「団地小説短編集」の小説は全て超ローカルなご当地小説です。本として手に取っていただく方はある程度、舞台が分かって
いただけるのですがブログのご縁で読んでいただく方は全国区となりますので少し補充説明をします。
神戸市灘区の山の手のこのあたりは神戸を代表する住宅街であります。そして坂の町であります。篤が歩き始めた阪急六甲駅
は海抜約60m、六甲団地は海抜150mから180mとなります。東京区部の最高標高が58mですからちょっと次元の違う
話かも知れません。しかし現在はここが住宅限界ではありません。別の機会に調べてみたいと思います。ちなみにJR六甲道駅
は海抜24m、阪神電鉄新在家駅は海抜7m程度です。海岸近くは工業地帯や業務地域となり、酒造会社が集まる地域でもあり
ます。
少し長くなりますが小説六甲団地を引用します。しばらく文字ばかり続きます。
平成17年4月4日である。篤は阪急六甲駅から六甲団地への道を歩いていた。いや六甲団地は建替事業によりグリーンヒル
ズ六甲に変わっていた。
篤はいつも歩いていた。母から「男の子だからこれぐらい歩きなさい」と言われて歩いていた。しかし篤は歩くのが嫌ではな
かった。多くの神戸大学生が歩いていたから、大学生に交じって歩いていると何か自分が偉くなった気がした。
篤は一つ一つの建物を確かめながら歩いた。あれから阪神淡路大震災があった。何よりも12年の歳月が流れていた。そう、
篤が六甲団地を出たのは平成5年4月4日であった。
平成5年4月4日二人は別れの時を迎えていた。
六甲団地8号棟に住む鶴甲小学校6年の秋山篤と井本幸子である。6年生と言っても、6年生としてまだ1日も学校に行って
いなかった。それぞれ新しい小学校で6年生を始めることになる。
昭和34年7月神戸市内で5番目の公団住宅として誕生した六甲団地は最後の時いや、生まれ変わる時を迎えていた。公団か
ら建替事業の説明会が行なわれたのは平成3年9月である。14階建ての高層住宅になる。二人の住む8号棟は平成5年9月末
が退去期限であるが、新学年から新しい学校でとのそれぞれの両親の配慮であった。
篤が生まれたのは昭和56年8月、幸子が生まれたのが9月、家は隣同士、双子と間違われるのもしばしばであった。親が面
白がってペアルックを着せたら全くの双子であった。
しかし「あっ君」と「さっちゃん」はいつまでも双子ではいらでなかった。いつの頃か、学校で「あっ君」「さっちゃん」と
呼び合っていたら、周りの視線を感じた。それからは学校では「秋山君」、「イモ」と呼び合うことになる。「イモ」とは井本
幸子のあだ名である。井本を省略して「イモ」、幸子は可愛かった。それでもあだ名は「イモ」である。もっとも「イモ」に
「イモ」と言ったらそれはいじめである。
それでも二人は仲が良かった。喧嘩もするが仲が良かった。
学校では双子と間違われることは無かったが、夫婦と冷やかされることはある。家が隣同士であることを羨ましがる男子もい
たが、家が隣であることは良いことばかりでは無かった。学年が上がれば成績も比べられる。
篤も幸子も成績は良かった。しかし篤は女の子に負ける訳にはいかなかった。「男の子でしょう?」それが母の口癖であっ
た。生まれて何千回聞いたことか。もっとも負けず嫌いの幸子も「女の子でしょう?」と言われていたが。
公団(平成5年当時は住宅・都市整備公団)の建替事業には居住者は幾つかの選択肢がある。団地内で仮移転し建替え後の住
宅に戻ることも出来る。建替事業により、3DKいや3LDKや4LDKの大型住宅も建設されるが家賃も変わる。当初は家賃
の減額処置もあるが将来のことを考えると、大きくなった子供のことを考えて今の2DKから3DKに変わる。それが両家の現
実的な選択であった。そして勤務先も考慮して篤は千里ニュータウンの千里竹見台団地に、幸子は明石舞子団地に移ることにな
った。今日、篤が引っ越しをする。そして明日、幸子が引っ越しをする。
8号棟はスターハウスであった。後に団地マニアと呼ばれる人の間で団地の花と呼ばれるようになった三角形の建物である。
