裏社会でヤバいショーバイを手伝って暮らしていた娘は、組織のヤミ商売トラブルの最中にボスの男を殺してしまい、その裏組織から命を狙われて追われているという。

とにかく数十年ぶりの再会なのだが、そこは肉親の愛娘の災難だから、リハビリ初老親父としても命をかけてトラブル・メイカーな娘を救うために、老骨に鞭をうって逃亡を助ける。

リハビリ仲間の名優ウィリアム・H・メイシーの知恵を借りて、メル親娘は「ゲッタウェイ」のふたりのように、必死で追って来る組織の悪党どもを撃ち殺すしか、生き残れないピンチ。

まさに「マッドマックス・初老篇」のように、この荒くれな親娘は、追っ手の銃弾をかわして荒野の逃避行をかさねるサマは「俺たちに明日はない」の父娘版となる。

監督はフランスで「アサルト13要塞警察」で、実にハードでストレートなアクション・ドラマに生彩をみせたリシェ監督で、そこはメル大監督の手前、とてもテは抜けない。

従ってドラマは急テンポの逃避行アクションの連続で、実に無駄がなく、追いつ追われつのサスペンスは、久しぶりにB級アクションの醍醐味を発揮して、まったく休憩のないリズム。

これで見る限り、まだメル・ギブソンには息切れはなく、「ハクソー・リッジ」のハードな映像テンポのままに、ここでも必死の逃避行を見せて、凄まじいラストまで一気に見せるのは、さすが。だ。

 

■サードが強烈なゴロを弾く間にセカンド・セーフの快走。 ★★★☆☆

●6月3日より、新宿ピカデリーなどでロードショー 


●『カフェ・ソサエティ』で久しぶりに本場のギムレットで乾杯だ!!!

2017年03月27日 | Weblog

3月24日(金)10-00 築地<松竹本社3F試写室>

M-035『カフェ・ソサエティ』" Cafe Society " (2016) Gravier Production / Perdido Productions 

監督・脚本・ウディ・アレン 主演・ジェシー・アイゼンバーグ,スティーブ・カレル <96分・ビスタサイズ> 配給・ロングライド

ほぼ毎年のようにコンスタントなペースで、新作を発表しているウディ・アレンの新作だが、久しぶりに彼らしい、本来の好調マンハッタン・コメディが復活したのは嬉しい。

というのも、わたし自身、彼とほぼ同じ年齢なので、映画的な趣味性やジャズの知識も同様で、このところちょっとお疲れな作品が続いていたので、勝手ながら、心配していたのだ。

ケイト・ブランシェットが2013年にアカデミー主演女優賞を受賞した「ブルー・ジャスミン」は、ハリウッド女優の成功と転落を描いた秀作だったが、本来のコメディではなかった。

しかし、この新作は2011年の「ミッドナイト・イン・パリ」以来の秀作で、やはり1930年代のハリウッドとニューヨークを舞台にして、さすが本業、鮮やかな作品に仕上げていて、お見事。

やはりご自分の生まれた30年代に郷愁を抱くのは当然で、あの「ラジオ・デイズ」での時代への愛着や、「カイロの紫のバラ」などで見せた、あの佳き時代の映画への愛情は病的に美しい。

この作品のジェシーは、若いニューヨークの青年なのだが、遠い映画の都のハリウッドに憧れて、母の弟の叔父が映画会社の重役をしているコネを使って、アルバイトを懇願しに3週間も粘る。

どうにか「先生のお気に入り」の新聞少年のように、ハリウッドのスタジオで、叔父の補佐のような使い走りでアルバイトのような雑用を始めるが、ついつい秘書の女性に恋をしてしまう。

叔父は映画製作の激務で多忙だが、電話の相手が、デミルだ、ワイラーだ、キャプラだ、ワイルダーだ・・・という名前が、何者かが判らないのが、クラシック映画ファンには羨ましい。

しかも、毎度のクラシック・ジャズも「You Do Something to Me」から「Manhattan」まで、軽いピアノで流し、久しぶりに、ハリウッド・セレブ役のスティーブ・カレルも好演。 

