一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第12回 世田谷花みず木女流オープン戦・1

2019-05-13 00:12:50 | 将棋イベント
先月29日(月・祝)は、東急・二子玉川駅前の玉川高島屋S・Cにて、恒例の「世田谷花みず木女流オープン戦」があった。回を重ねて今年で12回目。
同棋戦は4人制の公開トーナメント。参戦女流棋士は世田谷区在住の飯野愛女流初段が常連だったが、一昨年をもって卒業した。「府中けやきカップ」の中倉宏美女流二段とどちらが先に優勝するか興味の的だっただけに、これは残念だった。
今年も当然向かうつもりだが、今年は午前中に某所で面接があり、途中観戦を余儀なくされた。
ちなみに面接のほうはうまく行き、ほぼ内定が出た。後日改めて連絡をくれるとのことで、そうなれば契約成立となる。しかし世の中何が起こるか分からない。まだ私は安心していなかった。
玉川高島屋には12時ちょうどに着いた。場所はいつもの6階である。
会場に着くと、森下卓九段が解説をしていた。聞き手は飯野女流初段。聞き手では参加しているのである。対局者は山根ことみ女流初段と和田あき女流初段。恐ろしいことに、この女流棋士3人に私は指導対局を受けているのだ。これはたいへん幸せなことなのだろう。
「飯野さんが指したら、飯野囲いと呼ばれるようになりますよ」
「そんなことありません」
とかいう会話になっている。大盤は山根女流初段の振り飛車に、和田女流初段のエルモ囲いになっていた。つまり飯野女流初段が独自の囲いを編み出し、みなが真似したら、その名のついた囲いになりますよ、というわけだ。
「先手は▲2二角成△同玉▲6六角のような狙いがあります。だから▲2二角成には△同金と取る。これで△3三桂~△2五桂が残ります」
と、森下九段がエルモ囲いの長所を解説する。そこで和田女流初段が△7五銀と出た。

第1図以下の指し手。▲6五歩△7七角成▲同銀△8六歩▲同歩△同銀▲6六角△7七銀不成▲同桂△7六歩▲8三歩△同飛▲8四歩△7七歩成(第2図)

「ここは▲7三歩成△同桂▲7四歩が考えられます。だけど以下△8三飛▲7三歩成△同飛は後手よし。これがコンピューターの考えなんですね。私の修業時代は桂損が大きいと見ましたが、現代は違うのです」
と、森下九段。実際の解説は符号は言わないが、分かりやすく当てはめるとこうなる。ともあれそんなわけで、山根女流初段も▲6五歩と突いた。
「これは△7七角成▲同銀△8六歩▲同歩△同銀▲同銀△同飛▲7七角△8九飛成▲1一角成△2二銀と進むと後手よしです」
そこで山根女流初段は▲8六同銀と取らず、▲6六角と据えた。「なるほどー」と森下九段。これからこの「なるほど」をイヤというほど聞くのであろう。
ここで△2二金は▲8三歩△同飛▲8四歩△7七銀成▲同桂△8二飛▲8八飛で先手よし、が森下九段の解説。よって和田女流初段は△7七銀不成から△7六歩とした。
「私もこうやると思いました」。
と、森下九段。「和田さんは私の『森下の矢倉』が愛読書らしいですね」
なるほど、和田女流初段の重厚な攻めを見れば、分かる気がする。
△7七歩成にはどうするか。

第2図以下の指し手。▲4八飛△6七と▲8三歩成△6六と▲7三と△1五歩▲同歩△1七歩▲同香△7三桂(第3図)

「エルモはかわいらしい名称ですけど、凶暴な囲いなんです」
と、森下九段。
「最近の囲いですけど、和田さんはうまく指しこなしていますね」
飯野女流初段はソツなく聞き手を務める。私は会場の後方でひっそりと立ち見をしているが、飯野女流初段と目が合った気がした。私は2日前に指導対局を受けたので、何となくストーカーの風情になっている。ちなみに翌30日、すなわち平成最後の日は「シモキタ名人戦」に行くが、ここにも飯野女流初段は参加する。私もお邪魔するつもりで、これは本当にストーカーである。
山根女流初段は▲4八飛と逃げた。
「なるほどこれはさすがです」
と、森下九段が感心する。すなわちふつうに飛車を取り合うと、後手のほうがと金の位置が近い。それでいったん逃げたのだ。
ここで和田女流初段が秒読みに入り、△6七と寄った。これには▲7五角△8二飛▲8八飛、が大盤の見解だったが、山根女流初段は飛車を取り合う。
しかし△1五歩が急所の端攻めだ。だが△1七歩と垂らして、後手にはもう歩がない。森下九段は「なるほど読めてきました」と頷いている。
それが△7三桂で、ここに歩が落ちていた。むかし芹沢博文九段が、「歩切れになっても、歩が補充できる状態であればいい」と言ったが、それがまさにこの局面だったのだ。

第3図以下の指し手。▲7三同歩成△1六歩▲同香△2五銀▲8八飛△2四桂▲8一飛成△1六桂▲3九玉△5七角▲4八金上(第4図)

山根女流初段は▲同歩成と取るよりないが、和田女流初段は狙いの△1六歩~△2五銀。しかしすぐには香を取らず、△2四桂と足してきた。「なるほどー」と唸る森下九段。これなら先に△2四桂でいいと思うが、それは▲2五銀の余地を与えるのがイヤなのだろう。さすがにプロ、秒読みでも深く読んでいるのだ。
山根女流初段は▲8一飛成としたが、これが空成りなのが不愉快だ。
そして▲3九玉に△5七角が強打。和田女流初段は詰将棋も得意で、詰ますスピードは女流棋士の中でトップクラスである。これは大勢決したか。

第4図以下の指し手。△5九角▲3七銀打△4八角上成▲同金△3六銀▲同銀△5七と▲8八竜△4八角成▲同竜△5八金(投了図)
まで、80手で和田女流初段の勝ち。

△5九角も好打。森下九段は「メチャメチャいい手ですね、なるほどー」と驚きを隠せない。
しかし山根女流初段も▲3七銀打と粘る。「最善手です」
だが和田女流初段は角を切り、△3六銀が絶好の活用だ。「うーん、そうなんですねー」
まさに勝ち将棋鬼のごとし、だ。しかし山根女流初段も▲8八竜と引く。「なるほどー、大山流できましたね」
私は、1985年に指された第44期A級順位戦、大山康晴十五世名人対加藤一二三九段の一戦を思い出した。

しかし本局は振り飛車側の具合が悪い。和田女流初段は2枚目の角を切り、返す刀で△5八金。ここで山根女流初段が投了した。

2人が大盤の前にくる。山根女流初段は「(エルモ囲い対策の)準備不足でした」と、唇を噛みしめた。
いっぽうの和田女流初段は作戦が図に当たり、満足そうな表情だった。驚異のエルモ囲いで、堂々の決勝進出である。
なお準決勝のもういっぽうは、頼本奈菜女流初段とカロリーナ・ステチェンスカ女流1級の対戦で、頼本女流初段が勝っていた。決勝戦は午後2時50分から、とのことだった。
(つづく)
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