窓からは海が見える。ポートアイランドの花火も見えた。棟前には桜並木があり花の雲の上を飛んでいる気分である。
そしてその桜の下で二人は向かい合っていた。空は花曇りと言うよりも午後から一時雨の予報であった。
篤は別れの言葉を選びかねていた。「さよなら」も「元気で」も、今の気持ちを表せなかった。
その時、幸子が言った。
「大きくなったら篤君のお嫁さんになってあげる」
篤は答えた。
「美人になっていたら、お嫁さんにしてやる」
幸子は微笑んだ。そして沈黙が続いて篤は気が付いた。
「12年後、平成17年4月4日12時ここで会おう。今年が酉年、平成17年も酉年。年男と年女だ。覚えやすい。忘れる
なよ、きっと晴れている」
「忘れない」幸子がうなずいた。
続きは是非「団地小説短編集」500円+税 でお読み下さい。
篤と幸子が別れたのが平成5年4月4日、再会したのが平成17年4月4日、写真は当然、平成30年4月4日となるところ
ですが諸般の事情により4月3日です。小説ですので当然満開の桜の設定になっていますが今年は桜の開花が早くて間に合いま
せんでした。神戸市灘区の木は桜です。なだ桜祭りは去年は4月1日、今年は4月7日、去年は桜の開花が遅く、今年は早くて
2年続けて外してしまいました。
物語の中で団地の概要はで出ましたので写真で案内します。
(グリーンヒルズ六甲の募集に関する詳しいことはUR都市機構のホームページをご覧下さい。)
手前にマンションが建ってしまいましたが三角屋の付いた建物です。近づけばこんな感じです。
東隣(右側の建物)は神戸大学です。谷を挟んだ西隣は神戸松蔭女子大学です。文教地区に指定されています。桜が開花が早
すぎると思ったらあじさいまで咲いています。(実は住民共同花壇に植えられたものです。)
物語の舞台となった桜並木ですが今年は散りかけています。花吹雪の中の別れも良いのですがそれでは平年では新学期に間に
合わないので満開に桜の設定になっています。桜並木の左端に「海の見える砂場」があります。
物語では満開の桜です。(写真は九分咲き程度です。)海の見える砂場は建替事業の前後でもほぼ同じ場所にあります。
団地から海方向になりますが、残念ながらもやがかかっています。
団地から山方向になります。まだまだ住宅は山にを登ります。
団地内の高低差でしょうか、上と下では咲き方に差があります。
何気なく積まれた石と集会所の前の石庭(と言うほどのものではありませんが)です。もともと六甲団地に転がっていた石
ですが正真正銘の御影石です。今は採掘は出来ませんから石碑用の石として高価なものです。
東にあるグリーンヒルズ御影の建替前の御影団地では巨石がゴロゴロ、超古代六甲巨石文明の遺跡の噂もありました。(教科
書には載っていません。)無残にも遺跡は御影団地の建設のために調査もされずに破壊されたと憤慨してた人もいたとか。
スターハウス
六甲団地には6棟のスターハウスがありました。六甲団地ではありませんが、仁川団地のスターハウスの写真です。
同じ日の花山東団地です。
グリーンヒルズ六甲を通り過すぎ表六甲ドライブウエイと裏六甲ドライブウェイで約800mの六甲山を越えて少し西に行く
と花山東団地があります。六甲山地の北、標高約310mから340mの花山東団地ではこの日桜が満開でした。
まるで山奥の団地のようですが、神戸市の中心、三宮から電車では、三宮→新神戸→谷上→花山 となります。谷上または花山
から徒歩になりますので時間距離的には非常に近い団地です。(詳しいことはUR都市機構のホームページでご覧下さい。)
花山東団地については
もう一つの多聞小唄(六甲山多聞寺) 古多聞寺異聞(2016.12.1)
もう一つの多聞小唄(花山東団地)2 パワースポットかも知れない古寺山に登る(2017.12.15)
に記事があります。申し訳ございませんがこのブログにはクイック一つで見る機能はありません。
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