きょうは「ジョエル・マクリーとランチで忙しい・・」などという台詞は、いまの若いひとには???、わからないだろうが、われわれのオールドファンには、嬉しくなる会話が頻発するのだ。

惚れた秘書は、案の上、叔父ともつきあっていて進展が難しく、傷心のジェシーはハリウッドを見切り、マンハッタンに戻って、「クラブ・トロピック」という当時の人気クラブで働く。

大戦の前で、不況の狭間のニューヨークのナイトクラブは、リッチなセレブの溜まり場で、あの「ラジオ・デイズ」のラストの狂騒ぶりを思い出すが、あのハリウッド秘書の彼女と再会するのだ。

いかにもロマンティストのウディ・アレンらしい二重構造だが、「シェルブールの雨傘」のラストを、ジャジーに華やかなマンハッタンの喧噪で飾るあたりが、いかにも彼の趣味性が復活。

あのニューヨーカーのウディが、この10数年の間、ロンドン、パリ、ローマ、バルセロナなどを放浪した末に、またしても心の故郷のニューヨークに戻って、秀作の復活には拍手喝采だ。

 

■レフトにホームラン性のファールのあと、ライト上段に文句なしのホームラン。 ★★★★★

●5月5日より、TOHOシネマズ・みゆき座ほかでロードショー 


●『スウィート17モンスター』は学園ハミだしセブンティーンの元気な日々。

2017年03月25日 | Weblog

3月23日(木)13-00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>

M-034『スウィート17モンスター』" Sweet 17 Monster " (2016) Stage 6 Films / STX Financing, LLC / Huayi Brothers

製作・ジェームズ・L・ブルックス 監督・脚本・ケリー・フレモン・クレイグ 主演・ヘイリー・スタインフェルド <104分・ビスタサイズ>配給・カルチャヴィル

これまた<モンスター>映画で、あの「キャリー」や「エクソシスト」などのような少女モンスターが出現する恐怖映画かと期待したが、完全にこちらの、オオボケ早とちり。

まったくバケモノも<ポケモン>も出ない、すこぶる健全な<スウィート・セブンティーン>の学園青春映画で、どこにも妖怪変化も発狂奇人も出て来ない、健全ホームドラマ。

あの名作「愛と追憶の日々」や傑作「恋愛小説家」を監督したジェームズ・L・ブルックスがプロデュースしているので、これは実に<マトモ>なるアメリカン・ガールの青春日記なのだ。

ま、どこの親でも、17歳になる青春期の少女は<モンスター>に見えるものだろうが、たしかにこのヒロインのヘイリーは、かなり自己主張の強い、元気すぎるビッチには違いない。

ごくありがちなアメリカの中流家族に住むヘイリーは芳紀17歳のハイスクール・ガールだが、親友が、こともあろうにハンサムな兄貴と、何と恋仲になったことからクレイジーとなる。

ぐうたらな母親に不満を持っているヘイリーは、父親がいないので、学校の中年教師のウディ・ハレルソンに何かとちょっかいを出しては相談相手になっているが、このウディがいいのだ。

「ナチュラル・ボーン・キラー」で強烈なワルを演じたウディは、そのイメージのせいか悪役が多いが、ここでもワケあり風なセンセーを演じていて、その冴えないセンセ風采が実に好感である。

だから家族に不満だらけのヘイリーは、何かとウディ先生に相談するのだが、この関係のアンバランスながら心地いい友情があって、この作品を味のアル<モンスター映画>にしている。

とにかく脚本と人物設定がいいのだが、やはりジョエル・アンド・イーサン・コーエン兄弟の「トゥルー・グリット」という、あのジョン・ウェイン西部劇のリメイクで光ったヘイリーが好演。

何しろ、あの映画で、いきなり14歳でアカデミー助演女優賞にノミネートされたという<モンスター>少女女優なので、この作品のヒロインとしても完全に作品をリードしてブレないのだ。

学校一のイケメンなボーイが、実はエッチな不良だったり、言いよって来た香港ボーイが超リッチだったり・・・とにかくヘイリーの青春は想定外なトラブルが続出して、ドラマは飽きさせない。

