一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第5回 信濃わらび山荘将棋合宿(第8手)・中井広恵女流六段の逆襲

2012-11-14 00:27:35 | 将棋イベント
しかし、私が▲1五角と放った手が冴えなかった。それでも私たちが優勢をキープしているようだ。さらに進み、あとは私たちがどう決めるかというところで、中井広恵女流六段が▲5五の銀を、▲5四銀と出た! このタダ捨ては何だ!?
やむない△同金に、私は▲5一竜捨ての王手! △同玉には▲8八角が▲3三に成り、即詰みがあるのだ。
「そんな手がありましたか…」
とKaz氏がつぶやき、▲5一竜の局面で投了。まさに3手一組の名手で、最後の最後になって初めて、私たちふたりがひとつになった気がした。
感想戦では、序盤を重点的に検討した。しかしこれ、私の指し手が疑問手だらけで、呆れた。すでに▲3七銀と上がっているのに▲7八玉と寄ったり、角道を通しておきたいのに▲7七銀と上がったり、▲6六歩と突いて角道を二重に止めたりと、散々。とくに、▲4五同桂の角取りに△1五角と覗かれていたら、明らかに先手ペアが悪かった。
重複するが、横に中井女流六段がいるから、多少疑問手を指しても何とかしてくれるとタカを括っていたのだが、そう簡単にカバーはできないのだ。
でも中井女流六段とのペアは、ちょっとドキドキして、楽しかった。
大野八一雄-Minamiペアは、大野七段がMinamiちゃんを引っ張ったようで、下手の快勝。ほかの対局も順次終わり、1局目は終了。
表ではMinamiちゃん、Hanaちゃんらがボール遊びをしている。それも空が快晴だからである。植山悦行七段には感謝しなければならない。遊戯の原風景を見た気がした。
最終2局目はペアを変える。私はFuj氏と組むことになった。中井女流六段は、推薦によりHon氏と。Hon氏の変態三間飛車穴熊を体験してもらい、その困惑ぶりを私たちが楽しもう、のハラである。
しかし中井女流六段も肝が据わっていて、変態穴熊の指し方を、私たちに聞く。これはおもしろい将棋になると思った。
私たちはW-Kunペアと戦う。これは石田流が予想されるが、もしそう来たら、「棒金で行きましょう(Fuj)」と作戦を立てた。
対局開始。私たちの後手で、W-Kunペアは予想通り▲7五歩。そこで私が早いところ△7二金を決めればよかったのだが、つい△4四歩と指してしまう。
先手は当然▲4六歩。私たちは△5四銀左。私が自分勝手に指したために、棒金をする流れでなくなってしまった。
Fuj氏、スミマセン、と△5二金右。謝るのは私のほうであった。
この将棋、終始むずかしかったが、最後は私たちの勝ち。大野七段は引き続きMinamiちゃんとペアを組み、やはり勝利していた。下手を持った大野七段の弁、「上手は二枚落ちでよく勝てるなあと思いました」は、私などは実感である。
大野七段は引き続き、私たちの感想戦に付き合ってくれた。いつも思うのだが、プロの読みは私たちとは全然違う。お馴染みの局面でもハッとする手順を指摘してくれ、それが大いに参考になるのだった。
中井-Honペアは、変態穴熊は採用しなかったようだ。しかしHon氏、いい記念になったことだろう。
時刻は12時近く。楽しかった信濃わらび山荘も、いよいよチェックアウトである。中井女流六段が管理人さんに挨拶に行くと、将棋盤に揮毫を、の希望である。
中井女流六段は馴れた手つきで揮毫。それは「鏡花水月」であった。

帰りは中井カー、Wカー、Honカーの3台で戻る。現在12人だから、1台あたり4人の乗車となる。中井カーには大野七段、Minamiちゃんが乗車。残るひとりは、私が乗ることになった。誰かひとり棋友がいてくれたらと思うが、贅沢は言えない。
