ゆめ未来     

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冥途のお客

2022年05月23日 | もう一冊読んでみた
冥途のお客/佐藤愛子  2022.5.23

昼寝が、気持ちよい季節です。
昼寝が、しやすくなりました。

昼寝のお供です。
面白かったです。

この小説は、12の小編から構成されていますが、最高に面白かったのは、「 心やさしい人への訓話 」です。
狐霊界最強と思われる、変な狐霊の話。
京都茜神社のお迎えに来た牛とともに、「うん・・・・・・では行くか・・・・・・」。
おかしな奴ですね。牛の尻尾にぶら下がって行くのが見えましたよ」。

信じるか、信じないかは、あなた次第。 さてその話の数々は。

 「困るねえ。わけもわからずに来られたんじゃ」
 この世では人を訪うにはそれなりの目的があるからに決まっている。
 招いていないのに深夜に来る奴は、盗みを目的としているからで、来た以上はその目的をわからせるべく行動する。
 そういうルールを弁えてこの世で暮らしていた筈なのに、あの世に行ってしまうとルール無視になってしまうのは困る、と怒りはするが、しかし、考えてみればその理由、目的を伝えることが出来ないので冥途のお客の方ももどかしい思いをしているのかもしれない。
 人間は「霊体質」という体質の人と、そうでない体質の人に二分されるという。冥途のお客は何かしらそれなりのわけがあってこの世に来ているのだが、いくらうろうろしていても霊体質でない人にはそれが見えない(感じない)。しかし霊体質の人にはすぐに見えるから、幽霊さわぎが起こる。いくら「出た!」「出た!」と騒がれても霊体質でない人には何も見えないから、「あの人はヘンな人よ」、「どうかしている」、「また始まった」、などとバカにする。霊体質の人としてはいくらバカにされても、実際に、「いた」のだから、「見えた」のだから、どうしようもないという具合に循環し........。


 ある時、色川さんはふといった。
 「ゆうべ寝ていたら、オレの身体の上をキリンが通って行くんですよ」
 「キリン!」
 と私はいったきり、絶句した。
 色川武大さんは今頃、あの世でどうしているかしら、と時々思う。私は色川武大さんが好きだった。その人となり、暮らし方、感じ方----それらをひっくるめた色川さんの文学を敬愛していた。そうしてその上に、色川さんのふしぎさに心惹かれていた。


 やがて彼女は糖尿や腎臓を病んで入退院をくり返すようになった。死んだら葬式なんかしないよ、献体がいい、といって手つづきをした。
 「あんた、イヤじゃないの。裸で、水ブクレみたいになって、プカプカ浮いてるのよ・・・・・・」
 彼女はこともなげにいった。
 「どうせ死んだらゴミだよ・・・・・・」
 いや、それは・・・・・・そうだねえ・・・・・・と私はいっそ感心した。それが中山あい子の人生観、死生観だった。


 この世への未練、執着、野心、欲望、心配、気がかりなど、何らかの情念、意識に縛られていると魂はこの世に残る。

 今私が願うことは憑依されないことの大切さである。と同時に憑依しないように死ぬことの大切さである。憑依しないように死ぬということは、生きている間に卑しい情念や欲望を克服し、何も思い遺すことがないように十分に生き抜くことだ。
 それは過去三十年間の心霊体験の結果、私が得た最も大切なことである。



      『 冥途のお客/佐藤愛子/文春文庫 』





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