というワケで、怪獣やモンスターは出て来ないが、現実に不満だらけの女子高生には、これはハートフルな応援歌映画であることは間違いない、おすすめだ。

 

■前進守備のサードの後方に落ちたポテン・ヒット。 ★★★☆

●4月22日より、ヒューマントラストシネマ渋谷他でGWロードショー 


●『夜に生きる』ギャングたちの酔っぱらいなド派手銃撃アクション。

2017年03月23日 | Weblog

3月17日(金)13-00 神谷町<ワーナー・ブラザース映画第2試写室>

M-033『夜に生きる』" Live By Night " (2017) Warner Brothers Studio, Appian Way Studio, Parle Street Productions

製作・レオナルド・ディカプリオ 監督・主演・ベン・アフレック、クリス・クーパー <129分・シネマスコープ>配給・ワーナー・ブラザース映画

あのクリント・イーストウッド監督の「ミスティック・リバー」や「シャッター・アイランド」などの人気作家デニス・ルヘインの原作を、作家自らディカプリオと共同で製作。

という、かなり男気の強い連中が、1930年代アメリカの、あの禁酒法時代のボストン旧市街を舞台にしたマジ・ギャング映画で、キャグニーやボギーなどの再現ドラマとなる。     

「アルゴ」でアカデミー作品賞も受賞したベン・アフレックが、またも監督主演なのだから、まさに久しぶりな本格ギャング映画の復活・・・という次第だ。

もともとワーナー・ブラザース映画は、30年代から40年代にかけては、シカゴの密売酒ギャングたちの映画を量産にて多くのスターを生んだ老舗の専売特許なのだ。

つい最近でも「ブラック・スキャンダル」では、ジョニー・デップがハゲ頭のギャングを演じて凄みを出していたが、これは従ってワーナー社自慢の伝統ブランド。

もともとは警察署長の息子だったベンは、アウトローの世界に憧れて、世の常のように父親に敵対したショーバイで反抗してひったくられて、フロリダのタンパにしけこむ。

タンパといえば、メジャー・リーガーのキャプ地でいまは有名だが、もともとはキューバやメキシコなどの密入国者たちギャングの温床で、テキーラやラム酒の密売拠点だった。

リノ・ヴァンチュラ主演の傑作「ラムの大通り」なども、メキシコ湾岸で暗躍する悪党連中のギャングものだったが、ここではベンが監督業も兼ねての悪役でクールに凄んで見せる。

ま、シカゴよりは明るいフロリダのギャング映画なので陽光が眩しいのにW、このギャングたちも夜のショーバイなので、タイトルのように夜光虫のように暗がりで撃ち合う。

あくまでタイトルは、夜中の商売というのではなくて、暗黒街での密造酒販売を主とした連中だから、あの「華麗なるギャツビー」のレッドフォードやディカプリオのようにおしゃれだ。

今年のアカデミー賞では、弟のケイシー・アフレックが受賞したので、兄貴のベンも会場では苦笑いしていたが、この兄弟も弟の方が芝居は上手で、ベンは演出業はマズマズ。

派手な銃撃戦のシーンでは、さすがにプロデューサーたちの背後の視線を感じたのか、なかなかスリリングな演出の切れ味は見せるのだが、肝心の俳優としては相変わらずのダイコン。

オールドファンならば、キャグニーやボギーや、エドワード・Gたちの面構えで見たかった、・・・と悔しがる久々の本格老舗ブランド自慢の、専売ギャング映画だった。

 

■フルカウントから豪快な左中間へのフライが上がりすぎて、フェンスに当たりツーベース。 ★★★☆

●5月20日より、丸の内ピカデリーなどでロードショー 


●『美しい星』の自称宇宙人たちの笑えない<家族はつらいよ>。

2017年03月21日 | Weblog

3月16日(木)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-032『美しい星』(2017)プロダクション・リクリ、「美しい星」製作委員会、GAGA