書き遅れたが、今回の合宿では、もうひとつ目的があった。年頭の目標にしていた、「中井女流六段と長崎県の『あんでるせん』に行く」ということである。今年ももう残り2か月。直に誘うなら、この合宿しかない。それには、このクルマの中が最初で最後のチャンスなのだった。
私は助手席に座る。ここは植山悦行七段の指定席で、一般人は遠慮すべきなのだが、まあ、許してもらおう。
まずは、JR最高所の野辺山駅近くにある、蕎麦屋へ向かう。昨年もお邪魔したところだ。道に迷いかけたが、そこは中井女流六段一流のカンで、蕎麦屋には寄り道なしで着いた。
店に入ると、去年の店員さんがいた。中村桃子女流1級似のかわいいコで、1年ぶりの再会?に、感激する。
私は大もりを頼む。蕎麦はしこしこしていて、美味だった。私は観光地の食事は信用しないが、ここの蕎麦は本物である。
離れて座っている中井女流六段に、デザートを頼んだかどうかメールを出すと、「頼みました」の返事が来た。こういう他愛もないメールのやり取りをするのが、本当のメル友なのだろう。
ところでこの店は、ジャムやお菓子のお土産も売っている。見ると、食事を終えたHon氏が、それらを大量に買っていた。もちろん奥さんにである。その顔は真剣そのもの、きのうまでの笑顔はない。それも道理で、ここで奥さんに点数を稼ぐことにより、次回の将棋イベントにも、参加の許可が下りるのだ。
蕎麦屋を出発。途中、ガソリンスタンドに寄る。中井女流六段が缶コーヒーをごちそうしてくれ、ここまではまあ、いい感じだった。ここまでは。
茨城在住のHis氏は、途中帰宅となる。長野新幹線・佐久平駅でHis氏を降ろす。Hisさん、また大野教室やジョナ研で指しましょう。
クルマに戻り、目指すは上里サービスエリアである。私は大野七段に、 Kun氏との横歩取りの将棋で生じた最善手を聞く。すると、変化の▲8四飛には△2五角!を教えられた。なるほど…▲8一飛成には△4七角成で後手十分か。勉強になった。
Minamiちゃんは先ほどから夢の中だ。大野七段もうつらうつらしていたようで、いまはウンともスンとも言わない。
これは…中井女流六段と密室にふたりきり、ともいえる。長崎旅行を切りだすのに絶好のタイミングではないか!
心臓の鼓動が早くなり、私は中井女流六段と当たり障りのない会話をする。それはやがて、観戦記論に移った。私は中井女流六段の話に傾聴していたが、けっこう内容はキツイ。そして聞いているうち、その内容がどうも、私のブログのことをいっているような気がしてきた。いや、絶対そうだ。
私は先の倉敷藤花戦・中井女流六段-矢内理絵子女流四段の一戦で、中井女流六段の指し手をケチョンケチョンにけなしていた。あれをいま、中井女流六段は糾弾しているのだ!
中井女流六段、ときおり笑いも交えながら、ビシビシ言う。その視線は真っ直ぐ前を見据えているが、その目が笑ってないのは明白である。
私も、ああそうですか、とケラケラ笑うが、内心は冷や汗モノである。右の頬は笑っているが、左の頬はみにくく歪むだけだ。
これは長崎行きを誘うどころではない。私は中井女流六段に面と向かって意見されたことがあるから分かる。いまの彼女は、かなりご機嫌ナナメだ!
大野七段が目を覚ましたとしても、この人は中井女流六段のほうにつく。さっきまでは天国に思えたこの「走る密室」が、いまは逃げようのない「恐怖の密室」に変わっていることに私は驚愕し、心臓が縮み上がる思いだった。
休憩予定の上里サービスエリアまでは、まだ数キロある。こんな針のムシロ状態があと数十分続くのかと思うと、目の前が暗くなった。
(つづく)
コメント (2)
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