愛読している毎日新聞掲載の香山リカさんのコラム。今回もなるほど、と膝を打ったので、以下転載させて頂く。
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香山リカのココロの万華鏡 自分を粗末にしてないか/東京(毎日新聞2019年11月19日 地方版東京都)
季節の変わり目ということもあり、「なんとなく体調が悪い」という人がやって来る。近所の内科などであれこれ検査をしても、出てくる結果は「異常なし」。それでもどうしても朝がだるい、散歩に出てもすぐに戻ってくる、髪を切りに行く元気もない、とぐったりした顔で診察室でため息をつく人も多い。仕事や家事はなんとかやっているという人もいれば、ずっと休んでいるという人もいる。
もちろん、何かからだの病気が隠れていないか、さらに血液検査などを行うこともある。それでも病名がつかない場合は「ストレス性か」ということになるのだが、ひとことで「ストレス」とくくってしまうのは危険だ。なぜなら、「やる気がしないほどからだがだるい」という人のストレスは、残業が多すぎるとか子育てがたいへんといったストレスとはだいぶ違うからだ。
これはあくまで私の印象だが、その人たちは「自分で自分が好きじゃない」というストレスを抱えていることが多い気がする。自分を楽しませたり良い気分にさせたりするのが苦手だし、そんなことをしてはいけないと思っている。だから、自分のからだのこともあまり大切にできず、つい酷使しすぎたり逆に放置してしまったりするのだ。
かつてそんなひとりに、こう伝えたことがあった。「まず、いくらからだがだるくても、病院に来るときにはもっとおしゃれして来ませんか。ジャージーじゃなくてシャツとスカート、口紅くらいつけましょうか」
思わぬ助言にその女性は一瞬、驚いたようだったが、「そんなこと、ずいぶん長いあいだしていません」と涙ぐんだ。私は、「それじゃ、自分がかわいそうですよ。自分をもう少し大切にしましょう」と続けて話した。
それから少しずつ、その人は着るものや食べるものに注意を向け始めた。「自分のことが大きらい」と思うほど自信が低下していたが、「こんな髪形が似合うかも」と自分の良さを認められるようになる頃には、外出もおっくうではなくなっていた。
「自分が好きじゃない」という気持ちの背景はいろいろだ。子ども時代の親子関係に原因がある人もいる。でも、理由はともかく、おとなになってから自分で自分を大切にし、心やからだに注意を向けてケアしてあげることはできるはずだ。
自分のこと、いつの間にか、粗末にしてませんか。年末を迎える前に、もう一度、自分に問いかけてみてほしい。(精神科医)
(転載終了)※ ※ ※
働きながら子育てをしているお母さんに限らず、専業主婦でも有職主婦でも気づけば自分のことを後回しにしがちな人は多いのではないか。もちろんそうせざるを得ない時期もあるだろう。自分も一時期はそうだったなあ、と思う。知らず知らずに無理を重ねて自分の身体の声になかなか耳を傾けられなくなる。その結果病を得た、とそう単純なものでもないけれど・・・。若さにかまけて無理も出来たし、アドレナリンが出ていたのか、それほどへこたれなかった。でも自分の身体のことを知らなかったし、無頓着だった。そのことは反省しても反省しすぎることはない。
仕事とあればずっと家にいるわけにはいかないから、ちょっと調子が悪くても最低限の身だしなみと化粧をして出かけることになる。
身体は疲れていても、ちょっとお洒落をしてお化粧を施すと気持ちが上がるのは間違いないと思う。男性だってお気に入りの衣類を着て、好きな靴を履いて、となれば元気になるのではないか。
自分にかまうこと、自分に手をかけること、これは生きていくうえで絶対に大切であると思う。がん患者のアピアランスケアもそれに繋がることだろう。とりあえず生きていさえすれば見栄えなんてどうでもいい、誰も見ないし~、となったら悲しい。免疫力も下がるに違いない。
もうこれからは新しい洋服や靴やバッグにお金をかけなくていいな・・・と再発してすぐにはそう思っていた私も、今やそんなことどこ吹く風。好きなショップをウロウロしていたりする。
脱毛してかつらを装着し、眉毛も睫毛も抜け落ちてぼーっとしたぱっとしない人相。これで着るものや身だしなみにも構わなくなったら、外に出る元気なんてどうしたって湧いてこないだろう。
来る日も来る日もずっとパジャマで家にいたら元気になるわけがない。身体を動かさずにただ休息さえしていたら疲れがとれて元気になるか、といえばそう単純なものでもない。身体は適度に動かしてもらいたがっている。凝り固まってしまいたい、とは思っていない、と感じるようになった。
こう考えるに、行くところがあってよかったとしみじみ思う。職場以外にも自分の居場所があることは本当に大切だ。
自分大好きのナルシストになるべし、とは思わないけれど、自分を機嫌よくさせてあげられるのはほかでもない自分であると思う。だから出来るだけ心穏やかでご機嫌でいるために、決して自分を粗末にしてはいけない。自分の身体を愛おしく思い、大切に出来ないと、幸せにはなれないように思う。日々頑張ってくれている自分の身体に改めて感謝したい。
身体も心も健康でいるために自分を大切にしたいと思う。自分の身体にも心にも無頓着であっては悲しい。
自分を大切に出来ない人が他の人に思いやりをもって接することが出来るとは思えない。
自分の心と身体に余裕がなければ、回りに配慮することは出来ないだろう。
だからこそ、自分を大切にしたい、しみじみとそう思う。