夏ですから 少し怖い話
平山夢明著 大江戸怪談草紙より「犬猿」を
適当に凝縮しました
本当はもっと江戸の風情があり 怖い
江戸の町箕輪、火葬寺近くの一軒家に五郎蔵という刺青師が住んでいた。
癇性持ちで博打好き、顔色は悪く、痩せて目だけがぎらついていた。
ある日、夫婦連れが五郎蔵のところに訪れて、二人に刺青を入れてくれと頼む。夫婦揃って彫って欲しいとは妙な話、おまけに二人は目が不自由だった。どうやら心中未遂の二人らしい。
五郎蔵は歌舞伎、蝶の道行きから佐国と小槙を題に取ろうと提案したが、仕事にかかる寸前、夫婦仲が良いのに癇が起きた。二人の目が見えないことを幸いに西遊記の孫悟空と八犬伝の犬塚信乃を彫った。犬と猿である。
それとも知らずに喜び、過分の謝礼を支払った二人は東海道を下って行った。
旅の途中、二人の仲はおかしくなっていった。あれだけ仲がよかったのに意見が食い違う。
大井川まで来たとき惨劇は起きた。川の増水で足止めをくった。
三日目、ようやく向こう岸へ渡ることが出来、ふたりは平輦台に乗った。流れの早い川の中ほどまで来たときのことだ。大きく揺れた瞬時に、女の髪の留めが男の目を突いた。
大仰に痛がる男は、反射的に女を突き飛ばした。弾みに女は川の中へ落ちた。
男は女を助けようと川に中へ飛び込む。大変な騒ぎになった。
気がついたとき、横にいる女はすでに息途絶えていた。号泣する男。
助けた人足はこういった。
「仲のよさそうなお二人なのに、どうして犬と猿の彫り物をしていなさる。これではまるで犬猿の仲を望んでいるようだが」
数日後、男は五郎蔵の家を訪れた。五郎蔵は留守だった。
持っていた小刀で男は自分の喉を突き、吹き出す血を両手で受け止めて、家の壁に塗りたくりその場で息絶えた。
同心の調べに知らぬ存ぜぬで通した五郎蔵は、壁に塗られた血の跡もそのままに何のお咎めもなく暮らしていた。
一ヵ月後の夜、10人の男が入れ替わり五郎蔵の家に忍び込み、小刀でめった突きにして去っていった。
人の形を留めぬ死骸を前に、10人の男は揃って記憶がないという。
呆然としている間に、刺青の指図で行動しただけだと答えた。
彼らは揃って五郎蔵の客だった。
平山夢明著 大江戸怪談草紙より「犬猿」を
適当に凝縮しました
本当はもっと江戸の風情があり 怖い
江戸の町箕輪、火葬寺近くの一軒家に五郎蔵という刺青師が住んでいた。
癇性持ちで博打好き、顔色は悪く、痩せて目だけがぎらついていた。
ある日、夫婦連れが五郎蔵のところに訪れて、二人に刺青を入れてくれと頼む。夫婦揃って彫って欲しいとは妙な話、おまけに二人は目が不自由だった。どうやら心中未遂の二人らしい。
五郎蔵は歌舞伎、蝶の道行きから佐国と小槙を題に取ろうと提案したが、仕事にかかる寸前、夫婦仲が良いのに癇が起きた。二人の目が見えないことを幸いに西遊記の孫悟空と八犬伝の犬塚信乃を彫った。犬と猿である。
それとも知らずに喜び、過分の謝礼を支払った二人は東海道を下って行った。
旅の途中、二人の仲はおかしくなっていった。あれだけ仲がよかったのに意見が食い違う。
大井川まで来たとき惨劇は起きた。川の増水で足止めをくった。
三日目、ようやく向こう岸へ渡ることが出来、ふたりは平輦台に乗った。流れの早い川の中ほどまで来たときのことだ。大きく揺れた瞬時に、女の髪の留めが男の目を突いた。
大仰に痛がる男は、反射的に女を突き飛ばした。弾みに女は川の中へ落ちた。
男は女を助けようと川に中へ飛び込む。大変な騒ぎになった。
気がついたとき、横にいる女はすでに息途絶えていた。号泣する男。
助けた人足はこういった。
「仲のよさそうなお二人なのに、どうして犬と猿の彫り物をしていなさる。これではまるで犬猿の仲を望んでいるようだが」
数日後、男は五郎蔵の家を訪れた。五郎蔵は留守だった。
持っていた小刀で男は自分の喉を突き、吹き出す血を両手で受け止めて、家の壁に塗りたくりその場で息絶えた。
同心の調べに知らぬ存ぜぬで通した五郎蔵は、壁に塗られた血の跡もそのままに何のお咎めもなく暮らしていた。
一ヵ月後の夜、10人の男が入れ替わり五郎蔵の家に忍び込み、小刀でめった突きにして去っていった。
人の形を留めぬ死骸を前に、10人の男は揃って記憶がないという。
呆然としている間に、刺青の指図で行動しただけだと答えた。
彼らは揃って五郎蔵の客だった。