監督・吉田大八 主演・リリー・フランキー、亀梨和也 <127分・ビスタサイズ> 配給・ギャガ

雑誌<新潮>に連載されて、1963年に単行本として刊行されたという、三島由紀夫のSF異色小説の映画化だが、かなり不思議な現代ホームドラマだ。

その原作小説は読んでいないが、この映画で見る限りは、ごく平凡な家族だが、それぞれに自分は異星人という意識を持っていることで、一種の地球環境問題悪化を危惧している。

しかしシリアスなドラマではなく、どこかピントの外れた意識を共有する「家族はつらいよ」異色版であって、あの60年代にあった地球危機感の視点が、妄想と現実を歪ませてオカしい。

表面的には、それぞれに平凡な生活意識を持った家族なのだが、母だけが地球人で、父親はテレビの気象予報士なのだが自分が火星人だといい、息子は水星人、娘は金星人、だと思い込んでいる。

ドラマはそのヘンな宇宙人家族の奇行を、マジに見つめていて、とくにコメディとしてでもなく、かといってSF家族の怪奇ドラマでもなく、ごく普通のドラマとしてスタンスはクール。

吉田大八監督の映画がいつも面白いのは、「クヒオ大佐」でも「桐島」くんでも、「紙の月」の女性でも、ごく普通の常識で生きている人間の心理の、ちょっとヘンな脱線を描いて面白い。

この宇宙人家族も、表面的にはごくアリガチな常識人家族なのだが、とくに主人のテレビのお天気予報官の実況予報ぶりが、少しずつズレてきて、その予報のなかに地球の危機感を訴えるのだ。

そこはライブ放送なので、エキスパートの自覚に作用されるライブ放送の宿命なので、リリー・フランキーの個性から見ていると、冗談のように聞こえるところが、逆に気味が悪くなる。

むかし、あのオーソン・ウェルズのラジオ放送で、火星人が襲来したことを話したら、それを聞いていた視聴者たちは、思わず外に飛び出して空を見上げた・・・というエピソードを思い出した。

この作品では、そのヘンな家族の意識を通じて、地球が抱えている空気汚染の日常的な悪化の危惧を訴えているようだが、そこは山田洋次の家族のようにコミックでないところが、この異色家族。

どこか舞台劇のようなスタンスなのも、ドラマの空気が一種のコミックな心配性な冗談めいているからで、とくに危機感はないのだが、参議院議員の秘書官の佐々木蔵之介が、いちばん宇宙人っぽかった。

しだいにリリー・フランキーの天気予報官は、ライブ放送で地球危機感をしゃべるようになるのはいいとして、妙なポーズで覚醒して、娘の橋本愛までがヘンなポーズをやりだすのは苦笑。

恐らく三島由紀夫の原作では、その辺の覚醒家族の変態ぶりがシニカルに書かれているのだろうが、このキャスティングでは、終始ノリ切れなかった異色コメディだった。

 

■かなり高く上がったライトフライだが、結局ファール・アウト。 ★★★

●5月26日より、全国ロードショー 


●『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は感情のさざ波がデリケートに光る秀作。

2017年03月19日 | Weblog

3月14日(火)13-00 半蔵門<東宝東和映画試写室>

M-031『マンチェスター・バイ・ザ・シー』" Manchester by the Sea " (2016) Universal Pictures /K Period media / A Pearl Street Films / The Media Farm / Forcus Features 

製作・マット・デイモン 監督・脚本・ケネス・ロナーガン 主演・ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ <137分・シネマスコープ>配給・ビターズ・エンド

何とも懐かしい、あの50年代に多かった「エデンの東」や「ハリーの災難」「青春物語」「ピクニック」のような、アメリカ中流のカントリー・ライフの呼吸を感じさせる人間ドラマ。

今年のアカデミー賞レースで、あのオール黒人ドラマの「ムーンライト」と互角に健闘した小市民の日常を見つめた秀作で、こちらは東部海岸の疲れた白人たちの人生スケッチだ。

「アルゴ」でアカデミー作品賞を受賞した俳優のベン・アフレックの実の弟のケイシーは、兄よりも遥かに繊細な演技力と細かな感情表現が巧みで、この作品で主演男優賞を受賞。

