一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第3回 新春CI寄席(2)

2020-02-01 00:15:34 | 落語
「仏家小丸です。むかしは将棋ライターをやってたんですが、いまは引退して、貧困老人です」
いい滑り出しである。「最初はてっきり1回だけの出演かと思っていたんですが、3回も招んでいただき、ありがたいことでございます。
知り合いを自宅に招いて落語を披露しますでしょ。でも皆さん、明日があるからと、早く帰ろうとするんです。それでその方が言うんですよ。いいですね仏家さんちは、明日がないから――」
なかなか自虐的なマクラのあと、噺に入った。
「まんじゅうこわい」は「寿限無」と並んで、前座噺の定番である。「まんじゅうこわい」にはバリエーションがあり、そのカスタマイズが腕の見せどころ、とも言える。小丸は登場人物の年齢を下げ、噺をいっそう親しみやすくした。
「テツが言いました。実は、まんじゅうがこわいんだ」
テツは、友達が面白がって出した「こわい」まんじゅうを、たらふく食べる。終いは
「実は、苦いお茶がこわいんだ」
おなじみの下げとなった。
小丸、サラリと話し終えたが、実はここまでに相当な練習を積んだはず。それを気取らせないのが素晴らしい。ややあっさりの感もあったが、前座なので、あえて控えたのだろう。
客席には、長照寺の若住職・寺本俊篤氏の姿もあった。長照寺での「大いちょう寄席」は毎回好評だが、今日は運営の勉強にいらしたのだろうか。
二番手はこのブログでもおなじみ、参遊亭遊鈴である。昨年この場で演じた「子別れ」は熱演で、多くの客の涙を誘ったものだ。
今年の演し物は「別れ話は突然に」。桂文枝の創作落語である。「鞠と殿さま」のお囃子で登壇した。今日も鴇色のきものが艶やかである。
「参遊亭遊鈴でございます。この名前は、落語のお教室で付けてもらったものなんです。でも、湯川一門にも誘われたこともありましてね。湯川一門は『ル』で終わる名前が多いんですよ。ルで終わる言葉はいっぱいありますね。流れる、落ちる、走る、語る……これはシャベルですわね。『ツモル』はどうでしょう。私は麻雀やってるから、最高でしょ?」
遊鈴も巧みなマクラだ。
さて「別れ話――」は全編電話での会話で成り立っている。
「電話はいいですね。こちらがバスタオル1枚で話していても、相手に分からない。でも最近はオレオレ詐欺があります。皆さまもお気を付けくださいませ」
噺は高齢の父親が韓国・ソウルに赴任中の息子に離婚話を切り出すところから始まる。遊鈴は扇子を受話器代わりにする。万能の扇子だ。
「父さん、我慢しなよ。あと10年も我慢しなくていいんだからさ」
このブラックが可笑しく、客席もクスリと笑う。
場面が変わり、今度は母親が、北海道帯広に嫁いだ娘に、同様の話を切り出す。遊鈴は女性のおしゃべりが実にうまい。素で話せばいいのだから当然ともいえるが、噺をしっかり咀嚼して自分のものにしているから、セリフが自然である。
2人の子供は離婚話に異口同音に反対するが、二親は愛犬を亡くしたこともあり、ガンとして聞かない。しかし、両親にはあっと驚く奸計があったのだ。
最後は、意表のどんでん返しで幕となった。
私が言うのも何だが、遊鈴は毎年噺がうまくなっていると思う。たぶん時間通りにピッタリ終了し、抜群の安定感だった。
三番手は講談・石畑梅々(ばいばい)である。講談といえば私などは真っ先に神田山陽をイメージするが、梅々は好々爺然とした風貌である。
今回梅々をスカウトしたのは湯川博士氏だろうが、博士氏はどれだけアンテナを張り巡らせているのだろう。
梅々は「お江戸日本橋」のお囃子で登壇した。
「石畑梅々でございます。コーチョーさんデス!! コーチョーさん!! アタシは石の畑、ですから何もできません。
今日の場所は『わこうし』というから、さぞ若い人がいるかと思ったら――ちょいと昔の若い人……」
ここで客が笑う。「このCIハイツは人気があって、物件が値下がりしないらしいですナ。……そう言えばみんなよろこぶだろうと……」
梅々のマクラもなかなかである。「アタシは南千住の、イトーヨーカドーの駐車場跡地に建ったマンション住まい。毎朝休まずラジオ体操をしています。
だから! いまぐらいの時分がいちばん眠い!
落語と講談とどちらが難しいか。もちろん講談です。落語はバカになり、講談は利口になるって言いますね。でもアタシは両方やってるんですけど。
講談は5W1H、情報がすべて入っている。そこへいくってぇと落語は八っつぁん熊さんですからね……」
梅々のマクラも、なかなかブラックが入っている。ここで噺に入る。講談「男の花道」である。「時は徳川十一代将軍家斉公の文化文政のころ……」
東海道の宿場町・金谷宿で、歌舞伎役者の三世中村歌右衛門が眼病に罹り苦しんでいた。すると、眼科医の半井源太郎がたまたま同宿していることが分かった。
半井は長崎での修業を終え、江戸への帰り途だったのだ。半井は歌右衛門の眼病を三日三晩かけて治すと、謝礼金ももらわず、江戸まで付き添った。歌右衛門はたいそう感謝して、半井先生に一大事があったときは何があっても駆けつけます、と約束して別れた。
梅々の語りはちょっとハナにかかり、俳優の篠井英介の声に似ている。もちろん弁舌は滑らかで、そこに張り扇の「パンパン!」という音が効果的に挿入される。
ところがその3年後、半井に、本当に危機が訪れた。公用人・土方縫殿助の招きで料亭に出向いたが、半井は酒に酔った土方所望のピエロになれず、逆鱗に触れてしまう。結果、歌右衛門をそこへ呼ばざるを得なくなってしまった。
歌右衛門のもとに使いが来たが、歌右衛門はいま堺町中村座の舞台に立たんとするところだった。歌右衛門の、八方を丸く収める奇想天外な解決策とは……!?
梅々の語りはだんだん熱を帯びてきて、客も引き込まれているのが分かる。
「男の花道とは、男が男に惚れて約束を果たすことなり」
最後もピッタリ決まり、心地よい余韻が残った。私は講談を初めて聴いたが、落語とは違う味があって面白い。梅々は張り扇をやたらに叩かず、それが却って好感が持てた。
ここでお中入りである。あたりではスタッフの奥さま方が、お客にお茶出しをしている。2時間ばかりの寄席だが、多くの人がボランティアで動いているのだ。
私はスマホを繰る。今日は折田翔吾アマの棋士編入試験第3局が行われているのだ。局面を見ると、抑えこまれ気味だった山本博志四段の飛車が捌け、閉塞感はなくなっている。さすがにうまく捌くものである。
ただし形勢はまだ折田アマのほうがよさそうだ。そしてそのまま折田アマが勝ちそうな気がした。
さて後半は、いよいよ永田氏の登場である。
(つづく)
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