あの「華麗なるギャツビー」のロングアイランドよりは北部に位置する<マンチェスター・バイ・ザ・シー>は、昔からの漁師なども住む平凡な海辺の町で、ひなびたヨットの係留港。

兄の突然の病気死亡の知らせに、ボストンから急遽戻ったフリーの便利屋下請け工事をひとりでしているケイシーは、疎遠だったが実の兄の急死の知らに郷里に駆けつけた。

その兄の甥っ子の高校生を、遺体安置所に連れて行き、母親や知人たちにもメールしたり、弁護士との葬儀の打ち合わせ等と、その事後処理に忙殺されていくスケッチが、実にデリケート。

どうしてケイシーが、こうして山積された兄貴の残務を処理しなくてはいけないかは、彼らの過去の多くのトラブルが回想されていくが、それは公開まではネタバレなので、書く訳にはいかない。

いろいろな細かな過去の思い出によって、ケイシーの人間像と、どうして故郷を捨てて都会に出てしまったのかが、このような些細なエピソードで語られて行く演出が、流れるペースだ。

このような小市民の生活には、特に語るようなドラマはないのだが、この映画の脚本と監督のケネス・ロナーガンは、実にデリケートに人間関係の感情的なトラブルを再現していくのだ。

やはりケイシーの性格が、時にキレやすいという、いかにも神経だった弟らしい細かな感情表現がドラマを実にセンシティブな体質にしているので、ぼーーーっと見ていられないテンションがある。

兄のベン・アフレックが監督した2007年作品「ベイビー・ゴーン・ベイビー」でも、ケイシーはモーガン・フリーマンを圧倒する細かな演技を見せたが、この作品も、彼の存在で成立している。

久しぶりに人間同士の複雑な感情と、葛藤が穏やかに平然と描かれた人間ドラマとして、いまこそ「ムーンライト」と並ぶ秀作として、ある種、貴重な意味をもつ人間ドラマだ。

 

■ゴロで左中間を抜けたヒットだが、イレギュラーして3ベース。 ★★★★

●5月13日より、シネスイッチ銀座ほかでロードショー 


『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』はローマで暴れる和製アニメ・ヒーローだ。

2017年03月17日 | Weblog

3月10日(金)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-030『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』" Lo Chiamavano Jeeg Robot " ( 2015) Goon Films SRL, Licensed by RAI Com. S.P.A. Rome 伊

製作・監督・音楽・ガブリエーレ・マイネッティ 主演・クラウディオ・サンタマリア,ルカ・マリネッリ <119分・ビスタサイズ> 配給・ザジフィルムス

歴史の街ローマの中心部には、バチカンやコロッセオなどの遺跡が美しいままに保存されているが、郊外にある新興の団地アパートには空き家も目立ち、崩壊も進んでいる。 

多くの浮浪者や、密航入国者、ホームレスなどが空き家に住みつく為に、中産有職者たちは移住して、その広大な団地は無法者地区になり、麻薬の密売の拠点にもなっているようだ。

むかしのイタリアン・リアリズムの名作「自転車泥棒」「靴みがき」などの時代には、まだ貧しくても働こうとする庶民の善意が多くの映画で描かれて、感動の名作も多かった。

しかし昨今のローマ郊外の貧困と犯罪はテロの温床ともなり、多くの密入者たちの<吹きだまり>として、政治家や新しい産業の誘致などにも、もう手がつけられない悪化で腐敗している。

という、このリアルな背景を救うために登場したのが、日本で1975年に誕生して、遂に79年にはイタリアでも放映された日本のアニメ、永井豪原作の「鋼鉄ジーグ」だった。

要するに「スーパーマン」「バットマン」「スパイダーマン」など、多くのコミック・アニメの同格ヒーローなのだが、そこは日本製なので、どこか忍者や、サムライの面影がある。

という視点では、ライアン・レイノルズが変身して大活躍した「デッドプール」のような発想なのだが、「ジーグ」には、マーベル・コミックのような茶目っ気やダークユーモアはないのだ。

その日暮らしの密売屋のクラウディオは、盗みの逃走の際にローマのティベレ河に飛び込んだが、河底にあった産業廃棄物のドラム缶に足を挟まれたが、どうにか追っ手の追跡をかわした。

そしてヤクの取引で、建造中止の高層ビルの上階で、マフィアの連中との密売交渉がもつれて撃ち合いとなり、相手のワルと殴り合いの最中に、9階のベランダからコンクリートの地上に落下。

肩を銃撃で負傷して落下したクラウディオは、当然、そこで死亡する筈なのに、すぐに起き上がり、逃走をしてアジトに戻り、肩の銃弾を抜くが、なぜかビルから落下した筈の外傷もない。

ボスの娘は、日本製のアニメ「鋼鉄ジーグ」の大ファンで、そのDVDをいつも肌身離さず持ち歩いていたが、そのアニメ的な妄想ワールドが、このクラウディオに乗り移ったのだ。

という展開で、おそらく原作でも同様に<ジーク化>してしまった男が、不死身で鋼鉄のタフガイに変身してしまったらしく、まさに「スパイダーマン」のように不屈の肉体を持ったのだ。

派手なハリウッド製のマーベル・コミックと違って、やたら薄汚いローマの貧困街で暴れまくるジーグは、まさにゴキブリのように素早くて不死身な鼠小僧のようにロックサウンドで大活躍。

この快挙で、2016年のイタリア・アカデミー賞で最多16部門でノミネートされ、何と最多7部門で受賞して、監督賞ほか主要部門を独占したというから、バッドジョークのような事実。

 

■きわどいファール性の痛打がレフトのフェンスを直撃して、ツーベース。 ★★★☆☆+

●5月、新宿武蔵野館などでロードショー 


●『ひるね姫〜知らないワタシの物語〜』には、こちらも昼寝ジジイになった。

2017年03月15日 | Weblog

3月10日(金)10-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-029『ひるね姫~知らないワタシの物語』(2017)日本テレビ、ワーナー・ブラザース・ジャパン、シグナル・エムディ

原作・脚本・監督・神山健治 主演(声)・高畑充希、満島真之介 <118分・ビスタサイズ> 配給・ワーナー・ブラザース・ジャパン

もともとアニメには興味のない旧世代な高齢人間で、ディズニーの「ピノキオ」や「バンビ」も、たしか小学生の頃に学校の団体早朝映画引率で見たという無礼者。

都市の書店には、広大なアニメ・スペースや、街にはアニメ喫茶もあるというのに、ハードボイルドな小説しか読まなかった小生には、まさに異国の文化なのだ。

だから、ここ数年の評判アニメ映画は一応は見ているが、あの「君の名は。」も「この世界の片隅に」も、評判を聞いて劇場で追いかけに見たのだから、この作品も語る資格はない。

第一、少女アニメの世界というのは、自分が二人の男の子しか育てていないので、生活の中にも少女という生き者の実態とか匂いを知らないので、これは未知の世界になる。

それでも一応はディズニーの「バンビ」「シンデレラ」や「白雪姫」、そして「アナと雪の女王」から最近では異端のアニメーション傑作「シング」も見ているのでフツーの映画マニア。

ところが、この作品は「眠れる森の美女」の系列なのか、少女の夢の世界と、現実とが頻繁に交錯するので、かなりにアタマの整理整頓が必要になるのも、アニメを見ていない世代の疾患だ。

とにかく話は、岡山の倉敷に父親とふたりで生活していた女子高生が、まさに病的な昼寝マニアで、所構わずに昼寝をして夢を見るのだが、不思議な事に、その夢は連続したストーリーとなる。

なぜか、2020の東京オリンピックの3日前のこと、突然、父親が逮捕されて、東京に連行されたために、娘のココネはその容疑を知る為に友人の大学生とともに東京への旅をするのだ。

同じ夢の続きを連続して見られるというのは羨ましい特技だが、そうでないと、このストーリーは成立しないのだが、とくに映像処理もなく、そのリアルと夢とが交錯するので、こちらが「ひるねジジイ」。

従って、後半に頻繁に現実と夢の世界が、何の映像処理もなく、レトリックの変化もなく、ただ少女が行ったり来たりの交錯しているうちに、こちらの興味も「ひるね」したくなってしまった。

フリッツ・ラングの名作「飾窓の女」のように、鮮やかな現実への帰着もなく、ただ頻繁に夢の続きを見せられて、この作品に関しては語る気力も失ってしまった・・・ご免なさい。

 

■3球見逃し三振。???

●3月18日より、春休み全国公開。 


●『キングコング・髑髏島の巨神』のモンスター・バトルは息詰まるデス・マッチ!!!

2017年03月13日 | Weblog

3月3日(金)15-30 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-028『キングコング*髑髏島の巨神』" Kong Skull Island " (2017) Warner Brothers / Legendary Pictures / Ten Cent Pictures

監督・ジョーダン・ヴォート=ロバーツ 主演・ブリー・ラーソン、トム・ヒドルストン <3D/118分・シネマスコープ> 配給・ワーナー・ブラザース映画

さてさて、ゴジラの次には、またしてもキングコングの登場だが、今回の野性の怪獣は、従来のコングの倍以上もありそうな偉丈夫で、体長は10メートルを越えそうなデカさ。

何と80年も前に登場した初代キングコングは、南海の孤島で捕らえられてサーカスに売られ、ニューヨークのエンパイアー・ステイト・ビルの頂上タワーで、単発戦闘機と戦って墜死した。

その後、40年代に「猿人ジョー・ヤング」という作品もあったが、1976年に本格復活して、あのツインタワー・ビルの屋上でジェット戦闘機と戦い、ジェフ・ブリッジスも奮闘。

ところが、2014年に「GODZILLA・ゴジラ」を製作したハリウッドのチームが、今度は墜死したはずの「キングコング」を、より巨大な野獣として復活させたのが、この作品だ。

しかも身長、体重も過去のコングの数倍もありそうな、31、6メートルの大きさで、体重も158トンという恐竜のような巨体で、その暴れ方はプロレスラーよりも俊敏なのだ。

話は簡単。現代ではなく1970年代のアメリカ海軍は、空母からヘリコプターによる調査チームを、ベトナムの海上に浮かぶ南海の孤島に送り込んだのも、ゲリラの討伐のためだった。

例によって、厚い霧に囲まれた未開の髑髏島は、調査チームが興味をもつ珍種類の生物や植物の生態がいまだに棲息している紀元前の時代のままの秘境であり、まさに禁断の聖地だったのだ。

映画はその原始時代のままの野性の島の生態を紹介していくが、ゲリラ兵たちと思ったのは、見た事もないような前世紀の野暴な怪獣や野獣たちの攻撃であって、近代兵器でも適わない。

とくに凄いのが<スカル・クローラー>という恐竜の化身で、トカゲが巨大化して、ダチョウのように俊足の脚力と、ワニのような巨大な顎で暴れまくり、調査団も苦戦が強いられる。

見た事もない怪獣たちは、専門学的には遺伝子の異常な発達した野性と凄まじいスピードで襲いかかるサマは、まさに「ジュラシック・ワールド」なのだが、これはもっと凶暴なのだ。

さあ・・大変だ・・・という調査団の前に、ついに1時間ほどして出現したキングコングは、周辺の樹木よりは遥かに長身で、しかも獰猛さは歴代ナンバーワンのパワーで暴れ回る。

とくに後半の怪獣大戦争は、とても人類の介入不可能なパワー戦争で、われわれ人間は銃器なども役立たないので、ひたすらに逃げ回るしかない・・・という惨状になる。

おそらくスピルバーグも、この映像を見たら悔しがるだろうが、この怪獣戦争の凄まじさは、これまでにないヘビー級の激戦となり、見ているこちらもトイレに逃げ出したくなる凄さ。

 

■豪快なライナーが、レフトのポールをへし折ってしまった。 ★★★★+

●3月25日より、丸の内ピカデリー他でロードショー